戦災孤児だったフェルンは、旅の途中に似たような村の被害を目の当たりにしてショックのあまり気を失い心を閉ざした。
 フリーレンはフェルンの心にアクセスして、その幼き日の心象にシュタルクを送り込む・・・
 そこには灼ける草原にうずくまって泣く幼いフェルンの姿があった。


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挿絵がなかなか良くできたので、物語にしてみました。
未熟なのでシュタルクは似ていないです。

幼女フェルン制作の余波みたいなものですが、以外と重たかったりして(物理じゃないよ・・・)


幼少期のフェルンを救いに行くシュタルク

 

 くんくん・・・

 

「嫌な匂いだね」

「なんでしょうか、どこかで火事でも・・・?」

 

 林の道を歩いていると、焼け焦げた匂いが漂った。

 

「・・・この匂いは、混じっているね」

「混じっている・・・?シュタルク様、わかりますか?」

「シュタルクならもう走っていったよ」

「いつのまに!?」

 

 フリーレンは鼻を動かし匂いを確認した。人体特有の焼け焦げる匂いが混じり、かつて嫌になるほど経験した戦場の匂いだった。

 

「さて、魔物か、盗賊か・・・」

「フリーレン様・・・もしかして」

「うん。襲われているね。この先に小さな町があるはずだから」

「なんでそんな悠長なんですか!急ぎましょ」

「・・・もう遅いと思うけど」

 

 シュタルクはすでに匂いをたどって最短コースで林の中を走り抜けていた。フリーレンとフェルンは一度空高く飛び、それから燃えている街を確認してから飛んでいく。

 

「どうやら魔物のようだね」

「こんな辺境にもまだ・・・」

「あいつらは上手く隠れて繁殖する。そして増えてから大きな村や町を襲う」

 

 飛行タイプの小型デーモンが多数、それから地上にも魔物がいて人間と交戦しているのが確認できた。

 

 切り込んでいったシュタルクが魔物を斧で両断している。

 

「フリーレン様は空の魔物を、私は地上の魔物を倒しに・・・」

「いや、地上はすでにシュタルクが交戦しているから、私が空の魔物を。フェルンは逃げていく魔物を掃討して、あいつらは一匹でも逃がすとまた増殖するから」

「・・・はい」

 

 普通の人間には強力な魔物も、フリーレンには動く的でしかない。効率よく確実に一匹ずつ仕留めていく。フェルンはより高い位置から全体を把握し、逃げていく魔物を見つけては精密な魔法で駆逐していった。

 

※ ※ ※

 

「終わったね。もう魔物の魔力は感じない」

「はぁはぁ・・・」息が切れるフェルン

「地上に降りよう。フェルン、次の仕事があるよ」

「もう魔物はいないと」

「被害者をこのまま放っておくの?わたしはそれでもいいけど」

「あっ・・・」

 

 2人は街の中央広場に降りたった。あたりはまだ家が燃えていて、怪我人が彷徨い、力尽きた死体が転がっていた。魔物は死ぬと蒸発して消えるので残っているのは人間のものだ。

 

「うっ・・・この匂い」

「そう、これが人の焼ける匂い」

「フリーレン!こっちきてくれ」

「シュタルク」

「・・・フリーレン様・・・私・・・」

 

 ふらふらと歩くフェルンの足に力はない。シュタルクは怪我をした子供を抱えてフリーレンの側に走ってきた。

 

「フリーレン、この子を・・・」

「シュタルク。よくやったね。でも、その子はもう死んでいるみたい」

「そんな、さっきまでは泣いて・・・」

「シュ・・・タルク・・・様・・・」

 

 意識が朦朧としていたフェルンが倒れこんだ。

 

「フェルン!?フリーレン、フェルンが・・・」

「うーん・・・怪我はしていないはずだから」

 

 シュタルクは子供を降ろして心音を確認し手を合わせて祈った。それからフェルンの元へ駆けよる。

 

「おい、フェルン!しっかりしろ。どうした?」

「大丈夫、気を失っているだけみたい。シュタルク。まだ生存者がいるから街の外に誘導してあげて、火災に巻き込まれると被害が増えるから。魔物を倒したことを伝えたら隠れていた人達も出てくると思うよ」

「・・・わかった」

 

 シュタルクは直ぐに立ち上がって、「魔物は倒したぞ~、生存者は街の外へ避難、怪我をしたものは手を貸すから声を出してくれ!」

 大声で町の中を駆け回っていく。

 

 ガラガラと大きな音を立てて家屋が崩れ去る。

 

「・・・フェルン」

 

 フリーレンはフェルンを魔法で浮かせて、街の外へと運びだした。離れた大きな木の木陰にフェルンを寝かせる。気を失っているが状態はまだ安定していた。

 

 シュタルクの誘導で生存者の数十名がぞろぞろと町の外に出てきた。シュタルクは2人ほど怪我人を抱えている。

 

「フリーレン頼む」

「回復呪文はあまり得意じゃないけど・・・そこに並べて。あとシュタルクはフェルンに声かけて意識をつなぎとめてて」

「わかった。フェルンは大丈夫なのか?」

「どうかな。すごくショックだったみたい。そういえば、フェルンは戦災孤児だってハイターが言ってた」

「・・・それで気が動転して?」

「さぁね。今は怪我人が先」

「わかった。町の人を頼む」

 

 シュタルクはフェルンの頭をひざの上に乗せて、「おい、フェルン。しっかりしろ。・・・フェルン」と声を懸命にかける。

 

 フリーレンは大きな怪我の人から順番に治癒魔法をかけて応急処置を施した。これでとりあえず犠牲者は増えないはずだ。

 

 続いてフェルンの隣に座った。シュタルクは心配そうな顔で今にも泣きそうだった。

 

「フリーレン、フェルンの目が覚めない」

「うん。心を閉ざしてしまっているからね」

「ごめん。俺・・・バカだからよくわかんねぇ。どういうことだ?」

「嫌なことをは忘れたままがいい。思い出したくないこと、背負いきれないものが人にはある。『トラウマ』なんて言い方もするみたいだけど・・・わたしは精神医学の方は得意じゃないんだ」

「やっぱり難しい・・・」

「要するに現実が辛すぎるから起きたくないってこと」

「そんな・・・なぁどうすればいい?」

「普通なら放っておけばその内目覚めるけど・・・」

「フェルンも?」

「フェルンは普通じゃないからどうだろうね。魔力が大きくてすでに乱れ始めている。心が望めば自らの体も魔力で消し去る事もあるかもしれない」

「フリーレン!なんだよ、それ・・・」

「可能性の問題だよ。でもまぁ、やるだけのことはやろう」

「頼む」

 

 シュタルクはフェルンの髪を優しくなでた。

 

「シュタルクはフェルンがこのまま戻らなかったら悲しい?」

「当たり前だろ」

「そう」

「フリーレンだって同じだろ」

「わたしはフェルンがいなくなっても・・・いや、寂しいかな」

 

 フリーレンは知っている。多くの仲良かった人を何人見送った。その中でも特別だったヒンメルやハイターの死はまた別な感慨があった。

 フェルンも同じだろう。ただどんなに好きでもいつかは見送らないといけないことを知っていて、それが『今』であってはいけない理由はなかった。

 

「わたしはそういう人の心がいまいちよくわからない。だからね、シュタルク・・・フェルンのことはシュタルクに任せようと思う」

「俺に?俺に何ができるんだ?」

「これからわたしはフェルンの心象にアクセルを試みる。本来はわたしが直接フェルンと話しをすればいいけれど、こちらの世界と同時にというのは少々魔法が複雑なんだ」

「それで・・・」

「わたしが繋げるから、シュタルクがフェルンを連れ戻してきて」

「俺に?できるのか?」

「さぁ?でも、わたしよりも適任だと思うよ。わたしも魔法の方に集中できるし」

「わかった」

「何か言い残すことはある?」

「おいおい、まるで死ぬみたいな言い方じゃねーか」

「魂が混ざるからね、無事に戻ってこれるとは限らない。特にシュタルクは魔法に関しては才能もないし、一度迷い込んでしまったらおそらくは戻ってこれない」

「戻ってこれないとどうなるんだ?」

「今のフェルンと同じ状態になる。そしてやがて衰弱死する」

「なるほど・・・」

「やめてもいいんだよ?シュタルクはシュタルクとして生きていく自由がある」

「難しいことはわかんねぇ。俺が行ってフェルンが戻るなら、俺は行くよ」

「うん。で、言い残すことは?」

「そうだな・・・その時は俺とフェルンを同じところに埋めてくれ」

「わかった。この木の下でいいね」

「ああ、構わない」

「じゃあ、シュタルクはフェルンの隣に寝ころんで」

「こうか?」

「うん。じゃあ、始めるよ」

 

 フリーレンが2人の頭に片方ずつ手を乗せて魔法を唱えた。シュタルクが微睡み、やがて意識を失った。

 

※ ※ ※

 

 燃えている。家も木も草原も何もかも。焼ける匂いがする。

 

 シュタルクはあたりを見回した。何もなくただ広い空間が延々と燃えているように見える。

 

「おいおい、これがフェルンの心の中かよ・・・」

 

 あたりを見回しながら歩きフェルンを探す。

 

「おい、フェルン!どこだ~、いたら返事しろ~」「帰るぞ~フェルン」

 

 しかし、フェルンはどこにもいない。草原は燃えつきることもなく、ただ延々と燃え続けている。

 

「ふえぇ~ん」

「ん?泣き声か?」

 

 シュタルクは遠くに子供の泣く声を聞いた。声の聴こえる方向へ走っていく。

 

 そこには小さな子供姿のフェルンがうずくまって泣いていた・・・

 

 

【挿絵表示】

 

 

「フェルン・・・」

「え~ん・・・、パパァ、ママァ・・・」

「おい、フェルン」

 

 シュタルクはフェルンの肩をゆすった。泣いているフェルンが顔をあげる。紫に輝く瞳からは涙が溢れている。

 

「パパとママはどこ?」

「お前のパパとママはもういない」

 

 シュタルクは気の利いた嘘は思い浮かばない。この事実が例えこの少女を傷つけたとしても、それはもうどうしようもないことだった。

 

「ふえぇ~ん」

「ああ、今は泣いておけ。ただな、ここは危ないから移動するぞ」

「いやっ、パパとママを待つの」

「だめだ。パパもママももう戻ってこない。お前はこんな寂しいところで1人でいたらだめだ」

「ほっといて」

「ほっとけない」

 

 シュタルクはフェルンを抱きかかえた。この世界で行く当てなどないが歩き始める。ジタバタと泣きながら暴れるフェルンをひょいとつまみ上げて運ぶ。

 

「だいたい私のことを何も知らないのに」

「ああ知らない。それがどうした?」

「・・・外の世界は苦しいことばかりなのに」

「そうだな」

 

 シュタルクは右手でつまみ上げたフェルンの顔を自分に向けた。

 

「辛いことばかりだけど、それでも生きてるんだからしょうがないだろ」

「それ、なんの答えにもなってない」

「おいおい、ガキの頃から口が悪いのかよ」

「どうせ私は口が悪いよ~だ。離して」

「いいや、離さない。フェルンが帰るって言うまでずっと一緒だ」

「私は一緒にいたくなんてない」

「お前のことなんぞ知らん。俺が一緒にいたいからいるんだ」

「バカ?」

「そうだよ。バカだよ。世の中がなんでこんなひどいのかもわかんねぇし、どうすればいいのかもわかんねぇよ。でもな、フェルン・・・」

 

 シュタルクは溜息をついて、それから言葉を少し探した。

 

「俺は・・・フェルンと一緒に旅をするのが楽しいと思ってる」

 

 強い風が吹き抜けた。フェルンの短い髪が風になびく。草原の炎は消え去った。

 

「・・・」

「だから、帰ろう?もうこんな寂しいところに1人で居たいなんて思うなよ」

「でも、旅をしても魔物に殺されてしまうかもしれないし」

 

 フェルンは怖かった。かつて好きだったパパとママを失った。そして優しかったハイター様を見送った。また1人ぼっちになるのが怖い。

 

「俺が守ってやる」

 

 もう暴れるのをやめたフェルンは、ぶらぶらと力なくシュタルクに持ち上げられてぶら下がっている。

 

「シュタルク様が先に死ぬかもしれませんよ?」

「俺は死なないよ」

「なんでそういいきれるんですか?」

「俺が死んだらお前を守れないから」

「ほんと・・・バカですね・・・」

 

 いつしか、子供フェルンは口調もすっかり大人フェルンのものに戻っていた。自分が子供じみたわがままを言っているのを理解している。どうにもならないことも知っている。受け入れたはずの過去がこんなにも自分をまだ燃やしている事に気付かないフリをしていた。

 

 草原のくすぶって漂う黒い煙も消え、今は豊かな黄金色の風景が広がっている。薄暗かった空は晴れて白い雲が流れていた。かつて好きだった憧憬だった。

 

「なぁ、フェルン」

「わかりました。約束ですよ?」

「ああ、約束する」

「じゃあ、最期に1つだけお願いしてもいいですか」

「ん?なんだ?」

「せっかく子供なんで、肩車してください」

「肩車?そんなんでいいのか」

 

 シュタルクはフェルンを軽々しく持ち上げて肩に乗せた。シャタルクにはフェルンの顔が見えないが、もう泣いていないのが嬉しかった。

 

「昔、父がよくしてくれました」

「ほう・・・」

「でも、ハイター様はしてくれませんでした」

「頼めばよかったじゃねーか」

「もう私もだいぶ大きくなっていましたし、ハイター様も年を召されていたので」

「なら、戻ったら俺がしてやろうか?」

「バカですか?」

「ひどいな・・・」

 

 2人で黄金色の草原を歩く。辛いことを思い出すから、パパのことを忘れようとフェルンはしていた。それは楽しかったことや、幸せだったことも全部押し込めることだった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 その時、どこからともなく『お~い、聴こえる?』とフリーレンの声がした。

 

「聴こえるぞ~」

『シュタルク、そっちで何が起こっているかわからないけど、フェルンの意識が戻りそうだけど』

「フリーレン様。お騒がせしました」

「フェルン。もう甘える時間は終りでいい?」

「・・・はい」

「甘える時間?」

「シュタルク様はバカなんで黙っててください」

「ひどい」

 

※ ※ ※

 

 フェルンの目が覚めた。あたりはすっかり夕暮れになっている。

 

 途方にくれていたはずの町の人もすでに再興しようと町に戻っていた。火を消し、家を壊し、なんとかその日を過ごせる場所を作っていた。人はたくましい。

 

 シュタルクもやがて目を覚ました。ただシュタルクは心象での出来事を覚えていなかった。

 

「う~ん。フリーレン、フェルンは?」

「無事に目が覚めた」

「シュタルク様」

「おお、フェルン。良かった!」

「あの・・・シュタルク様・・・約束の事は覚えておいでですか?」

「約束?なんのことだ?」

「・・・」

「ふふっ、フェルン。シュタルクは魔力が低いからね、しょうがないよ」

「いえ・・・別にいいです」

「いやぁ、よかった。よし、次は復興の手伝いだな!」

 

 シュタルクは立ち上がった。瓦礫をどかしたり、木材を運んだリ、力仕事はたくさん必要とされるはずだ。

 

「シュタルク様」

「ん?どうしたフェルン?フェルンはまだ休んでていいぞ」

「そんなことじゃありません」

「えっ、俺何かしたっけ?」

「別に怒ってません」

「怒ってるよね!?」

 

 フェルンの口は膨れている。いつもの拗ねたフェルンの顔だ。

 

「ただお礼を言ってないので、一言ぐらい言わせてください」

「おう?ああ、そうだな。よし、どんとこい」

「・・・ありがとうございました」

「おう、また困ったら助けてやる」

「約束してくださいます?」

「いや、約束なんてしない。お前を助けるのにいちいち約束だからなんて思って助けない」

「はぁ・・・」

 

 フェルンは溜息をつく。それは深いため息だった。真剣で真面目すぎる自分がバカらしいというか、シュタルクの天然な明るさが羨ましいというか・・・

 

「じゃあ、また後でな!」

 

 シュタルクが町の方へ走っていった。フェルンはその後ろ姿を見送る。

 

「フェルン。もう大丈夫?」

「はい。おかげ様で」

「これからも辛いことは多いと思うけど」

「そうですね。でも、シュタルク様が約束してくださいましたから」

「そう・・・約束・・・ね」

 

 約束。フリーレンはヒンメルとたくさんの約束をした。でも、今となっては多くの約束を忘れてしまっているのかもしれない。ときどき何かの時に思い出すだけだ。でも、フリーレンは覚えている約束を今でもちゃんと守っている。それが例えどんなに些細なことであっても。

 

「じゃあ、わたし達も戻ろうか。少しこの町に長居しそうだね」

「はい。フリーレン様」

 

 2人は立ち上がって、服につい埃を手で払い、そして火の消えた町へと向かって歩き出した。

 

(了)




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