トレセン奇譚   作:ライト鯖

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Pride of king
王道


 

 彼女の名は、不屈の異名と共に広く日本に知られている。

同世代にG1戦線で土を付けられ続け、世間からはプライドだけが高いお嬢様かのように見られ、路線変更も冷やかに受け取られた。

それでも走り続け、短距離G1、高松宮記念で勝利を納めた彼女は━━。

泥臭いお嬢様。

黄金世代が一角。

不屈の王者。

キングヘイロー。

 

一流のウマ娘を自認し、一流足らんと、自らを叱咤し、周囲からも一流と認められようと努力し続けてきた彼女は、呪術の道にも"迷うことなく"進んだ。

少なくとも、彼女はその選択を、後悔したことはない。

 

「はあ...」

一人、学園の中庭を歩くキングヘイローは、小さく溜め息をついていた。

 

(とうとう同期で三級術士のままなのは私とツルマルさんだけになってしまったわね)

 

同期の、黄金世代と称された他のウマ娘達は皆、二級か、準一級術士となっていた。

 

(ツルマルさんは体調のことがある。となれば、絶対的にも相対的にも遅れているのは私..)

 

ツルマルツヨシは体調の優れない時も多く、術士としての活動は少ない。

任務にも殆ど行けず、鍛練もさほど参加率は高くない。

それで三級ということは、術式のスペックだけで問題なく低レベルの呪霊なら祓えると判断されているということだ。

その彼女と同じ等級で、任務にも積極的に出ているにも関わらず止まっているキングヘイローは彼女の自己分析通り、同世代で尤も遅れていると言えるのだろう。

故に、彼女は焦っていた。

ライバル達に、置いていかれる訳にはいかないと。

 

「強く..ならなくちゃ..」

 

しかし、彼女の等級が中々上がらないことには理由がある。

 

「ん..電話..?誰かしら」

 

バイブレーションに気付き、スマホを取り出した彼女は、画面の通知を見るや、眉を歪めた。 

 

「お母様..」

 

「...もしもし」

『久しぶりね。聞いたわよ。グラスワンダーさんも、二級術士になったそうね』

「それがどうかしたの?」

『貴方は、まだ続けるつもり?』

「そう、何度も言っているわ」

『...レースとは、ワケが違うのよ。意地を張って、命を落としたりなんてしたら、バカらしいじゃない』

「分かっている。それも何度も言っているわよ」

『もう子供じゃないんだから。変な意地を張ってないで、帰ってきなさい!』

「それをすれば、私は"私"(キングヘイロー)でなくなるわ」

『術式もないのにそれ以上強くなれるワケがないでしょう!』

「....」

 

そう、キングヘイローには術式がない。

その身に、生得術式は刻まれていないのだ。

呪いは、見える。

扱えもする。

ウマ娘の殆どが、魂の所以で呪いに触れることが出来るために。

しかし、術式はなく、本来ならまともな戦闘手段も持たなかった。

 

「...問題ないわ。私には、戦う術があるんだもの」

『"それ"は、弱者のための最低限の護身術のようなもの!それで強くなれると思うの?!』

「なれるわよ。実際に一級術士になった方もいる」

『だからって貴方がなれるとは..!!』

「なってみせるわ。だって、私は一流のウマ娘なんだから。━━それじゃあね」

『待ちなさい!まだ話は━━』

 

キングヘイローはそこで電話を切った。

ふう。と息を吐く。

母親に対しては、強がってみせたが、現状、彼女は手詰まりを感じていた。

日々の鍛練で、身体能力は高まっているので、何年かすれば二級術士にはなれるだろう。

でも、恐らくそれまで。

身体能力は、無限に延びることはない。

術式もないせいか、呪力のコントロール精度や出力に関しても、同期には劣る。

それらは、全て生まれ持った才能によって決まると知った時、彼女はむしろ奮起した。

それを乗り越えてこそ一流だと。

 

だが、時が経ち、戦いを、経験を重ねるにつれ、絶望の方が、大きくなっていった。

生まれ持った才能を、覆すことが、余りにも難しい世界なのだと、痛感させられるだけだったからだ。 

しかし、それでも、彼女は、諦めはしていなかった。

それは意地か、誇りか。

 

寮に戻ろうと、足を動かした時、背後から声がかかる。

 

「キングちゃーん!」

「あら、スペシャルウィークさんに、グラスさん。今帰りかしら?」

 

同期のスペシャルウィークと、グラスワンダーが、かなり汚れた姿で駆け寄ってきた。

 

「ええ。少々てこずりまして~」

「グラスちゃんがいなかったら危なかったよ~」

「殆どスペちゃんのおかけですけどね~」

「ところで、キングちゃんも今から寮に帰るの?」

 

さっきの今で、同期に出くわしていた彼女は、全く負の感情を抱かない、というわけにはいかなかった。

だが、当然、そんなことはおくびにも出さない。

 

「ええ。そうよ。二人とも、お疲れ様」

「ありがとうございます」

「一流の私に褒められる権利をあげましょう」

「ありがとう~!」

「..ふふっ。スペシャルウィークさんは変わらないわね」

 

二人がこれ程までに消耗する呪霊、果たして自分の力で、対抗することは出来るのだろうか。

そんな考えを心に仕舞いながら、彼女は同期で大切な友人(ライバル)達と談笑をしながら、帰途につくのであった。

 

翌朝

早朝

 

キングヘイローは、まだ空の白み始めたばかりの時間帯に、木刀で素振りをしていた。

 

「...ふっ!」

 

ブンッと刀が空を切る音を響かせる。

毎朝のルーティン。

走り込み、素振り。

任務がなければ筋トレ。

そして、道場での稽古。

地道に、泥臭く。

毎日鍛練に励むその姿は、レース現役時代と、何ら変わっていないように見えた。

 

(皆に、追い付かなきゃ)

 

早く、追い付きたい。

その想いが焦りを強めてしまう。

レース現役時、彼女以外の同期は、栄冠を次々掴みとっていった。

今、また、彼女は、一人、取り残されている。

少なくとも、彼女はそう考えてしまっていたのだ。

 

そうして、その日の夕刻。

キングヘイローは、幾人かのウマ娘と共に、廃ビルへとやって来ていた。

任務である。

等級の所以で、彼女は単独任務を任せられることはない。

同じような、同行者が数名、彼女含め三級、四級の術士が二名ずつ、それに、引率の様な形で、準二級術士が一名の計五名という陣容であった。

 

「それでは、説明をさせて頂きます」

 

補助監督が資料を捲りながら説明を始める。

 

「このビルは数年前まで雑居ビルとして使われており、学習塾や眼科、理髪店等が入居していました。

しかし、三年前、学習塾にて原因不明の呪殺が発生。

その後、何度か連続して同じ事件が起きました。其方の方は、一級術士が祓い、解決しましたが、残念ながら我々には噂を払うことは出来ません。

その怪死事件のせいで街の人々から様々な噂をたてられ、このビルに負の感情が集積。呪いの巣窟と化してしまいます。

結果、体調不良や不審な事故が相次ぐようになり、廃ビルに。

このまま放置も出来ないので解体工事がされるそうですが、そのまま始めたのでは多くの犠牲者が出るでしょう。

故に、皆さんに呪いを一掃していただきたいのです。

等級は三級~強くても二級、と報告されています。皆さんが問題なく祓える範囲です」

 

「ですが、万が一があります。くれぐれもご無理なさらないよう」

 

全員が首肯するのを確認した補助監督は指を立て、呪力を籠めた。

 

「では、お気をつけて。帳を降ろします」

「闇より出でて、闇より黒く。その穢れを禊ぎ、祓え」

 

辺りが一気に闇夜のような暗闇となっていく様を背景に、五人は廃ビルへと入っていくのだった。

 

内部に入った彼女達は、即座に違和感を感じ取った。

 

「...少ないですね」

 

キングヘイローの言に、準二級術士の娘も頷く。

 

「外から感じられた気配から考えるともっと、そこら中にいても良いはずなんだが」

「な、何が起こってるんでしょうか」

 

別のおさげのウマ娘が不安げな様子を見せた。

 

「大丈夫だとは思うが..警戒していこう」

 

低級呪霊の群れが実際に直近で確認されたからこその低級術士複数の派遣。

本来、何の問題もないはずだった。

 

五人は、階段を上り、二階へと向かう。

その間も、一切呪霊と出くわすことはなかった。

 

「いるわね..」 

 

だが、さすがに二階に入ると、低級も良いところではあるが、一応呪霊がいた。

 

「上に固まっているのか?」

「かもしれませんね..」

 

準二級術士の娘は数秒思案し、キングヘイローらに目を向けた。

 

「キングヘイロー、君ともう一人でこの階層を見回って欲しい。私達は先に上へ向かう。状況確認をしたい」

「分かりました」

 

頷き、もう一人指名された四級術士の娘と共に低級呪霊へと駆けるのだった。

 

「はっ!」

 

刀を振り抜き、一撃で呪霊を祓う。

同時に、残りのメンバーが上へと階段を上る音が響く。

 

「...!」

 

隣の部屋から複数の呪霊が飛び出してくる。

 

「ふっ!」

 

キングヘイローが三体を一気に切り払い、取り零した一体は、慌てた様子の四級の娘が祓った。

 

「まだいるかもしれないし、一応見て回りましょう」

「...はい」

 

キングヘイローのお供として残ったのは先程不安がっていたおさげのウマ娘であり、なおもびくびくとした様子だった。

 

「..貴方、術士にはなったばかり?」

「...あ、ご、ごめんなさい。ちゃんとやりますので..」

 

怖がっていることを責められると思ったのか、彼女はびくりと身体を震わせる。

 

「大丈夫。怒っているわけじゃないわ。誰だってあんな異形のモノに襲われて、怖くないはずないじゃない」

「...キングさんも、怖いんですか..?」

「キングは別よ?何せ私は、一流のウマ娘なんですから」

「そう、ですよね..キングさんは凄いです。私は、もう術士としての訓練を始めてから半年は経っているんですけど、未だに震えちゃって..」

 

あはは、と誤魔化すように笑う彼女に、キングヘイローはすっと歩み寄った。

 

「貴方は術士を続けるつもりなの?」

「いえ..一年間の任期が終われば止めるつもりです..」

「...そ。なら、余り無理はしないことね」

「でも、そしたら皆に迷惑が..」

「死ぬわよ?」

「...!」

「中途半端な気持ちで、下手に前に出ようとする方が、迷惑になってしまうわ」

「...」

「ウマ娘の大半が呪術を扱える関係上、一年間は最低限の護身を獲得する意味もあって、術士としての活動が実質的に強制される。でしょ?」

「それがどういう..」

「皆知ってるってことよ。例え怖くても、義務を果たそうと、震えても、そこに逃げずに立つ娘達の強さをね。だから、無理に前に出る必要はないわ。

誰も、貴方の強さを否定なんてしないし、させない。絶対に」

「!!....キングさん..ありがとうございます」

 

頭を下げるその娘に、キングヘイローは少しこそばゆさを感じていた。

 

「お礼なんて言われることはしていないわ。

それよりも、早くここを片付けるわよ。付いてきなさい」

「...はい!」

 

そうして、二人はさっさと二階フロアを何体かの低級呪霊を祓いながら探索しきるのだった。

 

「さて、皆と合流しましょうか」

「了解です!」

 

少し慣れたのか、キングヘイローから安心感を得たのか、おさげのウマ娘も、少し砕けた調子になっていた。

 

キングヘイローが先導する形で三階に辿り着くも、人の気配はない。

 

「四階に行ったのかしら」

 

と、上の気配を伺う。

瞬間。

 

「うぐうぅ!」

 

呻き声が微かに彼女らの耳に届いた。

続いて、ドン!と何かが激しく衝突する音。

 

「急きましょう!」

 

キングヘイローは瞬時に階段を駆け上がっていき、おさげのウマ娘も一気に恐怖へと引き戻されたようだったが、どうにか頷きながら、その後を追った。

 

四階には、階下で感じていたよりも強く、呪いの気配が充満していた。

 

その気配の中心。

廊下からの奥、かつてはガラス張りだっただろう枠のある場所から、先程キングヘイロー達と別れた準二級のウマ娘が投げ出されるようにして飛び出し、壁に激突した。

 

「先輩!」

 

キングヘイローが駆け寄るのに気が付いた彼女は、よろめきながら、叫ぶように言った。

 

「来るな!」

 

その瞬間、彼女の身体に、触手のようなナニかが巻き付き、身体を拘束したかと思うと、針状のモノが彼女の身体に突き刺された。

 

「あっ...!!」

「先輩を、離しなさい!」

 

駆けていた勢いそのままキングヘイローが触手へ斬撃を浴びせた。

スパリと触手は切れ、準二級の娘は解放されたものの、針を刺された衝撃が止めになったのか既に意識を失ってしまっていた。 

 

「な...!」

 

更に、割れたガラスの向こうには他の先に上へと向かった娘達二人が、倒れていた。

 

(三人がかりで、惨敗..?まさか..)

 

目の前の光景に衝撃を隠せないキングヘイローに、容赦なく、準二級の娘を拘束したのと同じ触手が襲いくる。

 

「..!」

 

咄嗟に躱し、埃舞う、奥の部屋を凝視すると、そこには、とても、三級や二級ではすまなさそうな呪霊が、いた。

 

触手状のモノがうねうねと何本も蠢き、その中心には、形は蛭や蛞蝓に近いが、色合いはグロテスクな黒や灰、赤茶の混ざったような色をした本体が鎮座している。

 

「キングさん!」

 

後を追ってきていたおさげのウマ娘が駆け寄ってきていた。

 

「貴方は戻って!」

 

キングヘイローは、そう叫んで押し留めた。

 

「何があったんですか?!」

「全員やられている。応援が必要。下に戻って補助監督さんに報告を!」

 

簡潔に状況を伝え、指示を飛ばす。

 

「全員って..」

 

その娘は恐怖にひきつった顔となった。

 

「早く!」

「で、でも、キングさんは..」

「皆を見捨ててはいけないわ。時間を稼ぐから、貴方は早く」

「なら私も..!」

 

ドガンと勢い良くおさげのウマの娘を狙って伸びてきた触手を、キングヘイローが切り付け、軌道を変える。

 

「誰かが報告しに行かなきゃいけないの。分かるでしょ?」

「でも..」

「さっきの話、もう忘れたのかしら?」

「あ..」

 

だが、その娘はそれでもなお、躊躇っていたので、キングヘイローは笑顔を向けながら、言った。

 

「大丈夫よ。キングは一流のウマ娘なんだから」

 

オーホッホッホと高笑いをしながら、触手を躱して着地、鞘に手を当て、構えを取った。

 

「...応援を連れて直ぐに戻ります!!」

 

おさげのウマ娘は、ハッとし、そのまま直ぐに階段へと全力で疾走し始めた。

 

(キングさん...震えてた..)

 

自分を守るようにして構えを取ったキングヘイロー、その手が、僅かに揺れ動いていたことに、彼女は気付いたのだ。

 

(絶対に、戻ります..!)

 

そう誓いながら階段を駆け降りるのだった。

 

「...貴方を祓って昇級させてもらうとしましょう」

 

触手を蠢かせ、本体もゆらゆらと、どこか余裕そうな様子の呪霊に、キングヘイローは不敵な笑みを向けて見せていた。

 

「...!」

 

カタカタと震える手を反対の手で抑え、構えを取り直す。

 

(大丈夫。私は..一流のウマ娘、キングヘイロー。祓える。祓う。絶対に)

「一流の剣捌き、見せてあげるわ!」

 

先程までのモノは小手調べだったのだろう、それよりも更に速度を上げた触手が、キングヘイローへと襲いかかる。

 

それを見据え、彼女は、刀に呪力を籠めた。

 

         「シン・陰流!」

 





お久しぶりです。
今回はそんなに長くはならない想定でいます。
次回は来週に投稿出来たらなと思っていますが、再来週以降になるかもしれません。
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