トレセン奇譚   作:ライト鯖

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師弟

 

「もう一本!!」

 

キングヘイローに剣術を教わることとなったトウカイテイオーは、メジロマックイーンとの合同任務を終えた翌日も剣技の特訓を重ねていた。

 

「前より格段に良くなって来てるわよ!」

「うおおお!」

「でも、まだ...」

 

斬りかかったトウカイテイオーの木刀を難なく捌き、コツン、と軽く彼女の頭に、キングヘイローは木刀をぶつける。

 

「また負けちゃった...」

「私の数年間をそう簡単に追い越されてたまるものですか」

「だよねえ~。でも、直ぐに勝ってみせるから」

「楽しみね。なら、もしテイオーさんが私から一本取れる時が来たら、はちみーをご馳走してあげるわ」

「本当?!」

「ええ、一流に二言はないわ」

「後悔しても知らないよ~?」

 

トウカイテイオーがニヤリと笑う。

 

「望むところよ」

 

キングヘイローも不敵な笑みで返すのだった。

 

術式も発現せず、呪いも見えないトウカイテイオーだったが、術式を持たないながらも、剣術とシン・陰流をその身に刻み込み、準一級術師へ登り詰めたキングヘイローの指導を受け、飛躍的にその実力を伸ばしていた。

 

僅か2ヶ月で彼女は、三級術師と遜色無いほどにまで上達していた。

呪力も扱えない中で、ヒトの何倍もの膂力のあるウマ娘だからこそなし得たことであるが、その膂力を活かした剣技、体裁きを凄まじいスピードでモノにしたのは、彼女の才能と、努力故である。

 

「さて、今日はこの位にしておきましょうか」

 

キングヘイローは言いながら、汗を拭く。

 

「ええ~。...もうちょっとお願い!」

「もうすぐ門限よ。それに、休息は大事よ。貴方、明日は私の任務についてくるんでしょう?」

「だからこそだよ!久しぶりの実戦なんだ。まだまだボクは━━」

「このキングに同行しておきながら、万全のパフォーマンスが出来ませんでした、なんて言わせないわよ」

 

言われ、トウカイテイオーは「分かったよ~」と引き下がる。

実際、疲れが出ていたのも事実であり、キングヘイローの言葉に納得するしかなかったからだ。

 

「それじゃあ戻りましょうか」

 

促され、トウカイテイオーとキングヘイローは共に寮へと戻るのであった。

 

翌朝。

 

「さあ、行きましょうか」

「テイオーさん、今日はよろしくお願いしますね!」

 

キングヘイローとトウカイテイオー、そしてキングヘイローの同期、スペシャルウィークが補助監督に案内され、とある廃工場へと来ていた。

 

「スペちゃん?!久しぶりだね~」

「お久しぶりです!最近、あまりお話出来てませんでしたしね」

「スペさんも忙しいものね」

「キングちゃんほどじゃないですよ~」

 

三人は和気藹々と暫く会話を交わす。

そして。

 

「さて、でもスペさんも呼ばれたということは、事前に聞いてた想定よりも等級が高くなったのかしら?」

 

キングヘイローが補助監督に真剣な面持ちで尋ねた。

 

「いえ、ルドルフ会長からのお達しです。念をいれるように、と」

「....そう。分かったわ。ありがとう」

「では、帳を降ろします」

 

辺りが黒く、染まっていく。

 

「今日って、テイオーさんの特訓もかねてるんですよね?」

 

帳が降りきった頃、スペシャルウィークがそう口にした。

 

「ええ、そうよ」

「なら私の役目は補助って感じですか?」

「気を遣わなくて良いよスペちゃん」

 

トウカイテイオーが割って入る。

 

「ボク、お膳立てされた成果はいらない。二人にしっかり着いていくよ」

「..分かりました!でもテイオーさんなら直ぐに強くなりますよ。うかうかしてられないですね!」

「━━━。ありがとう。スペちゃん」

「へ?何がですか?」

「ううん。直ぐに追い越してみせるよ。スペちゃんのこともね」

「フフッ。負けません!」

 

二人のやり取りをキングヘイローは微笑を浮かべながら見つめていた。

 

そうして、三人は廃工場へ侵入し、呪霊の姿を探り始める。

 

「もうししわけあありませんん」

「しねしねしねしね」

「やめるやめたいやめささせてて」

「ささぼるななむのの」

 

誰かの呪詛が呪いの口によって充満している。

 

「低級の群れみたいですね」

「そうみたいね。これなら直ぐに終わるんじゃないかしら。準備は良い?テイオーさん」

「うん。二人はボクのことは気にしないで。食らい付いて見せるから」

 

コクリ、と頷き合い、三人は群れへ向かって駆け出した。

 

「シン・陰流 簡易領域 抜刀」

 

キングヘイローの刀裁きによって呪霊の多くは祓われる。

が、まだまだ大量に工場内には呪霊が生息しており、それらが三人の存在に気付くや否や、襲い向かった。

 

「スペさん、お願い」

「はい!」

 

「やああああ!」という掛け声と共に拳を繰り出すスペシャルウィーク。

その拳には莫大な呪力が籠められており、一匹の呪霊に拳がぶつかると同時に、弾けて、爆発のように呪力を拡散させた。

 

「一杯食べてきたのでまだまだ行けますよー!」

 

スペシャルウィークの術式。

粮食転呪(りょうしょくてんじゅ)

食べたモノによって得られたエネルギーを任意で呪力に変換することの出来る術式である。

通常の食事として食料を消費することも可能だが、食事によって摂取されたエネルギーを術式で呪力へと変換し、彼女は戦う。

本人の胃袋によってキャパが決まってしまうが、スペシャルウィークは、ヒトより多く食べるウマ娘としても大食いであり、満腹まで食べたエネルギーを呪力と成せば、瞬間的に特級クラスの出力を産み出せる程だ。

 

「やっぱりスゴいや..」

 

二人のコンビネーションを見たトウカイテイオーは感嘆の息を漏らす。

チクリ、と胸に何かが刺す。

 

「?」

 

その正体に思考が向くことはなく、彼女は二人が取り逃し、自身へと向かってきていた数匹の呪霊に意識を向けるのだった。

 

「はああ!」

 

二級呪具。

刃伐刀(はばつとう)、それ程強力でない斬撃を産み出す術式を刀と組み合わせて戦っていた術士の愛刀だったモノ。

それを振りかぶり、呪霊の身体に太刀を浴びせた。

 

「ぎゅえっ!」

 

刀そのものによって与えられた傷から枝分かれするようにして、細かい切り傷が呪霊の身体に刻まれる。

 

「ふっ!」

 

更に身体を回転させ、刀を背後に回っていた呪霊にもぶつけ、襲ってきた数匹を祓いきるのだった。

 

その後もスペシャルウィークとキングヘイローが呪霊を次々祓っていき、トウカイテイオーはどうにか二人に着いていき、取りこぼした数匹を祓うというサイクルで工場内の呪霊は、一掃されるのだった。

 

「ふうっ。終わりましたね~」

「中々の数だったわね」

「くっそ~!全然祓えなかったよ~」

「あら、でもしっかり私達に着いてきてたじゃない」

「ですね!」

「着いていくだけじゃあ足りないもの」

「フフッ。なら、もっと特訓しなくちゃあね」

「望むところだよ!」

 

三人は、そんな風に帳がおりるまでの間、雑談を交わしていたが、キングヘイローとスペシャルウィークが、違和感に気が付く。

 

「帳が消えない?」

「気配も、消えてない..」

 

二人の言葉にバッとトウカイテイオーも警戒体勢を取る。

 

「お前お前のの代わりはははいいくらでもいるるる」

 

気色の悪い声色と共に、一匹の呪霊が三人目掛けて突進をかけてきた。

 

「っ!」

 

トウカイテイオーは刀で呪霊の突進を受け流そうとしたが、力で押し勝ことが出来ず、刀をはじかれ、呪霊がその身体に噛みつかんとする。

 

「抜刀!」

 

簡易領域を使ったキングヘイロー抜刀が呪霊の体躯を斬り付け、軌道をずらしたことで、トウカイテイオーは無事だった。

 

「スペシャルウィークさん!」

「はい!」

 

粮食転呪

 

「たあああ!」

 

怯んだ呪霊にスペシャルウィークの拳が直撃し、そのまま呪霊は霧散した。

 

「ありがとう...」

 

トウカイテイオーは拳を握り締めながら、そうポツリと礼を言うのであった。

 

トウカイテイオーは、呪力が扱えない状態で準一級の二人に負けない動きをしてみせた。

それは、充分に凄いことではある。

しかし、やはり、呪力使用の有無は、決定的な差を産んでしまう。

火力も、膂力も、必ず一段劣ってしまう。

トウカイテイオーは、どうしてもその差を、最も強く感じざるを得なかった。

だが、彼女は諦めない。

諦めきれなかった。

 

「シンボリルドルフさんみたいな強くてカッコ良いウマ娘になります!」

 

あの時は、レースのことを言っていた。

けれど、呪術の道でも彼女がウマ娘最強であることを知った以上、憧れを、止めることなど出来なかった。

例え、そのシンボリルドルフから諦めろと言われようと、諦められる筈もなかった。

彼女にとっての、譲れない、想い。

 

(必ず、ボクは、会長に...)

 

報告を終えた三人は各々に解散し、そうして、二人と別れたキングヘイローは学園内の、一際大きく、威厳を感じさせる造りをしている扉が構える、生徒会室へと向かっていた。

 

コンコンと、扉がノックされ、「失礼します」の声と共に、キングヘイローが生徒会室の扉から顔を出す。

 

「やあ。すまないね。突然呼び出してしまって」

 

声の主は、会長のシンボリルドルフである。

 

「いいえ。それで、何の用でしょう?」

「まあ、とりあえずかけてくれ」

 

キングヘイローにソファへ座るよう促しながら、彼女自身もその向かいのソファへと移動する。

二人は、向かい合う形で着席した。

 

「今日来てもらったのは、テイオーのことで話したかったんだ」

「テイオーさんの?」

 

キングヘイローの目を見据え、シンボリルドルフは口を開く。

 

「彼女に特訓をつけているそうだね?」

「ええ。一流の剣技を教えているわ」

「テイオーが呪いも見えないことは知っているかい?」

「勿論よ。それが何か?」

「危険だとは、思わないか?」

「━━迂遠な物言いは止めませんか?会長さん」

 

ふう。とシンボリルドルフは息を吐く。

 

「分かった。では言おう。テイオーに特訓を着けるのは止めて欲しいんだ。勿論、今日のように任務へ同行させることも」

「そんなことだろうと思ったわ」

 

シンボリルドルフの鋭い眼差しとは対照的にキングヘイローは余裕そうな態度であった。

 

「三級、良くても二級術士位が、術式もフィジカルギフテッドも無しでたどり着ける限界だ。いずれ、彼女ではどうしたって敵わない呪霊に出くわす可能性もある。テイオーを、無為に危険へ晒すわけにはいかないだろう」

「それは、術式があっても同じでしょう?」

「それはテイオーにも言ったが、リスクが違いすぎる。テイオーの為なんだ」

「テイオーさんの、ねえ。スペシャルウィークさんを寄越したのもその一貫かしら?」

「それは、万全を期すべきだと判断したからだ」

 

キングヘイローは「この件に関してだけはそういうことにしておくわ」と小さく溜め息をつく。

 

「このまま叶わぬ夢を、希望があるかのように見せ続けて苦しませるべきじゃない」

「会長さん」

 

睨むようにしてキングヘイローはシンボリルドルフを見据えた。 

 

「貴方は、全てのウマ娘の幸福を願っているんですよね?」

「勿論だ。だからこうして━━」

「テイオーさんの幸福は、貴方が決めるんですか?」

「?!...」

「テイオーさんにとっては、貴方に追い付くことが夢なのよ。それを諦めさせるのが、本当に幸福なのかしら?」

「それは━━」

「貴方の、全てのウマ娘に夢を叶える為のスタートラインをせめて用意してやりたい、とする姿勢は共感しています。だからこそ、テイオーさんの夢を、私は少しでも支えたい」

「.....」

「テイオーさんだけ、特別扱い、それも、危険だからと夢を諦めさせ、保護すべき対象、として扱うのは貴方の夢に反するのではないですか」

 

キングヘイローの詰問するような調子に、シンボリルドルフは、ゆっくりと、苦し気に白状する。

 

「私の夢、それを考えるなら、その通りだ」

 

「シンボリルドルフさんみたいな強くてカッコ良いウマ娘になります!」

 

あの日のテイオーの、背中を押したのは私だ。

 

「楽しみにしているよ」

 

押してしまったんだ。術式も、呪力も扱えない娘だとは、知らなかったから。

だから、もし..。

 

「もし、テイオーに何かあれば...」

 

私が、そうさせたも同然だ。

無責任に背を押して、彼女を危険に晒してしまうなど、許されない。

私の軽率な言葉で、彼女の未来を奪うことになるなど、あってはならない。

 

「━━。大切に想うのは結構ですけれど、テイオーさんの意志を、尊重してあげるべきじゃありませんか?」

 

それに、とキングヘイローは付け足す。

 

「貴方も気付いてるのでしょう?テイオーさんの呪力」

「...ああ」

「私と特訓して呪力に触れたり、任務へ行って、強い負荷に晒されれば、目覚める可能性はゼロじゃない」

「それは、テイオーを追い詰めることになる..」

「無理に諦めさせようとする方が追い詰められていましたよ」

「っ...!」

「強くなるなら、どんなことでもする。テイオーさんはそう言いました。だからこそ、です。下手に意識させないように、真意は伝えていませんが」

 

そう、トウカイテイオーは、呪力自体は持っている。

勿論、一般人も僅かながら持ってはいるが、そのレベルではないのだ。

平均的な術師を軽く凌駕する呪力を、彼女は保持している。

ただ、それを扱うことが、出来ないのだ。

 

呪力の見えない者も、死の間際や強いストレスに晒されれば、稀に呪いが見えるようになることがある。

キングヘイローは、それを狙っていた。

勿論、例えそれが上手く行かなくとも強くなれるように考えているが。

 

任務に行けば、呪いに自然と触れ、キングヘイローが万一の際は身を守るつもりで、ある程度の危険に晒すことになる。

もしかすると、それで呪力に目覚めるかもしれないから。

 

「貴方が心配なさるのも分かります。けれど、テイオーさんを守るべき対象としか見ないのは、彼女に失礼だと、私は思うわ」

「━━━」

 

それでも、なお承服しかねるといった様子で苦悶する様子のシンボリルドルフ。

それを尻目に、キングヘイローは立ち上がって、礼をした。

 

「それでは、私はこれで失礼します」

 

パタリと閉められた扉に向かって、シンボリルドルフは、ポツリと、呟いた。

 

「君の言う通りだよ、キングヘイロー」

 

だが。と眉を歪める。

私のことを無垢に慕ってくれる、あの純真な娘、その心が呪詛に蝕まれて欲しくないんだ。

私は..。

 

「テイオーを、失いたくないんだ...」

 

 

 

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