トレセン奇譚   作:ライト鯖

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願望

 

「君、強くなりたいんだってね?」 

 

呪詛師の言葉に、一瞬、トウカイテイオーは動きを止めた。

 

「それがどうした」

「なあに。簡単なことさ。協力してあげたいんだよ」

「そんな怪しい誘い、乗るわけないだろ」

 

睨むトウカイテイオー。

しかし、呪詛師は気にする素振りも見せない。

 

「会長さんを越えたいんだろう?」

「?!。何で知って...」

「友達が多くてね」

「.......」

 

トウカイテイオーはどうにかしてこの場を逃れ、この男について報告するべきだと、隙を伺う。

"友達"。十中八九、スパイがいるのだろう。

 

(カイチョーに、伝えなきゃ)

「いいのかい?このまま逃げても、君は強くなれないよ。君、まだ四級術師だろ?」

「うるさい!強くなれなれなくなんかない!それに三級術師に昇級もした!ボクは...」

「それは悪かった。しかし、だ。刀だけでシンボリルドルフに勝てるようになる、と?」

「..出来るように..」

「本当に?」

「っ...!」

 

早く離れなきゃ。そう思いながらも、中々隙を見出だせないトウカイテイオー。

焦りが、募る。

 

「私なら君を呪力が使えるようにしてやれる」

 

一瞬、思考が止まる。

 

「...出来るわけ..」

「出来るさ。話、聞く気になってくれたかな?」

 

いつの間にか、彼女は呪詛師との会話に引きずり込まれていた。

 

「聞かない...」

「こんなチャンス、二度とないかもしれないよ?」

「うるさい...」

「憧れないかい?会長さんみたいな、強くて、カッコ良い戦い方に」

「刀でだって...キングも..」

「あれだって呪力があるからこそさ。チマチマ刀で斬り付けるだけ、なんて形じゃあないだろう」

「...それでも、良いんだ。ボクは、ボクなりに...会長みたいになるのは、諦めて..」

 

トウカイテイオーの語気は、どんどんと弱まっていく。

 

「きっと、今のままじゃあ、会長さんはいつまで経っても君を認めやしないだろうね」

 

一押し。

トウカイテイオーは、押し黙ってしまう。

 

察していたからだ。

幾ら、刀だけで強くなろうと、呪力を持たないトウカイテイオーを、シンボリルドルフは認めないだろう。と。 

 

シンボリルドルフは、トウカイテイオーの強さを問題にしているわけではないのだ。

ただただ、呪力を持たない者が、呪いと戦うことを、恐れている。

そして、トウカイテイオーの、シンボリルドルフを越えたいという願いには、単純な、強さ以外の意味もある。

 

「ボクは...違う。強くなって、会長に..」

 

呪詛師は、人当たりの良さそうな笑みを浮かべながら、マスクを下ろした。

 

「一緒に会長さんを驚かせてやろうじゃあないか。大丈夫。君に危害は絶対に加えない。"縛り"を結んだって良い。だから、もう少しお話しよう」

「ボク...は...カイチョー...」

「私は、君の味方だよ」

 

トウカイテイオーと距離を詰め、呪詛師は、言った。

真っ赤な舌に刻まれた、黒い呪印を、覗かせながら。

 

「くっ...!」

 

領域内では、なおもメジロマックイーンと少女呪霊との戦闘が繰り広げられていた。

 

「玉犬!」

 

黒と白、二匹の玉犬が爪を振り下ろすが、少女は様々な遊びを繰り出し、都度、無力化していく。

その度に式神を解除し、再び顕現させる、と堂々巡りに陥ってしまっていた彼女は、呪力を大きく消耗していた。

 

(こうなったら調伏できていない貫牛を...いえ、もし、あの呪いを祓えたとしても、その後、貫牛を倒す必要が出てきてしまう。消耗している現状では悪手。.....考えろ。考えるのですメジロマックイーン!)

 

「ふっ!」

 

影から呪具を取り出し、斬り付けるが、少女呪霊は瞬間移動のようにして、メジロマックイーンの背後に移動する。

 

(何の遊びを...そんなことより..テイオーさんは..いえ、きっと大丈夫。テイオーなら、大丈夫!)

 

「ぐっ!」

 

背後から巨大なサッカーボールをぶつけられ、体勢をぐらりと崩す。

 

「埒が明きませんわね..」

「楽しいね。お姉ちゃん。楽しいねええええ!」

 

メジロマックイーンは、考えていた。どうにか、この呪霊の虚をつかねば、と。

 

(領域が使えたら良かったのですが..)

「!」

 

瞬きの間に、メジロマックイーンの眼前へと呪霊が迫っていた。

 

「脱兎!」

 

済んでのところで脱兎を召喚し、少女の手と、自身の間に壁を作る。

 

(こんなところで、負けるわけにはいかない。テイオーさんは、呪力を操れなくても、戦い続けて、強くなろうとしている。だから..)

 

「私は、テイオーのライバルとして、あの娘の先に、居続けなければなりませんの」

 

競い合い続けたライバル。

レースでは、ほんの数回しか共に走ることの出来なかった。しかし、それでも、唯一無二の好敵手。

だからこそ、彼女が先の見えぬ闇にいるならば。

 

(私が、先を照らし続ける。私は、貴方を待ち続ける。頂点に達して!だから...)

 

「!」

 

メジロマックイーンは、ついに光明を見出だした。

 

(どうして思い至らなかったのでしょう。ここは、怪談によるなら、神隠しに連れ去られてきた世界。それ故にか、辺りは暗闇。暗闇、つまり、ここは影に染まっている)

 

そう、影のある場所、それ即ち、十種影法術

のテリトリー。

呪霊の領域でありながら、メジロマックイーンにとっても、自在に動ける、格好の舞台。

 

「つくづく、思い込みは恐ろしいですわね」

 

自嘲するメジロマックイーンに、呪霊が刀を手に襲いかかっていた。

だが、刀がメジロマックイーンに当たる瞬間、ドプン、と落ちるようにして、影の中へと姿を消した。

 

「かくれんぼ?良いよ。やっと遊んでくれるのね」

 

楽しそうに笑う呪霊、その背後に彼女は飛び出す。

 

「これで..!」

「みいつけた」

 

グルリと首を回し、呪霊は、メジロマックイーンと視線を合わせた。

読まれていたようだ。

 

「タッチ」

 

メジロマックイーンは呪霊に触れられ、檻が瞬時に、彼女を拘束する。

呪霊は勝利を確信し、これまでには見せなかった、呪いらしい、歪な、おぞましい笑みを浮かべていた。

 

そして、メジロマックイーンは、そのおぞましい笑いに不敵な笑顔を、返していた。

 

ザンッ。

少女呪霊は目を見開く。

彼女の両の腕は、黒い地面へと落ちていた。

黒と白、二匹の玉犬の爪が、ついに、彼女を切り裂いたのだ。

 

「私は、囮ですわ。大蛇!」 

 

そして、止めとばかりに、メジロマックイーンは少女呪霊の足下から大蛇を召喚し、丸呑みさせた。

図体が他の式神よりも大きい分、遊びの対象とされた時のリスクを考え、今まで発動していなかったが、ついに隙を掴んだというわけだ。

 

ゴクリ、と大蛇が呪霊を呑み込み、数秒後、バキバキ、と、黒いガラスが割れるようにして、呪霊の領域が崩壊していくのであった。

 

「はっ...はっ..はっ」

 

呼吸を整えながら、公園を見渡すメジロマックイーン。

だが、彼女の姿を見つけることは出来なかった。

 

「テイオーさん!?テイオーさん!返事をしてくださいませ!」

 

だが、返答はない。

 

「....!」

 

彼女は、何かを察知し、地面に目を凝らす。

すると。

 

「誰の残穢ですの..?」

 

不審な残穢が、公園の裏手にある山地へと、誘うようにして、ポツポツと残っていた。

 

「これは...」

 

メジロマックイーンは公園の外へと向かった。

一人で追いかけようとはしない。

あからさま過ぎるそれに、乗ることはなかった。

 

「誰か応援を!」

 

彼女は、帳の外で待機していた補助監督にあらましを伝え、応援を乞うた。

直ぐに学園に連絡が行き、付近の術師が急行することとなった。

 

30分後。

 

バサッバサッと大きな鳥がメジロマックイーンの近くへと降り立ち、そこから人影が飛び降りてきた。

 

「マックイーンさん!」

「キングさん?!」

「私が最初?ごめんなさい。学園にいたから時間がかかったわ」

 

キングヘイローが最も速く駆けつけてきた。

 

「エルさん。助かったわ」

「お安いごようデエス。むしろすみません。エルもお助けしたいところなのデスが」

 

エルコンドルパサーも鳥の上からひょっこり顔を出す。

この鳥は、エルコンドルパサーの呪骸。

彼女が飼っているマンボというコンドル、もとい鷹を模した"マンボ二世"である。

 

「任務なら仕方ないわよ。此方こそごめんなさいね。任務前に無理いって送ってもらっちゃって」

「いえいえ、お気になさらず。緊急事態なのデスから」

「本当にありがとう」

「お礼は結構デェス。ちゃちゃっと祓ってエルも後から合流しマスね!それでは、お二人ともお気を付けて!」

 

メジロマックイーンとも目線を合わせ、そう言いながら、エルコンドルパサーはマンボ二世を操り、再び羽ばたかせた。

 

「あ、ありがとうございます」

「エルさんも気を付けて」

「Si。それでは、また後で!」

 

そうして、エルコンドルパサーはそのまま飛び去るのだった。

 

「ありがとうございます。わざわざ学園から来てくださったのですね」

「弟子の危機だもの、当然よ。他に応援は来てないみたいね」

「ええ。近くには術師がいなかったようで..」

 

そうメジロマックイーンは残念そうに眉を下げる。

 

「..テイオーさんが拐われたって本当なの?」

「ええ。恐らく。テイオーが領域の外に連れ去られ、呪霊を祓って出てみれば、姿はなく、謎の残穢がわざとらしく残っていました」

「確かに状況的にはそうらしいわね。テイオーさんを拐って、術師を呼び込み、罠にかけるつもりかしら」

 

キングヘイローが手を顎に当てながら考え込む。

 

「目的は分かりませんが、テイオーの身柄が連れ去られているのは間違いないでしょう」

「そうね。なら、先ず私達で先行しましょう。他の娘も順次来るでしょうけど。相手の目的が分からない以上、一刻を争うかも」

 

キングヘイローの提案に、メジロマックイーンも頷く。

本当は更なる援軍を待った方が良いのだろう。

だが、もしかすると、トウカイテイオーの命の危機かもしれない。

そう過る思いが、彼女、彼女達を、焦らせていた。

メジロマックイーンとしては、一人で突っ込みたいところをどうにか理性で抑え、三十分も待ったのだ、逸る気持ちは抑えきれなくなっていた。

 

「そうですね。準一級術師に来ていただけたわけですし、二人なら先行部隊としては充分ですわよね」

「じゃあ、補助監督さん。後から来る娘達に伝言をお願い出来るかしら?」

「ですが...いえ。分かりました。お二人ともお気を付けて」

 

二人の目を見、補助監督は、了承せざるを得なくなった。

それ程までに、二人の気持ちは、焦燥と、怒りに包まれていたのだ。

 

「残穢を追いましょう!」

「はい!」

 

一気呵成に、山道を駆け上がっていく二人。

だが、残穢は途中で二手に分かれていた。

 

「どちらかが、ダミー?」

「...二手に分かれるのは危険かしら」

 

キングヘイローとしても一刻を争う事態、少しでも素早く追い付きたいという誘惑は強かった。

だが。

 

「...二人で同じ方向に行きましょう。別れてしまっては応援の意味がないわ」

「...そう、ですわね。そちらの方が確実..」

 

メジロマックイーンも理性で同意する。

そして、直感で選んだ方へと二人は駆けていくのだった。

 

三時間後。

 

「お?来たみたいだね。だけど...いやはや、便利な術式を貰えて良かったよ..」

 

呪力を感知したトウカイテイオーを強くすると宣っていた呪詛師は、そうクックッと笑っていた。

 

トウカイテイオーが公園から姿を消してから、既に四時間が経過していた。

 

「くそっ。入り組んだ道を雑多に歩いて時間稼ぎをするつもりね..!」

 

残穢の動きが、彼方此方に行ったり来たりといった調子であったので、二人は思いの外時間をかけてしまっていた。

 

恐らく、後に続く援軍も、同じように時間をかけてしまうだろう。

ダミーの方もかなり長く続いていたが、其方への道は印を付け、後続に分かるようにはしてある。更に、戦闘になればその呪力を目標に出来、直線距離で向かえはするだろうが、それでもそれなりの時間がかかることに変わりはない。

 

「山頂に向かっているわけでもないですわね」

 

二人は全速力で駆け、雑木林を抜けた。

ガサガサと葉をふるい落しながら、二人が飛び出たのは、かなり開けた、天然の広場のような空間であった。

 

「残穢は..ここで?」

 

二人が周囲を警戒しながら見渡していると、突然、影がキングヘイローへと襲いかかってきた。

 

「!」

 

ギン!と鞘に入れたままの刀身で咄嗟に受け、彼女は影の正体を見る。

 

「はっ?」

 

ザッ。とキングヘイローから一度距離を取ったその影は。

 

「テイオー..さん?」

 

どこか、虚ろな様相の、彼女達が探していた、トウカイテイオー、その娘であった。

 

「テイオーさん?私よ、キングヘイローよ」

 

木々のせいで陽光が入らず少し暗かったせいで分からなかったのかと思った、いや思いたかった彼女は、そう声をかけた。

だが。

 

「無駄だよ」

 

トウカイテイオーの近くにある大木の枝、そこにも別な影が現れ、その影が可笑しそうにそう言った。

 

「貴方は..」

「テイオーさんに何をしましたの!」

 

メジロマックイーンも戦闘体勢となり、二人で影を睨み付ける。

 

「君ら、彼女のお友達かい?。残念ながら、君らの知るトウカイテイオーはもういない」

 

言葉と共に、ユラユラとしていたトウカイテイオーが足を踏み込み、再び距離の近い方であったキングヘイローへと向かった。

 

「テイオーさん!何を...?!」

 

刀で受けながら呼び掛けようとしたキングヘイローだったが、予想外の力に後退りさせられてしまう。

 

「キングさん?!」

「何で..貴方、呪力が..」

 

呪力の籠った一撃。

彼女はそれを受けたのだ。

 

「え?テイオーさん..が..?」

 

トウカイテイオーは、今度はメジロマックイーンに襲いかかる。

 

「っ!」

 

腕で防御した彼女は、キングヘイローの勘違いでないことを、確かめさせられた。

 

「何で..何が...」

 

アハハハハと木の枝に座る影は、その姿を現しながら大笑いしてみせた。

 

「誰?」

「テイオーくんを(いざな)い、力を授けし者、さ」

「バカを言わないで!呪力に目覚めさせるなんてどうやったのかは知らないけど、テイオーさんが貴方みたいな怪しい人間の誘いに乗る筈ないでしょう!」

 

キングヘイローが激昂しながら噛み付く。

だが、トウカイテイオーに接触してきた呪詛師は、ニヤニヤと嘲笑う調子を崩さない。

 

「そうだねえ。本当なら、興味をひかれはしなかった。あるいは、理性で抑え込めたろうね」

 

でも、とマスクを下ろし、彼は舌を見せつけた。

 

「呪印..まさか..!」

 

メジロマックイーンが顔を蒼くさせる。

 

「そ。私は呪言師でね。といっても、狗巻家程強力なモノじゃあない。術師相手ならほぼ無意味。一般人相手でも大した効果はない。ま、代わりに普通に会話は出来るがね」

 

でも。とトウカイテイオーを指差し、彼は続ける。

 

「相手の精神を揺さぶって動揺させ、心の防御を弱くすれば、充分な効果を発揮する。だから、彼女の精神を少々強引に揺さぶり、たった一つ、簡単な呪言にだけに注力したのさ。"私の話を聞いてくれ"とね」

 

余裕そうに、男は笑う。

 

「後は簡単、私の話を聞いてくれるようになった彼女に、心理テクニックや洗脳技術を術式と併用することで、相乗効果を発揮させ、彼女を私の人形とした、というわけさ」

 

術式の開示。

本来はさせるべきではないのだが、この異常事態を把握するためにも、二人は大人しく聞く他なかった。

援軍到着までの、時間稼ぎにもなる。

故に、リスクを承知で、話をさせていたのだ。

 

「こんな短時間でそこまで出来る訳が..」

「そういう術式を貰ったのさ。色々条件や発動方法が複雑でね、そうポンポン使えるモノではないが、時間をズラす術式があるんだよ。私達は、その術式の中で、もう三日間過ごしたんだ」

「そんな術式...!」

 

ある筈がない、と二人は言い切れない。

何せ、眼前に、その証拠としか言いようがない、トウカイテイオーの姿があるのだから。 

 

「でも、いくら洗脳技術があったって」

「彼女の心をそう都合良く操れるものかって?ハハッ。君らが一番分かっているんじゃないのかい?」

 

嘲笑の態度を呪詛師は崩さない。

 

「色々お話して、教えて貰ったよ。彼女は自分の理性とその信念で抑えていたんだ。どうしても捨てきれない願望を」

「....っ」

 

二人は、察した。

彼が何を言っているのか。 

 

「呪力が欲しい。術式が欲しい。キングヘイローのように美しく。メジロマックイーンのように華麗で、シンボリルドルフのような強さが、欲しい。そんな願望が、ずっと奥底にあった。それを私は、引っ張りだしただけさ。この呪言でね」

 

さて、と彼は立ち上がった。

 

「術式の開示もついでに済んだ。これで何の防御もなしではさすがに全く効果がない、なんてことはなくなったよ」 

「っ...!」

 

二人は、呪力で脳を防御する。

 

(そう、私の呪言を警戒し、呪力と神経のリソースを脳防御に回さざるを得なくなる。その上で、更に一押ししようか)

 

ニンマリと呪詛師はトウカイテイオーに命令を下した。

 

「さあ、テイオーくん。ライバルと師匠を越えるチャンスだ。その力、見せてあげなさい」

(自我を僅かに残しておいたのは正解だな。命令を下しやすい。その上、呪言を通すことでより深く、彼女を支配下に置くことにも繋がる)

 

「キ...ング...マ..ック..イーン」

「...っ!」

「..テイオーさん」

 

消えるような高速移動。

瞬きの間に、キングヘイローはトウカイテイオーに距離を詰められていた。

 

「くそっ!」

 

再び鞘で受けようとするキングヘイロー。

バチッ。

瞬間、閃光が辺りを包む。

 

「な..んで..」

 

キングヘイローは雷撃を受けていた。

 

「キングさん?...テイオー..今のは..どうして...」

 

メジロマックイーンは咄嗟に防御姿勢を取ったが間に合わない。

先程とは比べ物にならない速度で彼女は腹に、感電と共に重い一撃を受けた。

 

「かっ...」

「フフフフ。ハハハハハ!」

 

呪詛師はその様子を楽しそうに見下ろす。

 

「本当はただの使い捨ての実験台のつもりだったんだけどねえ。

脳の形が限りなく一般人に近く、今まで発現もしてなかっただけで平均以上の呪力量だけじゃなく、術式をも持っていたからね。予定を変えたんだ。

術式、それも...皮肉だねえ。なんたる皮肉。この術式を持っていたとはね!だから、彼女には完全に私の人形となって貰う必要があるんだよ」

 

その為に、と呪詛師はどうにか体勢を立て直そうとする二人を見渡す。 

 

「君らを殺させて、彼女の心を沈める。私が引き出し、歪めた最強への願望だけが残る人形にするために。

当然、その後は、街の人間を鏖殺させる。君らトレセン生や高専の術師は、一般人を大切にしているから、ね」

「させる、ものですか..」 

 

感電し、ふらつく身体で刀を抜くキングヘイロー。

メジロマックイーンは、青い顔で、膝を付き、焦点の合わない目で、ただ、呆然としてしまっていた。この状況を、受け入れきれていないのだ。

 

「シン・陰流 簡易領域」

 

トウカイテイオーは、真っ直ぐにキングヘイローへとその拳を向ける。

 

「抜刀!」

 

トウカイテイオーの拳に反応し、刀は確かに、振り抜かれた。

 

「いない?!」

 

直前で、軌道を変えていた。

 

「さあ、テイオーくん。師匠を倒し、越えろ」 

 

(不味い。抜刀をもう一度!!)

 

キングヘイローの頭上へと飛んでいたトウカイテイオーは、僅かに刀に切られた拳を、数滴の赤いものを滴しながら、空から落ちるようにして、繰り出す。 

だが、キングヘイローも刀の構え直しを凄まじい速度で完了させていた。

 

「キング...ボクは..強く..キミ..を..」

「!...っ」

 

迷い。

いくら脊髄反射でカウンターをするといっても、脳が(とど)める信号を出せば、それは中途半端なモノになる。

 

「あっ...!」

 

力の籠りきらなかった刀は躱され、キングヘイローは雷の如き一撃を浴びせられた。

 

ドッと、膝を付き、崩れ落ちる。 

 

「キングさん!!」

 

僅かにフリーズしてしまっていたメジロマックイーンが、どうにか我を取り戻し、助太刀に入ろうとした時には、既に勝負が、ついてしまっていた。

 

「キングさん!申し訳ありません!意識は?!」 

「大..丈夫...気を..付け..」  

 

トウカイテイオーは、再び地面を、強く踏み込んでいた。

 

「玉犬!」

 

二匹の玉犬を顕現させ、彼女は構える。

 

ボッ。

聞き慣れない、何かが小さく爆ぜるような音。

 

「え...」

 

玉犬 黒が、今の一瞬で、破壊されてしまっていた。

 

「玉犬が..」

 

驚く間も、悲しむ間もなく、更に畳み掛けられる。

 

「っ!鵺!」

 

どうにか召喚を間に合わせ、トウカイテイオーの速度に速度でぶつけた。

同じ電気系統でもある。

故にさすがに破壊はされはかったが、押し負け、鵺は地面へと落下した。

 

「鵺の電気までも、押し負けて..」

 

トウカイテイオーは、完全に無傷である。

 

「..蝦蟇」

 

拘束を目指し召喚させたが、蝦蟇の舌が伸びる頃には既に姿を消していた。

 

「速い..!」

(もしかすると会長さんレベルに..)

 

バリッと雷の走る音。

メジロマックイーンは、声を挙げる暇もなく、音がした時には、再び膝を、付いていた。

 

「あっ...はっ...」

 

彼女は、トウカイテイオーが、自身の目の前に現れた様子を、朧気な視界で、捉えていた。

 

「マ..ック..イ...ン」 

「そう。ライバルのマックイーンだ。さあ、彼女に止めを指せ。彼女を越えて、シンボリルドルフを越える最強に、強いウマ娘に近付くんだ」

「ボ..ク..うん..そ、だね..強く...ならなきゃ..」

「テイオー...」

 

呪詛師の指示には、一々呪言が使われているため、トウカイテイオーは時間が経てば、経つほど、深い支配に置かれていく。

 

「脱...兎..」

 

どんどんと掠れていく視界の中で、震える手を使い、脱兎を召喚。

 

兎達にトウカイテイオーが包まれた隙に、僅かだが、距離を取った。

当然、ほんの数秒でトウカイテイオーは術式でもって、脱兎の檻から抜け出す。

 

「テイオー...貴方に...」

 

『君らを殺させて、彼女の心を沈める』

『その後は、街の人間を鏖殺させる』

 

「貴方に、そんなことは、させません..」

 

フラフラとしながらも、彼女は、拳を握る。

 

「大切な、仲間で、ライバル...貴方を、人殺しになんて..絶対に..させない」

 

だから、とメジロマックイーンは構える。

 

(何だ?奴の呪力が爆発的に?)

 

呪詛師は、異変に気付いた。

メジロマックイーンの呪力が、既に尽きかけていた呪力が、一気に増したのだ。

 

「大丈夫ですわ。私も、一緒に参ります。一人には、させません」

 

悲しげに、しかし、覚悟を決めた微笑みをたたえ、彼女は、唱える。

 

「布瑠部...由良由良」

 





今回、少し長くなっちゃいました。
次回更新は相変わらず未定です。
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