トレセン奇譚   作:ライト鯖

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責任

 

 

 

ボクは、強くなりたかった。

 

カイチョーみたいな、強くてカッコいいウマ娘になりたくて。

 

「楽しみにしてる」って言ってくれた、ずっとボクに期待してくれてた、カイチョーに応えたくって。

 

越えたくて。

 

だから、何度足が折れようと、ボクは走り続けた。

 

そして、カイチョーが呪術でも最強だって知った。

だから、ボクは、呪力が操れないのは分かってて、この世界に来て。

 

強くなろうと、し続けた。

あの時みたいに、ボクはただ━━。

 

『強く、なりたいんだろう?』

 

そうだ。でも、それだけじゃない。

 

『でも、強くはなりたいのだろう?』

 

強くは、なりたいさ。でも。

 

『なら、強くしてあげるよ。私の力で』

 

嫌だ。ボクは自分の力で。

 

『私が君に呪術を、与えてあげる』

 

いらない。

 

『皆、誰かの手を借りて強くなるものさ』

 

嫌だ。これは違う。 

 

『最強に、してあげる』

 

ボクは━━。

 

 

二時間前。

―トレセン学園―

 

「二人とも、少し良いか?」

 

生徒会副会長のエアグルーヴは、前を歩く二人のウマ娘に声をかけた。

 

「はい。どうされましたか?」

 

くるりと声をかけられた二人は、身体の向きをエアグルーヴに合わせる。

 

「二人とも今日は空いているか?」

「ええ。予定は今のところありません」

「私も、特には」

 

二人の返答を確認し、少し安堵したようにエアグルーヴは息を吐いた。

 

「なら、すまないが今から言う場所へ応援に向かってくれないか?緊急事態なんだ」

「そういうことでしたら!直ぐに行きますね」

「わかりました」

 

二人とも二つ返事で了承した。

 

「助かるよ。手すきの二級以上の術師を探していたんだが、中々見つからなくてな。

かといって、会長もブライアンも学園を空けている今、私が向かうわけにもいかなくて、困っていたんだ」

 

エアグルーヴはそう感謝を述べ、二人に場所の提示と、現状の説明をするのであった。

 

そして、現在。

 

(キングさんは、もう気を失ってしまっている。そして私は感電と、ダメージと、その上呪力も尽きかけ...意識も...)

 

メジロマックイーンは、最早、自分にトウカイテイオーを止める出来ないと悟り、奥の手を使う覚悟を決めていた。

 

「貴方を人殺しには、させませんし、一人にも、させませんわ」

 

「布瑠部...由良由良」

 

呪詛師は慌てて距離を取ろうとし、操られているトウカイテイオーも、殆ど本能でメジロマックイーンが行動を終える前に倒しきろうと、踏み込み、襲いかかった。

 

「八握剣...異戒し━━」

 

「"待って!"」

 

声。トウカイテイオー、そしてメジロマックイーンの動きが、一瞬、止まる。

 

「はあっ!」

 

その一瞬を縫い、二人の間に人影が飛び込み、再び動き出したトウカイテイオーの攻撃を、剣で、その人影は受けてみせた。

 

「...アドマイヤベガさん..」

 

人影は、アドマイヤベガであった。

ペルセウスの剣を術式で作り出し、それでもって、トウカイテイオーを防いでいた。

 

そして。

 

「何だ?新手か?」

 

木の上で様子を伺っていた呪詛師の背後にも、飛び出す影。

 

「"落ちろ"」

 

声と共に、呪詛師は枝から、その意思に反し、背中から飛び降りるようにして、落下した。

 

「ぎっ..背中を..!」

 

背中を強打し、一瞬呼吸を荒くした呪詛師が見上げた先には、金髪に近い明るい髪色、そして、紫黄水晶のような美しい瞳のウマ娘が立っていた。

 

「貴様は...」

 

呪詛師にもそのウマ娘は見覚えがあった。

同じく狗巻家程ではないが、しかし呪詛師の彼よりは強力な、呪言を持つ術師。

ナリタトップロードである。

 

「ケホッ..アヤベさん!」

「ええ。分かってるわ」

 

ナリタトップロードは呪詛師をそのままに、アドマイヤベガの方へ助太刀に行く。

 

「動くな!」

 

再び、トウカイテイオーの動きが止まる。

そこを

 

「GO!」

 

巨大な鷲が襲う。

 

「エルコンドルパサー、ただいま到着しまシタ!」

 

エルコンドルパサーも、任務を終え、戻ってきたのだ。

 

「良かっ...」

 

応援が来たことで僅かに気が抜けたメジロマックイーンは、そのまま倒れそうになる。

 

「おっと」

 

それをエルコンドルパサーは受け止め、自身の下へ戻ってきた"マンボ二世"にメジロマックイーンを乗せる。

 

「キングの方は頼みマス!」

 

エルコンドルパサーは、出立の準備をしながら、アドマイヤベガらにそう呼び掛ける。

 

「ええ。私達も行きましょう。トップロードさん」

「はい!」

 

ナリタトップロードが、気を失っているキングヘイローを抱え、アドマイヤベガが作り出した"鷲"にその身体を乗せる。

 

「逃がすとでも?」

 

呪詛師が、若干怒りも籠った形相で彼女らに言う。

 

「貴方達の相手は、私達ではないわ」

 

アドマイヤベガの言葉が終わるが早いか、アドマイヤベガらの方へと既に踏み込んでいたトウカイテイオーと激突する閃光が迸った。

 

「!?」

 

呪詛師が思わず目を見開く。

 

焦りと、困惑と、怒りがない交ぜになった、険しい、険しい、形相の、トレセン学園生徒会会長、シンボリルドルフがトウカイテイオーを押し留めていた。

 

「シンボリルドルフ!ハッハ。君まで来たのかい」

「貴様か?テイオーに、何をした!」

 

激昂するシンボリルドルフ。

 

「テイオー...操られ...術式も...」

 

メジロマックイーンが、どうにかといった様子で、そう告げる。

 

「術式..では、今のは気のせいではなかったのか...」

 

ギリ。と唇を噛み締める。

 

「それじゃあ、後はお願いします」

「━━━ああ」

 

そうして、エルコンドルパサーのマンボ二世は空に、アドマイヤベガの鷲は、全員が乗れない関係上、地上近くを飛び、殿のアドマイヤベガがその後を追いかけ、シンボリルドルフ以外の全員が離脱するのであった。

 

「待って...私は..まだ...」

 

メジロマックイーンは、なおも、掠れた声で呟く。

 

「無理しないでくだサイ」

 

エルコンドルパサーに首を振られるが、なおも、彼女は、言う。

 

「私が...テイオーを...止めない...と」

「ダメです。出血もしてマスから、学園で治療しなくちゃいけまセン」

 

メジロマックイーン自身は気付けていなかったが、先程の呪霊との戦闘で受け、止血していた傷が開いていたのだ。

 

「でも...私じゃ..なきゃ...あの人..で..は..」

 

そのまま彼女は、意識を失うのだった。

 

「一体どうやったか知らないが、テイオーを元に戻してもらおうか」

「もう手遅れさ。彼女は私のお人形さんだからね」

 

シンボリルドルフの気迫に気圧されながらも、呪詛師は余裕な態度を見せる。

無論、この呪詛師の実力はシンボリルドルフに遠く及ばない。

 

「そうか。ならじっくり聞き出すとしよう」

 

バリッと電気の走る音。

それと共に、呪詛師の眼前にシンボリルドルフが迫っていた。

しかし。

 

「?!」

 

呪詛師との間にトウカイテイオーが割り込む。

 

「テイオー!」

 

寸前で力を弱めたものの、しっかりと攻撃を受けたトウカイテイオーは、吹き飛ばされた。

だが、彼女は無表情に、体勢を立て直し、シンボリルドルフへと向かう。

 

「ハハッ」

 

呪詛師はシンボリルドルフを嘲笑う。

 

「おのれ..」

 

二つの雷鳴が、広場に轟く。

 

「テイオー!目を覚ましてくれ!」

 

トウカイテイオーの手を握り、攻撃を受け止めながら、彼女は呼び掛ける。

 

「無駄だよ。届かないさ。特に、君の声はね」

「ぐっ!」

 

トウカイテイオーに弾き飛ばされ、シンボリルドルフは空を舞う。

 

「さっきの娘達なら少しは効果があったやもしれんが、君は、テイオーくんにとっては、最早ただの越えるべき対象、敵でしかない」

「っ...貴様..!」

 

怒りを滲ませながら、再びトウカイテイオー

と組み結ぶ。

 

「ハッハ。君に怒る資格があるのかい?」

(やはり、こいつはトウカイテイオーと本気で戦えていないな。狙って正解だった)

 

トウカイテイオーの攻撃こそ受け流しているが、反撃を殆どしないシンボリルドルフの様子に呪詛師はほくそ笑む。

 

(シンボリルドルフの精神も揺さぶっておくか)

「テイオーくんから聞いたよ?酷いねえ。君というウマ娘は」

「っ!」

 

高笑いし、隙だらけの呪詛師に狙いを変えたシンボリルドルフ。

だが、当然、トウカイテイオーに防がれる。

 

「止めときな~?私を積極的に守るようあらかじめ命じてあるからね」

「テイオー...」

 

シンボリルドルフは、再び守勢に回る。

 

「可哀想にねえ。どれだけ鍛えようと、強くなろうと努力しても、追い付けない。呪力が使えなかった以上、それは仕方ないにしても...」

 

呪詛師はねっとりとした目をしながら、シンボリルドルフに言う。

 

「君が、彼女を否定し続けた。そうだろう?」

「....うるさい」

「俄然、話すね!君が、もし、トウカイテイオーのことを少しでも見ていれば!認めていれば!私に付け入る隙はなかったろうさ!」

 

だから、と彼はわざとらしくお辞儀をしてみせる。

 

「ありがとう。シンボリルドルフ生徒会長様?」

「━━━━!!」

 

パチッとシンボリルドルフの周囲に電気が迸る。

 

「動揺してるね。それもそうか?大事な大事な後輩が、自分のせいでこうなったんだもんな?」

「黙ってくれ..っ!」

 

一瞬の隙。

そこをトウカイテイオーに付かれ、肩に打撃を掠らせる。

 

「ああ、ついでに、さっきの娘らには言ってなかったんだけどね」

 

呪詛師は、なおもその言葉を止めない。

 

「その娘、どうやって呪力を目覚めさせたと思う?」

「何を..」

 

シンボリルドルフは、言いながら、木を利用し、空中で方向転換。

向かってくるトウカイテイオーの腕を掴み、地面へと落とし、拘束を試みる。

だが、当然のようにトウカイテイオーは拘束を脱し、再び加速する。

 

「契約してた呪霊に襲わせたんだよ。私から危害は加えられなかったからね。メガネを壊して、呪いを見えなくして、じわじわと..」

「━━━━」

 

シンボリルドルフの動揺が深まっていく。

 

「目覚めさせてみたらビックリ。術式を持っていた。最初から分かってればわざわざ傷付けずとも覚醒させられたんだけどね」

 

やれやれ、と呪詛師は肩をすくめて見せる。

 

「まあ術式があった、とは言っても」

 

と呪詛師は二人を指差す。

 

「目覚めたばかりの術師が扱うには余りに繊細な術式だったわけだが。厄介だねえ。君らの術式はさ」

 

シンボリルドルフと、トウカイテイオーの術式。

"雷皇神威(らいこうしんい)"。

呪力に電気の性質を帯びる、幻獣琥珀のような特殊な術式である。

その呪力で以て、雷を産み出すことが出来る。

そして、神経に走らせることにより、身体強化が可能である。雷の様に高速で動くことが出来るそれは、通常の呪力による身体強化の何倍もの強化となる。

ただ、その強力さ故に呪力操作には繊細なコントロールが必要だ。

身体強化は理論上何処までも強くなれるが、当然、自身の身体強度が追い付く範囲以上に術式を使ってしまえば、身体を壊してしまう。

深刻な損傷を受ける可能性が高く、術の性質故に神経系に問題が残る場合もある。

当然、その操作には脳も過大な負荷を受ける。

また、呪力出力も膨大であり、呪力効率を可能な限り高めねば、直ぐにガス欠となるのだ。

繊細な呪力コントロールと効率的な呪力運用の双方が求められる難度の高い、シンボリ家相伝の術式でもある。

 

「ま、意識も曖昧で、その上初心者と言えるテイオーくんにはとてもじゃないが操れるモノじゃあなかった。呪力も君程は多くなかったしね」

「.....まさか」

 

シンボリルドルフは、その端正な顔立ちを蒼白とさせた。

 

「気付いた?呪物を食わしたんだ。

呪力操作がぶれようとなんだろうと、身体と脳が強ければ問題ないからね、操り易くもなるしね。あと呪力強化にもなる」  

「何処までも.. 」

 

衝動のままに呪詛師へ攻撃を向けようとする自身を、必死に抑えながら、シンボリルドルフは呪詛師を睨み付けた。

 

寄生呪根(きせいじゅこん)。宿主に根を張り、宿主が呪力を使えば使う程により深く根を下ろし、最終的に支配下におく呪物。聞いたことあるだろう?

私はそれと契約を結んでね。増殖の手伝いと良い宿主を探す代わりに、私の指示に従うこと、と。

テイオーくんは今、残した僅かな自我と、歪んだ願望で私に操られているが、それはあくまで、呪物による根下ろしが完成するまでの経過措置。

もう充分に根が張ったからね。心を沈めて抵抗を無くそうと思ってたんだ。

更に、呪力を使えば使う程、進行は早くなる。それで、完全な人形が完成する、というわけさ」

 

最早、シンボリルドルフは抑えきれずに飛び出していた。

 

「学習しないね...?!」

 

トウカイテイオーが呪詛師を守るよりも速く、シンボリルドルフの拳が、呪詛師の顔面に衝突する。

 

「がっ..!」

 

勢い良く吹き飛ばされた呪詛師は、そのまま岩に激突。

ズルリ、と崩れ落ちた。

 

しかし、拳を振り抜いたシンボリルドルフの横にはトウカイテイオーが追い付いていた。

 

「ぐうっ!」

 

シンボリルドルフは、初めから身体の上限を僅かに越えて術式を運用すれば、問題なくトウカイテイオーが守る前に呪詛師を倒すことは出来た。

だが、足は数秒、反転による治癒が必要となる上、呪詛師への攻撃に注力する必要があったため、隙が生まれてしまう。

故に、今、この瞬間までは、それをしなかったのだ。

 

ドオンと、雷が落ちたような音を響かせるトウカイテイオーの攻撃を、彼女は受けざるを得なかった。

 

(...テイオー...私の...)

 

苦悶をその顔に浮かべながら、彼女は虚しく、トウカイテイオーに呼び掛ける。

 

「テイオー!頼む。少しでいいんだ!戻ってきてくれ!」

(早くしなければ、呪物が。領域を使う?いや、ダメだ。領域ではテイオーの身体がもたない。呼び掛けても...だが、放置すれば、犠牲が...)

 

彼女は、決断出来ずにいた。

 

(少々舐めすぎたな。本気を出せば、私など歯牙にもかからん相手だったか。まあ、しかし、やはりトウカイテイオー相手に本気は出せないようだ)

 

痛む身体を押さえながら、呪詛師はフっと笑う。

 

(今のトウカイテイオーは、呪物が侵食するために呪力供給を続けているから、呪力切れにはならない。そして、奴はトウカイテイオーをいなし続けるしかない。そのまま消耗すれば、呪力が尽きるのは奴の方だ)

「っそ。腕が折れてやがる」

(まあ、だが、充分奴の精神は揺さぶった。放っておいても、後はトウカイテイオーが勝つだけだろう。よしんば負けたとしても問題はない。シンボリルドルフも無傷では済まんだろうからな。奴を弱体化させられるなら、元々の目的にかなっている)

 

呪詛師は呼吸を整えつつ、少し離れた場所で繰り広げられる、雷の衝突を見つめるのだった。

 

 

「ん..」

 

キングヘイローは薄く目を開け、身動ぎする。

 

「あっ!キングさん!気が付きましたか?」

 

ナリタトップロードが安堵した顔を覗かせる。

 

「トップロードさん..ここは..」

 

キングヘイローは、まだ朦朧としていた。

 

「アヤベさんの術式で麓に運んでいるところですよ!」

 

ナリタトップロードの説明に、キングヘイローは、即座にハッと気を取り戻す。

 

「待って!戻って!」

「な..それは..」

「ダメよ。かなりの負傷なんだから、無理をしては」

 

アドマイヤベガが、呪言の関係で軽々にダメとは言えないナリタトップロードに代わり、割り込んだ。

 

「それでも..」

「大丈夫。会長さんが今は戦っている。だから安心して」

「だからこそよ..!」

 

キングヘイローのただならぬ様子に、アドマイヤベガは少し速度を落とした。

 

「キングさん、それはどういう..」

「あの人は、きっと、決断出来ない..。テイオーさんを、止められない..」

 

二人は、神妙な面持ちで視線を合わせた。

 

「その、会長さんが凄く、すごいテイオーさんをその..気にかけているのは知ってます。でも会長さんは..すごく強いですからきっと..」

「ええ。多分、最後には決断すると思うわ」

「なら━━」

「でもそれは、テイオーさんが、倒されるということ」

「!」

「あの人に、テイオーさんは、"止められない"」

 

キングヘイローの言葉の意味を、二人は理解した。

 

「つまり、会長さんは、テイオーさんを諦める決断を下せるだろうけど、止めるって選択肢は持たないだろう、ってこと?」

 

アドマイヤベガの確認にキングヘイローは頷く。

 

「正確には、止めるって選択肢を取れないと思う」

「何故そう思うの?」

「分かるのよ。私も、テイオーさんの背を押してしまったから」

「...」

「会長さんは、テイオーさんを止める資格がない、とそう思ってるんじゃないかと思うの。自分が誘ってしまったから。...例え操られているのだとしても、止められない。

...自分を越えようとする、テイオーさんを...もう手遅れと分かっていても」

「でも、なら、倒すことも...」

「あの人は、生徒会長だから」

 

少し悲しそうな表情で、キングヘイローが言う。

 

「生徒会長だから、生徒会長として、皆の為に、倒そうとするでしょうね。最後には」

 

でも、とキングヘイローは二人に視線を合わせる。

 

「私は、テイオーさんを止めたいの。いいえ、止めなくちゃ行けない。私にも、責任があるから。彼女に、戦い方を教えたのは、私。だから、その責任を果たさなきゃいけない」

 

だから、どうか、戻って欲しい、とキングヘイローは頭を下げた。

 

「ちょっ、キングさん」

 

既に、アドマイヤベガらは足を止めていた。

 

「...何か策があるの?」

「いえ..それは、今から..」

 

はあ。とアドマイヤベガは小さく溜め息を付き、元来た方角へ、くるりと向きを変えた。

 

「アヤベさん?」

「戻りましょう」

「え。いいんですか?」

「ええ。嫌?」

「嫌じゃないですけど、何か作戦が?」

「戻って、くれるの?」

 

無理を言っていることを分かっていたキングヘイローは、キョトンとした顔をしていた。

 

「ええ。作戦も、少し考えがあるから」

 

そうして、三人は、未だ雷鳴轟く場所へと、再び向かうのであった。

 

 

(テイオー...このままでは、呪物の支配下に...術式を余り使わせる訳にもいかないが..)

 

バリッと迸る電気が宙空で幾度も衝突し、その度に閃光が辺りを包む。

 

(気絶させるにも...隙がない...力加減を間違えれば、気絶では済まない。そもそも、気絶させられるのだろうか..)

「くっ!」

 

バチッとトウカイテイオーの拳を受け止める。

だが、彼女は、そのシンボリルドルフの腕の力を支えにくるりと身体を捻り、そのまま蹴りをも繰り出した。

 

「っ!」

(...呪物の影響があるとはいえ...テイオー、君は...)

「強い...」

 

その言葉に、ピクリとトウカイテイオーの耳が動いた。

 

「カイ...チョ...」

「!?..テイオー!」

「ボ..ク..カイ...強...く..つ....こえ..カ..」

「━━━━っ」

 

シンボリルドルフは眉を歪める。

 

(...仮に気絶させられたとして、その後は..もう..テイオーの脳は..いや、それでも...私はテイオーを...)

 

そこまで考えて、シンボリルドルフは苦悶する。

 

(テイオーを..助ける?私が、どの口で...私が、私がテイオーの背を押して...突き放して...今まで...)

「ぐっ!」

 

トウカイテイオーの呪力出力は、どんどんと上がっていく。

強い呪いに耐えられるような身体に成って(呪いに墜ちて)いっているのだ。

 

(テイオーを追い詰めた私が...今更...今になって、私の都合で...)

 

迷いは続く。

だが、時間の経過は、致命でもある。

 

(何が、皇帝...!私が初めから向き合えていたなら。彼女と、もっと話していたら...!)

 

後悔。

自責。

止まらない、トウカイテイオー。

 

「頼む。テイオー、少しで良いんだ...」

 

 

少し離れた場所から、伺う人影が3つ。

キングヘイロー達は、既に戻ってきていた。

 

「さっきの作戦でいいかしら?キングさん」

 

アドマイヤベガに尋ねられ、キングヘイローは頷く。

 

「ええ。私のプライドよりも、今はテイオーさんの方が重要よ。一流だもの。優先順位は間違えない」

 

でも、とナリタトップロードに顔を向ける。

 

「ごめんなさい。本当は私が負うべき負担をトップロードさんに..」

 

ナリタトップロードは笑顔で首を振る。

 

「私達だって、同じ学園の仲間ですから」

「そうね。同じ寮生だから、全くの他人ではないし」

 

アドマイヤベガの言にも、うんうんと彼女は強く同意を示す。

 

「それに、アヤベさんのすごい、この良い感じの作戦、会長さんが来ていなかったら元々似たようなことをするつもりでしたから」

 

ナリタトップロードとアドマイヤベガが頷き、キングヘイローもそれに返した。

 

「ありがとう。それじゃあ、お願いするわね」

「ええ」

「テイオーさんを、止めましょう!」

 

三人は、シンボリルドルフとトウカイテイオーの戦闘を伺う。

 

「予定通り、二人が距離を取った瞬間に始めましょう」

「了解しました」

「ええ」

 

若干ふらつく身体に鞭打ちながら、キングヘイローは、刀を構えるのだった。 

 

 

 

 

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