アドマイヤベガ姉妹とカレンチャンを中心とした物語です。
運命のジェミニが完全成功しなかったことで、アヤベさんはクラシック級、日本ダービー前くらいのメンタルに近い状態です。
星の祈り
その娘は、誰とも話すことが出来なかった。
その娘は、誰とも触れ合うことが出来なかった。
その娘は、誰にも見られることがなかった。
それでも彼女は、そこにいる。確かにこの世に、存在している。
「お姉ちゃん...」
彼女は今日も、聞こえるはずの無いその声を、この世で何よりも大切な、世界でたった一人の、姉に向けて、発するのだった。
「アヤベさん。アヤベさん」
アドマイヤベガが目を覚ますと、まず、飛び込んで来たのは、彼女の顔を心配そうに覗き込む、美しい芦毛に、それと対照的な耳を覆う黒いメンコ、カワイイ小顔に、くりくりした目の、同室のウマ娘、カレンチャンの姿であった。
「おはようございます♪アヤベさん。珍しいですね、お寝坊ですよ」
カレンチャンは、そうアドマイヤベガに笑いかける。
「....おはよう」
ボソリと挨拶を返しながら、アドマイヤベガが時計を見ると、針は、8:00を指しているところだった。
するりとベッドから降りた彼女は、挨拶を返した後も色々と話しかけるカレンチャンを無視する様にして、部屋を出て、洗面所へと向かう。
蒸し暑い外の気温にやられ、生温くなった水を顔に浴びせた。
「遅刻しちゃう~」
他にも、遅く目が覚めた娘達が、何人か慌てた様子で洗面所に駆け込んでくるのを横目に、アドマイヤベガは、自室へと戻った。
自室に戻った彼女は、自身の大きな耳を覆うメンコを付け、制服に着替えていく。
隣では、カレンチャンが、朝のウマスタ投稿用の写真を撮っているけれども、いつものことなので、特に何も反応はしない。
暫く会話もなく、部屋には静寂が流れていたが、ふと視線に気付いたアドマイヤベガが、振り向き、カレンチャンと目が合ったことで、沈黙は破られた。
「何か用?」
アドマイヤベガに尋ねられたカレンチャンは、一瞬の間を置いて、目を剃らす。
「いえ。なんでもないです」
少し憂いのある表情を浮かべながら、そう答えたカレンチャンは直ぐに笑顔に戻り、再びアドマイヤベガに向き直った。
「もう時間なので、先に出ちゃいますね」
そう言われ、アドマイヤベガが時計に目を向けると、8:18分を指していることに気が付いた。
「そう」
確かに、同じ時間に出ることは多いものの、カレンチャンがアドマイヤベガに付いていく様な形であるため、特に何か気にするでもなく、アドマイヤベガは素っ気なく返事を返すだけであった。
カワイイ笑顔で手を振り、カレンチャンは、部屋を出て、慌ただしく走る娘達と挨拶を交わしながら、廊下を進んでいく。
(アヤベさん...最近また魘されてる...)
寮を出たカレンチャンは、内心の心配を気取られぬカワイイ微笑を浮かべながら、寮に挟まれた大きく広い通りを歩き、学校へと向かう。
「おはようございます。カレンさん」
「おはようございまーす」
学校の門の前に立つ、理事長秘書のたづなの挨拶にも笑顔で返し、一人、カレンチャンは、教室へと向かっていくのだった。
部屋に一人となったアドマイヤベガは、この日も後悔していた。
(また冷たく当たってしまった)
毎朝、カレンチャンは、アドマイヤベガに冷たくあしらわれているにも関わらず懲りることなく、何度も、何度も話し掛け、様々なものに誘い、アドマイヤベガの心を開こうと、あの手この手で迫っていた。
そんなカレンチャンのことを、アドマイヤベガは、最初は疎ましく思っていた。
しかし、二年、三年とそれが続く内に、少しずつ、彼女は、カレンチャンに心を開きつつあった。
だが、それでも、彼女は完全にはその冷たく閉ざされた扉を開ききることはなかった。いや、出来なかった。
冷たくあしらうことに申し訳無さこそ感じるが、自身が、友人と仲良しこよしをするなんて、あってはならないことなのだと、自分自身にいい聞かせ続けていたからだ。
アドマイヤベガは、生まれてくることの出来なかった妹への贖罪のために生きている。
双子の姉妹となるはずだった。
しかし、出産の際、どちらかしか生かすことが出来なかったのだ。
そして、アドマイヤベガが産まれた。
妹から全てを奪ってしまったと自罰的観念に囚われてしまった彼女は、妹に勝利を捧げることを贖罪としてきた。
そして、菊花賞で勝利し、菊の冠を妹に捧げることで、自身の競争人生の終わりとすることを覚悟していたのだ。
しかし、結果は6着。
妹に最後の勝利を捧げることは出来なかった。
菊花賞での敗北とケガ、そこで見た"モノ"による引退で、贖罪も出来なくなってしまったことが要因となり、それまでよりも強く、妹への罪悪感が増していった。
故に、彼女は、カレンチャンに申し訳なさを感じつつも、馴れ合う訳には行かない、と突き放し続けていたのだ。
「ごめんね..ダメなお姉ちゃんで....」
一人、アドマイヤベガは、そう呟く。
アドマイヤベガは、引退して、呪術に本格的に触れてから直ぐに、術師として生きる道を選んだ。
呪術を使っている間は、何故だか、妹の存在を、より強く感じたのだ。
(側にいる気がした。私に都合の良い錯覚なのかもしれない。それでも...)
償うことすら出来なくなった、そう思い詰めていた彼女は、それを誤魔化すように、妹の存在を感じられる呪術へとのめり込んでいったのだった。
そして、彼女の同室、カレンチャンも、アドマイヤベガに二年遅れて、呪術を学び始めた。彼女は、てっきり、ウマスタグラマーとしても充分生活出来るだけの人気を得ていたので、レースを引退すれば、直ぐに卒業するとアドマイヤベガは思っていただけに、意外な思いを抱いたのを覚えている。
本人曰く、「呪いに苦しめられている人がいるのを知っているのに、それを見ないふりして生きるなんて、カワイくないです」ということらしい。
カワイイを求める彼女は、ストイックで、呪術も直ぐに上達していった。
アドマイヤベガと並ぶ、二級術師となるまで、そう時間はかからなかった。
今では、彼女達はよく任務を共にしている。
それでもアドマイヤベガは、一線を引き続けているわけだが。
「アドマイヤベガ」
昼休み。食堂から教室へと戻る途中、アドマイヤベガは、呼び止められ、振り向いた。
「ルドルフ会長...」
彼女を呼び止めたのは、トレセン学園生徒会の会長を勤めている、七冠ウマ娘、シンボリルドルフであった。
「今、いいかな?」
「...なんでしょうか」
アドマイヤベガは、シンボリルドルフに向き直る。
「今日、放課後だが、予定はあるかい?」
何かの書類を取り出しながら、シンボリルドルフが尋ねる。
「...特にありませんけど..」
「なら、この任務をお願い出来ないかな?」
手渡された書類に目を通し、アドマイヤベガは頷く。
「...分かりました」
「ありがとう。今日は人手が足りていなくてね」
少し申し訳なさそうな顔をしたシンボリルドルフは、礼を述べた。
「..大丈夫です」
「助かるよ。二級以下と思われるが、無理はしないでくれ。もしもの時は躊躇わず連絡して欲しい」
そのシンボリルドルフの言葉には、声で返事を返さず、小さく会釈して、アドマイヤベガは再び振り返り、教室へと戻っていく。
「.......」
そんなアドマイヤベガの様子を、シンボリルドルフは神妙な面持ちで見つめるのだった。
放課後。
学園から電車で数駅離れた場所にある小さな山に、アドマイヤベガは来ていた。
「..森の何処かにある小さな山小屋って...」
彼女は、シンボリルドルフから渡された書類に地図は一応書かれてはいるが、実際に歩いてみると存外分かりづらく、一時間程山道をさ迷っていた。
「はあ...」
何度目か分からない溜め息を付いた直後、彼女は、強い呪力を、感知した。
突然だった。
先程までは、何も感じていなかった。
(何かのトリガーを踏んだ?いや..)
アドマイヤベガはスマホを取り出し時間を確認する。
(18:00...!いや、違う。時刻じゃない。確か書類には...)
補助監督らが調査によって集めた呪いの情報。それらも、書類に書かれていた。アドマイヤベガは、脳内で情報を整理していく。
山にある古い小屋、道も細く見つけにくい位置にあるけれど、山自体は小学生や中学生くらいの子供達がよく遊びにくる山。
誰かがその捨てられた山小屋を発見したのだろう。いつからか、その山小屋はローカルな都市伝説の場となっていった。
曰く、日没後にそこに近付くと、小屋の主、人間でもウマ娘でもない、"何か"に引きずり込まれる、と。
アドマイヤベガは木々に隠され、見えづらくなっている空を見上げた。
「日没...!」
既に星明かりがチラチラと枝々の隙間から見え始めており、空色も、赤い夕焼けから黒へと移り変わりつつあった。
ローカルな都市伝説と言っても、麓の街の子供の多くが共有し、そこから伝って知った大人達が躾にも利用したりしたことで、更に広まってしまい、負の感情の受け皿としては充分な程となったのだろう。
アドマイヤベガは、呪力を感じる方角へと歩を進めた。
やがて、茂みの向こうに、少し開けた空間が確認出来るまでの場所へと到着する。
「きゃああああ!!」
まさにアドマイヤベガの視線の先にある空間から悲鳴が聞こえてきた。
「...!」
彼女は、咄嗟に駆け出す。
ザッと茂みを抜け出した彼女の目に飛び込んできたのは、必死に身をよじり、泣き叫ぶ少女と、山小屋の中から伸び、少女の足を掴んでいる、人のものとは思えない異形の腕であった。
アドマイヤベガは、飛ぶようにして異形の腕を蹴り付ける。
腕は、存外簡単にアドマイヤベガに蹴られた所で千切れ、足を掴まれていた少女は、急に身体にかかっていた負荷が無くなったことで、その場に転んだ。
「ごめんなさい。大丈夫?ケガは?」
アドマイヤベガは、少女に駆け寄り、山小屋との直線上に自身の身体を置き、少女を気遣った。
「大丈...ありが...」
息も絶え絶えといった様子の少女は、恐怖で動けなくなっているようだった。
「くぇあうああ」
そこに、人でも動物でもない、自然と嫌悪感を催してしまうような、そんな鳴き声が、辺りにこだまする。
アドマイヤベガが、山小屋の方へ視線を向けた瞬間、十本以上の腕が、彼女めがけて飛んできた。
「...!」
咄嗟に呪力を身体に纏わせ、防御したが、その腕は、攻撃が目的ではなかった。
彼女の身体をがっちりと掴み、少女を引きずっていた時とは比べ物にならない速度で、山小屋へと引きずり込んだのだ。
「.....」
山小屋に引きずり込まれた瞬間、彼女は、大口を開けて構える、肉塊としか形容の出来ない、物体を視界に捉えた。
瞬間、彼女を掴んでいた腕が、弾けるようにして仰け反る。
アドマイヤベガは、呪力で強化した身体で、無理矢理腕を引き剥がしたのだ。
整形に失敗した肉団子の様な、奇妙な形状をした肉塊に、巨大な口、という名の真っ赤な裂け目だけがある呪霊を睨みつつ、拘束を解いた彼女は、小屋の中をさっと見渡した。
小屋の内壁には、肉団子の肉が木の根の様にして張り巡らされ、肉団子は、山小屋の部屋のど真ん中に固定されているようだ。
(小屋から動けないことが縛りになって強化されている..?)
思っていたよりも呪力の大きい呪霊であったので、そのからくりを考察しつつ、彼女は、右腕を上向きに、拳を握りしめた形に、左腕は右腕にクロスさせる形で、人差し指と、薬指を立てるという掌印を結び、術式を発動させた。
「
彼女がそう口にすると彼女の左腕の先、ピンと立てられた二本指に合わせて、呪力が迸り、織物に使われるシャトルが出現する。
(やっぱり、近く感じる)
術式を発動させた瞬間、彼女は、アドマイヤベガは、自身の妹の存在を、強く感じた。
あるはずがないのに、近くにいる気がするのだ。
(都合の良い感覚)
そう思いつつも、何故か悪い気がしない。
いつか、この感覚の正体が分かる日が来るのだろうか。
そんなことを脳裏に浮かべながら、彼女は、天梭に巻き付けられた糸の形を成した呪力を、操り始める。
「獅子」
天梭に巻き付けられた呪力の糸の端が、ふわりと浮き上がり、毛糸玉から糸をとるかのように、呪力の糸が、どんどんと天梭から中空へ出でる。その呪力が、獅子の形を型どっていき、一筆書のようにして、外縁が完成すると同時に、糸の出現は止まった。
そして、糸で外縁だけが描かれていた獅子は、その内部も呪力で満たし、獅子の形をした呪力体へと変体する。
これが、アドマイヤベガの術式、"星羅祈跡"。
織姫が使っているという伝説の天梭を自身の呪力でもって呪具として出現させ、それを依り代に、星羅を人々が結び出し、作り上げ、"祈り"を籠めた星座、それに基づいた能力を、双子座を除いて、行使することが出来る、という術式である。
その行使の仕方は、呪力で動物やモノを型どった、式神の様な存在を召喚することである。
そして、呪力で形成されたモノの能力は、星座の伝説に基づく。
ただし、この術式は、術士本人の知識の限りにおいてしか星座の能力を発揮できない。
獅子座を知らなければ獅子を作り上げることは出来ず、星座に纏わる神話や伝説を知らなければただ形を作るだけで終わる。
だが、アドマイヤベガにとって術式に組み込まれたその"縛り"は、何らの制限になりはしない。
アドマイヤベガの指示を受け、呪力で作られた獅子は、力強く呪霊に飛びかかる。
飛びかかってきた獅子に対して呪霊は、口を大きく開き、向かってきたその前足に噛み付いた。
だが、獅子の前足が噛み千切られることはなかった。逆に獅子は、勢いそのまま呪霊に噛み付き返す。
獅子座の獅子は、ヘラクレス最初の冒険でネメアーにて出会った獅子であると言われている。ヘラクレスの弓や棍棒はネメアーの獅子には効かず、ヘラクレスはその獅子を絞め殺したという。
つまり、獅子は、体表が固く、簡単には傷を付けることが出来ないのだ。
呪霊に噛み付いた獅子は、そのまま呪霊を食い千切る。
「おおうんお..」
嫌悪感を呼び起こす鳴き声と共に、うねうねとした肉塊が弾け飛ぶ。
「...縛りで強化されて、漸く二級ってところのようね」
獅子はなおも、アドマイヤベガの操作に従い、今度はその鋭利な爪で、呪霊を引き裂いた。
バッサリと爪で切り付けられた呪霊は、その傷口から崩れ、ザフッという音と共に、消え去るのだった。
「ふう...」
アドマイヤベガは、肉塊の消え去った室内を見渡し、他に異常がないかを確認する。
(問題無さそうね)
外に出たアドマイヤベガは、未だ、山小屋の前で震える少女と目が合った。
「...大丈夫?...立てる?」
こくこくと少女は頷いたが、腰が抜けているようだった。
それに気付いたアドマイヤベガは、少女の小さな身体を軽々と持ち上げ、背負った。
「...もう、大丈夫だから、麓に戻りましょう...」
「ありがとう」
小さくポツリと呟く少女に、アドマイヤベガは小さく柔らかな笑みを返した。
「...でも、どうして一人でこんなところに?..」
山道を歩く途中、アドマイヤベガは、少女にそう尋ねた。
「......肝試し...」
少し落ち着いた少女は、決まりが悪そうにそう告白した。
「じゃあ、他にも子供が?」
「うん。皆、麓にいるの。私が、クジで一番最初を引いちゃって...」
それを聞き、山中にいるわけではないのか、と一先ず胸を撫で下ろす。
「...そう。もう危ないから..来ちゃダメよ」
「...うん」
暫く歩き、麓にたどり着いたアドマイヤベガは、少女と共に、少女の仲間達がいる場所へと向かった。
麓にある神社、その前にある小さな広場状の空間に、子供達がたむろしている。
その子供達の一人が、アドマイヤベガと、その背に背負われている少女に気が付いたようで、仲間達に声をかけ始めた。
「おーい!杏子!どうしたのー!?」
「お姉ちゃん誰ー?」
心配そうな顔や不思議そうな顔をした子供達が駆け寄ってくる。
アドマイヤベガは、少女を降ろしながら、子供達に視線を向けた。
「...この娘が足を挫いて動けなくなっていたから、運んできたの」
「お姉ちゃん...」
アドマイヤベガが運んできた、杏子と呼ばれる少女は、困惑した視線を向けてくる。
当然だろう。しかし、呪霊のことは、そう易々と漏らすわけにはいかないのだ。
「えー。杏子、大丈夫?」
子供達は、口々に少女を心配する。
少女は、何か言いたげな様子で、チラリとアドマイヤベガと目を合わせた。
それに気付いた彼女は、唇に人差し指を当て、"しーっ"と、少女に向け、ジェスチャーをしてみせる。
「...貴方達、もう遅いから帰りなさい。山は危ないわ」
「えー!まだ杏子しか行ってないのにー!」「でも杏子ちゃんケガしてるんだよ」
アドマイヤベガの注意に、子供達は不平やらを漏らす。
「...ダメよ。山小屋の都市伝説を確かめる為に来たのでしょう?」
「そうだよ!」
「だから行きたいんだ」
「...なら、止めておきなさい。あの山小屋、壊される予定だから..。周りに大人達が来ていたわ..」
子供達を帰すために、嘘を付いた。
とはいっても、本当に取り壊すことになるだろう。山小屋のある限り、再び呪霊が沸きかねないからだ。
「え!壊されちゃうの!」
「山小屋に近付けないなら意味ないよねえ」
「じゃあ杏子ちゃんは行けなかったの?」
そう話を振られた少女は、小さく頷いた。
「うん..その前に足くじいちゃったから..」
「ちぇ。じゃあ帰るかあ」
そんな風にぼやきながらも、子供達は、街の方へと歩き出していく。
少女もそれに付いていったのだが、少し遅れたため、他の子よりも距離が出来ていた。
「...ありがとう。話を合わせてくれて。..偉いわね...」
子供たちを見送るアドマイヤベガはこっそりと少女にそう呟き、頭を撫でる。
「...多分、あんな奴にはもう合うことはないだろうから、大丈夫よ...安心して」
少女は、その言葉を背に受けながら、仲間達に追い付くべく、歩く速度を上げるのだった。
任務の帰り道、アドマイヤベガは、街中で、偶然、同室ののカレンチャンとバッタリ出くわした。
「あれ?アヤベさん!アヤベさんも任務帰りですか?お疲れ様でーす」
いつもあしらわれているにも拘らず、カレンチャンは、アドマイヤベガを見つけるなり、嬉しそうな声を上げて、駆け寄ってきた。
「...ええ。お疲れ様」
アドマイヤベガは小さく返事をする。
「一緒に帰りましょう。アヤベさん!」
カワイイ笑顔で、カレンチャンが提案した。
「...どうせ付いてくるのでしょう?」
「向かってる方向は同じですから」
ニッコリとした笑みを向けられ、アドマイヤベガは、「はあ..好きにして」と観念する。
「はーい。じゃ、行きましょ。アヤベさん」
(本当に、何で私なんかにずっと...)
「アヤベさん。あれ、すっごくカワイクないですか?」
「わー。綺麗。アヤベさん、一緒に写真撮りましょ。きっとすっごくウマスタ映えしますよ、ここ」
道中のカレンチャンは、事ある事に、アドマイヤベガに話し掛けていた。
アドマイヤベガは生返事だったり、写真ははっきりと拒否したりと、距離を置こうとするが、構わずカレンチャンは距離を詰めてくる。
この数年間、ずっと続いてきたやり取り。
アドマイヤベガは、距離を詰められる度に、少し離れる。それでもずっと近付き続けるカレンチャン。
二人の間にある距離は、贖罪に生きるアドマイヤベガが、絶対に詰めることの出来ない断絶の距離。
今日も、アドマイヤベガは、"赦し"を拒絶する。
5話構成で、本日中に全部投稿します。