トレセン奇譚   作:ライト鯖

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トレセン学園内呪術交流大会
学園内交流大会-序-


 

 

残暑も去り、学園内の木々も紅葉に色付きつつある、秋。

聖蹄祭も終わり、10月を迎えたばかりの学園も落ち着いてくるこの時期。

トレセン学園の持つ、もう一つの顔、呪術の分野においても、重要なイベントが開かれようとしていた。

 

「会長。今年の学内交流大会の件ですが」

 

生徒会室にて仕事をするエアグルーヴが、シンボリルドルフに、そのイベントの話題を出した。

 

「ん?どうした。何か問題が発生したかい?」

「いえ、例年通り、個人戦と団体戦という形式でよろしいでしょうか?よろしければこのまま"お知らせ"を印刷しますが」

「ああ、構わないよ。ありがとう。よろしく頼む」

「はい、ではそのように」

 

こうして、毎年開催されている"トレセン学園内呪術交流大会"の開催が、今年も決まったのだった。

 

「楽しみだなあ」

 

生徒会から配布された"お知らせ"を手にしたミスターシービーはウキウキした様子で鼻唄を歌っていた。

 

「ねえ、エースも出るんでしょ?」

 

隣を歩くカツラギエースにミスターシービーが尋ねる。

 

「...ん?ああ。そうだな。アタシも当然、参加するさ」

 

何処か上の空だったカツラギエースは少し反応が遅れたが、僅かにぎこちなさを感じる笑顔を向け、答えた。

 

「...ねえ。エース。何かあったの?」

 

違和感を抱いたミスターシービーがそう心配したが、カツラギエースは「いや?」と普段通りの笑顔で笑って見せた。

 

「何でもねえよ。大丈夫だ」

「そう?ならいいんだけど」

「ああ。ありがとな」

「..アタシ、楽しみにしてるから、エースと戦うの」

「そうか。アタシも、負けるつもりはねえぞ」

「...フフッ。アタシが勝たせてもらうよ」

 

ミスターシービーは一瞬抱いた違和感を拭えずにいた。

その正体に気が付いたのは、カツラギエースと別れてからだった。

 

「"負けるつもりはない"..か。"勝つ"、でも、"負けない"でも、ないんだね。エース...」

 

ミスターシービーはこのモヤモヤを当日まで解消することが出来ずにいるのだった。

"自由"なミスターシービーならば、本人にぶつけることも出来ただろう。

だが、彼女はそうしなかった。もしくは、出来なかったのだ。

カツラギエースが親友故に、ライバルで、信じたい相手であるからこそ。

 

「...情けねえ」

 

カツラギエースは人目の付かない、学園近くの林中で、吐き出すようにして呟いていた。

 

「くそっ!」

 

術式により炎を纏わせた拳を岩にぶつける。

 

「はあっ...全然だな..」

 

彼女は、一年間意識不明の状態で、初夏に漸く目を覚ましたのだ。

ブランクは凄まじいモノであり、未だ、眠りにつく前の体力を、勘を取り戻し切れずにいた。

 

負けるつもりはない、その言葉に一番の違和を覚えていたのは、カツラギエース本人だった。

 

(咄嗟に、出ちまった。勝つ。勝ってやるとは、負けねえとすら、言えなかった..)

 

カツラギエースは感じてしまっていたのだ。

目覚めてから何度か組手をした。

何度か、共に任務へ出た。

その度に、痛感してしまっていたのだ。

今のミスターシービーと、己との差を。

 

「追い付けねえ..」

 

ポツリと、そんな弱音を漏らしてしまう。

 

「━━━!っそ。アタシは...」

 

弱音を振り払うように頭を振る。

だが、どうしても消えない。

この一年に開いた差を、埋めることなど..。

 

「あああああ!」

 

彼女は、ただ、それを誤魔化すように鍛練に打ち込むしかなかった。

 

 

学園内。

 

「はっ!」

「いいぞ。呪力操作の精度が上がってきているな」

 

トウカイテイオーの拳を受けながら、シンボリルドルフがそう褒める。

 

「ふふん。すごいでしょー」

 

少し調子にのった様子のトウカイテイオー。

そこに、僅かに速度を上げたシンボリルドルフが襲い来る。

 

「わっ?!」

「だが、油断はダメだな」

 

そのまま、彼女に、トウカイテイオーは組伏せられてしまった。

 

「うう..くそ~」

 

そう、トウカイテイオーは呪力を扱えるようになっていた。

呪力だけでなく、術式も。

 

呪力の方は、呪物関係なく覚醒させられたモノであったため、驚きはなかったことであるが、術式まで使えるままであったことには、シンボリルドルフも仰天した。

 

彼女の治療を行ったアグネスタキオン曰く、「まあ、偶然、術式を司る部分を上手く治療出来たのだろう」とのことである。

 

「術式と脳の関係はブラックボックスな部分も多い。何か上手くことが運んだのだろうね」

 

アグネスタキオンのその説明は嘘ではない。

しかし、当然それは、彼女の繊細で、丁寧な治療あってこその結果である。

彼女は、「私は何もしていないよ」とヒラヒラ手を振るだけであったが。

 

「じゃ、ありがとねカイチョー!」

 

立ち上がったトウカイテイオーは、言う。

 

「もういいのか?交流大会も近いのだし..」

「うん。だからこそなんだ。キングから、もっと剣術を教わって、極めておかなくちゃ」

「何か、考えがあるんだな」

「うん。ボクはね、カイチョー...」

 

トウカイテイオーの宣言を聞き、シンボリルドルフは顔を綻ばせた。

 

「そうか。テイオー。今度こそ、私は見ているよ。君の、戦いを」

「うん!絶対、決勝に行ってみせるから!」

 

 

「アーヤベさん」

 

アドマイヤベガは背後からの呼びかけに、チラリと視線を向ける。

 

「今帰りですか?」

 

カレンチャンが、彼女の隣に並ぶ。

 

「ええ。それがどうかしたの?」

「一緒に帰りましょ♪」

「直ぐ寮だけれど」

「だからこそですよ~」

「まあ、良いけど。何か用事?」

「用事がなきゃ話かけちゃダメですか?」

 

少しだけシュンとした様子を見せたカレンチャンに、アドマイヤベガは「いえ、そういうわけじゃ」と否定する。

 

「やった~」

 

瞬時の立ち直りに、アドマイヤベガはやられた、という表情をする。

 

「貴方って娘は..」

「アハハッごめんなさい。でも、用事も、なくはないんです」

「..何?」

「アヤベさんも、交流大会出ますよね?」

「ええ。それがどうかした?」

「カレンも出るんですよ」

「そう、お互い頑張りましょ」

「はい。頑張りましょうね♪だから..」

「?」

「アヤベさん。もしカレンと当たった時には"本気"で来てくださいね」

 

カレンチャンの真剣な表情と対照的に、アドマイヤベガは意図を掴みきれず、微妙な表情をしていた。

 

「元より、そのつもりよ」

「ちゃんと、"全部"ぶつけてくださいね。カレンは、全力のアヤベさん"達"に、勝たせてもらうつもりですから」

「達...。ええ。分かったわ。貴方が望むなら、遠慮はしない」

 

それを聞いたカレンチャンはニッコリ笑い、後は何でもない雑談を交わすのだった。

 

 

そうして、翌週。

 

『さあー!今年もやって参りました。トレセン学園内呪術交流大会!例年通り、まずは個人戦からです!司会兼実況は不肖、私アグネスデジタルがお送りさせて頂きます!恐れ多いことですが、シンボリルドルフ生徒会長からお任せ頂いた以上、全力を尽くす所存です。どうぞよろしくお願いいたします!』

 

方形の観客席に囲まれる形で、縦横20m近くある舞台が、数m幅の芝生を挟んで鎮座する、何処ぞの武道大会でも開かれていそうな会場に、トレセン生の多くが集っている。

 

司会を勤めるアグネスデジタルは周囲に座るウマ娘達に緊張しながら声を張り上げていた。

 

『今年も解説は前年度チャンピオンのシンボリルドルフ生徒会長です!』

『生徒会長のシンボリルドルフだ。皆、全力を尽くして頑張って欲しい』

 

簡単に挨拶を済ませたシンボリルドルフは、少し外す、と一旦離席する。

 

『ではここで救護班のアグネスタキオンさんからの注意です』

 

マイクは側で待機していたアグネスタキオンに渡される。

 

『私達、反転術式が使える者は何人も待機している。ある程度のケガは上等だ。しかし、跡形もなく身体の部位が吹き飛んだりされては、どうしようもない。

その辺りの加減をしっかり弁えて、やり過ぎには気を付け、多少のケガは恐れず、全力を尽くしてくれたまえよ』

 

飄々と、注意を行い、再びアグネスデジタルにマイクが渡される。

 

『ありがとうございました!それでは、改めましてルール説明をば!』

 

トレセン学園内呪術交流大会個人戦規則。

 

1.原則、一対一のトーナメント戦で行う。

2.式神やそれに類する術式はその限りではない。

3.殺害、その他身体を著しく損壊する攻撃の禁止。

4.気絶、若しくはダウンと判断される状態となった後、10秒のカウントが行われ、その間に立ち上がることが出来なければ敗北となる。

5.舞台から落ちた場合、場外負けとなる。

6.トーナメント決勝の勝者は前年度優勝者(チャンピオン)との最終戦を行い、学園内のチャンピオンを決する。

7.6の故に、前年度優勝者はトーナメントに参加することは出来ない。

 

『また、ハルウララさんにご協力頂いており、大会中、一度だけ呪力の回復を行うことが認められています。何処で回復するかは個々の戦略に委ねられております!ただ、決勝に勝利した方は、前年度優勝者との試合前にもう一度回復出来ます。以上が個人戦のルール説明です。皆様、ルールの範囲内での健闘を、祈っております!』

 

説明が行われている中、解説席を外していたシンボリルドルフは、来賓席へと来ていた。

 

「わざわざ今年も足を運んでいただきありがとうございます」

「いやいや、むしろすまんね。生徒達も連れてきたかったんだが、忙しくてな、また俺一人だ」

「いえ、私達がこの大会の為に多くが任務に出れない故に、肩代わりしていただいているのですから、感謝しかありませんよ。むしろ一級術師である貴方に来ていただけて光栄です。日下部さん」

「よせよせ。高専から誰一人として来ない訳にもいかんから来てるだけだ」

 

日下部篤也、呪術高専所属の一級術師である。

高専の交流大会とトレセンの交流大会、どちらかが開催されている際は、お互いが普段担当している任務等を一部肩代わりすることで、イベント中の呪霊討伐に穴を空けないようにしているのだ。

その繋がりもあり、お互い手透きの術師が見学も行うことがある。

日下部は、一級術師という忙しい身でありながら、毎年見学としてやって来ている。

シンボリルドルフ等からは、律儀な人、と思われているが、実際のところは、見学中は任務も入らず、楽が出来る上、給料はちゃんと発生するから、という理由である。

 

「お忙しい中、ありがとうございます。是非、ごゆるりとご観覧頂ければと思います」

「ああ、楽しませてもらうよ」

「そうだ。よろしければ、私達のいる実況席近くでご覧になりますか?ここよりもよく見えますよ」

「いいよいいよ。気い遣わんでも」

「そうですか。では、私はこれで」

「ああ、ありがとうな」

 

そうして、挨拶の終わったシンボリルドルフは、再び解説席へと戻る。

 

「待たせたね。それじゃあ、始めようか」

 

シンボリルドルフに促され、アグネスデジタルはマイクを取る。

 

『ではでは、始めて参りましょう!まずは、予選を勝ち抜き、今日の本選へと進んだ選手の紹介と、くじ引きにより決定したトーナメント表の発表からです!』

 

Aブロック第一回戦

シード枠

ミスターシービー

第一試合

カレンチャンVSアドマイヤベガ

第二試合

スマートファルコンVSエイシンフラッシュ

第三試合

スペシャルウィークVSサイレンススズカ

第四試合

カツラギエースVSキングヘイロー 

 

Bブロック第一回戦第一試合

シリウスシンボリVSナリタトップロード

第二試合

トウカイテイオーVSメジロマックイーン

第三試合

タマモクロスVSオグリキャップ

第四試合

ヤエノムテキVSサクラバクシンオー

シード枠

メジロラモーヌ

 

『各ブロックの勝者が前年度優勝者、チャンピオンであるシンボリルドルフさんに挑戦する権利を得るための決勝へと進出します!さて、それでは、最後に改めて開会の宣言をシンボリルドルフ生徒会長にお願い致します』

 

マイクを受け取ったシンボリルドルフは息を吸い、宣言する。

 

『只今より、第15回、トレセン学園内呪術交流大会を開催する!』

 

 

ある山中。

木々に隠れたこの場所に、幾つかの人影と、幾つかのヒトや、ウマ娘からはかけはなれた異形の影が集っていた。

中央に一際大きな影が鎮座している。

 

そこに、木々をわけいって、もう一つの人影がやって来る。

 

「やあ、調子はどうだい?"魍魎跋扈"の準備は順調かな?」

 

人影が中央の影にそう声をかける。

 

「ああ、あんたか。まあ、幾らかのイレギュラーと人員の喪失はあったが、概ね予定どおりだよ。後少しで準備は終わる。1、2週間後には実行出来るだろうさ」

「そうかい。それは良かった。今日はね、プレゼントを持ってきたんだ」

 

人影が差し出したモノを見て、他の者達はざわついた。

 

「まさか...!」

「いいのか?」

 

人影は、ニッコリ笑う。

 

「ああ、構わないよ。君たちの成功は、私にとっても大きな利益をもたらすからね」

「そうか。助かるよ。これは、欠けた人員分程度、補って余りある」

「それは良かった」

 

そう言うと人影は、踵を返した。

 

「それじゃあ、期待しているよ。また決行直前に来る」

「ああ。了解した」

 

そうして、人影は去っていくのだった。

 

 

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