トレセン奇譚   作:ライト鯖

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Aブロック第一回戦

シード枠

ミスターシービー

第一試合

カレンチャンVSアドマイヤベガ

第二試合

スマートファルコンVSエイシンフラッシュ

第三試合

スペシャルウィークVSサイレンススズカ

第四試合

カツラギエースVSキングヘイロー 

 

Bブロック第一回戦第一試合

シリウスシンボリVSナリタトップロード

第二試合

トウカイテイオーVSメジロマックイーン

第三試合

タマモクロスVSオグリキャップ

第四試合

ヤエノムテキVSサクラバクシンオー

シード枠

メジロラモーヌ



第一試合 カレンチャンvsアドマイヤベガ

 

『ではでは、Aブロック第一回戦第一試合、カレンチャンさんとアドマイヤベガさんは準備をお願い致します』

 

放送を、舞台に繋がる通路で聞いていた二人は、視線を合わせる。

 

「それじゃあ、いきましょっかアヤベさん」

「ええ。約束通り、私の、私達の全てをぶつけるわ」

「ふふっ。楽しみです♪」

 

いつものカワイイ笑顔で笑うカレンチャンとアドマイヤベガは握手を交わし、二人揃って、舞台へと向かうのだった。

 

舞台へと姿を現した二人を、観客の歓声が包む。

 

「カレンチャンー!!」

「頑張ってー!!」

「アヤベさーーん!」

 

二人は、舞台に上がり、所定位置へと向かう。

 

『さて会長様はこの第一試合、どうお考えになりますか?奇しくも同室のお二人ですが』

 

準備の間、実況のアグネスデジタルが、シンボリルドルフへと試合の見通しを尋ねる。

 

『ふむ...お互い術式のことは良く把握しあっているだろう。そして、両者共に領域を使える。

その上で、カレンチャンの領域は捕まればお仕舞いという類いのモノだと聞いている。

アドマイヤベガの術式は種々の事情から詳しくは言えないが、彼女の領域の仕様も勘案すると、序盤の展開はただ一つになるだろうね』

『と、仰いますと..』

『直ぐに分かるさ』

 

シンボリルドルフが舞台に目をやったことに気付き、アグネスデジタルも其方へと目を向ける。

 

『お二人ともご準備はよろしいでしょうか?』

 

二人が所定位置に付いているのを確認したので、最終確認が取られる。

 

「ええ」

「大丈夫で~す」

 

二人の反応を確認し、アグネスデジタルは、息を吸った。

 

『それでは..Aブロック一回戦第一試合━━』

 

アドマイヤベガは、アグネスデジタルの声に、全神経を注いでいた。

一瞬の遅れも許されない。

 

(あの娘の領域に入れられてしまえば、抵抗が出来なくなる。そして、あの娘は、私の領域の詳細を、押し合いの強さもよく知っている。だから...)

 

カレンチャンも、集中していた。

 

(私は、徒手空拳だとアヤベさんには敵わない。つまり、アヤベさんに先に領域を展開されてしまうと負ける...なら..)

 

『開始!』

 

アグネスデジタルの声。

それと同時に、二人は掌印を結んだ。

 

(カレンさんよりも)

(アヤベさんよりも)

 

((一瞬でも速く!))

 

「領域展開」

「領域展開」

 

       愛 敬 法 界(カワイイユニバース)

       織 女 星 供(しょくじょのほしく)

 

『お互いの領域が煙たい以上、同時に初手で領域を展開することになる。そうなると、基本的には領域の押し合いを制した側が勝つだろう...が』

 

巨大な漆黒のドームが形成される様を眺めながら、シンボリルドルフが解説する。

 

『どうかされましたか..?』

『恐らくだが...一瞬、速かった』

 

シンボリルドルフの言に、観客席がざわつく。

そもそも両者が領域を展開出来るなどという時点で規格外。

その上、領域の同時展開と、一瞬の違いを識別出来るシンボリルドルフ。

全てが殆どの観客のレベルを越えているからだ。

 

そして、一瞬、速く領域を展開したのは━━。

 

「しまっ━━━━」

 

カレンチャンであった。

アドマイヤベガは、カレンチャンの領域効果によって、脳内にカワイイを大量に流し込まれ、行動不能となる。

勝敗は、決したかに思われた。

 

だが、アドマイヤベガはまだ掌印を解いてはいない。

そして、一瞬遅れたとはいえ、領域の出力自体は終えている。

つまり。

 

「!!」

 

カレンチャンの領域は、一秒と経たず、アドマイヤベガの領域へと塗り潰される。

これで、カレンチャンの領域効果からアドマイヤベガは脱した。

とはいっても、まだ数分はまともに動くことなど出来ないだろう。

しかし、アドマイヤベガの領域には、もう一人、存在している。

 

「お久しぶりです!カレンさん!」

 

高速度でカレンチャンにぶつかる影。

それを、彼女は正面から受け止める。

 

「妹ちゃん!元気そうだね」

 

アドマイヤベガの領域効果は、彼女の妹の顕現である。

 

「実質的に二対一ですけど、本当に良いんですか?」

 

妹が確認をいれる。

 

「勿論。カレンがそうお願いしたんだから」

 

「ちゃんと、"全部"ぶつけてくださいね。カレンは、全力のアヤベさん"達"に、勝たせてもらうつもりですから」

 

先日の姉とカレンチャンの会話を聞いていた彼女は、大きく頷き、再びカレンチャンへと飛びかかるのだった。

 

『さて、ここで一つお知らせだ』

 

領域展開を見届けた直後、シンボリルドルフがそう観客らに切り出した。

 

『本来、領域が展開された場合、領域の外郭を通り抜け映像を提供してくれる呪骸を飛ばし、会場に映像を映すことになっているのだが、アドマイヤベガの領域効果は術式の所以で、衆目に晒すことは出来ないらしい。

だから、今試合における領域内の戦闘は領域が解けるまで分からない。

楽しみにしていたであろう皆には申し訳ないが、どうかご理解願う』

 

そう、アドマイヤベガの妹の強さは、"誰にも存在を認識されない"という縛りによる影響が大きい。

もし、その存在が広く知られてしまえば、縛りの効果が薄まるかもしれないのだ。

アドマイヤベガは、術式の詳細を把握出来ない、しないことが縛りになっているため、そのことは知らない。

だが、アドマイヤベガの妹はそれを知っている為、アドマイヤベガが親しい者達に妹の存在を明かした時にこっそりとその娘達に伝えていたのだ。

余り広めないで欲しい、と。

アドマイヤベガは、自身の事情を気安く話すタイプではないため、それで事足りたのだ。

だが、今回はそうはいかない。

故に、事前にカレンチャンがシンボリルドルフにある程度の事情を伝え、根回しをしていたのだった。

 

「そうだ、カレンさん。ありがとうございます。お気遣いしてもらっちゃって」

「気にしないで~。私がアヤベさんと貴方、二人の全力をぶつけて欲しかっただけだから」

 

アドマイヤベガの妹の攻撃をどうにかといった様子で避けながら、カレンチャンは笑う。

 

「でも、どうしてそんなに私達と..?」

「だってこれが、貴方達の力でしょう?二人で一つの力なら、それで戦って貰わなきゃ。全力じゃない状態のアヤベさんに勝ったとして..」

 

カレンチャンの術式によって、戦意を薄められているアドマイヤベガの妹は、カレンチャンの攻撃に対する反応が遅れた。

 

「あっ」

 

アドマイヤベガの妹を吹き飛ばしながら、カレンチャンは言った。

 

「それって、カワイくないでしょ?」

 

その答えにアドマイヤベガの妹も、不敵な笑みで返した。

 

「なら、遠慮はしません!」

 

(速い!)

 

カレンチャンが反応するよりも速く、懐へと妹は飛び込む。

 

「っ!」

 

呪力による防御こそ間に合ったが、攻撃自体は受けてしまっていた。

 

(重い。やっぱり、強い。普通にやっても、カレンは勝てない)

 

領域内でのアドマイヤベガの妹は、縛りの影響によりとてつもなく強力である。

そんな彼女に勝てる術師はほぼいない。

 

(けど、勝ちの目はある..。アヤベさんは領域を展開出来たとはいえ、その維持に私の術式の影響で、脳のリソースをほぼ回せないはず。

つまり、数分程度でこの領域は崩壊する。

そこまで耐えれば、一瞬とは言え、カレンの領域を受けて、まだ暫く行動不能、少なくとも動きは大きく鈍るアヤベさんを場外に押し出すだけ)

 

カレンチャンの読み通り、アドマイヤベガの領域は後二分と保たないだろう。

問題は、その二分を耐えきることが出来るか、である。

 

「持久戦に持ち込む気ですか?でも、そうは行きませんよ!」

 

楽しそうにアドマイヤベガの妹は、距離を取ったカレンチャンに腕を向ける。

 

「領域内では、私もお姉ちゃんみたいに術式を使えるんですから!.."鷲"!」

 

呪力により形成された鷲がカレンチャンの背後を襲った。

 

「あっ!..」

 

カレンチャンの術式は、領域外であれば、アドマイヤベガの術式によって形成されるそれらは、妹の魂に肉付けされているので、ある程度の効果があるが、領域内の場合、二人の魂が極僅かずつ分割されれたモノが核となっている為、殆ど意味をなさないのだ。

 

「でも!」

 

逃げと回避に徹すれば、避けられないことはない。

だが、当然、妹の方もただ待っているわけではない。

 

「"獅子"!」

 

顕現させた呪力体の獅子と挟み撃ちの形でアドマイヤベガの妹が襲い来る。

 

「ひゃっ!」

 

カレンチャンは、避けきることが出来ず、体勢を崩してしまい、そのまま転んでしまう。

 

「とりゃあー!!」

 

その隙を逃さず、アドマイヤベガの妹はカレンチャンに追撃を加えようと足を振り上げた。

だが、その瞬間、カレンチャンは自身とアドマイヤベガの妹が彼女の所持していたスマホフレームに収まるアングルへと瞬時に体勢を捻り、撮影をした。

 

「あっしまっ..」

 

アドマイヤベガの妹の足は、カレンチャンの真横スレスレを踏みつける。

 

「あぶなかった~」

 

可憐影写(かれんえいしゃ)

カレンチャンの術式は領域が基本となる特殊な術式だが、拡張によって、対象とツーショット、若しくは集合写真の形式で同じフレームに収まることを条件に、領域の効果を減衰した状態だが、抽出することが出来るのだ。

 

諸に写ってしまったアドマイヤベガの妹は、魂のみで構成されているため、脳に影響が及ぼされることはないので、行動不能とはならなかったが、しかし。

 

(カレンさんに攻撃しようとすると..身体が..)

 

カレンチャンとの交戦意志の大部分が削られ、強い呪力と共に精神力を動員せねば、攻撃行動を取れなくなってしまった。

 

「でも...!」

「おっと」

 

完全に精彩を欠く攻撃であり、カレンチャンは楽々と避ける。

 

「..っ..だけど、術式の方には意味ないですよね。"鼓星(オリオン)"!」

 

オリオンを模したそれは力が強い。

カレンチャンもアドマイヤベガ姉妹の術式に効果はないことを分かっているので、其方の回避に全神経を注いでいた。

 

「うっ!」

 

だが、オリオンの動きは俊敏で、カレンチャンは攻撃を受けざるを得ない。

 

「やっぱり、妹ちゃんも強いね」

「カレンさんだって」

 

カレンチャンは、かなり息が上がっていた。

何度かしっかりと攻撃を受けてしまっていたことと、回避で体力を大幅に消費したことが要因である。

 

だが、領域も間もなく、崩れ去ろうとしていた。

 

「次で、決める!」

 

アドマイヤベガの妹が、両腕を拍手するようにして勢いよく衝突させると、それに指揮されるようにして、カレンチャンの両横を、それぞれ、獅子と鷲が現れ、襲った。

 

「ヤバ..」

 

 

『さて、中がどうなっているか大変気になるところではありますが..ところで、この状況ですとどちらかがダウンしたとして、判定する方法はあるのでしょうか?』

 

実況のアグネスデジタルがハラハラとしながら領域を見つめつつも、気になっていたことを口にした。

 

『それは心配ない。私の端末にはしっかり映像は送られてきているからね。会場に映していないだけだよ。そうだな...今のところ、ややカレンチャンが優勢といったところだ』

 

シンボリルドルフがそう説明する。

 

『なるほど。安心しました。しかし、ヤキモキしてしまいますね~』

 

観客達も、固唾を飲んで、真っ黒な円蓋を見つめていた。

すると。

 

パキッと、その円蓋の頂点にヒビが入った。

 

『まさか..!』

 

バキバキとガラスが割れるようにして、領域が崩れていく。

 

『さあ、どちらが勝利したのでしょうか。あるいは..』

 

領域が崩れ去った舞台に立っていたのは、カレンチャン。

と、アドマイヤベガ。

二人は、まだその足で立っていた。

 

先に動いたのはカレンチャンである。

アドマイヤベガは、まだ動きを見せない。 

 

『デジタル。カウントをお願いする』

『へ?ですが、お二人とも..』

『アドマイヤベガは、戦闘不能状態だ』 

『え?!し、承知しました。1..2..3..』

 

本来なら、ダウン状態と見なされるべき状態ではあるが、領域内においては、妹の方が術式による効果でもって戦闘を続けることが出来ていたため、カウントはされていなかった。

だが、領域が崩れた今、戦闘手段のないアドマイヤベガは、10秒経つのを待つばかりである。

 

だが、カレンチャンは油断しない。

そのまま、アドマイヤベガの両腕を掴み、舞台から押し出そうと試みる。

徐々に舞台の端へと追い詰められていき、なおかつ、カウントも進んでいく。

 

「6..7..8..!」

 

あと数十センチで舞台から落ちる、カウントもあと二秒のタイミングで、ピクリ、とアドマイヤベガの腕が動いた。

 

「間に合って!」

 

カレンチャンは更に力を加えるが、その腕をまだ、多少弱々しいが、アドマイヤベガがその拳で掴んだ。

 

「まだよ..」

 

『な、何とアドマイヤベガ選手、何があったかは不明ですが、戦闘不能状態から脱したようです!!』

 

「いいえ!私が勝たせてもらいます!」

 

持ち前の合気道で投げ飛ばそうと、カレンチャンは素早くアドマイヤベガに技をかけようとするが、アドマイヤベガに足をかけられ、彼女を押し出すことに注力していた為、体勢が少し悪く、そのままバランスを崩してしまう。

 

「あっ」

 

そのままカレンチャンの拘束をほどき、アドマイヤベガは、まだ若干覚束ない足取りながらも、少し距離を取り、場外の危機を脱した。

 

『カレンチャン選手の拘束を脱したアドマイヤベガ選手ー!これは..どちらが勝つか、全く予想が付きません!』

 

かなり興奮気味に実況するアグネスデジタル、シンボリルドルフも、「ほう」と興味深そうに見ていた。

 

(アヤベさんは術式の焼き切れからの回復も早い..。不味い..!)

 

カレンチャンは、アドマイヤベガの術式が回復するよりも早く決着を目指す。

アドマイヤベガと距離を詰めるが、既に彼女は術式を回復させていた。

 

「鷲」

 

アドマイヤベガを押し出すため、カレンチャン自身も舞台の端近くにおり、立場が数秒前と逆転してしまっていた。

 

「くうっ...!」

 

鷲に弾き飛ばされ、カレンチャンは舞台から足が離れてしまう。

 

『これは━━!』

 

アグネスデジタルが興奮気味に身を乗り出した。

 

カレンチャンの足が、舞台の外に落ちる。

 

ワッと歓声が上がった。

 

『勝者は...アドマイヤベガ選手!アドマイヤベガ選手です!!』

 

「ハッ...ハッ..ハッ!」

 

アドマイヤベガはまだ脳が軽い混乱状態にあるためか荒い呼吸をしつつ、カレンチャンの下へと足を進める。

 

「負けちゃいましたね..」

 

笑顔を崩さずそういうカレンチャンだったが、その悔しさは、隠しきれていなかった。

 

「良い試合だったわ..ありがとう」

 

手を差しのべながら、アドマイヤベガは少し気恥ずかしそうに言った。

 

「約束通り、"本気"で戦ったわ」

「はい。完敗でした..。でも、漸く、アヤベさんと並べた気がします」

 

屈託のない笑みに、アドマイヤベガも、フッと笑う。

 

「貴方が、並ばせてくれたのよ」

 

そうして、アドマイヤベガと、彼女に助け起こされたカレンチャンは、観客の歓声に包まれながら、退場するのであった。

 

『.....いやー、素晴らしい戦いでしたね』

 

既に感動で昇天しかけているアグネスデジタルだったが、職務への責任感で留まっている。

 

『ああ、どちらが勝ってもおかしくなかっただろう。特に領域崩壊後、一分に満たない攻防だったが、白熱したものだった』

 

シンボリルドルフは、アグネスデジタルの言に頷く。

 

『さてさて、第二試合以降も楽しみですね!』

『ああ、参加者全員が、全身全霊で以て戦うこの機会、観客の皆も、今日のことを学びとしてくれればと思う』

 

『さあ、第二試合参加者の方々は準備をお願い致します!』

 

舞台へと繋がる通路。

アグネスデジタルの呼び掛けを聞いた、次の対戦者達が互いに目を合わせる。

 

「負けないよ。フラッシュさん」

「私が、勝たせて頂きます。ファルコンさん」

 

二人は歓声の中へと、歩み出るのだった。

 

 

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