Aブロック第一回戦
シード枠
ミスターシービー
第一試合
カレンチャンVSアドマイヤベガ
第二試合
スマートファルコンVSエイシンフラッシュ
第三試合
スペシャルウィークVSサイレンススズカ
第四試合
カツラギエースVSキングヘイロー
Bブロック第一回戦第一試合
シリウスシンボリVSナリタトップロード
第二試合
トウカイテイオーVSメジロマックイーン
第三試合
タマモクロスVSオグリキャップ
第四試合
ヤエノムテキVSサクラバクシンオー
シード枠
メジロラモーヌ
第三試合の準備中、観客席で観戦する、来賓の立場である日下部篤也は、背後に気配を感じ、振り返った。
「うん?あーあんたは確か...副会長の?」
「ええ、ご無沙汰しております。日下部一級術師。副会長のエアグルーヴです」
「そうだった。すまんな」
名前が出てこなかったことを詫びる日下部にエアグルーヴが首を振る。
「いえ、前お会いしたときは簡単な挨拶だけでしたものね」
「ところで、何か用かい?」
「お隣、よろしいですか?」
「別に構わんが...気を遣わなくて良いんだぞ?」
「いえ、後学のためにも日下部一級術師の知見は是非お聞きしたいところですので」
「全く、真面目だねえ。あと、一級術師は付けなくて良い。軍隊じゃねえんだ」
「恐縮です。..それでは、日下部さん、現状、ご感想等はいかがでしょう」
「そうさねえ..」
日下部がそう言うと同時、アグネスデジタルの声がマイクから響く。
『さあ、両者、準備が整ったようです。それでは、一回戦第三試合━━』
サイレンススズカとスペシャルウィークは舞台上で向かい合い、両者、泰然と構えていた。
『開始!』
アグネスデジタルの合図があっても、二人は戦闘を始めない。
代わりに、頷き会う。
「今日こそ絶対、勝たせて貰いますよ。スズカさん」
「楽しみね」
サイレンススズカはそう笑い、掌印を結んだ。
「領域展開」
開かれた領域は、快晴の空に包まれ、青々とした芝が陽光を受ける、レース場を生み出した。
観客こそいないが、観客席もあり、掲示板も景色として存在する。
完全な、レース場。
それが、サイレンススズカの領域であった。
「さあ、走りましょうか」
サイレンススズカの微笑みに、スペシャルウィークも笑顔で頷く。
二人は、ゲートへと向かうのだった。
「━━粒揃いとは聞いてたが、粒なんて次元は越えているだろう..これは」
サイレンススズカも領域展開をしたことに、日下部はもう驚きというより呆れに近い様相で、舞台を眺めていた。
「領域を扱える奴、一体何人いるんだ?」
「確か...ひい、ふう、みい、よ.....現状、学園では7人ですね」
「7?!...いや、人数も多いし、そう考えると妥当なのか...しかし、凄まじいな」
「まあ、本戦に出ている娘は上位層ですから。それに、スズカやカレンチャンは、術式に領域がデフォルトで付いているタイプですし」
「その術式タイプもかなり珍しいけどな..」
スケールが違うな。とぼやく日下部は、視線を設置されているスクリーンへと向けた。
「さて、どんな術式を見せてくれるのやら」
その頃、領域内の二人はゲートインを完了させていた。
「それじゃあ。行きましょう」
サイレンススズカとスペシャルウィークは、ゲートの先を見据える。
ガコン、とゲートが開かれると同時、二人は一斉に駆け出した。
サイレンススズカの領域、"半里青芝"は、領域内に入った者を強制的にレースに引き込む術式である。
ウマ娘であろうと呪霊であろうと、ヒトであろうと、無差別にレースを強制する。
必中効果はレースに参加させ、ルールに従わせること、のみであるため、致死性はなく、それ故、領域の押し合いにも強い。
そして、レースではウマ娘は呪力の使用が禁止されている。
ヒトの場合は、相手の妨害に使わない限り、つまり、身体強化に限って許可されている。
こうして公平性がある程度担保されている理由は一つ。
レースを制した者に、強力なゲームで言うところのバフが一定時間授けられるのだ。
これは、術者であるなしに関わらず。
つまり、サイレンススズカがレースに敗北した場合、敵に塩を送ることとなるのである。
バフの効果は、勝敗が決した際の着差によって決まる。
圧倒的な勝利であればあるほど、強力なバフを得ることが可能なのだ。
「負けません!」
レースは序盤。
逃げウマ娘であるサイレンススズカが、スペシャルウィークとかなりのバ身差を付ける形で展開していく。
『サイレンススズカ選手、得意の逃げを打ち、最初のコーナーを回った現時点で、10バ身近く差を付けています』
領域外ではアグネスデジタルが突如始まったレースに合わせた実況を行っている。
『ふむ。彼女の術式は着差が大きい程、強くなれるモノだ。このまま逃げきるのが理想だろうが...スペシャルウィークは足を溜めて機を伺っている。このままでは終わらないだろう』
『おっと!サイレンススズカ選手、更にスピードを上げる!』
「やっぱり速い。スズカさん」
既にコーナーの先へと出ているサイレンススズカの背中を視界に捉えながら、スペシャルウィークも少し速度を上げていく。
(焦っちゃダメ。まだ仕掛ける時じゃない)
スペシャルウィークはじっと、タイミングを待つ。
自慢の末脚で、終盤にサイレンススズカを差し切る判断だ。
『さあ、向こう正面、サイレンススズカ選手が未だリードをキープしています...これって何メートルなんでしょうね..?』
『2000~2200じゃないかな。両者の脚質を考えるならその辺りが二人とも力を出せる距離だからね』
『なるほど。となると..そろそろ最終コーナーですね』
二人は、序盤に空いた距離から大きく離れもせず、縮みもせずといった形で走っていき、ついに、最終コーナーへと差し掛かる。
「ここ!」
スペシャルウィークがコーナー途中で足を踏み込んだ。
「やああああ!」
『スペシャルウィーク選手、ここで仕掛けてきた!』
一気にバ身差を詰めていくスペシャルウィーク、その気配を、サイレンススズカは背中で感じ取っていた。
「先頭は、譲らないわ」
サイレンススズカも、残る足を使い、最後の大きな踏み込みを行う。
『おおっと!ここに来てスズカ選手が再加速!まだ足が残っていたようです!』
『さすがは、逃げて差す、とまで言われたウマ娘だな』
だが、当然スペシャルウィークもここで終わる娘ではない。
「まだまだああ!!」
ぐんぐんと加速していき、その末脚でもって、サイレンススズカとの距離を一挙に詰めた。
『何と!スペシャルウィーク選手、驚異の末脚!ついにサイレンススズカ選手とおよそ半バ身程にまで迫りました!さあ、ゴールまで..あと200m!』
モニターに写った距離を示す標識からアグネスデジタルは残り距離を悟っていた。
「はあああああ!」
「やあああああ!」
逃げ続けるサイレンススズカ。
じわりじわりと差を詰めていくスペシャルウィーク。
ついに、両者の肩が並ぶかに思えた時。
『....勝ったのは、サイレンススズカ選手!しかし、殆ど同着にも見える結果でした..
っと。スゴいですね。掲示板に結果が表示されています』
サイレンススズカの術式は、着差によって効果が決まる。
そして、その着差を正確に術式による受益者が知れるように、掲示板に結果も出るのだ。
『アタマ差!アタマ差とのことです!』
観客席も、盛り上がりは最高潮になっていた。
結局、彼女達はウマ娘であり、レースが、走る姿が一番興奮を呼び起こすのだ。
「気持ちよかった...」
思い切り走り、先頭を譲らなかったサイレンススズカは、満足したように、大きく息を吸った。
「スペちゃん」
そして、惜しくも敗北し、悔しげに息を整えるスペシャルウィークに近付く。
「スズカさん..」
「ありがとう。楽しかったわ」
「はい!私もです。次こそは、絶対負けませんからね!」
スズカの笑みに、スペシャルウィークも破顔し、ニッコリと笑顔を返すのだった。
『いや~凄い勝負でしたね』
『ああ。良いレースだった。しかし、勝負自体は、まだ終わっていない』
シンボリルドルフの言葉の後、領域にヒビが入ったことが確認される。
『そういえばそうでした..興奮していて忘れていましたね』
他の観客達も、レースの盛り上がりにすっかり失念していたが、これはあくまでサイレンススズカの術式によるもので、これだけでは終わらないのだ。
「さあ、スペちゃん。始めましょうか」
領域展開直後とは思えない程の呪力を迸らせ、サイレンススズカは微笑みながら、構えた。
「粮食転呪」
スペシャルウィークも術式を発動させ、自らの身体を強化する。
「?!」
スペシャルウィークが構えた時には既にサイレンススズカは彼女の側面に回っていた。
「はや..」
どうにか腕で防御したスペシャルウィークであったが、体勢を崩されてしまう。
『アタマ差であれだけのスピードになるんですね...』
『中々、凄まじい術式だな。
あれは、恐らく自身が負けた場合、相手に同じだけの強化が為されるという"縛り"によってなりたっているのだろう』
「やっぱり強い....でも!」
術式を最大出力まで引き上げ、スペシャルウィークも足を踏み込む。
(レースは僅差だった。つまり、スズカさんの強化は長くは続かない。
それなら、私も出し惜しみ無しで行くしかない。
あと一分程度耐えられれば、私が有利になる!)
そう、僅差でのレースの決着であったため、サイレンススズカは最低限の強化しか得られなかった。
その為、効果持続時間も短いのだ。
(だから、ここで決める!)
高速度で舞台を移動し、二人は、正面から拳を衝突させた。
『両者共に全く同じタイミングで攻撃を仕掛けた!?』
『面白い息の合い方だね。同室ならではの現象といったところだろうか』
シンボリルドルフはそう解説しながら口に手を当て笑みを浮かべる。
「....!」
(もう少しで術式の効果が切れる..!)
サイレンススズカは、ぐっと足に力を込め、最大速度でそのままスペシャルウィークを狙った。
「はあ!」
呪力が迸る拳を振り下ろすも、すんでのところでスペシャルウィークが躱す。
拳の衝突した舞台は瓦礫を飛ばし、その部分が大破する。
「時間切れ..」
術式の効果が切れ、サイレンススズカの速度が落ちる。
そして。
「やああ!」
その隙を、スペシャルウィークは逃さなかった。
術式で最大限に強化された足を向け、飛びかかる。
その蹴りを、どうにか腕で受けたサイレンススズカであったが、勢いを殺しきることは出来ず、そのまま場外へと吹き飛ばされてしまうのだった。
『場外!サイレンススズカ選手場外です!第三試合の勝者は、スペシャルウィーク選手!』
その実況を聞き、自身の勝利を確認したスペシャルウィークはほうっと肩から力を抜いた。
そして、サイレンススズカの元へと行く。
「スズカさん」
「こっちでは負けちゃったわね。...やっぱりスペちゃんは、強いわね」
「スズカさんも強かったです!ありがとうございました」
「此方こそ。次も、頑張ってね」
「はい!頑張ります!」
サイレンススズカはスペシャルウィークの手を借り立ち上がる。
場内は、拍手に包まれるのだった。
-とある街の路地裏-
呪詛師による突然の襲撃を受けていたヒシアマゾンとフジキセキ。
彼女達は背中を合わせ、呪詛師の術式をいなしていた。
「刺のようなものを操る術式みたいだね」
「ああ。しかし、中々隙が出来ない」
「ヒシアマは、あいつ、一撃で倒せそう?」
「術式を発動する隙さえありゃね」
「そっか。なら、任せて。隙を作る」
フジキセキは指をパチンと鳴らし、煙幕を撒く。
「ああん?あいつの術式か?」
上方、路地裏を見下ろすビルの上にいる呪詛師は、二人の姿を煙幕によって見失う。
「いいや?ただの手品の種さ」
いつの間にか呪詛師の真後ろに、フジキセキが立っていた。
「いつの間に?!」
「私の術式はこれ」
彼女の背後に、フヨフヨと二つ、路地裏にあったゴミ箱を浮かしていた。
所謂超能力における、念動力、サイコキネシスを呪力によって再現した術式であり、フジキセキの生得術式である。
瞬間移動のようにしてビルの上へと飛んだのは、自分の身体を術式対象とした術式の応用である。
「種も仕掛けもありません」
バンと手で銃を撃つような仕草をし、同時にゴミ箱を飛ばし、呪詛師にぶつける。
「うぐっ!こんなもので..」
大したダメージは入っていないが、突然のことにバランスを崩し、呪詛師は路地裏へとその身体を落下させていく。
「ヒシアマ~行ったよ」
「ああ!」
晴れつつあった煙幕からヒシアマゾンが飛び出し、落下する呪詛師に、強力なパンチを浴びせた。
「ぎっ...?!」
呪詛師は、その拳の硬さに苦悶の声を挙げ、そのまま拳の勢いに僅かに落下速度を減衰させたが、そのまま地面にドサッと落ちるのだった。
ヒシアマゾンの術式。
身体を硬くする、というシンプルなモノである。
しかし、ウマ娘の膂力と呪力による身体強化が組み合わされば、凄まじい威力の攻撃を可能とする。
呪詛師は、身体を起こさず、どうやら意識を失ったようであった。
「倒せたようだね。..ったく何だったんだいこいつは」
「さあね..とりあえず補助監督さんに連絡して、トレセンに連行しようか。任務は一旦中断だね」
「そうだね。拘束出来そうなもんがあればいいんだけど」
こうして、フジキセキとヒシアマゾンは呪詛師を撃退したが、彼女達はまだ知らない。
トレセン生全体が、闇サイトで賞金をかけられていることを。
それ故に、数日間の間、こうした襲撃事案が相次ぐことになることを。