トレセン奇譚   作:ライト鯖

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Aブロック第二回戦

第一試合

ミスターシービーvsエイシンフラッシュ

第二試合

カツラギエースvsスペシャルウィーク

Bブロック第二回戦第一試合

シリウスシンボリvsメジロマックイーン

第二試合

タマモクロスvsメジロラモーヌ



Aブロック決勝 カツラギエースvsミスターシービー

 

 

『さてさて、トーナメントもいよいよ大詰めが近付いて参りました!Aブロック最終戦 カツラギエース選手vsミスターシービー選手の試合です!』

 

「ついに、だな。シービー」

「うん。漸くだ」

「呪力、回復して貰わなくて良かったのか?」

「そっちこそ」

「決勝まで取っとかねえと。次はシリウスかタマモだからな」

「おんなじだ。フフッ。手加減しないよ?」

「当たり前だ。全力で来い!勝つのは、アタシだ!」

 

ミスターシービーが長らく待ち望んで来た事。

カツラギエースとまた、競い合いたい。

その願いは一年以上の時を経て、漸く実現した。

彼女は、今、これ以上ない程に高揚している。

 

『それでは、お二人ともよろしいでしょうか?』

「ああ。いつでも良いぜ」

「あたしも」

 

二人は、楽しそうな笑顔を湛えたまま、互いに構える。

ミスターシービーは、内心で安堵していた。

大会前の、所在なさげな、らしくないカツラギエースの姿は、もうなかったからだ。

 

『それでは、Aブロック最終戦、スタートです!』

 

"練炎操火(れんえんそうか)"

"玉水法術(たまみずのほうじゅつ)"

 

鐡火(てっか)!」

砲水(ほうすい)!」

 

炎と水、呪力の衝突。そして、両者が打ち消し合う。

 

炎鎖(えんさ)!」

(だく)

 

カツラギエースは、ミスターシービーの拘束を試みるも、ミスターシービーは一面に濁流を発生させ、彼女の投げたマッチ全てを押し流した。

 

「ははっ!やられちまったな。だけど、まだまだ!」

 

"雨炎石火(うえんかせき)"

 

懐から取り出したマッチの火を瞬時に付け、空中になげる。

それを巨大な炎へ練り上げ、火の玉へと変えて放った。

 

"瑞水瀑布(ずいすいばくふ)"

 

滝のような水流を横向きに放出。

カツラギエースの火炎弾を呑み込んで行く。

 

「こんなものじゃないでしょ?エース!」

 

ミスターシービーは距離を詰め、直接カツラギエースに、その拳を叩き込んだ。

 

「ぐっ..!言ってくれるじゃねえか..」

 

未だ笑みを崩してこそいないものの、カツラギエースは一筋の汗を、その頬に湛えていた。

 

(やっぱり、どうしたって一年のブランクは大きい)

 

カツラギエースも再び鐡火でもって、ミスターシービーを狙うが、軽々と躱されてしまう。

 

(正直、今のアタシは、シービーに追い付くどころか、一年前とそう変わんねえ程度だ)

火刃薙(ひばな)!」

 

炎の刃を出現させ、更に攻勢を強めていく。

 

「当たらないよ!...?!」

 

躱される瞬間、炎の刀身を伸ばし、ミスターシービーの虚を付いた。

 

「っ!」

 

咄嗟に防御に回した左腕を斬り付けられた彼女は、ニヤリ、と笑う。

 

「そう来なくっちゃ!」

 

ミスターシービーは心からこの戦いを楽しんでいるのだ。

カツラギエース、唯一無二のライバルとのこの時間を。

 

「雨炎火石」

 

畳み掛けるカツラギエース。

しかし、ミスターシービーはこれらを、またも軽々と躱してしまう。

その上、回避と同時に攻撃も行っていた。

 

"砲水"

 

「ぐっ!」

(一年前よりも、シービーは比べもんにならねえくらい強くなってる。だから...)

「炎鎖!」

 

カツラギエースが唱えると同時、ミスターシービーの頭上から炎の鎖が伸び、彼女の両腕を拘束した。

 

「しまっ...いつの間に!」

 

雨炎火石を放った直後に、幾つかのマッチも頭上へ飛ばしていたのだ。

 

「はあああ!」

 

カツラギエースの拳が、がら空きとなったミスターシービーに直撃する。

だが。

 

(手応えが小さい..!)

 

全力の呪力による防御でダメージを最小限に抑えたミスターシービーは呪力を放出し、鎖をほどいてしまう。

 

「やっぱ...そうだよな..」

 

カツラギエースは彼我の実力差を痛感させられるばかりだった。

 

「このままじゃ負けちまうな」

「諦めるの?」

「いいや。...だから」

 

彼女は諦めてなどいなかった。

それは、とっくに終わらせていたから。

 

交流大会前。

 

「追い付けねえ..」

 

ポツリと、何度かミスターシービーと任務を共にし、彼女の実力を目にしていたカツラギエースは、ついそんな弱音を漏らしてしまっていた。

 

「━━━!っそ。アタシは...」

 

弱音を振り払うように頭を振る。

だが、どうしても消えない。

この一年に開いた差を、埋めることなど..。

 

「あああああ!」

 

がむしゃらに、特訓の為に使っていた岩を殴り続ける。

 

(情けねえ!何を弱気になってんだ!)

 

炎を纏わせた拳が、岩を砕いていく。

 

(アタシはカツラギエースだろ!そうだ。アタシは...何度もシービーに、負け続けてきた)

「それでも!」

(諦めずに、喰らい続けたから、勝てたんだ!情けねえ!情けねえ!)

 

彼女は、かつて、レースを走っていた頃、誰にも期待されていないのでは、と自信を失いかけていたとき、ファンの人達が作り、合宿先に持参してくれた、旗を思い出していた。

葛城栄主と書かれたそれは、陽光を反射する水面にライトアップされているようで、輝いて見えたことを、彼女はよく覚えていた。

 

(そうだ。あの時と同じだ。あの人達が信じてくれたアタシは。あの旗に相応しいアタシは!)

 

握る拳が固くなっていく。

彼女は、弱い自分に憤っているのではない。

一瞬でも、諦めそうになった自分に憤り、怒っていたのだ。

 

(シービーに勝てない?違うだろ!)

「アタシは反逆のエース!カツラギエースだ!弱気になんて、なってんじゃねえ!!」

 

彼女の、その溢れんばかりの怒りは、自らに向けられたその炎は、"呪い"は、行き場を求めて、彼女の術式にくべる薪となり、呪力を通して、外へと放出されていっていた。

そうして━━。

 

ミスターシービーは、既に息の上がっているカツラギエースを見て、終わらせることを決めていた。

 

「仕方ない、か。来年、楽しみにしてるね」

 

彼女とて、今のカツラギエースとの実力差を無視していた訳ではない。見ないようにしていたわけでもない。

だからこそ、ここで決めると、思い定めたのだ。

 

「!?」

 

しかし、彼女は気付いた。

目の前で、息も絶え絶えといった様子のカツラギエースから爆発的な呪力が立ち上ぼり始めたことに。

思わず距離を取り、カツラギエースを凝視する。

 

「だから、アタシの全力をぶつける。これが通用しなきゃ、降参だ」

 

言いつつ、カツラギエースは懐に手を伸ばした。

 

(まさか、領域..?!いや...何か..)

 

ミスターシービーは最大限の警戒でもって、カツラギエースとの間合いを計る。

 

「行くぞ。シービー」

 

彼女の放り投げた幾本ものマッチが、火球を形成する。

 

「練炎操火」

 

火球は、まるで縄のようにして細く、伸び、炎鎖のようになったかと思うと、彼女の頭上で絡まりあい、更に巨大な火炎弾の形成を開始した。

 

「極の番」

 

他の何にでもなく、自分自身に向けられた強い怒りは、彼女の術式の本質を捉えた。

他の何にでもなく、情けない自分自身に向けられた、瞋恚の炎。

 

(これは..避けるべきかな...いや!)

「受けて、打ち勝つ!」

 

自身では気付いていなかったが、彼女は、ミスターシービーは今、極めて野性的な本能に悖るとも言える、笑みを、その口に湛えていた。

 

瞋炎(しんえん)

 

巨大な、恐らく半径2mは越える火球が、ミスターシービーへと放たれた。

 

"術式反転 閼伽(あか)"

 

最大出力の術式反転で、彼女はそれを迎え撃つ。

 

二つの、炎と、水が衝突する。

この試合最初の数秒と同じ現象。

しかし、規模は、余りに異なる。

 

 

『これは...凄まじいほどの..!会長さん!』

 

実況のアグネスデジタルが、空中を指差す。

発生した爆発は、観客席に爆風を届けていた。

それだけではなく更には観客席を守る結界に、ヒビが入り、正に限界、という様相を示していたのだ。

 

「理事長の結界が..!?」

「保ちますか?!」

「ああ。恐らく。...たづなさん!理事長に結界強度を上げるよう伝えてください。直ぐに。はい。お願いします」

 

直ちにシンボリルドルフが連絡を取ったことで、直ぐに結界は安定を取り戻したが、その内側がどのような状況かは、直ぐには分からなかった。

 

「しかし、これ程とは...」

 

粉塵は徐々に晴れていき、それ共に、舞台の惨状も、皆の目に入り始めていた。

大破。

そう形容することしか出来ない程に、瓦礫が散らばり、凄まじい光景となっていた。

 

「エース。君は...」

 

シンボリルドルフも、ミスターシービーと同じく、自覚していない。

しかし、背筋をゾクリと震わせていた。

恐怖からではない。

武者震い、いや、強者を前にし、昂りを抑える理性の動きであった。

 

「ハハッ...ミスったかなあ。避けるべきだったね..ケホッ」

 

あちこちに軽い火傷跡を付け、服も大きく損傷したミスターシービーは、ふらつきながら、そう笑った。

 

「決めきれなかったか..!」

 

カツラギエースは口惜しそうに、しかし何処か楽しさも滲ませながら言う。

 

「閼伽で多少相殺したからね...でも、結構ヤバかったよ」

 

だから、と今度はミスターシービーが言う番となる。

 

「アタシも、全部を出すよ」

「何?...まさか手加減してやがったのか?」

「アハハ。違うよ。でも、使ってなかった奥の手がある」

「奥の手?」

 

カツラギエースが警戒を滲ませる。

 

「さすがにさっきのもう一回やられた、負けちゃうしね。だから、それをさせない」

「....!シービー、まさかアンタ..!」

「今まで、使ってこなかった。初めて見せるのは、君が良かったから。誰にも見せたことも、教えたこともない。君に、見せたかったあたしの、全部」

 

"領域展開"

 

ミスターシービーは掌印を結び、口を開いた。

 

「"天翔法雨(てんしょうほうう)"」

 

一瞬にしてカツラギエースは結界に呑み込まれ、ミスターシービーの世界へ引きずりこまれる。

 

「しまっ!」

 

『シービーが領域を?!いつの間に...!』

『どうやらエースさんに見せるまでは使わないでいたようですね』

『驚いたな。しかし、エースには領域対策がない、領域の効果次第では...』

 

カツラギエースの目に入った景色は、美しい光景だった。

人工のものではないだろう芝生が地面を覆い、雲一つない晴天が、天涯を覆う。

そして、そこには天気雨が、陽光を反射し、キラキラ輝く雨粒が、降り注いでいたのだ。

 

「アンタらしいとこだな」

「そう?...フフッ。でもこれで、形勢逆転、だね?エース」

「...へっ。そうかもな」

 

頬に汗を伝わせながら、彼女は構えを取り、ミスターシービーの動きを待った。

が、そこであることに気が付く。

 

「呪力が...?...まさか!」

「あ、気付いた?そう。アタシの領域で降ってるこの雨、アタシの術式によるものなんだ」

 

つまり、と彼女はカツラギエースの方を指差す。

 

「一粒一粒に呪力が籠ってる。だからこの雨に当たると、呪力操作が乱れるんだよ。今みたいにね」

「術式の開示...!」

「当然。本気で君に勝ちたいからね。...さあ、勝たせて貰うよ。エース!」

 

一瞬にしてカツラギエースとの間合いを詰め、術式を撃ち込む。

 

「がっ!」

「呪力での防御、いつまで保つかな?」

(くそっ!雨のせいで呪力が上手く練れねえ!このままじゃ直ぐに限界が来る..)

「まだまだ!」

 

ミスターシービーの追撃を、右腕に受けながらも、身体への直撃は避けたカツラギエースは、稼いだ数瞬に、掌を上空へ向けた。

 

「呪力操作の精度が落ちてようと、これなら!」

 

莫大な呪力を上空に放ち、雨粒を一時的に一掃。

同時に、全身に呪力による防御を施し直した。

 

「雨粒一つ一つは大したことねえから、ちょっとの防御で済むのは助かるな」 

「確かに、これだけだと弱いかもね。でも」

 

カツラギエースの背中に激痛が走る。

同時に、水飛沫が辺りに飛ぶ。

 

「領域での術式は必中。忘れてる訳じゃないでしょ?」

「っそ。やっぱなんだかんだこれが一番厄介だな」

 

片膝を付かされたカツラギエース。

息も上がり、限界の近さを感じていた彼女は、決断する。

 

「これが最後だ。シービー!」

 

残る全ての呪力を、一か八かに使うことを。

 

"極の番"

 

「瞋炎!!」

 

再び、先程よりは小さくなってしまったものの、それでも巨大な炎球が放たれた。

 

「いいね!それでこそ!あたしの!」

 

ミスターシービーは、今度も受ける決意を固めた。

避けるのではなく、彼女の術式を上回って勝ちたい、そう、強く思っていたのだ。

 

「あたしも、全てを、ぶつける!」

 

領域内で再び衝突と、大爆発が起きる。

 

外に中継を繋ぐ呪具からの映像が乱れる様子を観客らは固唾を飲んで見守っていた。

 

『一体どちらが...』

 

そして。

映像が戻るより早く、領域が消え去り、二人は舞台へと戻ってきた。

 

「くそっ...届かなかったか...」

 

どうにか立っていたカツラギエースだったが、領域から出ると同時、ふらり、とその場に倒れこんでしまうのだった。

 

雨粒に籠っていた呪力が、カツラギエースの瞋炎を不完全なモノとし、更に呪力操作の精度が落ちていたことで、軌道が僅かに狂ってしまったことで、更にはミスターシービーの攻撃を相殺しきることが出来ず、一部が瞋炎を逃れ、それが必中効果により、カツラギエースに直撃。

その結果、彼女が倒れることとなったのであった。

 

『..7..8..9..10!』

 

10カウントが終わっても、カツラギエースは立ち上がることが出来ず、勝負が決する。

 

『Aブロック勝者は...ミスターシービー選手!』

 

ドっと沸き上がる観客席。

それを意にも介さず、ミスターシービーはカツラギエースの側に立った。

 

「今回は、あたしの勝ちだね。エース」

「ああ。完敗だ」

 

カツラギエースは、自力でゆっくりと立ち上がり、ミスターシービーと向き合った。

 

「次は、アタシが勝ってみせる」

「させないよ。でも、そうだな。それなら次は、あの席で待っていようかな」

 

ミスターシービーがチラリと見た方向には、シンボリルドルフの座る解説者席、もとい、チャンピオンの席がある。

 

「ははっ。良いな。なら、負けんなよ。シービー」

「勝ってみせるよ。ルドルフの本気も、見たいしね」

 

こうして、Aブロックはその全行程を終了した。

残るはBブロック。

そして、前年度優勝者、つまりシンボリルドルフと、トーナメント優勝者の対決である。

破壊された舞台の修復の為、休憩時間が設けられ、皆、思い思いにその時間を過ごす。

そうして、二時間後。

 

「次はシービーか、楽しくなりそうだな」

「なんやもう勝った気でおるんか?シリウス」

「まさか。まずはあんたを倒すさ。タマモクロス」

 

Bブロック決勝が始まろうとしていた。

 

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