トレセン奇譚   作:ライト鯖

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Bブロック最終戦 タマモクロスvsシリウスシンボリ

「そろそろ戻った方が良さそうだな」

 

会場付近で同門であるキングヘイローに稽古を付けていた日下部篤也は、会場より聞こえてくるアナウンスから、そろそろ決勝が近いと気付き、そう言った。

 

「そうですね。ありがとうございました。わざわざ私のために」

 

呼吸を整えながら、キングヘイローはそう日下部に頭を下げた。

 

「いいって。そういうのは。半日程度じゃ大したことも出来んかったしな」

「いいえ。色々と勉強になりました。きっとモノにして見せます」

「そんな大層なもんでもないさね」

「あら、過度な謙遜は嫌味になりますよ?」

 

キングヘイローの冗談めかした言い方の抗議に、日下部は苦笑する。

 

「参ったな。だが、実際やってることは同じ結界術だ。後は反復だろうな」

「来年、もしまた来られるなら驚かせて差し上げますわ」

「はっ。楽しみにしとくよ」

 

そう笑った後、暫しの沈黙を挟んでから、日下部は言いにくそうに、小声で切り出した。 

 

「なあ、アンタは何でシン・陰に入門した?スカウトされたわけでもないだろうし、アンタの母親なら知ってるんじゃないか。"縛り"のこと」

「寿命のこと、ですか?」

「...まあ、本当かどうかは微妙なトコだがな」

 

キングヘイローは、歯切れの悪くなった日下部とは対照的に、自信に満ちた笑顔を湛え、こう言うのだった。

 

「私が、"キングヘイロー"であるために、です」

 

日下部は、呆気に取られた顔をした後、「そうかい」と微笑した。

 

「アンタが良いなら、何も言わんが。ま、お互い頑張ろうや」

「ええ。今日は本当にありがとうございました」

 

改めて礼を言うキングヘイローに、ぶっきらぼうに手を挙げ、彼は会場へと戻るのだった。

 

『Bブロックもついに最終戦となりました!タマモクロス選手vsシリウスシンボリ選手です!』

 

その会場ではアグネスデジタルの実況が響き渡っていた。

既に色々と限界の近そうな彼女であるが、課せられた使命を全うせんとする姿勢によってのみ、意識が保たれている。

 

「回復してもらわんで良かったんか?シリウス」

「次がシービーなんだ。下手な手は打てないからな」

「ウチは前座っちゅーわけやな。まあええ。後悔させたるわ。その選択」

「別に舐めてる訳じゃないが..まあ良いさ。勝つのは、私だ」

 

開始の号令。

タマモクロスは、術式によって加速しシリウスシンボリに直接触れんと接近する。

 

「はあっ!」

 

シリウスシンボリも、タマモクロスに触れようと、彼女の向かってくる方へ手を伸ばした。

バチッと、シリウスシンボリの伸ばした手は、タマモクロスの高速に弾かれ、同時にタマモクロスの術式条件を満たされてしまい、動きが止まる。

 

「一気に決めたる!」

 

タマモクロスはそのままシリウスシンボリを場外へ飛ばそうと、スピードはそのままに腕を掴み、投げ飛ばした。

だが、場外へと落ちる前に、シリウスシンボリの硬直は解除される。

同時に、シリウスシンボリもまた、術式条件を満たしていたため、発動。

タマモクロスをS極、自身をN極とすることで、一気に両者が引き寄せられていく。

これによって、シリウスシンボリは場外を免れた。

更に、衝突する前に自身にかけた術式を解除することで、タマモクロスに再び触れられる事態は回避した。

 

「やっぱそう簡単にはいかんか」

 

惜しい!。と笑いながらタマモクロスは言う。

 

「はっ!当たり前だ。あんたの術式のことはよく知ってる。一秒の硬直。確かに脅威だが、触れられない限りどうということはない」

「ほーう。ほんなら、ウチの動きを追ってみい!」

 

タマモクロスは術式による加速で再び舞台上を駆け回り、どんどんと速度を上げていく。

 

「確かに、目では追いきれねえ。だが...」

 

シリウスシンボリは自身の身体に一度触れ、悠然とその場でタマモクロスを待ち構えた。

音速に近くなったタマモクロスが、シリウスシンボリ目掛けて突進をする。

しかし。

 

「?!」

 

タマモクロスはシリウスシンボリに接近したかと思うと、即座にはね飛ばされてしまうのだった。

"術式反転"

シリウスシンボリは、自身をS極とすることで、タマモクロスと反発することにより、彼女の攻撃を防いだのだ。

更に、タマモクロスは描いていた動きとは異なる軌跡を描いてしまったがために、一秒硬直させられる。

 

「そおれ!」

 

更なる追撃により反発を受け、タマモクロスは場外方向へと吹き飛ばされてしまう。

 

「っそ!」

 

そのまま彼女は、場外へ落ちるかと思われたが、ギリギリのところで手を舞台に付き、無理矢理反動を付けることでバックステップで飛び、どうにか場外に落ちることは防いだ。

 

(シリウスがホンマに領域を使う気がないならやりようはある!)

 

タマモクロスは、諦めることなく再加速をしていく。

 

「悪いな。タマモ」

 

しかして、シリウスシンボリもそれを傍観するほどの余裕は、当然ない。

決着を付けんと、領域とは異なる、奥の手を出す。

 

自身の周囲に結界を展開するシリウスシンボリ。

これは、ただの結界でも、簡易領域でもない。

 

"磁界標術"と結界を組み合わせた拡張術式。

つまるところ、"磁場"の形成である。

とはいっても、本来的な意味での磁場ではない。

この領域に立ち入った者は、事実上彼女の術式対象となってしまうのだ。

そういった意味では簡易領域に近い。

結界に張られた術式による磁力。

これがセンサーの役割を果たし、オートメーションで反応。

脊髄による反射で、術式を付与されてしまうのである。

 

「なっ!」

 

攻撃の為にシリウスシンボリへと向かっていたタマモクロスは結界に侵入する格好となってしまう。

瞬間、シリウスシンボリの脊髄反射による動きが襲い、彼女は術式を付与されてしまった。

 

「しまっ!」

 

シリウスシンボリに引き寄せられたかと思えば、彼女の拳と衝突するが同時に、反発。

今度は、舞台端が近かったこともあり、そのまま落下してしまうのであった。

 

「やられたー!」

 

大の字に寝っ転がり、無念を籠めて叫ぶタマモクロス。

 

「術式の相性が悪かったな」

 

覗き込むシリウスシンボリに、かのは苦笑で返した。

 

「かもしれんけど、言い訳にはならへんわ。何の対策も出来てへんかったわけやからな」

 

やれやれ、と彼女は立ち上がり、シリウスシンボリにその手を差し出した。

 

「ウチが言えることちゃうけど、気い張りや」

「ふっ。ああ。感謝する。...優勝するのは」

 

シリウスシンボリも、ミスターシービーと同じようにまた、シンボリルドルフのいる方を見、言った。

 

「私だ」

 

実況、解説者席ではアグネスデジタルが拝む姿勢を取りながら、涙を流していた。

 

「デジタル..?大丈夫か?」

 

シンボリルドルフに心配され、はっと我に返ったデジタルは、大きく首を振る。

 

「だだだ大丈夫です!正気は保っております故!」

(ルドルフ会長に強めの感情向けるシリウスさんてえてえ、とか考えてましたなんて言えない!色々不味すぎる!)

 

しどろもどろなアグネスデジタルを怪訝そうに見つめていたシンボリルドルフだったが、「まあ、大丈夫なら良いが」と引き下がる。

 

(あっぶなー!思わぬ尊さについ拝んでたー!)

 

そのまま彼女は、ふいーっと息を漏らしながら、実況マイクを掴み、職務へとどうにか復帰をした。

 

『つ、ついにトーナメント決勝ですね!』

『ああ、シリウスとシービーの対決。欣喜雀躍。どんな勝負となるのか楽しみだ』

 

そして始まる、トーナメント決勝戦。

ここで勝利した者が、前年度の勝者、シンボリルドルフと対戦することとなる。

 

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