トレセン奇譚   作:ライト鯖

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魍魎跋扈‐壱

ナリタブライアンは、生徒会室から飛び出し一直線、寮の方向へと全力で走っていた。

やがて、学園と寮を仕切るように伸びる道路、があるはずの場所へと到達する。

 

「これは…」

 

彼女の前には帳が降ろされており、学園をすっぽりと囲うようになっていた。

 

「……チッ」

 

ダメ元で手を伸ばしてみると、彼女の手は予想に反してズブリ、と帳の中へと飲み込まれていった。

 

「何…?どういうことだ?」

 

帳であるにも関わらず拒まれることなく出ることが可能なことに驚きつつも、寮の様子を確認せねばならないと、一旦困惑は放置し、帳から出る。

しかし、今度は寮を取り囲む帳が目に入る。

しかも、寮とトレセン学園を同時に取り囲む巨大な帳が外側にあることにも同時に気が付いた。

 

「…これは!」

 

少なくともナリタブライアンから見える範囲で帳は合計三枚、二重に降ろされているのだ。

身構えつつ、ナリタブライアンは寮の側に降ろされている帳に手を伸ばす。

此方も、ズブリ、と手は沈み込み、侵入可能なことが示された。

 

「……」

 

帳を潜った瞬間、彼女は強い呪力を複数感知していた。

知っている呪力と、未知の呪力。

それぞれが衝突しているようだ。

 

「アマさん達か」

 

既知の方は寮長達のモノのようだ。

そして、未知の方は、直ぐ様彼女の視界にも捉えられることになる。

複数の準一級呪霊や一級呪霊が大量に寮周辺に交戦しているようだった。

 

「アマさん!フジ!寮の方に避けろ!」

 

呼び掛けると、直ぐ様二つの呪力が寮の建物の方へと移る。

それを確認すると同時、ナリタブライアンは呪力を正面に向けた二本の指先に呪力を籠めた。

 

「グラニテブラスト」

 

莫大な呪力量と出力によって可能となる、ただ呪力を飛ばすだけの、大砲。

しかして、下手な術式による攻撃等よりも余程強力かつ、破壊力を有する。

 

一閃。

光跡を描いて呪霊の群へと向かったそれは、一度に大量の呪霊を祓う。

その後、二つの影がナリタブライアンの下へと飛んできた。

 

「来てくれたんだね!」

 

フジキセキが笑いかけ、ヒシアマゾンも笑顔でナリタブライアンに話しかけた。

 

「随分早かったね。でも助かったよ。寮の皆は避難させてあるから手が足りなくってね」

「そうか。あれで全部か?」

 

大体の状況を把握したナリタブライアンはまだまだ湧いて出るように此方へと向かってくる呪霊らを一瞥し、尋ねる。

 

「少なくとも、今のところはね」

「分かった」

 

再び、「グラニテブラスト」と呪力を放ち、群れる呪霊を吹き飛ばす。

だが、その閃光は中途で突如動きを変えた。

ナリタブライアン達の方へと戻ってきたのである。

 

「!?」

 

三人は素早く回避したことで無傷であった。

しかし、彼女の呪力が突然反転した理由は不明。

警戒をそちらへと向ける。

 

鏡台反呪(きょうだいはんじゅ)

 

指で四角を象った掌印を結んだ呪詛師が姿を現した。

 

「なるほど。カウンターの術式みたいだね」

「そのようだな」

 

フジキセキの分析にナリタブライアンも頷く。

 

「呪霊達にはまだまだ暴れてもらわにゃならんのだ。貴様の呪力がどれだけ強かろうと、この呪力を反射する私の術式の前には無力!」

 

残念だったな!とせせら笑う呪詛師。

だが、ナリタブライアンも、ヒシアマゾンも、フジキセキも、誰一人として怯みはしなかった。

 

「呪力を反射するんだってさ」

「なら簡単だな」

 

バッ、と飛びかかった三人は目にも止まらぬ速度で呪詛師を取り囲むような位置へ移動した。

三方向から同時に拳を受けた呪詛師は、そのダメージに目を白黒させることとなる。

 

「がっ…!?」

「術式の開示で有利を取ったつもりだったのだろうが、私達を侮り過ぎだな。呪力や術式に頼らず共貴様程度どうにかなる。

むしろ、詳細は伏せておくべきだったな」

「もう聞こえてなさそうだね」

「フン…聞かせるつもりもない」

 

さてそれじゃあ残りの呪霊を片付けるか、と群れの方へと注意を戻した瞬間だった。

 

「!!」

 

フジキセキが、真っ直ぐに、投球されたかのように飛来した岩、いや、土の塊に襲われ、後背へと吹き飛ばされた。

 

「フジ!」

「っ…!大丈夫!防御は間に合った!」

 

ナリタブライアンがグラニテブラストを再び放つ。

吹き飛ばされる低級の群れから、それを躱すようにして飛び上がってきた影。

 

練土操(れんどそう)

 

飛び出てきた呪霊が唱えると同時、石畳を突き破って土の棘が彼女らを狙って飛び出してくる。

 

「!っ…土を操る術式か!」

「如何にも。我は土石流の呪霊。…まったく人間の呪詛師は愚かだ。油断するなと言われたろうに」

 

呆れたように言いつつ、呪霊はのびている呪詛師をひょいとつまみ上げ、後方へと投げ捨てた。

そう、人をつまみ上げられるほどには、巨体なのだ。

 

「…どうやら本命はこっちだったようだな」

「みたいだね」

 

復帰したフジキセキを含めた三人を見回した後、呪霊は笑った。

 

「中々の実力者ばかりのようだ。やはり…油断は禁物だな」

 

言い終えるが早いか、寮周辺にあった花壇の土やらが一塊に纏められた土塊が、彼女らの頭上を覆うのだった。

 

 

「一体何が…」

 

場所は変わり、トレセン学園外。

車に揺られ、というより振り回されているような状態ではあるが、背に腹は代えられないとそれに乗り込んでいた早川たづなは、トレセン学園周辺に突如帳が下りた、という通報を受け、任務先から急いで学園へと戻っていた。

途中で、同じく事態を知ったマルゼンスキーに偶然出会った為、普段ならば絶対に頼まないことではあるものの、1秒を争うと判断し、彼女の愛車に同乗させてもらっているのだ。

 

「もうすぐ学園よ……ここからでも帳が見えるわね」

 

マルゼンスキーも、運転こそ相変わらずではあるが、神妙な面持ちである。

 

「あっ!あれは!?」

 

たづなは、帳の間近で車を降りると同時、見知った顔のあることに気が付き、駆け寄った。

 

「日下部一級術師!」

「…ああ、先日の」

「応援に来てくださったのですか?」

「ええ…まあ…近くにいたんで呼び出されましてね」

「そうでしたか。ありがとうございます」

「いやいや。どうも、俺らは入れんみたいですよ。この帳」

「…術師を拒む帳、と言うことですか?」

「恐らく。少し前にあった、五条悟のみを拒む帳、それに近しい条件付けですね」

 

日下部の言葉に、たづなとマルゼンスキーは顔を青くさせる。

 

「まさか報告にあった特級が中に?!」

「落ち着いてください。そうと決まったわけじゃない。それに"術師"を拒む帳なら、五条悟のみを拒むよりずっと簡単でしょう。別な連中の可能性は充分ある」

「…すみません。それで、他に応援の方は?」

「まだかかるでしょうなあ。特に一級や類する連中は…五条は今遠出しているのでここには来れないでしょう」

「…そうですか。分かりました」

 

礼を言ってから、たづなは帳に手を伸ばした。

 

バチリ。

弾かれてしまう。

 

「条件の緩さからして貴方は入れてもおかしくはなさそうでしたが…」

 

参ったな。と日下部は頭をかく。

たづなを見かけた時点で浮かんでいた目論見は潰えてしまったからだ。

 

「少なくとも、かなり強力な方がこれを降ろしたようですね」

 

帳を睨みつけ、たづなは、息を吐いた。

 

「日下部一級術師。マルゼンスキーさん。お願いがあります」

「なあに?」

「何です?」

「私が帳を壊します。…その間、戦闘は可能な限り避けたいのです。やり直しになってしまっても大変ですから」

「なるほど。…つまり」

「私達がこの辺りにいる呪霊を、祓えば良いのね?」

 

マルゼンスキーの視線の先には、何処から現れたのか、それなりに等級は高いだろう呪霊が、複数やって来ていた。

 

「ええ。お願いします」

「オッケー牧場!」

「了解」

 

特級がいそうな中に一人突入なんてハメにはならなくて助かった。

しかも、この辺にいるのは高くて一級。

つまり問題ねえ相手だ。

帳が解除されてもあの早川たづながいるんだ。

そう不味いことにはならんだろ。

 

日下部は内心で安堵を漏らしながら、同時に向かってくる呪霊達に対応するべく、刀を構えていた。

 

シン・陰流 居合 夕月

 

簡易領域を発動し、構える。

比較的低級だろう呪霊達は躊躇なく日下部へと向かい続けるが、それなりに知能のある呪霊は、彼から放たれる気配を察知し、後退る。

しかし、それは無意味。

日下部は簡易領域の範囲を一挙に広げ、後退っていた呪霊ごと、範囲に入れてしまった。

そして、瞬間。

簡易領域の感知によって、呪力と脊髄反射のみの超高速による斬撃が繰り出される。

簡易領域に侵入させられた呪霊達は、音を立てる間もなく、斬り伏せられるのであった。

 

 

「くっ!…テイオーさん!大丈夫?!」 

 

再び場所は変わり、トレセン学園。

そこに併設された術師としての鍛錬に使われている人工林。

その一角では、トウカイテイオーとキングヘイローが呪霊達に取り囲まれていた。

 

「大丈夫!まだまだ行けるよ!キングは!?」

「誰に聞いてるの。私は一流よ?こんな奴等に負けはしないわ!」

「だね!じゃあとっとと祓って、みんなを探そう!」

「ええ!」

 

二人は互いに背中を預けながら、呪霊達へと向かうのだった。

 

 

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