トレセン奇譚   作:ライト鯖

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魍魎跋扈‐弐

キングヘイローとトウカイテイオーは、2人を取り囲む呪霊へ、互いに背を預け向かっていく。

 

「シン・陰流 簡易領域」

 

先日、日下部一級術師から教えを受けたキングヘイローだが、当然1日程度で何かが劇的に変わるわけではない。

しかし、彼女は稽古を通して一つ気付いた事があった。

これまで、簡易領域を発動する際は、地面に両足を付けているという縛りがなければ発動出来ずにいた。

だが、何度も繰り返し、簡易領域を自らのモノとすることで、いつの間にかそれが不要になっていたのだ。

縛りを課さずとも、簡易領域を発動出来るほどには、彼女も熟練へと至っていた。

その事を知れただけでも、重要な収穫だろう。

 

「はっ!」

 

地面を強く蹴り、宙を舞いながら抜刀、刀を振るった。

彼女の真前にいた呪霊複数は真っ二つとなり、祓われる。

トウカイテイオーも、術式を使用した高速移動で周囲の低級呪霊を薙ぎ祓った。

 

「テイオーさん!さっさとここを抜けるわよ!

ウララさんを探さなきゃ。確かこっちにいるはずだから」

「本当?それなら確かに急がなきゃね。ウララの術式も必要になるだろうし」

「ええ。でも戦闘は余り得意じゃないから、早く行かなきゃいけないわ」

 

まだ残っている呪霊達を次々と斬り伏せていく。

 

「幸いここにいるのはそこまで強くないみたいね」

 

周囲を取り囲んでいた呪霊がいなくなったことを確認し、キングヘイローは周囲の呪力を探り始めた。

 

「…あっちかしら。多分ウララさんの呪力がある」

「やっぱり?ボクも感知したよ」

「そう。なら間違いないわね。行きましょう」

 

二人は駆け出し、ハルウララがいると推測される方向へと駆け出すのだった。

 

「…!オペラオー!」

「オペラオーちゃん!」

 

呪詛師に操られたテイエムオペラオーにアドマイヤベガとナリタトップロードは必死に呼びかけている。

 

「無意味だよ。…さて、想定外はあったが、帳は降ろせたし後は暴れてもらうだけだ」

 

呪詛師は楽しげに笑い、テイエムオペラオーに呪力を通して指示を与えた。

 

「…!鼓星(オリオン)

 

術式でオリオンを模した呪力体を形成し、アドマイヤベガは向かってくるテイエムオペラオーの動きを止める。

 

「無駄だよ!」

 

呪詛師の嗤い。

それと共にテイエムオペラオーはふわりと宙へ浮き、オリオンにその足を振り下ろした。

 

「なっ!」

 

力の強さがその能力である筈のオリオンが押し負け、よろける。

その隙に、テイエムオペラオーはアドマイヤベガの真前に飛び、拳を振るった。

 

「"止まれ"!」

 

間一髪でナリタトップロードの呪言がテイエムオペラオーを止めた。

だが、それも一瞬。

直ぐ様次なる行動へと彼女は移った。

ナリタトップロードに標的を変更したのだ。

 

バッ、と凄まじい速度で迫られたナリタトップロード。

どうにか防御姿勢こそ取れたものの、その勢いに吹き飛ばされ、地面に倒れる。

 

「トップロードさん!」

 

"英仙(ペルセウス)"

ペルセウスの持つ、メドゥーサの首でテイエムオペラオーの動きを止めようとしたアドマイヤベガだったが、一瞬遅く、その視線を躱されてしまった。

 

「私は…大丈夫です!…アヤベさん!」

 

ナリタトップロードは言いながら、視線を、テイエムオペラオーを操る呪詛師へチラリと向けた。

アドマイヤベガはそれを見、意図を察する。

 

「はっ!」

 

油断していた呪詛師は、突如向けられたペルセウスのメドゥーサに捕らわれ、その動きを止められてしまう。

 

「しまっ…!」

「はあああ!」

 

直接術者を倒すべく、呪力を籠めて、振りかぶる。

だが。

 

「あっ───!」

 

背後から、手痛い一撃を受け、アドマイヤベガはその場で膝を付かされた。

 

「……!はっは!ヒヤッとしたが、残念だったな。こいつは俺が操作せずとも簡単な動きは出来るんだよ。今みたいに術者の俺を守ったりとかな」

 

余裕そうな呪詛師。

アドマイヤベガはキッと男を睨み付けた。

 

「どうして…」

「あん?」

「貴方程度の呪詛師がオペラオーを操れているの…!?」

 

避けることも出来ず、オペラオーがいなければただ自身の攻撃を受けるしかなかったであろう程度の呪詛師の実力は、押して測るべし、というものだ。

そんな呪詛師に何故、彼女を操れるのかと思うのは当然だろう。

 

「気になるかい?簡単だよ。人質を取っただけさ。協力者に補助監督を拐わせて、そいつを助けたければ、とこういう訳さ」

 

自慢気に呪詛師は語る。

 

「何て卑怯な…!」

「褒め言葉だね」

 

呆れたような呪詛師の表情。

それを視界にとらえると同時、彼女の身体は衝撃と共に浮き上がっていた。

 

「さあ。そいつらを始末しろ」

 

テイエムオペラオーの放ったキックによって、アドマイヤベガは吹き飛ばされたのだ。

 

「…っ」

「アヤベさん!」

 

今度はナリタトップロードが心配そうにアドマイヤベガへと駆け寄った。

 

「大丈夫よ…」

「やっぱり、強いですね。オペラオーちゃん」

「ええ。でも、勝ち目はある…と思うわ」

 

体勢を立て直しながらそうアドマイヤベガは言う。

 

「トップロードさんも気付かない?あの娘、術式を使ってないのよ」

「あっ!確かにそうですね」

「まだ使わせていないのか。それとも使わせることが出来ていないのか」

「呪詛師の実力を考えると、後者の可能性が高そうですね」

「ええ。…もしそうなら、勝ちの目はある」

 

「何をコソコソしてるんだ?!」

その呪詛師の声を合図にテイエムオペラオーが再び二人へと向かうのだった。

 

 

「はあっ!」

 

カツラギエースの燃える拳が相対する巨体を誇る特級呪霊の、妙にでこぼこしたような真っ白い身体を貫く。

いや、貫いたように見える。

しかし、彼女の拳は大した感触を得れてはいなかった。

 

「…っ!なあ、シービー」

 

共闘するミスターシービーにカツラギエースは自身の推測を話した。

 

「やっぱあいつ…」

「うん。こっちの攻撃は当たってないね。全然感触がない」

「ああ、でも、全くって程でもないんだよな」

「その辺りにカラクリがありそうだね…試してみようか」

 

"砲水"

普段の数倍は大きくされた砲弾状の水塊が呪力を籠められ、呪霊を襲う。

 

だが、殆どはスルリ、と呪霊の身体を通り抜けて、地面で弾ける音を響かせるのみだった。

 

「……ねえ、エース」

「っと!どうした?」

 

巨体故か大したスピードはない呪霊からの攻撃を避けつつ、応える。

 

「今、あいつの真ん中より下の辺り、あそこに行った分だけ、弾けた。地面より上で」

 

呪力感知はミスターシービーの得意とするところでもある。

僅かな差異を先程の攻撃烏見抜いたのだ。

 

「本当か?!…なら、やってみるか」

 

ミスターシービーは撹乱の為に水の礫を降らせ、呪霊の意識をそちらへ向ける。

その隙を付き、カツラギエースは呪霊の巨躯へと近付いた。

 

練炎操火(れんえんそうか) 鐡火(てっか)!」

 

強力な一撃を、ミスターシービーの言った場所へとたたき込んだ。

 

「!」

 

今度は、手応えがあった。

呪霊は、うめき声を上げる。

 

「ぐうっっ…!存外早く気付かれたか…!」

 

呪霊は途端にボフン!と極薄い呪力を辺りに、煙のような白いモヤと共に巻き散らせ、二人の視界を遮った。 

 

「気付かれたのなら、こっちのが良さそうだ」

 

視界は直ぐに晴れたが、そこにいたのは、先程までの巨体と打って変わって、ミスターシービー達より少し大きい、という程度の、顔の半分は灰色っぽく、もう半分は青白い、という歪な造形の人型呪霊であった。

 

「変身…!?」

「いいや?もう隠す必要もないし開示が手ら教えて上げよう。私は、天候の呪霊。主に悪天候に対する負の感情から産まれたのさ」

 

両手を広げ、そう大袈裟な調子で呪霊は自己紹介をした。

 

「さっきまでのは雲。そいつを纏って身体の大きさを誤認させてたってわけさ。防御力も上がるし、便利なんだが変わりに速度が落ちてしまってね」

 

ニヤリ、と天候の呪霊は怪しく微笑んだ。

 

「ここからが本番だよ。適当にあしらうつもりだったが、気付かれたのなら仕方ない。…まあ、折角だ。シンボリルドルフの前座として、楽しませてくれたまえ」

 

同刻、体育館。

 

まだ呪力操作もおぼつかない中等部の下級生や治療中の者等を集め、エアグルーヴは一息ついたところであった。

だが、そう長く休んでいる暇はない。

 

「グルーヴさん!」

 

再び体育館を出ようと出口へ向かっている所にファインモーションが駆け寄って来た。

 

「どうした?ファイン」

「外に行くの?」

「ああ。まだ取り残されている生徒がいるかもしれんし、校舎の屋上で任を果たしてくれている者達の様子も見に行かねばならん」

「そう。…気を付けてね」

「ああ。…意外だな。このタイミングで来たから、てっきり私も行く、と言い出すのかと思ったぞ」

「あはは。半分当たりだね。気持ちとしては行きたいのは山々だよ」

 

ファインモーションは残念そうに苦笑する。

 

「でも、それは出来ないから」

「気持ちだけで充分だ。…じゃあ」

「待って。その…行けないのは分かってる。…でも、だから…私を納得させる理由をくれない?」

「理由?……」

 

暫しの思案を挟んだ後、エアグルーヴはファインモーションの言わんとするところを了解した。

 

「では、ファイン。お前にはここの皆の護衛をお願いしたい。SPの方達も体育館周辺を固めてくれているようだしな。…そんなことにはならないよう、全力を尽くすが、万一の時は頼んだぞ」

「ええ。副会長からのお願いとあらば。皆様のことはお任せ下さい。……ありがとう。グルーヴ。気を付けてね」

「ああ。じゃあ、また後で」

 

エアグルーヴはファインモーションに向け手を上げて、暗く染まった外へと駆け出していくのだった。

 

 

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