トレセン奇譚   作:ライト鯖

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魍魎跋扈-参

 

「砲水!」

 

ミスターシービーは天候の呪霊に対してカツラギエースと共に猛攻を続けていた。

 

鐡火(てっか)!!」

「両方共強力だねえ。…しかし、私には届かない!」

 

躱し、相殺されるばかりで、有効打を二人は与えられずにいた。

 

「シンボリルドルフのライバルと聞いていたが、この程度かい?」

 

挑発に、カツラギエースはピクリ、と眉を動かし、火力を上げる。

ミスターシービーの方は、「へえ」と挑発を理解した上で挑戦的に笑い、此方も水圧を上昇させた。

 

「良いね。だが、さっきから同じことの繰り返しだ。そろそろ飽きてきたよ」

「なら…」

 

ミスターシービーは呪霊の懐に水流を利用して潜り込み、近接戦に持ち込んだ。

 

「こんなのはどう?」

「徒手と術式の組み合わせか!良いじゃないか。だが、私に接近して良いのかな?」

 

ミスターシービーの蹴りが入りはしたものの、呪霊は余裕さを崩さない。

 

「焦熱」

 

呪霊は高温を放ち、ミスターシービーの展開している水の術式を蒸発させる程に、瞬時の上昇をさせる。

 

「っ…!」

 

反射的に仰け反るミスターシービーに呪霊は拳を喰らわせる。

 

「なるほど…猛暑的な感じかな?」

「ああ、日照りさ」

 

呪霊の術式は天候に関わることならばかなりの自由度を誇る。

故に、下手な近距離戦闘は悪手と言えるだろう。

 

 

「早くシービー達と代わりたいが…!」

 

少し離れた場所でシンボリルドルフは数多の、呪力はかなりある、呪霊に取り囲まれており、それを1体ずつ処理していた。

 

「はあっ!」

 

1体1体が1級やそれに近い呪霊であり、シンボリルドルフでも羽虫を払うようにはいかない。

だが、領域を展開すれば瞬時に片が付くだろう。

しかし、領域を展開した後に訪れる術式の焼き切れ。

その隙をつかれ、特級である天候の呪霊と、恐らく気配からして他にも控えてるだろう呪霊らに同時に襲われた場合、さすがに一人で勝利することは難しくなる。

そして、今、シンボリルドルフ自身が苦戦するほどの大量にいる強力な呪霊。

これらがミスターシービーとカツラギエースに向えば、彼女らの足止めになるだろう。

故に、応援も望めない。

領域を彼女から展開することは、現況では悪手なのだ。

 

「しかし…!」

 

シンボリルドルフはどうにかここを切り抜け、特級の相手を自分がしなくてはならない、と考えを巡らせていた。

 

ミスターシービーとカツラギエース、この2人が拘束されている事実が学園にとって痛い。

彼女達が他の娘の応援に向かえば安心出来る。

だからこそ、領域を展開するリスクを負うべきか?

いやしかし、間違えれば全て崩れる。

私が、あの2人が倒れるようなことあれば、誰がこれを鎮める。戦力が足りなくなるのは見えている!

 

それでも良い案は出ない。少なくとも、シンボリルドルフ自身がどうこうして、というやり方では。

だが、光明はある。

それはーー。

 

「ぐうっ!」

 

カツラギエースもミスターシービーも、呪霊から幾度か攻撃を受け、息も上がりつつあった。

 

「こんなもんか。シンボリルドルフもこれでは、存外大した事ないやも知れんな」

 

油断しきった嘲笑を浮かべる呪霊だったが、彼は彼女らを酷く誤解していた。

呪霊にとって、目の前にいる二人は、ただ強いだけのモブ。

しかし、二人はただ強さだけでここに立っている訳では無い。

二人はチラリと視線を交わし合うと、頷き、そしてカツラギエースが呪力を迸らせた。

 

「炎鎖」

 

ガチッと炎が鎖のようになり、呪霊の体躯を拘束する。

 

「?…なんだこんなもの」

 

直ぐ様打ち消されてしまうが、しかし、ほんの数秒、呪霊はミスターシービーから注意を逸らしてしまっていた。

 

「術式反転 出力最大 閼伽(あか)!」

「っ!?」

 

呪霊は正の呪力をモロに浴び、片腕が消し飛ばされる。

 

「少々、油断が過ぎたか…?だが!」

 

呪霊は、今度はブリザードを発生させ、超低温の礫、実質的に巨大な氷の塊を生成し、呪力を帯びたそれを飛ばす。

同時に雷撃を繰り出し、回避の隙を与えない。

 

「ぐうっ!」

 

カツラギエースとミスターシービーもさすがに対処しきれず、幾ら、相殺するために破壊した小さな礫を受けてしまう。

 

玉水法術(たまみずのほうじゅつ) 五月雨」

 

体勢を立て直したミスターシービーは細かい雨粒のように小さな水滴を飛ばし、呪霊の視界を遮った。

 

「なんだ?痛くもかゆくもないが…いや、これは目隠しか?!」

 

呪霊が察した頃には遅い。

カツラギエースは呪力を練り上げ、準備を終えていた。

 

「練炎操火 極の番 瞋炎(しんえん)

 

その強大な呪力が炎となった技は、見事に呪霊の体躯を包み込まことに成功する。

 

「ぐああっ!?」

 

さすがに呪霊も苦しそうな声をあげる。

カツラギエースの切り札は、通用したわけだ。

 

「バカな…!カツラギエース、貴様は報告では、極の番など…!」

 

彼らに来ていた報告は当然、少し遅れている。

1週間と経っていない、交流戦でお披露目された彼女の切り札を知る由もなかったのだ。

 

「最近身に付けたからな」

「そんな都合の良い偶然が許されるか…!」

「あんたにとっては偶然でも、アタシにとっては必然だったんだよ!」

 

更に一発、火球を当てられ、呪霊はグラリ、と身体を揺らす。

 

「ぐうっ…!!だが、まだまだ!」

 

呪霊は呪力を練り始め、膨大な呪力により、大技を放とうとしていることが伺える。

ミスターシービーはそれを見逃そうとしなかった。

 

「ねえ。天候の呪霊さん。一つ気になっていたんだけどさ」

 

事ここに至り、呪霊は漸く二人への認識を変えつつあった。

しかし、遅い。

彼女らをただ強いだけのウマ娘としてしか思っていなかった彼は、その可能性を考慮していなかったのだ。

シンボリルドルフの領域を封じている以上、自身が主導権を握っているのだと、信じて疑っていなかった。

 

そう、シンボリルドルフが抱いていた光明とは。

 

「何でキミだけが主導権を握っていると思ってるのかな?」

「まさか…!」

「領域展開」

 

"天翔法雨(てんしょうほうう)"

 

そう、ミスターシービーが領域を展開してしまえば、呪霊は必中効果を受けることを選ぶか、自身も領域を展開するかの二者択一を迫られることになるのだ。

呪霊は考慮していなかった。

彼女らが、シンボリルドルフのライバルであるということを。

シンボリルドルフは信じていた、二人のライバルのことを。

 

「行くよ。エース!」

「ああ!」

 

少し離れた学園の森の中。

 

「…ウオッカ、意識はある?」

 

緋色の髪を湛えるダイワスカーレットはボーイッシュな見目のウマ娘、ウオッカと共に複数の呪霊と一人の呪詛師と向かい合っていた。

だが、二人は満身創痍であり、ほうぼうのていであった。

呪詛師と呪霊の等級が、彼女らと同等かそれ以上だったのだ。

 

ウオッカは、膝を付きながらもどうにか立とうと身体を震わせており、ダイワスカーレットの方は激しく負傷した腕を抱え、息を切らせていた。

 

「問題ねえよ…!お前こそ、逃げた方が良いんじゃねえか?」

「あら、貴方よりは動けるわよ」

「言ってろ…」

 

どうにか立ち上がったウオッカはダイワスカーレットと並び立った。

 

「素晴らしいものよねえ?友情って」

 

お嬢様のような格好をした呪詛師はそう二人に視線を向け、嘲笑する。

 

「まだ動けるなんて凄いわね。でも、私に敵わないのはもう充分分かったでしょう?」

「「…それでも!」」

 

オレは!アタシは!

二人は呪力を迸らせ、呪詛師と呪霊に向かった。

 

「懲りないわねえ」

 

バシン!と空気の壁に弾かれたようにウオッカは地面に叩き付けられ、ダイワスカーレットは、大量の呪霊に囲まれる。

 

「くそっ…!何なんだこの術式…!」

「数が、多すぎる!」

 

呪詛師は、あらあらと笑い、掌を二人に向けた。

呪力と共に巨大な空気砲のような圧力を受け、二人は後背へと吹き飛ばされてしまう。

 

「ぐ…っ」

「ウオッ…カ…!」

 

二人とも限界であった。

最早、動くことも出来ない。

これまでか、とダイワスカーレットが再び呪詛師から手を向けられている様子をボンヤリと眺めながら、その目を閉じようとする。

その瞬間。

 

「ぐうお!?」

 

呪詛師の吐くような呻きを耳に捉え、ダイワスカーレットが目を開けると、そこには、白衣がたなびいていた。

 

「よく頑張ったね。スカーレット君」

 

その声に、彼女は安堵と、驚きを感じていた。

同じく、ウオッカの視界には、呪詛師をその特徴的なキックで吹き飛ばしていた、眼帯の少女が捉えられていた。

 

角笛(ギャラルホルン)には早すぎるぞ。ウオッカ!まだお前の終末(ラグナロク)の時ではない!」

 

「タキオンさん!」

「ギム先輩!」

 

二人の問題児が、そこには立っていた。

 

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