トレセン奇譚   作:ライト鯖

44 / 45
魍魎跋扈‐伍

 

トレセン学園は突然の襲撃にも関わらず、死者を1人として出さずに抵抗することが出来ていた。

これは個々の強さもさることながら、一つ、大きな要因がある。

それは──。

 

「やあっと見つけたあ」

 

不快感を催す声色がトレセン学園の屋上に響く。

呪霊、恐らく蝿の、が屋上に立つ一人のウマ娘に狙いを定め、飛び込んだ。

 

「!?」

 

だが、蝿の呪霊はナニカに阻まれる。

 

「さすがにノーガードではないかあ」

「ありがと!ネイチャ★」

 

呪霊が狙ったのは、マーベラスサンデー。

呪霊を防いだのは、ナイスネイチャであった。

 

「しかしわざわざ護衛を付けているんだ。当たりだな。クヘヘヘ」

 

蝿の呪霊は手、いや、蝿なら前足に当たる部位を擦り合わせ、ニンマリと笑った。

 

呪霊がマーベラスサンデーを狙った理由は一つ。

誰一人として致命傷を負わず呪霊側が不利に立たされ続けている要因であるからだ。

 

マーベラスサンデーの術式は奇跡(マーベラス)

彼女が"マーベラス"に思えないことは起こらず、"マーベラス"なことを起こせる術式。

 

制限と言える制限はない。

彼女が心から思えば、それで条件は成立するのだ。

 

「詳しいタネは知らないが、お前を処理すれば!」

 

呪霊はマーベラスサンデーに再度狙いを付け、呪力を放ったが、再びそれは阻まれる。

壁のようなモノによって。

 

「はいはーい。お触り厳禁ですよ〜。

一応結界術だけはそれなりに自信あるんで。簡単にやれるとは思わないでね」

「ふん。つまり、貴様自身は大したことがないというわけだ?ならば、貴様から!」

 

呪霊はナイスネイチャに飛びかかる。

だが、今度は結界術によるモノではない衝撃が呪霊を襲い、再び阻まれた。

 

「…当たり〜。だから、アタシ一人なワケがないじゃん?」

 

ナイスネイチャの言葉に被さるようにして、元気な叫び声が轟く。

 

「ターボエンジン、全開だあああ!」

 

第二撃を受け、呪霊は後背へと退かされた。

 

「なるほど…一筋縄では行かなさそうだ…」

 

蝿の呪霊は煩わしそうに漏らすのだった。

 

 

「オペラオー!いい加減、戻ってきなさい!」

 

アドマイヤベガの叫びにも、テイエムオペラオーは無反応。

呪詛師の術式はそれ程までに強力ということなのだろう。

 

「その代わりかな?こっちは弱そうだよ!お姉ちゃん!」

「なら、そっちはお願い!そいつを倒せば、きっと…!」

 

ナリタトップロード、アドマイヤベガは2人がかりでテイエムオペラオーを止め、アドマイヤベガの妹、領域内でのみ顕現可能な彼女が呪詛師を相手取る。

 

「えいっ!」

「くそっ!なんなんだ貴様は!」

「妹だよ。お姉ちゃんのね!」

 

呪詛師の防御は突き崩され、アドマイヤベガの妹が放った拳が諸に決まった。

 

「っ!!」

「はあぁっ!」

「うぐぅ!っそ。テイエムオペラオー!こっちに来い!」

 

自らの救援に操り人形としているテイエムオペラオーを向かわせようとする。

 

「"動くな"」

「"鷲"」

 

しかし、それはナリタトップロードとアドマイヤベガのコンビネーションによって阻止されてしまう。

 

「観念しなさい!悪い術師さん」

 

渾身。妹の放った全力の一撃が、テイエムオペラオーを呼ぶために注意を反らしてしまった呪詛師の顔にめり込むようにして直撃した。

 

「つあっ」

 

呪詛師は、見事な曲線を描いて地に落ちる。

そして、「ま…だ…」と意識を保たんと足掻いただろう呻きを残して、ガクリ、と力尽きるのだった。

 

瞬間、テイエムオペラオーの動きが止まる。

 

「オペラオー!」

 

2人の呼びかけにピクリ、と耳が動いたようにアドマイヤベガには感じられた。

しかし、動き出すことはなく、そのままグラリ、とゆっくりと崩れるようにして地へ向かう。

 

「ちょっ!」

 

駆け寄ったアドマイヤベガとナリタトップロード2人に支えられ、地面に衝突することはなかったが、テイエムオペラオーが高らかに笑うことはなかった。

 

 

ミスターシービーの展開した領域へ閉じ込められた呪霊は、一方的な攻撃を受け続けていた。

 

「アタシの領域で降る雨には呪力を乗せれる。…勿論、その反転も」

 

正の呪力が籠もる雨粒は天候の呪霊の体躯へ衝突する度に彼の呪力を削り取っていくのだ。

 

(このままでは圧倒的に不利…いや、それどころか…)

 

「シービー!」

「任せて!」

 

"鐡火(てっか)"

"砲水"

 

ピッタリと息を合わせた二人は絶妙なタイミングでそれぞれの術式を叩き込む。

 

雲の鎧を失った呪霊はミートをズラすことも、眩ませる事も出来ず、攻撃を受けざるを得ない。

 

(先程までよりも、重い…!この雨のせいか…)

「…ともかく、このまま無為にダメージを蓄積するよりは…!」

 

呪霊は、一つの妥協を受け入れた。

 

「"領域展開"」

 

"凄風苦雨(せいふうくう)"

 

「シービー!」

「分かってる!」

 

ミスターシービーは領域の維持に全力を傾けた。 

呪霊のそれと、押し合いとなり、互いの必中効果は相殺されることとなる。

 

ミスターシービーの領域は草原に降り注ぐ天気雨を映し出していたが、その奥から雷鳴轟く黒雲が破滅を呼び込む不吉さを帯びながら押し寄せるようにして彼女の領域を塗り潰さんとする。

 

「極の番・瞋炎(しえん)!」

 

しかし、呪霊の方も領域の維持に力を割かれることとなっていた。

カツラギエースはその隙を突き、最大火力を叩き込もうとする。

 

「ぐうっ!」

 

元々防御が困難であった極の番に対し防御を試みる真似をするはずもなく、呪霊は回避を選ぶが避けきることも出来ず、身体の半分程を炎に焼かれる。

 

同時に優勢に見えた呪霊の領域はミスターシービーの領域に押し返され、黒雲は遠ざかる。

 

「くそっ…。バカな…雨は消えた。何故、出力が変わらん!」

「根性!」

 

カツラギエースの拳を躱しながら呪霊は叫ぶ。

 

「そんな雑な理屈が通るはずがない!」

「だからといって教えてあげる必要、あるかな?」

 

ミスターシービーが挑発的に笑い、呪霊は苛立ちを募らせるのみとなる。

 

実のところ、大した理由があるわけではない。

先程までは戦況が読めない状況下で全力を出し切る事を避けていただけなのだ。

目の前の呪霊が親玉面をしているからといって、それが真とも限らない。

 

しかし、領域を展開した以上、ここで祓わねば術式の焼き切れをやり過ごす必要がある。

であるならば、全力でもってこの天候の呪霊とやらを祓い切るしかない。

故に、全力を出したことで、呪霊からは出力が上がったように感じられた。

ただそれだけのことである。

 

瑞水瀑布(ずいすいばくふ)

 

ミスターシービーの滝のごとき水流。

 

"花焔(はなび)"

 

花が咲くように呪力の籠もる炎が周囲へ散り、小さな爆発を発生させる。

 

呪霊も術式でもって相殺を試みる。

ブリザードを発生させ、炎と水、双方に押し切ろうとするが、領域の維持にも呪力を割かねばならず、威力が足りない。

 

結局、再び攻撃を受けるはめになる。

 

「くそっ…くそっ…!こんな所で…負けてられんというのに…!」

 

 

呪霊は少し前、結構前日の事を脳に蘇らせる。

 

「約束の物だよ。勿論分かってはいると思うけれど、これは強力な呪物だ。…使い道にはくれぐれも気を付けてね」

 

受け取ったそれは、あくまで借り物でもある。

万が一の保険であり、もし使用してしまえば、"彼"への大きな借りとなってしまうだろう。

後々のことを鑑みるのであれば、使うべきではないワイルドカード。

しかし、天候の呪霊はシンボリルドルフ以外のウマ娘達を舐めていたそのツケを取り立てられんとしている。

 

もはや、選択の余地は無かった。

 

「…!あれって…」

 

呪霊が口に運ぼうとするモノを見たミスターシービーは目を見張る。

カツラギエースも同様。

 

「"宿儺の指"!」

 

二人は即座に危険性を察知し、嚥下の妨害をせんと飛び込んだ。

しかし、僅かに間に合わない。  

 

呪霊の喉がゴクリ、と動き、指が彼の体内へ収まったことを告げた。

 

「ハハハハ!これで俺は…!!」

 

瞬間、呪霊は目を大きく見開いたかと思うと、無言で倒れ込んだ。

 

数秒後、倒れた呪霊の体躯から、二人が思わず後退りしてしまう程の、莫大な呪力が発せられることとなるのだった。

 

「ハハッ…。コイツは…最高の気分だ…」

 

身体に紋様を浮かび上がらせながら、天候の呪霊は喜色満面、気味の悪い笑顔で呟く。

 

「シンボリルドルフも恐れるに足らん…。ハハッ!ハハハッ!」

 

カツラギエースとミスターシービーはこの隙に呪力を練り、両者の最大火力を叩き込む準備を整えていた。

 

「術式反転 出力最大 閼伽(あか)!」

「極の番・瞋炎!」

 

今度は先程の弱々しい吹雪とは比べようもない、南極を思わせるような強大なブリザードが呪霊の身体から生み出され、三つの巨大な呪力が衝突したことで、衝撃波と爆風が発生するも、炎は無論の事、水も、術式反転ですらも打ち消されてしまう。

 

天候の呪霊は無傷、というわけではなく、身体のあちこちが欠けており、明確に術式の影響を受けていた。

天候の呪霊は余裕綽々とした笑みを浮かべたまま、グルン、と二人へ首を向ける。

指を飲む前とは比較にならない速度で与えられた傷を再生し、欠けた部位を一瞬にして治癒させ、呪霊は領域に呪力を集中させた。

 

「……っ!」

 

ミスターシービーも全力で対抗する。

カツラギエースは直ぐ様呪霊に攻撃を仕掛けるが、氷の礫、雹が彼女を襲い、動きを止められる。

同時に雷鳴が鳴り響き、1条の光線がカツラギエースへ降り注いだ。

 

「があっ…!」

「エース…!」

 

数秒遅れ、ミスターシービーは領域の主導権を奪われてしまう。

 

「指一本でこんなにも…」

 

呪霊は、楽しそうにくつくつと笑って、二人に嘲笑を向けるのだった。

 

「さあ、第2ラウンドと行こうか」

 

 





此方ではお久しぶりです。
リアルが忙しく、別作品と並行しての更新は難しかったので滞っておりましたが、どうにか更新出来ました…!
次回も更新日未定ですが完結まで更新したいと考えています。
よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。