トレセン奇譚   作:ライト鯖

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星羅の奇跡

 

まるで、山の頂上から見るような美しい星空。

レース場の内ラチを模した構造物が、星空を反射する静かな水面に立つ。

 

呪霊の出していた領域は、一瞬にしてアドマイヤベガの領域に塗り変わってしまった。

 

(バカな!幾ら劣化版とはいえ。一切の押し合いなく瞬時に押し負けたのか!?)

 

呪霊は、咄嗟に呪力を放出し、自身の身を守る体勢を取る。

領域内の術式は必中であるため、防ぐ手段はない。その上、領域には入っただけでダメージを受けさせられる環境効果が存在する場合もあるからだ。

 

「鏡台反呪」

 

カウンターの術式も発動し、アドマイヤベガの、次なる行動に備える。

しかし━━。

 

「...?」

 

一向に攻撃が来る気配も、環境効果が訪れる様子もなかった。

だが、代わりに、呪霊の目には、領域の天蓋の辺りから、光の粒が、徐々に形を成しながら、ゆっくりと降りてくる様が写っていた。

 

やがてそれは、ヒト、いや、ウマ娘の形となっていく。

完全に姿を現したそれは、私服のアドマイヤベガに対して、深い青を基調とし、白いネクタイ、左右で異なる靴といったアドマイヤベガのレースでの勝負服であるという点を除き、呪霊の目前で掌印を結ぶ、アドマイヤベガと、そっくりそのままな姿であった。

 

(何だ..?何が起きている..?)

 

呪霊は、領域の特性を計りかね、下手に動くことは出来なかった。

 

「お姉ちゃん」

 

どうにか愛敬法界から逃れることに成功し、ゼェゼェと荒い息をしていたアドマイヤベガは、背後からの声に驚き、勢いよく振り向いた。

 

「?!...嘘...」

 

姿を見た瞬間、それが何なのか、いや、誰なのかを理解したようだった。

 

「久しぶりだね。お姉ちゃん」

 

アドマイヤベガは、余りのことに、現況にも関わらず、涙を溢した。

 

「...消えてしまったとばっかり...良かった..良かった...」

 

姉の様子を見て、妹はニッコリと笑う。

 

「色々あって、お話は出来なくなっちゃったの」

 

自身が産み出した呪霊のせいだと知れば、彼女はきっと罪悪感を抱くと、妹は詳しくは語らなかった。

 

「じゃあ..でも..どうして..」

 

どうして今は話せているのか。

アドマイヤベガはそう聞きたいようだった。

 

「うーん。多分。ここが生得領域の中なことと、領域の効果のせいじゃないかな?この身体、お姉ちゃんの呪力で作られてるから、私からの接触、じゃなくて、お姉ちゃんからの接触って認識されてるのかも..?」

 

だが、妹も、原理に確信は持てていないようであった。

 

「そう..何にせよ良かっ..」

 

その時、領域の効果は先程まで、呪力で動物等を練り上げていたことなどから領域の効果を、呪力で自身の分身を作る、だと判断した贋作の呪霊が、襲いかかってきた。

 

「邪魔!」

 

だが、妹に凄まじい勢いで顔面を殴られ、吹き飛ぶ。

 

(?!完全に自立して動いているだと..何なんだ、あれは..)

 

さて、とアドマイヤベガの方に、妹が向き直った。

 

「お姉ちゃん。色々積もる話はあるけれど、ゆっくりするわけにはいかないし、一つだけ」

 

そう前置きし、彼女はアドマイヤベガにギュッと抱き付いた。

 

「ありがとう。お姉ちゃん」

「...貴方が、受けとるべき筈のものだったから..私は、貴方に償っただけ..お礼なんて..」

「償いなんかじゃないよ」

「..え..?」

「お姉ちゃんには、最初から罪なんてないんだもの」

「でも...」

「私ね、楽しかったんだよ」

 

楽しかったの。

そう噛み締めるように彼女は言う。

 

「お姉ちゃんと、一緒に走れて」

「お姉ちゃんが、お姉ちゃんの気持ちで、皆とレースを楽しんでくれたこと、嬉しかったの」

 

「私は...貴方を...忘れそうになって..」

 

日本ダービーの直後、ライバル達にあてられて、新月の度にしてきた"天体観測"、彼女は、一度、それを忘れていたのだ。

 

「私は、お姉ちゃんが楽しそうにしてるのが、一番嬉しいんだ」

「だから、お姉ちゃんは、お姉ちゃんを生きて」

「それに、言ったでしょ?お姉ちゃんに罪なんてない。今まで私が貰ったものは、全部お姉ちゃんからの贈り物。私は、もう充分貰ったから」

 

ギュッとアドマイヤベガの手を握る。

 

「だから、ずっとお礼がしたかったの」

 

でも、出来なかった。不完全に終わってしまった。

その後悔は胸にしまい、彼女は笑う。

 

「私にも、お姉ちゃんの大切な人、守らせて」

 

そうニッコリとして見せた彼女は、アドマイヤベガとの抱擁を終え、呪霊の方へと向き直る。

 

「...ありがとう..」

 

アドマイヤベガは、涙をボロボロと流していた。

 

「...ね。お姉ちゃん」

「...?」

「お姉ちゃんにとって、カレンさんって、どういう人なの?」

 

妹は悪戯っぽく笑った。

 

「友だ...」

 

アドマイヤベガは、妹の意図が分からなかった。

しかし、流れる涙をそのままに、反射的に、友達よ。と答えようとする。

だが、考えてしまう。

自分に友達と名乗る資格なんてないだろう。と。

 

(あの娘のこと。きっと、私が友達と言えば、臆面もなく肯定してくれる。けれど、私は、彼女がずっと、側にいてくれたことを。彼女の優しさを。無下にしてきた。なのに、

今更友達だなんて、虫が良すぎる)

 

そう考えた彼女は、カレンチャンのカワイく、優しい笑みを思いだし、顔を綻ばせながら、言い直した。

 

「..とても、大切な人なの..」

「うん」

「友達になりたいと、そう、思っているわ」

「そっか」

 

満足そうに頷き、妹は呪霊を指差す。

 

「なら、早くあいつ、祓わなくちゃね」

(...!そうだ。カレンさんを早く。さっき吹き飛ばされた時に見た限りでは目立った外傷はなかったけれど。まだ他に呪霊もいるかもしれない。急がなくちゃ)

 

余りの衝撃に、頭から抜け落ちかけていたことを思い出し、彼女は溢れる涙を拭った。

 

(自分のことで、頭が一杯になるなんて、本当に私は...でも、それでも、あの娘は...私を好いてくれている。だから、私は...)

 

「行こう。お姉ちゃん!」

「ええ...絶対に勝ちましょう」

 

二人は、同時に構えた。

 

「お話は終わりかあ?!」

 

贋作呪霊は空元気を見せる。

 

(奴等が向かってこないなら、少しでも領域展開とあのよく分からん分身もどきに殴られた分を回復させたかったが、さすがに間に合わないか。結局、殴られた分も回復出来ていない。"あれ"は出来るだけ使いたくはないしな..)

 

少なくとも、環境効果のない分、戦いやすい。

そう割り切ることにして、呪霊は地面を蹴り上げた。

 

「鷹!」

 

アドマイヤベガが唱えると、領域内に呪力で練られた鷹が出現する。

妹は隣にいたままだ。

生得領域の具現化である領域内では、どちからの魂が依り代となる必要がなくなっている。

両者の魂が共有している場であるため、呪力のみで形成可能なのだ。

 

アドマイヤベガに操られる鷹は、呪霊に向け突進する。

 

「...!」

 

必中であるとは理解しているものの、呪霊は反射的に避けようと身を躱した。

 

ビュンッと呪霊の真横を鷹が通り過ぎる。

 

(..必中じゃない..?)

(必中じゃないの..?!)

 

呪霊とアドマイヤベガは、それぞれに、領域の基本効果である必中効果がないことに驚愕を隠せなかった。

 

領域展開

織女星供

この領域は、必中効果も環境効果も存在しない。

あえて必中効果に該当するものがあるとするならば、それは、本来は魂のみであり、誰にも感知されないはずの妹が、領域の呪力によって呪力の肉体を得、領域内全てのモノにその存在を認識させることが当たる。

そう、この領域は、アドマイヤベガの妹の存在を強固にするためだけの領域なのだ。

 

領域の押し合いに対する強さを保証。

また、アドマイヤベガ自身の呪力を強化することで、術者の呪力切れ、若しくは死による領域の消滅可能性を削減。

これらを、領域の基本効果であり、最大のメリット、必中効果の削除によって行っているのだ。

妹の存在を、より確かなモノとするために。

 

「はっ!」

 

鷹を避けた贋作呪霊であったが、アドマイヤベガの妹にもいつの間にか迫られていた。

彼女は、領域の性能を理解しているのだ。

但し、アドマイヤベガには伝えない。

詳細を理解していないこと、が"縛り"となって、更なる強化が行われているからだ。

 

「豪掌術」

 

妹に強力なキックを当てられながらも、呪霊は、同時に反撃を行い、彼女の腕を吹き飛ばした。

 

「...ああ!..」

 

アドマイヤベガが顔を歪め、呪霊は、してやったり、という顔をする。

 

しかし、妹は、悪戯っぽく笑い、そのまま、呪霊を殴り付けた。

吹き飛ばされた筈の腕で。

 

この領域内においては、彼女の呪力の肉体は幾ら傷付こうとも、領域の呪力によって瞬時に再生をする。

更に、ポルックスの能力もあり、魂もほぼ無敵だ。

 

「ここに限り、私は最強よ!」

「お姉ちゃん!」

 

もう一発呪霊にパンチをお見舞いし、姉へ呼びかける。

ホッとした様子のアドマイヤベガは声に反応し、頷いた。

 

「鷹」

 

呪霊は、殴られた衝撃で、今度は避けることが出来なかった。

 

「ぎっ...」 

(この分身のようなナニか..術者の娘よりも強い..!)

 

本来、アドマイヤベガの妹は、術式の大部分も呪力の大部分も姉の方に行っており、微弱な呪力しか持たない、筈であった。

だが、彼女は、肉体がないこと、基本的に誰からも感知されないこと、二つの呪縛が課されているようなものだ。

呪力の肉体が無ければ、魂そのままであり、なおかつ自身の存在の維持のために莫大な呪力を消費している。

そのせいで、自身の偽物の呪霊と互角以下であった。

しかし、本来、手に入れる筈だったモノが何もない彼女は、代償として、莫大な呪力と、強力な呪力出力が与えられている。

領域内で肉体を与えられ、自由に動ける今、その力の全てを、発揮することが出来るようになったのだ。

当然、領域内でしかその力を発揮出来ないことも"縛り"に含まれている。

呪縛と、それによって得られる力を発揮できる機会が限られていることへの縛りという二重の縛り。

織女星供内で、彼女に敵う術師は殆どいないだろう。

 

「せいっ!」

 

軽々と呪霊を蹴り飛ばす。

 

「ぐあっ..!」

 

吹き飛んだ先には、アドマイヤベガが構えていた。

 

「はあっ!!」

 

アドマイヤベガのパンチで呪霊は反対方向に吹き飛ぶ。

 

「ナイスパスお姉ちゃん!」

 

再び飛んできた呪霊に、妹は飛び上がって脳天に足を振り下ろした。

 

「.....!...!」

「えーいっ!」

 

体勢を立て直す暇もなく、呪霊はまた吹き飛ばされる。

 

「獅子!」

 

固い爪に切り裂かれ、更にアドマイヤベガにパンチをお見舞いされ、呪霊は、転がり倒れた。

 

(術者の娘も、先程より強くなっている..!)

 

そう、妹が唯一肉体を持てるこの領域を維持するために、アドマイヤベガ自身も呪力が強化されている。つまり、結果的に身体能力も向上しているのだ。

 

二人は呪霊をパスし続け、呪霊が逃れそうになる度に、鷹や獅子の攻撃で動きを止め、やがて、二人で連続して殴り続ける程にまで距離を詰めていった。

呪霊は、息つく間もなく、攻撃を受け続け、どんどんと弱っていく。

 

(抜け出せない..!)

 

死のイメージが過った呪霊は、出し惜しみすべきではない、と奥の手を放つ。

 

「...!!」

 

突然、贋作呪霊が爆発し、アドマイヤベガと妹はその衝撃で吹き飛ばされてしまった。

 

「ハーッ。ハーッ..」

 

呪霊は、息も絶え絶えといった様相ながら、どうにか、二人から僅かながら距離を取った。

 

「..術式の呪力消費が大きすぎる上、身体の再生にも呪力が消えるから使いたくはなかった..」

 

どうやら、自爆に近い術式のようで、呪霊の身体は大きく欠損している。

 

「俺は、6つまで術式を持てるんだ...今のは、身体の一部を引き換えに、莫大な呪力を発生させ、それを高出力で放つ術式だ..」

 

言いながら呪霊は欠けていた腕を再生する。

 

「消し飛ばしてやる..」

 

呟きと同時に、呪霊の身体が光輝き始めた。

 

「俺の全身の半分を使って、お前らを確実に消す」

 

もはや、先程までの余裕さはどこにも見当たらず、ただ目前の脅威を排除しようとするだけの存在になっていた。

だが、さすがに身体の半分を呪力に変換しきるには、多少の時間が必要となる。

 

そして、二人がそんな隙を見逃すわけもなかった。

 

「お姉ちゃん!」

「..ええ!」

 

アドマイヤベガの方は少しふらつきながら、二人で同時に呪霊へと向かっていく。

 

呪霊の方も、この隙をただ待ってくれるとは思っていない。

飛び上がって二人を回避しようとする。

 

「...?!」

 

しかし、呪霊の足は動かなかった。

 

「髪の毛」

 

幾重もの髪の束が呪霊の足を固定していたのだ。

逃げることの叶わなくなった呪霊は、絶望に顔を染めた。

「待っ...」

 

二人は、拳を合わせ、呪霊の腹目掛け、拳を振り下ろした。

 

領域内における妹の肉体はアドマイヤベガの呪力によって形成されている。

つまり、彼女の放つ拳にはアドマイヤベガの呪力が乗っている。

二人は、同じ呪力で呪霊を殴った。

それも、殆ど同時に。

これは、何を意味するか。

アドマイヤベガの拳と妹の呪力の同時衝突、妹の拳とアドマイヤベガの呪力の同時衝突、両者それぞれの拳と呪力の同時衝突。

これら四つの可能性は、通常よりも、高めるのだ。

空間を歪ませ、黒い火花を呼び起こす、可能性を。

 

         黒    閃(こくせん)

 

(黒い、火花...!?..先程までのものより、ダメージが..!)

 

黒閃

打撃との誤差、0.000001秒以内に呪力が衝突した際に生じる空間の歪。

黒い火花の如く呪力が迸り、平均して通常の2.5乗の威力を叩き出す。 

 

そして、黒閃を決めると、術師は、アスリートで言うゾーンに入った状態になり、高まった集中力は、連続して黒閃を呼び起こす可能性を更に高める。

 

「「はああー!!」」

 

再度、動きを揃え、二人はもう一発、呪霊に拳を放った。

 

         黒    閃

 

「がっ...!」

 

呪霊は、そのまま吹き飛ばされ、領域の天蓋に衝突したかと思えば、反射して勢い良く地面に叩きつけられるのだった。

 

「やった...!?」

 

叩き付けられた呪霊は、起き出すことはなく、そのままザフッと、砂塊が風に消し飛ばされるようにして、その姿を消滅させた。

 

呪霊の消失を確認したアドマイヤベガは、フーッと一息ついたかと思うと、身体をよろめかせる。

 

「お姉ちゃん..!」

 

幸い妹に受け止められたが、かなり無理をしていたようで、ふらふらと足取りが於保ついていなかった。

呪霊の攻撃力特化の術式を二回受け、劣化とは言えカレンチャンの術式をもろに受け、脳に大きな負担がかかっている状態で領域を展開。その後、呪霊の爆発に巻き込まれたのだ。

むしろよく立っていると言うべきだろう。

 

「カレンさんを..」

 

そう呟き、アドマイヤベガは領域を解除しようとするが。

 

「じゃあ。お姉ちゃん。またね」

 

その言葉に、ピタリと動きを止めた。

 

「え..?..あ..」

「うん。私はここでしか肉体を持てないから」

「..そう..よね..」

「そんなに悲しまないで。お姉ちゃん。またいつでも会えるしさ」

 

朗らかな調子で妹はそう慰める。

 

「..ありがとう。本当に...」

「私こそ。お姉ちゃんと話せて、役に立てて、嬉しかったよ」

「またね..」

「うん、またね!お姉ちゃん」

 

領域が解除される。

既に空は闇に包まれており、僅かながら星々が瞬いていた。

 

「..カレンさん!」

 

まだ、目を覚ましていないカレンチャンへと駆け寄り、様子を確認する。

 

(ケガはない。頭を強く打った?呼吸は..)

カレンチャンの胸に手を当て、心拍を確認しつつ、顔に耳を近付ける。

スーッスーッと、小さな寝息を、アドマイヤベガの耳は捉えた。

 

「寝てる...」

 

そう気付いた瞬間、アドマイヤベガの身体から、フっと力が抜け落ち、倒れそうになる。

 

(ダメ。カレンさんを連れて、山を降りなきゃ)

 

そう振り絞り、立ち上がった瞬間だった。

 

(...?!)

 

ゾクリと嫌な気配を背後に感じ、振り向く。

 

「なんで...!」

 

先程祓った筈の、贋作呪霊がそこには立っていた。

 

「最後の攻撃をもらう直前に、術式を発動させたのさ」

 

余裕のない笑みで、呪霊はそう語った。

 

(俺の最後の術式は、小型の式神に、呪力を預けて貯蓄し、必要に応じて引き出せるというもの。あの芦毛の娘に領域展開した後、分身娘と戦う為に引き出した分、ラッシュから逃れるために呪力爆発を行い、それの欠損を修復した分。そして、やられる直前に全呪力の引き出しを行うことで、ギリギリ消滅を免れたわけだが..完全回復には、使いすぎて足りなかった..しかし..)

 

「今の貴様を倒すくらいなら、問題はない」

 

ボコボコにされたことで、プライドをいたく傷付けられた"贋作の呪霊"(にんげんもどき)は、怒りに燃えた目を、アドマイヤベガへと向けた。

 

「...っ!」

(領域を長時間展開していたからか、術式が発動出来ない。しかも、身体もまともに動きそうにない..)

(折角、折角、あの娘にも会えたのに...カレンさんに...!)

 

アドマイヤベガは、絶望しながらも、ふらつく身体に鞭打ち、構えた。

 

瞬間。

バチバチッと何かの迸る音が響き、それと共に、呪霊の腕が吹き飛んでいた。

 

「...は?..」

 

「我が校の生徒が、お世話になったようだね?」

 

鮮やかな鹿毛の中央を走る流星。

悠然と、それでいて威厳に満ちた佇まいのウマ娘、トレセン学園生徒会長、シンボリルドルフがアドマイヤベガと呪霊の間に、立ちはだかるようにして現れた。

 

「ルドルフ会長...」

「すまないね。遠方にいて遅れてしまった。カレンチャンは大丈夫か?」

「..眠ってるだけです..」

 

そこに、ガサガサと茂みを抜け、更に増援が駆けつけてきた。

生徒会副会長の二人である。

 

「エアグルーヴ、ブライアン。二人の離脱を手伝ってやってくれ」

「はい」

「ああ」

 

ナリタブライアンは、未だ眠ったままのカレンチャンを抱えあげ、エアグルーヴはアドマイヤベガの肩を支える。

 

「歩けるか?」

「...はい..ありがとうございます..そうだ、呪霊は、複数の術式を使います..」

 

その言葉を最後に、アドマイヤベガは意識を沈める。

 

「アドマイヤベガ」

 

エアグルーヴの腕の中に倒れたアドマイヤベガにシンボリルドルフが声をかける。

 

「ありがとう。後は任せてくれ」

 

そう語るが早いか、不味いと察し、既に逃げ始めていた呪霊にシンボリルドルフは一瞬にして詰め寄っていた。

 

「今更逃げるのか?」

「..ひっ!!」

 

軽く殴り飛ばされ、その場に呪霊は倒れ込む。

 

「一つ、聞きたいことがある。君の様なコミュニケーションも取れる、強い術式も持つ呪霊が、何故、こんな山に突然現れた?ここで発生したわけではないだろう?」

「..答えたら、見逃してくれるのかい?」

 

諦念に包まれた呪霊は、一周回って開き直った様子を見せた。

 

「残念ながら見逃すことはない。だが、学園で捕獲しておくことにはなるだろう。命は助かるぞ?」

「...ごめんだね」

「そうか。ならば..」

 

シンボリルドルフは呪霊に、術式を放つ。

雷の様な電撃が雷鳴と共に贋作呪霊を撃ち抜いた。

 

黒焦げになった呪霊だったものは、プスプスと煙を放ちながら、灰が散らばる様にして消え去るのだった。

 

 

 

-翌朝 トレセン学園-

 

「...!」

 

目を覚ましたアドマイヤベガは、ガバッと起き上がり、自身にかけられた白い掛け布団を見つめた。

 

「...保健室..?」

 

そこは、トレセン学園の保健室であった。

意識を失った後に運ばれたのであろう。

 

「...!カレンさんは..?!」

 

辺りを見回すと、横のベッドに見慣れた彼女が、もたれかかっていた。

 

「あ、おはようございます。アヤベさん」

 

いつもと変わらぬ笑みを浮かべるカレンチャンを見たアドマイヤベガは、声をかけようとしたが、上手く言葉が出ないようだった。

 

「大丈夫ですか?アヤベさん..?」

 

カレンチャンに言われ、彼女は、目から涙がこぼれ落ちていることに気が付いた。

寝ているだけ、そう分かってはいたが、直接無事を確認するまでは、やはり不安だったのだ。

 

「大丈夫」

 

言いながら涙を拭い、アドマイヤベガはカレンチャンに向き直った。

 

「カレンさん」

「はい?」

「昨日の、昼間、覚えてる?」

「お話、ですか?」

「ええ、あの時の続きを話たいの..」

「分かりました」

 

カレンチャンも姿勢を正す。

 

「カレンさん。私..その..」

 

アドマイヤベガはギュッと布団を握った。

 

「今まで、ごめんなさい。私、貴方に..酷いことを..」

アドマイヤベガの謝罪に、カレンチャンは、一瞬戸惑った様子を見せた。

 

「アヤベさん...」

「私が、悪かったわ。あの時は、殆ど八つ当たりだった。それにその後も、ずっと..」

 

「...カレン。とっても悲しかったんですよ」

 

頭を下げたアドマイヤベガにポツリとカレンチャンの言葉が刺さる。

 

「...あの時のアヤベさん。もう死んでもいいかのように言うから..」

「ごめんなさい。もう、思ってもいないわ」

「あの時からずーっと、任務ばっかりで、身体が傷付いてても、お構い無しに、本当に死にに行こうとしてるみたいで..!カレンは..」

 

溜まっていたものがあったのか、堰を切ったようにカレンチャンは言葉を溢れさせた。

 

「ごめんなさい。もうそんなこと思ってないし、これからは、任務も少し控えるから..」

「許しませんっ!」

 

カレンチャンの強い語調に、アドマイヤベガはピクリと肩を震わせる。

 

「そうね、許さなくても良いわ..それ程のことを私は..」

「お詫びに、カレンにアヤベさんの時間を沢山ください!」

 

アドマイヤベガの言葉を遮り、カレンチャンはそう強く言った。

 

「....!」

 

アドマイヤベガが顔を上げると、少し目は赤らんでいるが、いつものようなカワイイ笑顔を浮かべるカレンチャンと目線が合った。

 

「...ええ、勿論...ありがとう」

 

胸が詰まりそうな感覚を抱きながら、アドマイヤベガは、了承するのであった。

 

「その、それで..その為にというか..それと関わってというか..もう一つ、話したいことがあって..」

 

少しの間を置き、一度深呼吸をしたものの、モジモジとした様子で、アドマイヤベガはそう切り出した。

 

「その...」

「私と、友達になってくれませんか?」

 

顔を赤らめながら、緊張した面持ちのアドマイヤベガから飛び出たその台詞に、カレンチャンは一瞬キョトンとした顔をする。

が、しかし、直ぐに破顔し、思わずといった調子で、笑い声を上げた。

 

「あははは!」

「..え?..」

「ごめんなさい。つい..アヤベさんすっごく真剣な顔だったから、ちょっと身構えちゃって」

 

そう可笑しそうに言いながら、目から溢れていた涙を拭い、直ぐに彼女はこう応えるのだった。

 

「勿論!これからも、よろしくお願いしますね。アヤベさん♪」

 

とびっきりにカワイイ笑顔で、心の底から、嬉しそうに笑って。

 

 





これにて全話投稿です。
読んでくださった方、ありがとうございました。

もしかしたら別の娘主人公で続きやるかもしれません。
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