「今まで気配を感じなかったのにな」
突然に現れた呪霊を見定めながら、ミスターシービーは訝しんだ。
「そうだな。しかもこのフォルム...報告にあった山に伝わる妖怪そのものだ」
カツラギエースも、警戒しながら、付け加える。
「ひ、ひ人の子よ...」
警戒する二人に睨まれている呪霊が、辿々しくそう口にした。
「...!?」
「言葉を..」
「わわ、私のふ、封印..をを解いたのはははお前達かかあ?」
二人は顔を見合わせた。
まるで、本当に伝説として伝わる妖怪かのような言い草。
「封印はマジだったってことか..」
カツラギエースが呟き、ミスターシービーも首肯する。
どうやら、山に伝わる妖怪伝説は、本当であったようだ。
呪霊が封じられていた何かが壊れたのだろう。
それが経年劣化や事故によるものかは分からないが。
「とにかく、やるしかねえな」
言うが早いか、カツラギエースは地面を蹴りあげ、呪霊に飛びかかっていた。
「練焔操火・
炎を纏わせた拳で、呪霊を殴り付け、拳の衝突によって火の粉が周囲に飛散する。
「ま待ちなさい。わわたしの封印をとといたのは、あなたたたちか?」
ダメージにも拘らず、呪霊は苦しむでもなく、先程と同じ様な言葉を繰り返した。
「...アタシ達じゃないよ」
ミスターシービーが答える。
「おい!シービー!」
カツラギエースは少し慌てた様子になった。
不用意に呪いの言葉に答えない方がよいからだ。
「そそうか...ななら、みみのがそう。いいまされば、ゆるそそう」
「何を..」
「わわたしのふ封印を解いたもものには、感謝もしていいるが、封石をを足蹴ににされたたのはきにくわわんんのだだ。こ殺しはしなはないが、て手足をももいでややる」
「どうやら、バカやった連中がいるみたいだな」
若干呆れたような声色でカツラギエースは溜め息をついた。
大方、村の伝承を小馬鹿にするような外の人間か何かが石を壊したかしたのだろう。
そう二人は察した。
「因みにだけど、その封印を解いた連中にやり返した後はどうするつもり?」
ミスターシービーが尋ねる。
「むむらの連中はは、み皆殺しだだ。私を封印しした奴ららだ。ゆゆるささない」
「そ。なら帰るわけにはいかないな」
言いながら人差し指と中指の二本で銃を向けるようなジェスチャーをミスターシービーがすると同時に、大砲の弾の如く形成された水を発射され、呪霊の腕を吹き飛ばした。
「玉水法術・
「そそうか。おままえたたちも、敵ななのだな」
腕を再生しながら呪いはそう言った。
次の瞬間。
「...!」
ミスターシービーの両腕が、呪霊の伸ばした体毛によって固定されてしまっていた。
「
呪霊は、体毛を逆立てていき、それを刺のように固めていく。
「
ミスターシービーの腕に絡まった毛に、カツラギエースがマッチの火から錬った炎の刀身で斬りかかり、腕を解放した。
「油断するなよ」
「うん。ありがと」
玉水法術・
両腕が自由になった瞬間、ミスターシービーが術式を発動し、自身の後背から滝の様な勢いで水を放出する。
同時に呪霊が、刺となった体毛を発射し拡散した。
水圧に押し負け、殆どの刺は落とされ、そのまま水流が呪霊に高速で直撃、そこをカツラギエースが畳み掛ける。
「炎六花!」
呪霊の身体に呪力が迸り、雪片のように広がったそこに沿って、炎が一気に噴出した。
「ああつついい!」
さすがに呪霊も苦しむ様子を見せる。
だが、祓えはしなかった。
呪霊は燃えながらもその体毛を拡散させ、ミスターシービー達を襲う。
素早く身を躱して、燃える体毛を避けていく。
しかし、スコールの如く降り注ぐそれを完全には避けきれず、二人はある程度は呪力での防御によって凌いだ。
僅かな隙を付き、呪霊が今度はカツラギエースを拘束しようと髪の束を伸ばした。
だが、勘づいたカツラギエースは自身の目前に火柱を作り上げ、拘束を防ぐ。
「はっ!」
大技の術式でも発動しようとしたのか、攻撃が一旦止み、今度はミスターシービーがその隙を付く形で呪霊へと飛びかかり、足を勢いよく振り下ろした。
だが、その攻撃は呪霊が体毛を固めたため防がれてしまう。
「残念。でもこれならどうかな?」
術式・濁を発動させ、呪霊を水に浸し、間髪入れずに再度足を振り上げた。
カツラギエースもそれに合わせて、炎を纏わせた拳を呪霊に向けて振り抜く。
体毛が呪力の籠められた水に浸したことで、体毛を覆っていた呪力コントロールを乱れさせ、水分で毛を萎びさせたのだ。
これにより、硬化が一時的に無効化したため、今度は二人の攻撃にも手応えが生まれた。
「畳み掛けるよ。エース」
「ああ」
「玉水法術・砲水」
「練焔操火・十文字」
巨大な水塊が呪霊を襲い、それと同時に呪霊の頭上と、真横の宙空に呪力の籠められたマッチが投げられ、一呼吸置き、水の炸裂と同時にマッチの炎が強力な火柱となり、十字型に重なり合わさる。
「ぐあああああお!」
苦しそうに呪霊は呻いた。
そこに、ダメ押しとばかりにカツラギエースが飛びかかり、燃える拳で、ミスターシービーは水流でそれぞれ止めの一撃を放った。
ザフッと塵芥が散らばるようにして呪霊は消え去り、後には近辺に若干燃え移ってしまった炎と風の音だけが残るのだった。
「ふぅー。祓えたね」
「ああ。悪いけど炎消してくれねえか?」
一息付いたミスターシービーにカツラギエースがそう頼む。
「おっけー」
術式で付近に燃え移りかけていた炎を消し、今度こそ二人は丁度良い岩に腰掛け息を付いた。
ふと、カツラギエースが呪霊と出くわした辺りに目を向ける。
「おい、シービー」
「ん?」
カツラギエースが指差す方向には、粉々になっている石屑、しかし、残穢を僅かに感じる上、何か文字の刻まれた後のある石、が散らばっていた。
「...これって」
「誰かが壊したんだろうな」
恐らく先程の呪霊が封印されていたのだろう石は明らかに人為的に破壊された形跡があった。
石に籠められていた封印の呪力が年月が経過して弱まっていたことで、一般人でも破壊出来てしまったのだろう。
カツラギエースは頭をかき、ミスターシービーは苦笑した。
「..ったく。だが、あいつの口振りからしてまだこれを壊した奴らは無事っぽいよな」
「だね」
「保護しにいくかあ」
「ほっといても良くない?もう呪霊は払ったしさ。結構自業自得に思えるけど」
「そういうわけにもいかないだろ。ケガしてるかもしんねえし、そいつらだけで山を降りられるとは限らない」
「うーん。真面目だねえ」
言いながらもミスターシービーはやれやれと立ち上がっていた。
カツラギエースはそんな彼女の様子に笑みを浮かべ、岩から降りる。
丁度、その瞬間のことだった。
「「うわああああ!」」
複数の男性の叫び声が辺りにこだました。
「シービー!」
「分かってる」
駆け出すカツラギエース。
ミスターシービーも、殆ど同時に動き出していた。
道から逸れた林の奥、二人の若い男達が腰を抜かしながら後退りをしている。
更に近付くと、視界遮っていた木々の間から彼らが対峙しているモノも見えてきた。
「呪霊..!」
その見目は、2~3mはあろうかという巨躯で、狐か犬の様な頭に幾つもの目がギョロギョロと蠢き、その尾は二つに別れて、下半身を覆う狩袴から飛び出ており、二足歩行、狐憑きや犬神の様であった。
(遠目からでも分かる。あの呪霊、さっきのよりも強い)
ミスターシービーが、呪霊に気付かれていない内にと先制攻撃を仕掛ける。
玉水法術・瑞水瀑布
滝の様な水流が呪霊に向かっていく。
だが。
「幻」
人のモノとは思えぬ気色の悪い声が、彼女らの耳に届いた瞬間、呪霊と水流の間に岩壁が現れ、術式を弾いてしまった。
「...?!」
驚愕しながらも、カツラギエースも攻勢に出る。
マッチを呪霊に向かって複数投げ付け、術式を発動した。
「
マッチの炎が球形に纏まり、雪玉位の大きさになると同時に、銘々に散らばったマッチだった火球が呪霊を狙う。
だが、既に呪霊は二人の存在に気が付いていた。
呪力の放出で火球を落としていく。
それに呪霊に狙われていた男達も巻き込まれかけるが、ミスターシービーが水の壁を作り防御。
カツラギエースが飛び込み、二人を抱え、滑り込んで距離を取った。
「大丈夫か?」
男達は、青ざめた顔で小さくこくこくと頷くだけだった。
「走れ..ねえよな」
仕方がねえ。とカツラギエースは二人を降ろし、言う。
「そこでじっとしてろ。助けてみせるから」
火を付けたマッチを二人の近くに置き、炎のドームを形成、男達を覆った。
カツラギエースはそのまま呪霊に飛びかかる。
「鐡火!」
拳の衝突と共に炎が弾ける。
だが、呪霊は全く怯む様子はなかった。
「エース!」
ミスターシービーの声が聞こえた瞬間、呪霊を足蹴にし、後背へと飛び退く。
そこを再び水流が襲う。
(今度は壁を作らなかった..?)
微かな違和感を抱きつつも、二人は攻撃の手を緩めない。
相手が狐にせよ犬にせよ、明らかに一級以上と思わしき相手だ。
一切の手加減は命取りになりかねない。
ミスターシービーの水流の反対側から、炎の渦も呪霊を襲う。
だが、ついに動き出した呪霊はそれらを難なく避けてみせた。
「火刀薙!」
後背に飛び退いた呪霊に、カツラギエースが炎の刃で斬りかかる。
瞬間。
「
「エース?!」
ミスターシービーの声で、彼女は気付く。
炎の刃が消えていることに。
(...!!)
咄嗟に腕で呪霊の伸ばした大きな足を防ぐ。
軽く吹き飛ばされ、地面を滑るようにして着地。
だが、呪霊は間髪いれずに襲い来る。
「
幾つもの水滴を硬化させ矢のように飛ばし、ミスターシービーが呪霊を足止めした。
「サンキュー」
カツラギエースはその隙に体勢を立て直し、再び術式を発動しようと構えた。
その時、彼女の視界は、捉えてしまう。
先程、男達を守るために出していた炎のドームが消えていることを。
(何でだ..?!..不味い!)
意識がそちらに割かれた瞬間。
呪霊はカツラギエースを突き飛ばし、男達へと一直線に向かっていった。
「待て!」
駆け出すもむなしく、狐のような呪霊は男達を前足、いや、腕で掴み、そのままその場から走り去っていくのだった。
次回更新は未定ですが、木曜日までには投稿するつもりです。