楽園のアンフェール 作:匿名希望
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妹弟子?
記憶を取り戻してから100年ほどが経過したが、この短い間にも俺の生活は大きく変わった。
「姉さん。起きろ、朝だぞ」
まず一つ目の変化。それは、朝姉さんが自分で起きなくなったことだ。
今までは朝食ができた辺りで毎日起きて来ていたのだが、段々と寝過ごすようになり、その度に起こしていたらいつの間にかこれが日課となっていた。
「……んっ」
毛布越しに体を揺するが、姉さんは毛布を顔まで被って抵抗する。ここで起きるときと起きないときがあるのだが、こうなってしまうと中々大変だ。
無理やり布団と姉さんの間に腕を潜り込ませ、抱き着くようにして抱え込む。
「ほら。飯出来てるぞ」
「……眠い」
「ちょっと……って、うおっ!」
本来ならこのまま抱きかかえるなり何なりすれば起きるのだが、どうにも今日は機嫌があまり良くないらしい。
くっついたまま無理やりベッドに引きずり込まれてしまった。
「……せまい」
自分から引きずり込んで文句を言う姉さんだが、それも当然だ。少女と
「んー……アン、体戻せ」
「……はぁ」
姉さんは魔法の腕だけでなく朝の弱さも世界一だな。まあ、たまにはいいか。
ため息を吐きながら、俺は自身に掛けているとある魔法を解除する。
すると、ゆっくりと時間をかけて俺の体は小さくなっていき、今度は俺が姉さんの腕に収まってしまった。
「よし……むにゃ」
満足そうに呟くと、すぐに穏やかな寝息が聞こえてきた。……二度寝速すぎだろ。夜遅くまで研究しているからだよ全く。
頬を撫でる温かい息にくすぐったさを感じながら、俺は逃げられないことを悟った。
────この100年で変わったこと2つ目。それは俺の体の大きさだ。
いつまでもショタっ子のままでは格好がつかないだろう? ……と言っても、魔族は基本生まれたままの姿から成長することはない。
それを知り、もう二度と背が伸びないと絶望していたところで、姉さんから「魔法で体を作り替えればいい」という神アドバイスを貰ったのだ。
姿を変える魔法自体は割とメジャーで、人間魔族共々使用している。
しかし、それらの魔法は他者の認識に作用するもので、それは変装の域を越えないため普段使いには向いていない。
そこで活躍したのが前世の知識である。
そう。俺は成長した後の自分の肉体を魔法で生成することに成功したのだ。幸いにも魔族の身体構造は人間とさほど変わらないため、自分の体を解析しながら開発した。
発動中は常時魔力を消費するが大した量ではない。それ以上に、大人の体は筋力や一度に放てる魔法の量が大きいというメリットがある。
ついでに言っておくと、女体化することも同様に可能だ。
その場合、魔法を同時使用した際の精度や柔軟性が上がるが、空間把握能力が下がる。そのため状況によって使い分けると強いだろう。
しかしこちらには制約がある。大人化したときと違い、種族がエルフになってしまうのだ。何故なら肉体の解析は姉さんに協力してもらったから。
魔法の発展のためだと自ら協力してくれたが、服を全部引っ剥がした段階でその威厳は失せ、顔を赤くしてプルプルと震えていた。
別に姉さんの体じゃなくても良かったんだけどな。そこら辺の女性を誘拐して、全てが終わったら精神魔法で記憶を消すことを提案したが、「そんな子に育てた覚えはない!」と怒られてしまった。
確かに倫理的にマズい行動だ。長年生きているから狂っただけで、魔族の脳を持っているからではない……と信じたい。
終わった後に記憶を消すことも言ってみたが、何故か「なんか嫌」という理由でキレ気味に断れられてしまった。
解析の途中
その旨を伝えるとすぐに機嫌を直していた。チョロい女である。
そういうことで、俺が女体化すると姉さんそっくりになる。若干俺の方が背が低く、幼い風貌といったところか。
そして、姉さんの体をまさぐったことは、女体化の魔法以外にも興味深い結果を与えてくれた。
「……やっぱり魔力量の再現は出来ないよなぁ……」
体を女体化し、内側で魔力を練ってみる。魔力の質などの変化はあっても、姉さんの魔力量自体を再現することは叶わなかった。
つまり、魔力の総量を決めるのは肉体ではなく、そこに紐づけられた魂ということになる。
これは完全に考察だが、魔族にとっての魂というのは、魔力を繋ぎとめる磁石の様な物なのだろう。死亡することで魂が消失、または昇天し、結束力を無くした魔力が塵となって消えていく。
魔族が死んだら何も残らないというのは、そういった理由があるのかもしれない。
「……俺も同じなのか」
魔族は害獣だ。姉さんや、最近よく遊びに行っている村の住人の話を聞けば痛いほど分かる。
それに、最近は俺自身も魔族と相対する事が多くなった。
だが、人の見た目をした生き物を殺すことは、現代日本を生きてきた俺にとってはかなりハードルが高い行いだった。
初めて魔族に魔法を放ったとき、そいつが跡形も残らず消滅したことをよく覚えている。
良かったと思ったよ。もし上半身の一部だけが残るみたいな状態になったら、間違いなくトラウマになっていたからな。
「……」
人の心を理解できず、死せば諸共塵となり消えていく。その後自分が生きた証は何一つ残らない。
そんな哀れな種族である魔族。そこに、自分が分類されているという事実が、時々たまらなく怖くなる。
「……お姉ちゃん」
そんな恐怖を、俺は目の前で眠る大事な家族の胸に顔を埋めることで誤魔化し、ひとり眠りにつくのだった。
結局起きたのは昼過ぎになってからだった。
どうやら女体化したまま寝てしまったらしく、先に目が覚めた姉さんには大層驚かれた。
「思ったんだけどさ、俺の魔法って世間的には呪いって扱いになるのかな」
昼食を済ませ、俺はいつも通りゼーリエと緩く魔法についての雑談をしていた。
記憶を取り戻すまでは、精神魔法耐性を完璧にするためしっかりと訓練していたが、それを終えてからは割と自由にしても良いとのことらしい。
「お前の魔法と一括りに言っても、いろんなものがあるだろう? 具体的にはどの魔法だ」
確かにそう言われればその通りだ。
一つの魔法を追及し続ける魔族の性質に反して、俺は色々な魔法に手を出している。……といっても、数百年生きれば長生きとされる魔族に対し、俺が長生き過ぎるのが原因なのだが。
「うーん……『肉体を変化させる魔法』は……別にそんなに人に害は無いからいいとして、『原子を操作する魔法』もただの物理だし……あ、魂関連の魔法とかは?」
まだ実用には至っていないが、生物の魂を魔法に転用する技術を開発中である。
例えば魂をいくつかに分割、それらを補完し合って1つが破壊されても問題ないようにする魔法とか。俗に言うマリオの残機みたいなイメージだ。
魔力量的にも、仮に何十等分したとしてもそこら辺の魔族には負けない自信はある。いくら肉体が強くても、核爆発とかに巻き込まれたら流石に死ぬ気がするし、残機を持つことは将来的に考えても悪くない話だと思う。
「それは間違いなく『呪い』になるだろうな。現時点で魂というものを観測し、それを物として扱えるのはお前だけだ。これに関しては感覚的な話だから、記憶を読んだ私でも理解できん」
そう。俺が姉さんと肩を並べる、あるいは上回っている魔法は3つだけしかない。
1つは先ほど言った『原子を操作する魔法』。
無から物質を作り出す魔法はありふれているが、そのどれもが物質に対する漠然としたイメージから生成するものだ。
俺や姉さんとは違い、物質や元素の仕組みを知っている生物はこの世に居ない。仮に人間が数百年かけて解析したとして、物理学が発展しない限りは使用することは出来ないだろう。それほどこの魔法の術式は複雑なものだ。
そして、物質に対するイメージが固定化されてから知識を得た姉さんに対し、魔法を学ぶ前に理解していた俺とでは操作精度が大きく異なる。
それを、魔法に対する知見や魔力だけで俺と同程度に扱える姉さんはマジで化け物だ。
2つ目は『精神魔法』。これに関しては『記憶を読む』『幻覚を見せる』『記憶を植え付ける』などの魔法を複合した名称だが、これは言わずもがなだ。
この世界に姉さん以外で俺に精神魔法を掛けられる生物はいない。断言できる。
何なら姉さんですらも「無力化して相当な時間をかけないと無理」という非常に高い評価を貰っている。
「つまるところ、今後魂関連の魔法を扱う魔族が出てきた場合でも、それは『呪い』という扱い方をされるだろうな」
ここまでは俺と姉さんが同程度扱える魔法だ。最後の一つは俺が明確に上回っている魔法。それが魂に関連する魔法ということだ。
「なるほどねぇ……」
仮に姉さんが言ったことが正しいとして、俺と同じ経験をしていない生物が、俺と同程度に魂を扱えるとは思えない。
魂を扱うと言っても表面的な情報……例えばそれがもつ魔力の量や、生物の魂から魔力を抜き出すなどの使い方しかできないと思う。
「……まあ、何度も言っているが、魂を扱うのならそれ相応の覚悟はしておけよ。それは間違いなく禁忌の力だ。お前の世界の兵器なんかとは比べ物にならない程のな」
苦虫を嚙み潰したような表情で、何度聞いたか分からない警告をしてくる姉さん。
俺と同じ研究をして痛い目を見たのか、それとも魂について何か知っているのかは定かではない。だが、しっかりと止めるよう言われない内は、この研究を止めるつもりは無い。
何故なら、これから悠久の時を生きるであろう姉さんを、一人ぼっちにさせたくないからだ。この魔法を極めれば、それが出来ると信じている。
神話の時代を生きた賢者エーヴィヒでも、創り上げることが出来なかった不老不死の魔法を、俺は魂の操作という側面でアプローチしてみようと思う。
「ってことで、またちょっくら山の上まで行ってくるわ。あれ掛けてよ。無補給のやつ」
何を突拍子の無いことを言うのだと思うかもしれないが、最近は割と大陸北部の山脈に引きこもって研究をすることにハマっている。
馬鹿みたいな量魔力をぶっ放しても誰にもバレないし、何より生き物なんて居ないため周りの被害を考えずに実験ができる。
「……分かった」
『無補給無酸素状態でも生存できる魔法』を姉さんにかけてもらい、少し離れた開けた場所に、認識阻害と熱を遮断する効果を持った結界を張る。
「半年で帰って来い。それで効果が切れるからな」
「えっ、この前は丸一年だったじゃん」
「お前が居なかったら誰が私の飯を作るんだ?」
「……分かったよ」
仕方のない人だ。少しは弟離れしてほしい。悪い気はしないけどね。
「じゃ、行ってきます」
「ああ。行ってらっしゃい」
簡易的なジェットエンジンを製作し、それを足元に取り付ける。気分はさながらアイアンマンだ。
……今度スーツを作ってみても良いかもな。動力は俺の魔力にすれば行けそうだし。
轟音と共に加速し続け、あっという間に俺たちが住む森の全体像が見えてくる。
認識阻害の魔法を掛けたまま、俺は目的の方向へと高速で進むのだった。
────────────────
それからちょうど半年が過ぎた。魔法が切れるのと同時に山を発ち、天空で体に当たる風を感じながら、俺はこの期間で得られた成果について考えていた。
「やっぱ短いよなぁ……」
俺達に比べれば半年なんてあっという間のはずなのに、姉さんも勘弁してほしいものだ。これじゃあ心配で寿命なんて迎えてられない。
「マジでもっと頑張んないとな」
食事を楽しみに待っているであろうブラコンエルフのことを考えながら家へと向かう。もうすぐ到着するくらいのタイミングで、知らない魔力が俺の魔力探知に引っかかった。
認識阻害の魔法をかけ、ゼーリエの魔力を再現し玄関前に降り立つ。不明な魔力は裏庭から発せられている。
そのまま家を沿うようにぐるりと回り、魔力の元となる人物を覗き見る
……別に真正面から見てもバレやしないが、こういうのは雰囲気が大事だ。って、なんだこれ?
そこには俺の知っている裏庭は無く、一面花畑となっていた。そして、魔力はその真ん中から発せられていて……え?
「女の子?」
「ん? せんせい?」
そこにいたのは、美しいオレンジ色の髪を持つ小さな女の子。素の姿の俺より頭一つ小さいくらいだろうか。
思わず認識魔法を解いてしまったため、魔力に気が付いた女の子が振り返る。
「えっ? ……だれ?」
可愛らしく首を傾げ、不安げに呟く女の子。
……いや。こっちのセリフだよ。
全身くまなく弄られ、恥ずかしがるゼーリエ様を想像してしまった。
普通に興奮した。
幼女フランメの登場です。末っ子ポジション。
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