楽園のアンフェール 作:匿名希望
遅れてごめんなさい。
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どうやらこの子の名はフランメというらしく、姉さんが出先の街で拾ってきたらしい。……っておい。
「あのなぁ。俺が家を空けることが多いからって攫ってこないでよ。小間使い欲しさにさ」
バルコニーから庭で動物たちと遊ぶフランメを見ながら、隣で紅茶をすする姉さんを咎める。
というより、前世だったら小言じゃ絶対済ませない。俺も気づかぬうちに倫理観がぶっ壊れていることを自覚して複雑な気持ちになる。
「まるで誘拐したみたいな言い方はやめろ。保護したんだよ。フランメの住む町は、魔物に襲われてもう存在しないからな」
「……なるほどね」
疑ってごめんなさい。……と思ったが、どうしてわざわざ家に連れてまで保護しようと思ったんだろう。近くの街に届けるとかならまだしも。
「なんでそんなことしたの?」
姉さんと3000年近く暮らしてきたこの家の付近には、知的生命体が入れないように結界が張られている。理由は単純、この家には俺と姉さんが作ったオーパーツがアホ程存在するからだ。2人共ものぐさだからね。利便性には勝てないよね。
ここにフランメが居るということは、姉さんがわざわざ結界の設定を変えてまで、彼女をここに招待したということになる。
「お前、どこであいつの魔力を探知した?」
「どこって、飛行中だけど……ああ。そういうことか」
その一言で合点がいった俺は、もう一度魔力探知に集中する。
すると、フランメから溢れる魔力の量に気が付いた。
「私以外の魔法使いと会わせなかった弊害だな。話を聞いた限りだが、私に拾われる前はロクに魔法を習ったことが無かったらしい。唯一使えた魔法が『綺麗な花畑を出す魔法』だとさ」
とすると、魔法の鍛錬を積んで半年か。姉さんとずっと暮らしていて感覚が狂っていたが、それでこの魔力の多さは普通に化け物だ。
ってか、裏庭の花畑はフランメが出したものだったのか。魔法で生成されたものだとは分かっていたが、明らかに姉さんの趣味じゃなかったから驚いた。
「で、どうするの? やっぱり弟子にする感じ?」
「もちろんだ。フランメは
……ふーん。姉さんを越える……ねぇ。
「なんだ? 妬いたのか?」
その評価を聞いて、一瞬だけ冷めた表情をしたことがバレてしまったようだ。
姉さんはニヤニヤと笑いながら、上目遣いを向け挑発する。
「才能で言ったらお前も負けてないぞ。だが人間の成長は驚くほど速い。うかうかしてると置いていかれるかもな?」
なるほど。ここに来てライバル出現というわけだ。
フランメを弟子にすると同時に、俺に対する発破掛けとしても使おうという算段らしい。姉さんらしい狡猾な立ち回りだ。
「やってやるよ」
どうせ惰性で生きていたんだ。ならば、その挑発にまんまと乗せられるのも、悪くはないだろう。
「原子操作魔法関連は俺が教えるから。良いよね?」
この家に連れてきたということは、前世の知識を使った魔法も教えるということだろう。なら、姉さんよりも俺が教えた方が良い。
「もちろんだ。だが、私がフランメに付きっきりになるからと言って彼女に嫉妬するなよ?」
一体何を言っているんだろうかこの女は。
「何歳だと思ってんだよ。もういい加減姉離れしたわ」
てか、そもそも甘えた記憶とかねえし。
「ふっ、ならいい。ならば早速特訓と行こう。まずお前は現代知識に関する座学を……「ちょっと待てよ姉さん。それより先にやることがあるだろ」……なんだ」
全く。心根は優しい癖して、こういう所に疎いのは変わらないな。
意気揚々と出した指示に割り込まれ、不貞腐れた表情で聞いてくる姉さん。
そんな姉さんに、俺は一本指を立ててこう言い放った。
「────新しい家族を迎えるんだ。なら、歓迎会をやるのが基本だろ?」
「ほーらフランメちゃん。お兄ちゃんが作ったケーキだよ?」
「おいしい? よかった~。今度作り方教えてあげるから、一緒に作ろっか!」
「一番好きな魔法? そうだな……これなんてどう? 『
「ははは、気に入ってもらえて何よりだよ。じゃあこれも今度教えてあげるね」
「ちょ、姉さん? いや、なんでキレてんの? フランメちゃんビビってるって」
────────────────ー
私がフランメを拾ってから一年が過ぎた。
突然妹弟子が増えたことにより生活が一変するかと思いきや、案外そうでもなかった。いつもと変わらず、私はベッドでまどろみながら二度寝と洒落込もうとしているところだ。
そんな中、どたどたと廊下を勢いよく走る音が聞こえてきた。
音は私の部屋を通り過ぎる前に止まり、その瞬間自室のドアが思いっきり開かれる。
「師匠! 朝だよ! 起きて!」
「ぐふっ」
大声と共にベッドに飛び込んできたのはフランメ。
私たちの生活で変わったところの一つだ。いつもはアンが起こしに来ていたからな。
「んー……まだいいだろ」
「駄目だよ!」
何だかんだ言って重要なとき以外は私に甘いアンに対し、フランメは絶対に寝坊を許さない。
ドンドンと布団越しに脇腹を叩かれる。
「分かった……分かった。今起きるよ」
……まあ、口ではこう言ってるものの元から起きる気ではあったんだぞ?
人間の寿命は短いからな。アンの様にゆっくり指導していたらすぐに寿命が来てしまう。
目を擦りながらゆっくりと起き上がり、冷たいフローリングに足を付ける。
「アンー! 師匠起きたよ!」
すると、フランメはまた勢いよく部屋を飛び出していった。
「……部屋に入るときはノックをしろと教えとくか」
その方がアンも助かるだろう。多分。あいつも男だからな。
身支度を済ませてリビングへ行くと、キッチンに立って朝食を作るアンと、その横から興味深そうにフライパンの中身を見つめるフランメの姿があった。
…いつの間にか私より仲が良くなっている気がして少し複雑だ。
「おはよう姉さん。もうすぐ出来るから座って待ってて」
そう言ってこちらを見つめて微笑むアン。
昔からずっと変わらない光景だが、こいつの背はかなり大きくなったな。私より頭一つ分以上背が大きい。……と言っても、こいつは魔法で体を作り替えているだけなんだが。
因みにフランメはアンの腰くらいだ。
「傍から見たら父と娘だな」
そんな感想が自然と出てきた。この状態のアンは角も隠しているし、本当に親子に見える。
「じゃあ師匠がお母さん?」
小首を傾げながら聞いて来るフランメ。
「だったら大変だぞフランメ。毎日寝るか魔法の研究ばかりしているからな。後怒ると怖いし」
そんな彼女に対し、アンは意地の悪い笑みを浮かべながらそう語った。
ちなみにフランメちゃんという呼び方はキモいので止めさせた。何故かは知らんが鳥肌が立つ。
「えー……じゃあ、師匠とは結婚したくないの?」
子供らしい純真な質問だ。……エルフは基本的に結婚や子孫を残したりすることは無いからな。その分長命にして釣り合いを保っている。
アンに関してはよく分からない。最近よく姿を隠して人間の集落に立ち入っているらしいが、どうにもこいつが女を見つけて結婚する姿が想像できない。
優良物件ではあるはずなんだがな。強いし顔も良いし怒らない。後世話を焼いてくれるのもポイントが高い。……まあ、人間と結婚することは無いだろうな。寿命が違いすぎる。
フランメの相手をアンに任せ、私は椅子に座りテーブルに置かれた紅茶をすする。
「うーん……」
まあ、ともあれアンの返答には興味がある。くくく……失礼なことを言ったらシメてやろう。
フライパンを振りながら首を傾げて唸るアンに、私の意識が集中する。どうせこいつのことだ、失言するに決まってる。
「まあ、もう結婚しているようなもんじゃない? 別に血も繋がってないし」
「!? げほっ……んん゛!」
「割と優良物件だと思うけどね姉さん。強いし顔良いし、何だかんだ言って優しいし。……弟の俺が言うのもなんだけどね」
一体何を言っているんだこいつは!? ……危うく噴き出すところだったぞ全く。
冗談にしては悪質にもほどがある。フランメならすぐに信じるだろうに。
「おい……! 「多分俺が人間のままだったらプロポーズしてたんじゃないかな。今はこの体だからアレだけど」……っ!?」
だから何を言っているんだ本当に! 正直な性格だとは思っているが、普通本人が居る前で言うことじゃないだろ!?
「へー! でも、そう言うのって師匠が居ないときに言うものじゃないの? お父さんとお母さんはそうだったよ?」
ほら、もっと言ってやれフランメ。この人の心が分からない天然ジゴロ魔族に。
「いやいや、わざと本人の前で言ってるんだよ。こうでもしないと、恋愛経験ないくせに余裕ぶっこいて受け流すからさ」
「……おい」
ニヤニヤとこちらを見ながら語るアンに対し、自分でも恐ろしいほど底冷えした声が出た。
それを聞いて途端にビクッと固まる二人。
「……お前ふざけるなよ」
何時からこんな生意気な男になったんだ。そんな男に育てた覚えはないんだがな。
「い、いや……ほら、本心! ガチで本心だから! 普通に家族としても異性としてもめっちゃ魅力的だと思ってるし……って何言ってんだ俺!?」
「じゃあ余計にタチが悪いだろ! 気まずいにもほどがあるぞ馬鹿!」
自分でもわかるほどに頬に熱を帯びてて嫌になる。
他人への配慮は凄くできるのに、これが正の感情になると歯止めが利かなくなるのはアンらしいが……今はフランメだっているんだぞ。
そう言い放つと、アンは露骨に勢いを無くし落ち込んだ。形の良い眉が八の字になっている。
「……ごめん。嫌だった?」
「別にそうは言っていない。……そりゃあ嬉しいが……時と場合を考えろ。私が言いたいのはそれだけだ」
その言葉を最後に、辺りには沈黙が漂う。……そうだ。良い事を思いついた。
気まずい空気の中、私は立ち上がってアンの隣まで足を運ぶ。
「……姉さん?」
困惑するアンに抱き着き、その大きな背中に手を回す。
後ろでフランメが嬉しそうに息をのむ音が聞こえたが、そんなことを気にしている場合じゃない。
「いつもありがとう。……大きくなったな」
アンの大きな……男らしい胸板に顔を埋め、そう呟く。
今度は自分でも驚くほど優しい声が出た。
「姉さん……」
それを聞いたアンは嬉しそうに呟く。私が怒っていないと安心したことに加えて、完全に気が抜けている様子だった。
「────引っかかったな?」
「えっ」
アンの顔を見上げながら呟くと同時に、彼の体に掛かっている『肉体を構築する魔法』を解除する。
「ちょ、マジか!?」
アンの肉体が魔力の塵と共に消えてゆき、程なくして見慣れた姿となった。
「私をからかった罰だ。数年は解けないようにしているからその姿で過ごせ」
「あぅ……まじかー」
魔族特有のピンと立った角をデコピンで弾くと、アンは相対的に大きくなった頭をくらくらと揺らして呟いた。
そういえば、アンはフランメにこの姿を見せたことが無かった気がする。まさかフランメも、
「えっ……アンって魔族だったの?」
「「あっ」」
そこには、泣きそうな顔でこちらを見つめるフランメの姿があった。
「姉さん?」
「……分かった。私からちゃんと説明する」
幼フランメは多分こういう子だと思う。
義理の姉弟の恋愛…薄い本だと王道ですよね。
ということで、バイト12連勤中の投稿でした。次も少し遅れるかも。
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