楽園のアンフェール 作:匿名希望
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フランメが姉さんに弟子入りして3年が過ぎた。
分かっていても人間の成長というものは早いもので、姉さんが教える基本的な魔法の扱いだけでなく、俺が担当する現代知識を利用した魔法も着実に上達しつつある。
もちろん俺もおちおちしては居られない。もはや魔族としての習性であろう魔法の研究……魂を操作する魔法の研究を進めている。
そして今。そんな俺たちは……
「よし、次はフランメ。お前だ」
リビングにある一本の柱、その前に立ち、後ろに立つフランメに声をかける。
「うん!」
フランメは楽しそうに頷いた後、柱に背中をくっつけてピンと背筋を伸ばした。
俺はそんな楽し気な2人を、3人掛けのソファに横になりながらジッと見つめる。
「……はぁ」
憂鬱なため息が出てしまったが、これには切実な理由があるのだ。……男の沽券に関わる、重大な理由が。
「危ないから動くなよ」
姉さんがフランメの頭ギリギリの位置に、小さな『風の刃を放つ魔法』を撃つ。
ひゅっという風切り音と共に、フランメが背を付けた柱一文字に細い傷がついた。
「よし。いいぞ」
フランメが柱から離れる。
姉さんは今さっき付けた傷と前からあった傷を見比べたと思えば、ニヤニヤと性格の悪い笑みを浮かべた。
「く……くくく。良かったなフランメ。アンよりも大きくなったぞ」
「え! 本当!?」
……だよなぁ。最近なんか見上げること多くなった気がしたもん。
フランメは柱に駆け寄り、付けられた傷をジッと見つめる。
「えっと……ほんとだ! やった!」
そうはしゃぐ彼女の瞳には、喜色がありありと浮かんでいた。
振り返ったフランメと目が合うと、手を引かれて強制的に立たせられた。
「えへへ……私の方が大きいね!」
「……そうだね」
フランメは手のひらをピンと伸ばし、俺の頭の上で並行に移動させる。その指先は、丁度彼女の額にぶつかる高さだった。
そう。俺はたった今、フランメに身長を抜かれたことが確定してしまったのだ。
「本当にあっという間だな。20センチ差くらいはあったと思っていたんだが」
姉さんが頭を上からボンボンと叩きながら煽ってくる……あんたもそのうち抜かされるぞ。
「俺が作ったご飯のおかげだからな!」
たぶんそこらの貴族よりも栄養たっぷりで美味しい食事を提供している自信がある。伊達に3000年料理作ってない。材料も全部天然素材だしね。
「うん! ありがと!」
……何か言い返してくれ。虚しくなるから。
「魔力量も着々と増えている。このまま続ければ、あと10年もすれば魔王軍の幹部とも戦えるようになるかもな」
姉さんがそう評価する度に、フランメの天才性を再認識させられる。
ちなみに魔王軍というのは最近……100年くらい前に突然出現した、魔王を名乗る魔族をトップとしたヤベー集団である。
最初に聞いたときは「なんか面白そうなことやってるなー」とか、「俺にも招待来ないかなー」なんて呑気なことを思っていたが、とある北の方の国が滅亡させられたと聞いて普通にビビった。
社会性を持たない、いわば動物と言っても何ら差し支えない魔族。それを束ね、人類と同程度の規律を持った軍隊を指揮しているのが魔王と呼ばれる、あまりにもそれっぽい肩書きの魔族。
そして、その魔王軍は現在人類と絶賛敵対中で、遠く離れた北の方では今も戦闘が繰り広げられている。
「……フランメには魔族なんかと戦ってほしくないんだけどね。俺としては」
膝の上で後頭部をすりすりしてくるフランメの頭を撫でながら小さくぼやく。
確かに魔族や魔王軍の存在は脅威だ。
だが、滅亡させられた国も果てにある小国だ。俺たちが今いるところは大陸中央を支配する統一帝国領の南部で、前線からも遠く離れている。わざわざ危険を冒させてまで戦いに妹弟子……家族を送りたいなんて、俺には到底思えなかった。
「駄目だよアン! 私はアン以外の魔族をぶっ殺すんだから!」
しかし、当のフランメはやる気満々なのが痛いところだ。
両親や住んでいる町が魔族に滅ぼされたのだから仕方がないのだが、それでも割り切る事なんてできない。
魔族である俺のことを受け入れてくれた辺り、憎しみ一辺倒という訳でもないのだろうが。
……だが一つだけ言わせてもらいたい。
「こら、どこでそんな汚い言葉を覚えたんだ?」
丸々とした頬をぷにぷにと引っ張りながら小言を言うと、フランメは不機嫌そうに立ち上がった。
「私もう子供じゃないんだよ! 背だってアンより大きいしっ」
「……姉さん」
まあ、言葉遣いに関しては姉さんから学んだんだろう。というかそれ以外あり得ない。
あと身長マウントを取られるようになったのも姉さんが意地悪したせいだ。
「私は何も教えていないぞ? フランメが自分で判断した結果だ」
「……さいですか」
基礎的な練習に加え、実戦方式の訓練も多くなった。
それには怪我や痛みを伴うため、そこにフランメが適応しようとした結果がこの口調なのだろう。……そういえば、弱音を吐いている姿を一度も見たことが無かったな。
……娘の成長を見守る父親はこんな気持ちなのだろうか。
「そういえば、今日はフランメの誕生日だったよな」
毎年誕生日に身長を記録しているため、今日はフランメがここに来てから3回目の誕生日を迎えた事となる。
「うん! 今日で9歳だよ!」
一昨年、去年と誕生日プレゼントを贈ってはいたんだが、一昨年はフランメ専用の部屋を増築し、去年は帝都で買った魔導書と花の標本という感じで、直接戦闘に関連するものはあえて送ってこなかった。
だが、俺もそろそろ腹をくくるべきだろう。
「誕生日おめでとう。ちょっと待ってて」
リビングを後にし自分の部屋に足を運ぶ。そして机の上に置かれた小さな装飾箱を持って再びフランメの所へ戻る。
「これ、誕生日プレゼント」
「え! ほんと!」
フランメは喜びをあらわにしながら、ひったくるようにして箱を取る。
そのまま2人並んでソファに腰掛ける。
「開けていい?」
「いいよ」
その中には赤い小さな宝石が真ん中に付けられたブレスレット……俺が作った魔道具が丁寧に入っていた。
「わぁ……! 綺麗」
ブレスレットを付けた手首を天井に向け、キラキラと赤く光らせる。
赤色というのは俺が勝手にイメージしてデザインしたが……うん。よく似合っている。
「ただのアクセサリーには見えないな。一体どんなからくりがあるんだか」
相変わらず目ざとい姉さんがそう言って笑った。
しかし、フランメにはただのブレスレットにしか見えなかったようで、小首をかしげてこちらを見つめている。
「じゃあ、説明するから外に行こう」
二人を連れて裏庭を開拓した訓練場へと向かう。
周囲への被害を考慮して半径20メートルほどのドーム状の結界を張った。
「渡して早々でなんだけど、ちょっとそれ貸して」
フランメの腕からブレスレットを外し、それを右手首に付ける。
右手をふらふらと振りながら、この魔道具についての説明を行う。
「姉さんの言う通り、これはただのアクセサリーじゃない。俺が作成したれっきとした魔道具だ」
「どういう効果があるの?」
「いったん見てて」
二人から距離を取り、魔法で15メートルほど先に成人男性程度の大きさの土人形を作った。そこを狙う様に手のひらを向け、とある魔法を発動する。
するとブレスレットに付けた宝石が煌々と光り、手のひらから放たれた光線が土人形に拳大の穴を開けた。
「今、何やったか分かる?」
「うん。『物質を崩壊させる魔法』だよね」
そう。俺が使った魔法は、『原子を操作する魔法』を派生させた攻撃特化型の魔法だ。
この魔法について説明するためには、『原子を操作する魔法』について説明をする必要がある。
とはいってもそこまで複雑な事をしている訳ではない。魔法を発動するプロセスは理屈で考えるものだが、その根底まで辿ると結局はイメージになる。この魔法は、そのイメージを現代知識によってナノ単位まで拡大したものだ。
出来ることを挙げるときりがないが、魔力を変換しての物質の創造、温度操作、分解などを主に使用している。
物質の創造に関しては、原理を理解しているものであれば何だって作れる。現にこの家や家具、家電などは姉さんがこの魔法で作り上げたものだ。
もう一度人形を作成し、フランメに手招きをする。
「正解。同じようにやってごらん」
一見万能に見えるこの魔法だが、厄介な制約も存在する。
それは、離れた場所での操作には大きな魔力を消費するということ。
魔力というのは熱と同じで、エントロピー増大の法則が当てはまる。
例えるならコーヒーにミルクを入れたとき直ぐに拡散するが、拡散したミルクがまとまることはないだろう? これと同じで、魔力を込めるなどして周囲に比べて濃くなった魔力というのは、外力を加えない限りひとりでに分散していく。
昔姉さんに「射出した後に操作する魔法は難易度が高く、魔力消費も多い」と教わったが、それはこれのせいだったりするのだ。
……と長々説明したが、結論を言うと『原子を操作する魔法』は体から離れる程魔力が分散して思うように操作ができなくなるのだ。
日常生活においては問題ないのだが、これがいざ戦闘となると話は大きく変わる。
そりゃそうだろう。いくら相手に触れれば即分解できるからと言っても、遠距離でハメられたら勝てないからね。
姉さんと摸擬戦をして良く分からされた。あの弾幕をかいくぐるのは無理だ。
────この弱点を補うために原理を逆手に取り、原子同士の結合を魔力によって無理やり分解させるビームを放つのが、この『物質を崩壊させる魔法』の原理だ。
砂でできた城に高圧洗浄機をぶちまけるみたいなイメージをしてもらえば大体合っている。
「私まだ下手くそだよ? アンも知ってるでしょ?」
だが、この魔法には恐ろしいほどの魔力操作精度が求められる。原子の結び目一つ一つに魔力を浸透させるからね。例えるなら無数に並んだ縫い糸を、同じ数だけ並んだ針の穴に通すようなもの。俺だって開発・習得に50年はかかった。
それでも形にできるのが天才フランメの凄いところで、ビームの射出自体は出来たりする。射程が5メートル程度と短いのが惜しい所だが。
「いいからいいから。これ着けてやってみな」
恐らくこの魔法を使えるのは姉さんと俺、そしてフランメだけだ。
そもそも現代の知識が無いとイメージすら沸かないし、大人になってから習得するなんて芸当が出来るのも姉さんだけだろう。魔力精度に関しても言わずもがなだ。
仮に術式の解析をされたとして、傍から見たら意味の分からない程の高精度で魔力操作を行っているようにしか見えないだろう。
つまり、この魔法は科学知識が発展するまでの数百・数千年もの間、最凶の初見殺し魔法として機能し続けるということになる。
せっかくそれを扱う才能があるというのに、中途半端なままではあまりに勿体無い。
「……分かった」
渋々と言った様子で土人形の前に立つフランメ。嫌がる理由も分かるんだけどね。この魔法結構疲れるし。
「んっ!」
フランメは手のひらを正面に向け魔力を練る。
すると、先ほどと同じようにブレスレットに付けた宝石が赤く光り、一筋の光の柱が彼女の手から射出された。
いつもなら半ばで分解されて途切れてしまうのだが、光線は真っ直ぐ土人形まで伸びていき小さな穴が開いた。
「えっ……何で?」
空いた穴から亀裂が入り、ボロボロに崩れていく土人形を見て驚きを隠せないフランメ。
「このブレスレットは、君の『物質を崩壊させる魔法』の収束を補助する効果がある。その分威力は下がっちゃうけど、射程は50メートル程度にはなるんじゃないかな」
ゆくゆくはこの魔道具が無くても使えるようになってほしいものだが、フランメはまだまだこれから成長し続けるだろうから大丈夫だ。
すると、その様子を静かに見守っていた姉さんがフランメの腕を取って興味深そうに呟いた。
「それ以外にもずいぶんと凝った造りをしてるな? この魔道具、フランメの魔力にのみ反応するようになっているだろ」
「流石姉さん。よく分かったね。別に深い理由はないんだけど」
後に解析されて使用されるのが怖かったというのもあるが、実際のところはその方がプレゼントっぽくて良いかなと思っただけだ。
「わざわざフランメの魔力を再現して使っていただろう? 簡単な話だ」
興味を失ったのか気を使ったのか、それを最後に姉さんは結界を後にして家に入っていった。
恐らく後者だろうな。気の使い方が下手くそなのもいつも通りだ。
「相変わらずだな」
そんな不器用な姉さんにほっこりとした気持ちでいると、突然フランメが後ろから首元に手を回し抱き着いてきた。
「ありがとう……! 大事に使うね!」
「そうしてくれると嬉しいな」
「うん! 早速練習しなくちゃ!」
そう言うと、フランメは同じようにいくつかの土人形を作り上げる。
「やっぱり発射する瞬間に魔力を込めた方が効率が良いのかな。……いや、でもアンはそこまで考えてなさそうだったし。射出後に魔力を込めてみる……?」
先ほどよりも威力を強くしたり、逆に細くして魔力消費を抑えたりと試行錯誤を始めるフランメ。
「フランメ?」
「うーん……」
……呼びかけても反応がない。どうやら集中モードに入ってしまったようだ。
ゾーンに入ったら人の話を聞かなくなるのは姉さんそっくりかもしれない。……あんまりその辺は似なくてもいいんだけどな。
仕方がないので家に戻ると、ベランダからこちらを見ていた姉さんと目が合った。
空を飛ぶ魔法で直接姉さんの隣に降り立つ。行儀が悪いことは百も承知だが、2人とも気にするような性格じゃないため許してほしい。
「私が言うのもなんだが、いいプレゼントだと思うぞ」
眼下で魔道具を使用するフランメを見て微笑ましそうに呟く姉さん。
「プレゼント選ぶの下手くそなの、自覚あったんだ」
「おい」
「ごめんごめん」
最近は結構上手になってきたと思うよ。俺と出会うまでの何千年の間何してたのって気持ちにはなるけどね。
「まったく……まあ、フランメの奴気にしてたからな。何回練習しても上手くならないって」
「使えるだけ化け物なんだけどね」
俺が何百年も研究して改善してようやく使えるようになったというのに、それを教えて数年で越されたら俺が悲しくなる。
「……人間の成長って早いよね」
何回言ったか分からない呟きが、フランメが撃った魔法の音にかき消された。
「何だ、センチメンタルか? 久しぶりに姉さんが慰めてやってもいいんだぞ」
「いらん」
いつまで子ども扱いするんだかこの人は。
「少し前まで花畑を出す魔法しか知らなかった女の子が、今や帝国有数の魔導使いにも引けを取らないくらいにまで成長しちゃってさ」
実戦経験こそないものの、今すぐ前線に行って魔族たちと戦ったとしても結果を残せる実力は有している。
たった3年、たった3年でだぞ? 既に成熟し切っているというのもあるだろうが、俺なんて比にならないレベルで日々成長し続けている。
俺が記憶を取り戻してから百数年。この時代の平均寿命から考えると2、3回分の人間の人生分研究し続けたのに、未だに俺の魔法は姉さんに教えて貰ったものの延長上でしかない。
「魔族を滅ぼすと言ったって、あと数千年もすれば発達した科学技術によってなし得るだろう。だが、その頃フランメはとうに寿命を迎えている」
「……そうだね」
「寿命が長い私たちは、大切な決断を先延ばしにできるんだ。だから、少ない時間の中で生きる人間たちに追い抜かされる」
どこか寂し気に語る姉さん。
俺と出会うまでに、姉さんが何をしていたかは分からない。だが、その目を見ると、過去に置いて行かれた経験があるということは何となく想像がついた。
いつも気高く、厳かな姉さんの珍しい一面だった。
「だが、お前はあの子に置いて行かれないように努力していると思うぞ」
「……何それ」
唐突過ぎて素っ気ない反応を返してしまったが、姉さんは気にすることなく続ける。
「言葉の通りだ。教える側に立った経験は初めてだろうに、ちゃんとあの子が理解できるように魔法に向き合っているだろう? 夜な夜な自分の魔法についてまとめて本に記していな。フランメから聞いたぞ。凄く分かりやすいってな」
「フランメ……!」
恥ずかしいから内緒にしろって言ってたのに……しょうがない子だな全く。
「子供は案外そういう所を見ているからな。だから、あの子はお前が魔族だって分かっていてなお信頼を寄せている」
「そういうものかなぁ」
「そういうものだ」
……面と向かって言われるとやっぱり姉さんでも恥ずかしいな。
実際、俺が家族として、師匠としてしっかりやっていけているかという不安は間違いなくあった。
俺の人格を形成することになった前世の記憶だが、正直そのほとんどが朧げなものだ。
魔法を使って思い出すことはあれど、必要な知識以外は意図的に記憶の奥底に封印してきた。なぜなら、かすかに残る家族の記憶がロクでもないものばかりだったからだ。
もし仮にまともな家庭で育ったとしたなら、記憶が戻った時点で俺は姉さんの元から出ていっているだろう。家族に対する承認欲求が満たされていたなら、彼らの元に帰ろうと努力するだろうからな。
だが、俺がメインで研究しているのは『魂を操る魔法』。具体的には寿命を延ばすことだ。その理由は姉さんとずっと暮らしていたいから。……これだけで、俺の前世の環境がどれだけ酷かったかが分かるだろう。
肉体の老化に対する対処法は既に確立している。ただ単に体を作り直せばいいだけなのだから。だが、いくら新しい肉体を作ったとしても、その生物が生きるはずだった時間を大きく超えることはないことは、動物を使った実験で証明されている。
そこで、
「研究の方も大分進んでいるようだしな。やはり人間の弟子を取るのは正解だったか」
暗にフランメに当てられて成果を出したという姉さんだったが、実際その通りなので何も言い返せない。
「怒られながらもしっかりやってますよ」
最近は自分の魂を直接弄るのではなく、動物を行った実験を行っている。それまで姉さんからはよく怒られていたが、このやり方だったら許してくれるらしい。
「……まあ、そのやり方だったら文句は言わん」
それから姉さんの協力を得られたこともあってか、百何年もの間行き詰っていた魂の研究が、もうすでに完成段階へと入っている。しっかりと確立するまで自分には使うなと言われたが、動物の魂を抜き取って、同種の動物に融合させる実験は既に成功している。
実験に使用しているのは小さな鼠だが、一年程度しか生きられないにもかかわらず、現在2年と半年に到達しようとしている。肉体の老化も半分程度といったところだ。
「安心して待っててよ。無理はしないからさ」
こんなことを言っているが、正直今はフランメにも寿命を延ばしてもらいたいと思っている。もし彼女が生きている間に安全性が確保出来たら、姉さんに内緒で話を持ち掛けるつもりだ。……バレたらめっちゃキレられそうだけど。
「アンー! 見てみて!」
こちらに手を振りながら大きな声を上げるフランメ。
手を振り返すと、見てと言わんばかりに土人形を指さして魔法を撃った。
細い線が幾つか分裂して射出されまとまって着弾する。先ほどは着弾してから崩れたが、今回は当たった瞬間に人形がバラバラに砕けた。
「すごいでしょー!」
絵にかいたようなドヤ顔を見せつけるフランメ。漫画だったらむふーという擬音が付いてるな。
「高出力で射出が不可能な点を、分解して空中で結合することで補ったか。流石私たちの弟子だな」
姉さんもご満悦のようで安心だ。
出来ないからと諦めるのではなく、工夫してそれを補う姿勢は俺も見習わないといけないな。
「そういえば、姉さんプレゼントなんか買ったの?」
「……いや、まだ買ってない」
「やっぱりね。俺行けないから1人で選んでね」
この姿で帝都まで行ったら大騒ぎどころの話じゃなくなるからね。買い物はフランメと姉さんに任せている。買い出しできなくなったのは姉さんのせいだから受け入れてもらおう。
最近はフランメが1人でおつかいに行きたいと言っているし、もうそろそろ任せてもいい頃合いかもしれないな。周辺の魔族や魔物は掃討したから、安全性も問題ない。
「……分かった」
不安そうに眼を泳がせて答える姉さん。ギャップが可愛いんだなこれが。
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一方場面は打って変わって大陸北部。魔王城と呼ばれる城の中で、1人の魔族が目を覚ました。
薄暗い部屋だが、華麗に施された装飾が彼の高い身分を証明している。
「……楽園のアンフェール」
ひとり、この世界の異物の名前を呼びながら、身を起こしてベッドサイドに腰掛ける男。
そのとき部屋の扉がノックされ、もう1人の魔族が入室する。
「
シュラハトと呼ばれた男は、気だるそうに頭に手を当てて床を見つめている。
「……いいや、何でもない。すぐに行くと伝えてくれ」
「かしこまりました」
そう言ってすぐに立ち去る男。
再び静寂を取り戻した部屋の中で、シュラハトは小さく呟いた。
「厄介な相手だ。……だが、魔族の始祖。お前には道化になってもらおう」
未来を見通す力を持ち、全知のシュラハトとまで呼ばれる魔王の側近。
そんな彼が一体何を見たのか。────それを知る者は誰一人としていなかった。
高評価や感想、ここ好き等頂けると、作者のモチベーションがぐんと上がります
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