2026/4/26 修正
フランスの特異点修復後、マシュは近距離戦への対応が課題だと感じたのか、クー・フーリンに修行を頼んで、シミュレータールームに籠もる日が増えていた。僕としては彼女がそばにいてくれると、助かるから気にし過ぎって思っている。けど、せっかく本人が頑張っているのに水を差すのも気が引けた。だから、そこの通路で出会ったリップと共に、シミュレータールームに向かっていた。
「おお、マスターにデカい嬢ちゃんじゃねーか、なんだ飯か?」
歩いていると、前からクー・フーリンがやってきた。クー・フーリンはこちらに気がつくと、手を挙げながら寄ってきた。
「あ、クー・フーリンこんにちは。ううん、これからシミュレーターでマシュが金時に師事して貰うみたいだから見学に行こうかなって」
「あの、クー・フーリンさん、デカいって私そこまで太ってないですよ!」
リップは、クー・フーリンのセクハラ発言に怒っていた。まあ、何とは言わないけどね。うん。
「ん、そうかそうか、それは悪かったな。まあ、俺よりも目線が高いからな、デカいって事にしといてくれや。んで、そうか、マシュの嬢ちゃんはゴールデンの旦那にも師事たあ勤勉なこった」
クー・フーリンはリップに謝りつつも、近くのベンチに座る。
「うん、丑御前の時に近距離での攻撃に対応できなかったって、落ち込んでいたからね。金時なら適任だよねって言ったら、頼みに行っちゃった」
僕もそれに習ってベンチに座る。金時は少し前の特異点で合流してくれていた。その装飾からリップは金ピカさんなんて呼んでたっけ。
「…目線?確かに私よりもクー・フーリンさんは小さいかもですね。なら、良いかな?」
リップは今だに、クー・フーリンの発言が引っかかっているみたい。手を頭の上で前後させ、自分とクー・フーリンの背を比べている。僕はリップの手を引いて座らせる。
「なるほどなあ、まあ、俺のこの霊基じゃあ接近戦の稽古は厳しいか。いや、槍でも一緒か。てか、嬢ちゃんよりも背では俺のが大きいからな」
手に持つ杖を弄りながらクー・フーリンは、リップに小言を言う。
「でも、根を詰め過ぎる気がするから、見学しておこうかなって」
僕はちょっと気になって杖を触らせて貰う。ふむ、重たいな。
「私も暇なのでそれに付き添おうと思って」
リップも気になったのか杖を見つめる。
「まあ、マシュの嬢ちゃんの性格的にも頑張っちまうかもな。よし、俺も行くぜ。マシュの嬢ちゃんの師匠の一人としてな」
そう言って、クー・フーリンは立ち上がる。杖はその時に返した。
「うん、なら行こう」
リップとクー・フーリンを引き連れてシミュレータールームに向かった。
シミュレータールームに入った僕たちは、複数ある部屋から使用中の部屋のモニターを見た。そこには森の中でマシュが金時と盾と拳を打ち合っている様子だった。
「あ、やってるね」
「マシュさんって私よりも堅く無いですけど頑張ってますね」
「…嬢ちゃんのブレストも十分な堅さしてるぜ」
「セクハラです〜」
うん、クー・フーリンの発言は少しセクハラだね。リップの発言も彼女の自信の現れかな?でも、セクハラだからって僕の後ろに隠れるのは、あんまり意味ないよリップ。そう思いつつ、僕等は見学室のベンチに腰かける。
「…うーん、マシュも良く反応してるけど、金時の拳について行けて無い。…いや、金時が早いのか?」
画面に映る金時とマシュは、金時が右で放つ拳をマシュは盾で防ごうとするも、触れる前に頬を掠めていた。
「まあ、ゴールデンの旦那も手加減しているみたいだからどうだかねえ」
「そうですね、盾で視界が隠れちゃってるかもしれないですね。金ぴかさんも、そこをついているみたいですし」
クー・フーリンの言う通り、これは訓練だ。手加減もしているとは思う。リップの盾が視界を遮ると言うのも合っていると思えた。
「そうだな、まだ盾に振り回されてるな。もう少し、攻撃を観るのに慣れるべきかもな」
「攻撃を観るか、マシュなら出来るようになると思うけど、今はまだ無理しそうなのかな」
攻撃を観る。それがどれくらい難しいのかは想像できない。ただ、クー・フーリンの言う通り、盾がマシュの動きを邪魔しているようにも見えた。
「でも、金ぴかさんもそこは加減するんじゃ無いかと思いますけど」
不思議そうにリップは言う。
「ま、ゴールデンの旦那も、マシュの嬢ちゃんの熱意に負けるかもしれねーがな」
「そっかあ」
自販機から紙コップを取り出したクー・フーリンは、中身を飲みながら応える。そんな僕等の心配を他所に、マシュと金時の打ち合いは続いて行った。
『…っ、ハアア!』
マシュが盾を横に構えて、金時の腹へ振るう。それを金時は腕を間に挟む事でガードした。
『おっと、今のは良いぜマシュの嬢ちゃん!次は此方から行くぜ!オリャァ゙ッ゙!!』
『…ぐぅっ!!……はあはあ』
返しの金時の拳をマシュは正面から盾で受ける。盾で受けたはずだが、ダメージが大きいのか息を大きく吐く。
『良く耐えた!だが、今のは受け流せる攻撃のはずだぜ!盾だって構えるだけじゃ痛いだけだ!良し、今度は撃ってきな!』
評価しつつ、金時は構えなおす。
「あそこを受け流せたら嬢ちゃんも楽だったんだがなぁ…」
クー・フーリンは惜しいと顎に手を当てる。
「盾で受けるだけじゃ限界がありますからね」
リップは冷静に状況を観る。
『は、はい!…ハアア!』
マシュは再び盾で攻撃する。今度は脚に狙いを定めて振るう。だが、
『狙いは解るが、甘いぜ!』
金時は狙った脚を振り上げ反撃した。
『え、キャッ!』
「あ」
「…スキを晒してしまいましたね」
脚と盾の衝突は金時の脚が勝った。その上、弾かれた盾のせいで両手を上げてスキを曝す事になった。まあ、訓練と言う事で金時は追撃しなかったが、実戦では危ない場面だ。僕はそれを観て思わず声が出た。リップの言うようにスキができていた。
『マシュの嬢ちゃん、そろそろ休憩するかい?』
『…はあはあ、もう少し、お願いします!』
金時はマシュを気遣い、中止を提案する。しかし、マシュの目はまだ諦めていない。
『……俺っちとしては良いが、マスターに相談だな。ちょうど観てたみたいだしな』
そう言って、金時はカメラに目をやった。マシュも釣られてカメラへ顔を向ける。
「マシュさん、ボロボロになってるのに諦めないんですね」
「……」
二人に見つめられているが、僕は判断に困っていた。最初は止めるつもりだったし、リップの言う通りでボロボロな身体を見て、もう無理して欲しく無い。けど、マシュの目はやる気に満ちてるし。
「…マスター、迷ってるなら止めた方が良いと思うぜ?迷う位には、疲れているってぇ事だからな」
クー・フーリンはモニター見つつ、そう言い聞かせるように言う。
「そうですね、マシュさんも最初に比べれば体力は付いてますが、まだまだ少ないですから」
リップも、クー・フーリンの意見に同意のようだ。
「そうだね、マシュ、金時、休憩にしよう」
うん、ならば僕の答えは決まったようなものだ。
『おう、了解』
『…わかりました』
少し落ち込んだマシュだが、反対する事は無くシミュレータールームから出てきた。
「二人共、お疲れ様」
「おう、どおって事は無いぜ!」
「…はい」
出てきた二人は対照的だった。金時は汗こそ有るものの、元気そうだ。一方で、マシュは汗も多くかいているし、顔色からも疲れが見える。
「マシュ、焦る気持ちも有るかもだけど無理はだめだからね、しっかりと休憩も取ってね」
「……はい」
僕はマシュにドリンクを渡す。マシュは受け取りはしたけど、返事に元気は見られなかった。
「でも、マシュの嬢ちゃんも成長してるぜ?最初は、俺っちのパンチ一発で吹っ飛んでたからな」
同じく金時にドリンクを渡す。「ありがたいぜ」と金時は受け取った。
「そうですね、最初は周りが観えて無かったですけど、最近は観えて来てますよ!」
「ああ、俺の魔術にも対応して来てるしな」
リップとクー・フーリンもマシュを慰めるように声をかける。
「ほら、皆認めてくれているからね?ゆっくりと成長して行こう?」
「はい、そうですね。もっと、先輩の役に立つようゆっくりと頑張ります!」
「うん、頑張ろう」
そう言いながらマシュの両手を握ると、彼女は少し照れくさそうに、でも嬉しそうに微笑んだ。皆もつられて笑顔になるのだった。