2026/4/26 修正
夏の一幕① 夏が始まってしまう
次の特異点へ向かう準備の最中、またしても微小特異点が発生した。向こうの状態が不安定らしく、相応の準備が必要だろうということになり、準備を進めていた。ところが、いざレイシフトを行ったら管制室との連絡が途絶えてしまった。
どうしようか、というのが今の状況だ。
「とりあえず、点呼します。まず、マシュ」
「はい、マシュ・キリエライト準備万端です!」
いつもの服装のマシュが盾を突き立てて返事する。
「点呼に準備はいらないと思うけど。次、清姫」
「
着物に砂がついて大変じゃないかと心配になる服装の清姫が答える。
「うん、暑いから少し離れてね。次、金時」
「おう、大将! ここにいるぜ」
いつものバイクを背にサングラスを光らせた金時が返事する。
「うん、バイクも一緒に来てるの……次、クー・フーリン」
「あいよ、ここだぜ。にしても、あちーな此処は」
暑そうに服で扇ぎながらクー・フーリンが答える。
「うん、同感。次、モーさん」
「ああ、いるぜ。……なあ金時、後でバイク乗って良いか?」
「おう、良いぜ!」
最近召喚された円卓の騎士、モードレッド卿――モーさんは、カッコいい鎧を脱いだ格好で金時にバイクの搭乗を頼んでいた。
「あ、僕も後で乗せて。っと、次は茨木」
「おい、暑いぞマスター。吾が鬼だと言っても暑い物は暑いぞ」
モーさんと同じく最近召喚された大江山の鬼、茨木童子。この中では一番涼しそうな格好をしているが、それでも暑いらしい。
「はい、次はマリー」
「ええ、ヴィヴ・ラ・フランス! アマデウスもサンソンもいないけど、わたし頑張るわ!」
フランス特異点の修復後に召喚されたマリー・アントワネット。今回はいつもの二人がいないぶん、張り切っているようだった。
「以上だね。全員無事にレイシフトできてよかった」
マシュ、清姫、金時、クー・フーリン、モーさん、茨木、マリー。そして、見知らぬ女性。
「……おい、私がいるというのに無視とはなかなか良い度胸だな」
「……ごめん、どちら様でしょうか?」
そこに佇むのは、綺麗な紫の長髪にナイスバディ、水着を着こなす女性だった。レイシフト時にはいなかった人だ。
「ふむ、そこにいる儂の視線から逃れようとしている弟子に聞くと良い。……いや待て、クー・フーリン、貴様、何やら特殊な事になっているな。私に隠し事とは立派になったものだな?」
そう言って、女性はクー・フーリンに詰め寄る。
「あーあー何の事だかわからねーな! ……マスター、こいつはスカサハ、影の女王様だよ。……にしても、水着たぁずいぶんと浮かれてないか?」
ウザいもの見たとでも言うような反応のクー・フーリン。やっぱり格好が気になるみたい。
「なんだ? 文句があるなら目の前で言うと良い、返答によっては──」
「無い! ねーからその槍をしまえ!」
女性──スカサハは凄むと僕は鳥肌が立つのを感じた。慌てたクー・フーリンによって落ち着いたけど、怒らせるのは避けよう。
「なんだ、つまらん」
「……ハァ、疲れるぜ。マスター、早いとこ話を進めようぜ」
そう言って、疲れたようにクー・フーリンは日陰へ歩いて行った。その背中がちょっと可哀想だった。
「えっと、スカサハさん? この特異点で何をやっていたんですか?」
「うむ、何と聞かれると少し困るが……まあ、私も此処に漂流しておってな、暇潰しに魔物を刈っておった。水着は気分だ。お主等を見つけたので近寄ったという訳だ」
少し考えたスカサハさんから聞かされるアグレッシブな話は、彼女の性格をよく表している気がする。
「なるほど。じゃあ、スカサハさんも僕らと似た状況か」
「うむ、そうだな」
「なら、一緒に協力しあえませんか?」
でも、スカサハさんにこれと言った目的は見られなかった。ならば、協力も可能だと僕は考えた。
「ああ、此方も詰まっておったのでな、そうしてくれると助かる」
「はい!」
そう言って、スカサハさんと僕らは握手を交わした。後で「呼び名はスカサハでよい」と言われた。
スカサハとの協力にこぎつけた僕達は、まず安全な場所を確保することにした。スカサハの話によると、ここは無人島で危険な魔物が生息しているらしい。安全な拠点が欲しいが、それらしい場所は見つからなかったという。人数もいるし、いっそ建ててしまおうという意見が上がり、乗り気の女性陣が多数を占めた多数決であっさり可決された。
続いて、スカサハから着替えの提案があった。確かに、みんな暑そうにしていた。スカサハとクー・フーリン(無理やり手伝い)がルーン魔術で女性陣の霊基をいじり、水着に着替えさせた。概ね好評で、みんな綺麗だった。
行動班はこう分けることになった。食料班がモーさんとマリーと清姫。資材班が金時と茨木とクー・フーリン。建築兼監督が僕とマシュとスカサハ。
―一方その頃、島の探索に向かった食料班。
「イィィヤッホウウウー!!
「フフ、モードレットもはしゃいでいるのね。でも折角だもの、わたしだってキラキラしたいわ!
「まあ、お二人も派手にされていますね。……わたくしもますたぁ旦那様に良いところをお見せしなければなりませんね! 道成寺鐘・百八式火竜薙! フフフッ」
森の中は、もはや狩りではなく一方的な蹂躙劇と化していた。彼女達の視界に入ってしまった蟹や人型の魔物、入ってない魔物ももれなく波に呑まれ、光に照らされ、釜茹で地獄へと沈んでいく。もしこの島に魔物の保護団体がいれば、いや、環境団体も卒倒するような酷い光景だった。
──対する森へ向かった資材班でも作業が行われていた。
「よっしゃ、荷台はこれで良いだろ」
「おう、茨木ー木材をこっちに投げてくれー」
「たくっ、何故吾がこんな作業をせねばならんのだ。……はぁ、行くぞー!」
茨木がストレス発散とばかりに木をどんどん切り倒していた。だが、運ぶ手段に困っしまった。そこでクー・フーリンが木材で荷台と車輪を作り、金時のバイクで牽引する手を思いついた。荷台の準備が整うと、金時は茨木に木材を投げるよう伝えた。茨木は少し嫌そうにしながらも木材を放り、金時が受け取って荷台に積んでいった。荷台がいっぱいになったところで、バイクと連結させた。
「おい、汝のバイクだったか、それに吾も乗りたいぞ」
茨木は金時が乗っていたバイクに視線を向ける。
「え……茨木じゃ運転できないんじゃないか?」
それを聞き、金時は一瞬バイクに股がる茨木を想像する。しかし、その姿はペダルに脚が届かない茨木だった。
「む、舐めるなよ! 吾は大江山の鬼だぞ、それくらいなんてことないわ!」
「けどよー……」
それを感じたのか金時に詰め寄る茨木だが、金時は困った顔を直せなかった。
「ハハ、まあ良いじゃねぇか。一回乗せてやれば満足だろ。荷台との連結は外してさ」
それを見たクー・フーリンは、面白そうに乗せればいいと言う。
「……しかたねーか。良いか茨木、俺のベアー号はちーと暴れん坊だからな、ハンドルから手ぇ離すんじゃねーぞ」
不安と言う雰囲気を崩さない金時だったが、仕方ないと茨木にハンドルを譲る。
「ふん、吾に手懐けられぬ物など酒吞以外は居らぬ」
そう言って、茨木はベアー号に跨った。ステップにギリギリ足をかける。この時、金時とクー・フーリンはまずいかと顔を見合わせた。茨木が思いっきりアクセルを捻る。普通なら動かないはずのベアー号が、茨木をがっかりさせまいとでも言うようにフルスロットルで走り出した。しかし茨木は急な加速に驚いて手を離してしまった。金時がすぐに停めて大事には至らなかったが、茨木はバイクが苦手になった。
色々あったが、再度荷台と連結させて運ぶ準備が整った。今度は安全運転で出発する。クー・フーリンは荷台の上に陣取り、茨木は渋々と金時の背中に乗せてもらって、風を受けながら走った。
──そんな二班の様子を知らない僕たちは、スカサハ主導のウッドハウス建設の打ち合わせをしていた。
「スカサハ、木材でウッドハウス造るって言ってたけど、設計図とかは大丈夫?」
僕はそういえば見せて貰っていなかったものについて尋ねた。
「なに、儂のルーン魔術にかかれば細かい所はどうとでもなる」
スカサハは少量の木材を前に簡単そうに言う。
「……ルーン魔術。クー・フーリンさんも使われる魔術で、ルーン文字を使った謎の多い魔術ですね」
「へー、便利なんだね」
マシュはそのルーン魔術に目を輝かすが、僕には凄さがよく分からなかった。まあ、便利なんだなーくらいだった。
「そうさな、細かい作業から戦闘まで幅広く役に立つからな。お主も習ってみるか?」
「うーん、やめておくよ。なんか良くない予感がするから」
うん、スカサハのその提案はなんかめんどくさそうです。
「そうか、まあ、それも良いだろう。現代では過ぎた力故な」
スカサハは特に深追いせずにこの話は終了となった。
「あ、金時さん達が帰ってきましたよ!」
「良し、では建設開始だな」
マシュの指さす方向には、バイクでこちらに向かって来る金時の姿が見えた。
運ばれた木材を金時と茨木が運び込み、スカサハとクー・フーリンが指先で宙にルーンを描く。すると、丸太が自動で削られ、まるでパズルのようにカチャカチャと組み上がっていく。そして、でき上がった材料から金時が支え、スカサハとクー・フーリンが仕上げていった。だんだんと砂浜に丸太の壁に柱ができていく。その間に食料班が帰還した。
「おーい、戻ったぞ!大漁だぜ、大漁!」
「マスターー、森も楽しいのね!」
「
渡していたボックスいっぱいを、アピールするモーさん。森で沢山楽しんだのか、スッキリした様子のマリー。スッと僕の背後に控える清姫だった。その持ち帰った妙に熱い食材で清姫とマシュが軽食を作った。豚肉モドキ、鶏肉モドキ、卵、野菜はどこだとサンドイッチができあがった。マシュと清姫がみんなに配り、僕も貰ったけどなんだろ美味しそうに見えるけど、なんか禍々しいような感じがする。あ、クー・フーリンががっついた。──うん、盛大にむせてるね。モーさん、これ大丈夫?うんうん、大丈夫なんだね。じゃあ、いただきます。
「…先輩、いかがですか?」
「うん、美味しいよ。でも、なんだろうね、クー・フーリンがむせた気持ちが分かる気がするよ─ゴホッ」
うん、むせる。マシュは多分悪くないと思うよ。
「先輩!清姫さん水を!」
「マスター!!大丈夫ですか!?」
清姫から水を飲ませてもらい回復した。いやー、なかなか大変だった。
そんな休憩を挟みながら作業は進み、そうして、ルーンによる基礎など知らんとばかりの
管制室との連絡はまだ回復していない。帰還の目処も立っていないけど、みんなと一緒なら乗り越えられる気がした。他に何かやかしそうでもあるけど。そう思いながら、眠りについた。