これは過ぎ去った1ページを思い起こす幕間。それは第1特異点フランス。後に邪竜百年戦争と呼ばれる記録。
「……ん、ここは、風?」
「先輩、目が覚めたのですね!」
「あ、マスターさん、お目覚めですね!」
風を感じていた僕に、駆け寄って来る後輩である、マシュとファーストサーヴァントのパッションリップ。2人がそのままの勢いで、ぶつかったら高校生の僕ではとても危ない。そんな脳内の信号とは裏腹に、2人は僕の前で止まってくれた。
「うん、おはよう。…カルデアじゃないってことは…」
「おはようございます、先輩!そして、レイシフト成功です!」
「おお、最初の時は、あんまり実感無かったけどこんな感じか」
手や足を触って確認する。うん、カルデアの時と変わらない。
「マスター、不調な所はないですか?」
「うん、ないと思うよリップ」
そう言って、彼女の差し出した指を、掴んで立ち上がる。
「おーおー、レイシフトそうそうに楽しそうだな、マスター?」
「あ、クー・フーリンにジークフリート!」
「ああ、周囲を見ていたが、ロマニ殿の観測ではフランス、ドンレミ村の近くだそうだ」
リップの後ろから前の特異点からお世話になっているクー・フーリンとジークフリートが歩いて来ていた。
「フォウ!」
「あ、フォウさんもついて来ていたんですか?」
後、謎の白い犬もついて来ていた。可愛い。
『あーあー、君の通信機でも音は拾えてるかい?』
「うん、大丈夫だよロマニ」
『うんうん、それは良かったよ。…さて、さっきジークフリート君達にあらかた調べて貰ったけど、やはりここは歴史とは違う事が起きているようだ』
「…ドクター、こちらからはあまり実感ができません」
「うん、わからないや、違うこと?ここって1431年何だよね?」
『ああ、1431年のフランス。そこは君も聞いた百年戦争の最中だ。まあ、休戦時期何だけど。そして、ジャンヌ・ダルクが処刑された年だ』
フランスへのレイシフト前、短いミーティングの時に1431年について簡単に説明を受けた。百年戦争の事、休戦時期である事、そして、ジャンヌ・ダルクの処刑された年である事。中学生の僕は思いもしなかった。それは数少ない僕の知識にもあった、歴史の知識。年までは知らなかった。ただ、女性が戦争で活躍したこと。そして、処刑されたこと。それに直面する事になることなんて。
『ひとまず、ドンレミから道沿いに行ったヴォークルールに行こう!そこでなら、さらに情報が得られるはずだ』
「わかった、みんなも良いかな?」
「はい、私は異論ないです!」
「あ、マシュさんに私も同意です」
「俺もだな、ジークフリートはどうだ?」
「ああ、俺もこの時代のフランスは知らないからな。少し楽しみもある」
そうして、僕達はヴォークルールに向かった。けど、そこはさっきまでの、のどかさとは全然違っていた。
「何があったの!?」
「マスター、あれだ!」
倒れている兵士に崩れた砦。のどかな風景は一気に崩れ去った。そして、ジークフリートの指さした方向には─。
「えー!!ドラゴーン!!?」
「は、はい、正確にはワイバーン等に分類されるのでしょうか!?」
「気をつけろマスター!打ってくるぞ!」
そう、ドラゴン、ワイバーンがそこにいた。ゲームで散々見てきた翼にアギト、そのフォルムはまさしくワイバーンだった。そんな驚いている僕等に、クー・フーリンは叫ぶ。
「わわ、リップ、前みたいに薙ぎ払って!マシュは兵士さんを守って!」
「えーと、はい、わかりました!飛んでる敵には拳です!」
「え、わ、わかりました!」
慌てて2人にお願いする。リップはその巨大な拳で、ワイバーンを撃ち落としていく。そして、ワイバーンの火球が兵士に届く前にマシュが盾で防いでくれていた。
「ならば、マスターは俺の後ろへ」
「ごめん、よろしくジークフリート!」
飛び付くように、ジークフリートの背に回る。その大きい背が僕を安心させる。
「みんな、大丈夫かな?」
「…ああ、マスター、君のサーヴァントはきちんと強い。クー・フーリン殿のは兎も角、マシュやリップ君もきちんと戦えている」
そう言うジークフリートの後ろから僕は、戦場をじっくりと見た。そこにはかっこいいロケットパンチで、ワイバーンを落としていくリップ。迫る火球から一歩も引かず盾で守るマシュ。そして、杖でワイバーンを叩きまくる、クー・フーリンが見えた。
「凄い…」
「ああ、俺も後にはドラゴンスレイヤーなどと言われるが、この光景をみたら彼等もドラゴンスレイヤーだろう」
「うん、そうだね」
カルデア・ドラゴンスレイヤーズの結成の瞬間であった。
みんなでワイバーンを倒した後、ヴォークルールの兵士から情報を貰った。どうも、ジャンヌ・ダルクの処刑は史実通り行われたようだ。しかし、突然現れたのもジャンヌ・ダルクだったという。そんな歴史はないし、意味も分からない。でも、兵士から助けてくれてありがとうと言ってもらえた。ひとまず、それで良かった。
ヴォークルールを後にした僕達は、ロマニとジークフリートも案内で、ラ・シャリテに向かうのだった。道中、またワイバーンに襲われたけど、本家ドラゴンスレイヤーが本領発揮で倒してくれた。本人もさっきのに触発されたと言う。後、ロマニからワイバーンのような幻想種が、この時代のフランスにいるのはおかしいと教わる。幻想種と聞き慣れない単語だったけど、結局理由が分からないからと保留となった。
「……」
「クー・フーリン、急に止まってどうしたの?」
「いや、なんか嫌な予感がしてな。…マスター、この先は気をつけた方がいいかも知れねぇ」
「ラ・シャリテになにかあるんだね?」
クー・フーリンの虫の知らせを受けて、僕達は慎重にラ・シャリテへ足を進めた。そして、それは正解だった。
「キャァァァ!」
「た、助けてくれぇえ!」
そこは地獄だった。いや、光景だけなら冬木でも見た。けど、そこに悲鳴は多くなかった。逃げまどう民。伸びる火の手。崩れる建物。もう、街ではなくなっていた。
「ひ、酷い、うう」
「うう、先輩、大丈夫、ですか?」
「おいおい、無理すんな。嬢ちゃんもマスターも、ちょっと目をつむって深呼吸しろ」
『そうだ、無理しちゃいけないよ2人とも』
「…いっそのこと、纏めてしまうのも」
「リップ君、止めておけ、それは後のマスターが悲しむ」
酷い光景に、喉奥が焼ける感覚がした。すぐにクー・フーリンの手が、僕の視界を塞いだからなんとか落ち着けた。深呼吸の後、改めて見渡す。いたるところに火の手が上がって、焼けた匂いもする。これが戦争なんだ。画面の向こうの景色だったのが、急に現実になった。それが、帰還後に振り返った感想だった。
僕は気休めかもしれないと、もう、救えないかもと脳内では考えるも無事だった人を探し歩く。みんなもそれに同意してくれた。しかし、その願望は儚く散った。見えるのは人の跡、潰れたもの、炭の形。後に、途中から僕とマシュの口数が明確に減ったと、ロマニやクー・フーリンは語っていた。そんな中、僕は見た。白い光をいや、ドレスを。
「……」
「き、君は?」
「…はい?え、私ですか?……フランス兵士の方では、無い、ですね?」
「…うん、僕達はカルデア、フランスの外から来た」
「…サーヴァントの方もいる。では、この聖杯戦争の参加者ですか?」
「聖杯戦争?」
「あれ、ち、違うんですか?詳しい記憶はありませんが、ルーラーとして呼ばれたようだから、聖杯戦争かと思ったのですが…?」
おかしい、さっきの神秘的な流れは何処に行ったんだ。聖杯戦争…どっかで聞いたような?
「先輩、聖杯戦争はサーヴァント同士で行う代理戦争のことです」
『もっと、言えば勝者には願いがかなうとも言われているよ』
「そうなんだ、で、君はその参加者なの?」
「…いえ、私は審判のような感じでしょうか?この場ではどうも記憶にズレがあるように感じます」
うーんと悩む彼女。なんか、さっきまで苦しかったのにどこか行ってしまった。それが良かったような悲しいようなである。
「…マスター、言うべきか悩んだが。彼女がその、ジャンヌ・ダルクだ」
「え?さっきの話に出てた!?」
「ああ、いや、サーヴァントとしての、ジャンヌ・ダルクは彼女が、正しい。以前の聖杯戦争の時にルーラーだったのが彼女だ」
ジークフリートが爆弾情報を投下したので、さらにさっきの感情が吹き飛んだ。マシュも驚きすぎて、メカクレが解けてるよ。
「…ジークフリートさんって、たまにタイミングがおかしいですよね?」
「今回は俺もちょっと否定できねぇな」
「…そうだったのか。俺なりに考えたのだが」
リップとクー・フーリンに言われて、落ち込んでいるジークフリートだけど、それよりもさっきの情報である。
「ジャンヌ・ダルクって本当!?」
「ああ、直接あってはいないが、確かだ」
『…確かに、ジャンヌ・ダルクならルーラー適正があっても不思議じゃない。でも、ジャンヌ・ダルクの召喚された記録なんて、カルデアにあったかな?』
『おーい、ロマニ、交代の時間だよ』
『あ、レオナルド、ごめん、みんな交代だ』
「あ、ロマニお疲れ様。ダヴィンチちゃんよろしくね!」
『ああ、任せたまえ』
人は少ないが交代はする。それが運営だって、キャットが口酸っぱく言っていた。だから、管制室も交代制だった。話を戻そう。
「えーと、貴方はジークフリート、ジークフリートですか!?」
「ああ、君はジャンヌ・ダルクだろう?以前は、世話になった」
「えーと、別の聖杯戦争の記憶は持ってないので、すみません」
「ああ、礼を言いたかっただけだ。今回は話せるからな」
「…?ええ、とりあえず、ここから離れても良いですか?ちょっと、私の姿を見られるのは困ると言いますか…」
「…うん、良いよ。ダヴィンチちゃん、ナビできる?」
『ああ、万能の天才に不可能はないさ。街を出て、森に入ろう』
ダヴィンチちゃんの案内も元、僕達は移動を始めた。街を出る時、みんなで静かに黙祷を捧げた。
ダヴィンチちゃんの案内の元、辿り着いた森の中。
「では、改めて自己紹介を私はジャンヌ、ジャンヌ・ダルクです。ルーラークラスで現界しています。状況の把握はおそらく皆さんとあまり変わりないと思います」
「そっか、じゃあ、新たに現れたジャンヌ・ダルクは君なの?」
「…いえ、正しいのですが、その噂されているジャンヌ・ダルクは別にいると思います」
「…?別のジャンヌ・ダルクさん、ですか?」
ジャンヌ・ダルクの説明では、彼女はここに気がついたら召喚されていた。ルーラークラスと言うことは分かるものの、その他の情報はなく、砦の兵士からやっと情報を得たようだ。その時、処刑されたジャンヌ・ダルクと新たに現れたジャンヌ・ダルクの事を聞いたそうだ。そして、「竜の魔女」と新たなジャンヌ・ダルクは呼ばれている事を知った。故に、自分とは別にいるとも考えたようだ。
『竜の魔女、ねぇ?ジャンヌ・ダルクの逸話にそんなものはない。そして、ここが特異点だということ。と言うことは、原因はそのジャンヌ・ダルク周辺で良いだろうね』
「そうだね、明らかに怪しい」
「…ジークフリートさん、以前の聖杯戦争のジャンヌ・ダルクどうだったんですか?」
「……すまない、詳しくは分からない。だが、竜と言うことであれば、前のマスターは俺をジャンヌ・ダルクの捕獲に向かわせただろう」
リップからの質問に、ジークフリートは長考の末にそういった。その情報は、どこまで今回に関わってくるかは分からない。でも、確かなものは目の前のジャンヌ・ダルクは、そうではないだろう。それだった。
それから僕達は、ジャンヌ・ダルク─ジャンヌと一緒にリヨンに来ていた。ここは、比較的被害が少ない様子だった。でも─
「ひっ!?りゅ、竜の魔女!?ジャンヌ・ダルクだー!!」
「あ、ちょっと待って、違うんだって!」
「ち、違う!?でも、そいつはジャンヌ・ダルクじゃないか!?俺は戦場で見たぞ!そいつが旗を片手にいたのを!!」
「!!戦場で…」
「しかし…」
『あーっと、マシュにマスター君、それにジャンヌ・ダルク君、話の途中でワイバーンだ!!急いで!』
なんて空気の読めないワイバーンだ。リップやクー・フーリン、ジークフリートがやっつける傍らで僕は思っていた。でも、ある意味タイミングが良かったと今では思う。
「これで、最後!!」
「ああ、終了だ」
「うし、マスター、そっちに被害は行ったか?」
「大丈夫ー、ありがとークー・フーリン。リップとジークフリートもねー」
無事に戦闘終了。さっきの兵士に無事か尋ねると、気まずそうにお礼を言われた。ジャンヌにも謝罪をしていた。その後、情報として、竜の魔女について教えてくれた。始まりはやはり、ルーアンで執り行われた、ジャンヌ・ダルクの処刑からだった。処刑後、セーヌ川に流された遺灰。誰もがそれを見送った。しかし、ジャンヌ・ダルクは復活した。国民からそれを喜ぶ声もあったが、ジャンヌ・ダルクが司教を殺したと広まった。そして、ワイバーンが現れた。これもジャンヌ・ダルクだ。復讐なんだ。そう言って、その兵士は気を失った。疲労から来るものだったが。
「……竜の魔女、いえ、ジャンヌ・ダルクは復讐を望んでいるのですね」
「ジャンヌ、君はどうなの?」
「……分かりません、いえ、分からなくなりそうです。私が復讐望んでいるか、望んでいないのか…」
「ジャンヌさん…」
この道中、ここまで悲しそうに悩む彼女を見ていない。答えの出ない空の問答は、突然の轟竜によって遮られた。
「マスター、大変です!」
『マスター君、すぐにクー・フーリン君達と合流してくれ!!』
大声でこちらを呼ぶリップとダ・ヴィンチちゃん。マシュとジャンヌと共に急いで合流した。
「何があったの?」
『とてつもない反応がここに向かっているんだよ!』
「ああ、俺は少しだが…」
「俺はこれを知っている」
そう言って、ジークフリートはバルムンクを地面に突き刺す。
「そう、これは──」
「ギャオォォォオッォオ!!!」
「──ファヴニール、それがあの竜の名だ」
凄まじい風圧と咆哮を轟かす邪竜ここに降り立つ。
次に続きます