亜空間での一幕 接続可能領域へ
クリスマスが過ぎ、年が明けたある日の事だった。厨房ではうタマモキャットとブーディカ、そして、クリスマスでの特異点後に召喚されたアーチャークラスのエミヤが腕を振るっていた。サーヴァントが増えた事で漸く余裕出始めて来ていた。だからと言って何かある訳ではないが、まだ次の特異点への準備が終わっていないので時間を潰す事は増えていた。とは言っても、スカサハのブートキャンプやダヴィンチちゃんの講座を受けているので完璧に暇をしている訳じゃない。むしろ、不足していた事を足す時間として、講師達はやる気を出していてとても濃密であった。終わった頃にはふらふらとベッドに倒れ込んでいた。今日も今日とてベッドの上だ。ベッドの感触が僕を眠りに誘う。重たくなる目蓋はその重さに逆らう事を放棄していた。体が軽い、重い、どちらだろうか?…考えるのも億劫だった。疲れた頭の回転が止まる。………そこから意識を手放すのは一瞬だった。
───
ぷくぷくと泡が踊る様な音が聞こえた。何かが肩に触れた。そして、僕は目を見開いた。そこは日の射し込む海の中、いや、それに近い何かだった。
呼吸を確認する。泡の立つこの空間だから呼吸が出来ないのではと心配したが杞憂であった。次に動けるのかを確かめる。手の開閉に支障はなく、腕も動いた。足も問題無く、腰も動いた。動かすの時に抵抗は無く、想像の無重力はこんな感じかなと考えていた。
一通り確認した所で、ここの謎空間を定義しようかと思考を働かせた、しかし、直ぐに切り上げた。それよりも何故ここにいるのかを考える必要があった。
ここ以前の記憶は部屋のベッドに倒れ込んだ時だ。疲れた僕に何かがあった?…無かった筈、うん、ない。既知の知識も役に立たない。手がかりの無さに僕はお手上げだった。
「これが夢だったら良かったけど、明晰夢だったかな、そう言う物も有るらしいけど、わからないけど違うんだろうなぁ」
ついに考えすら漏れ出した。命の危険は感じないけど、これでは何れ似たような物になる気がする。ふわふわと浮かぶ僕は日差しを見つめる。
「…日差し、青い、空……夢?」
明晰夢に釣られた連想ゲームが、ある可能性を浮上させた。既知はないと思っていた。理由のわからない状況。だが、記憶の奥に存在した。一つだけ、この状況と似ている夢の話が。
「…そうだ、メカエリチャンの時だ」
ハロウィンの後、果てのない空を共に飛行したあの夢。夢にしては感触も何もかもが動いていたあの何か。
「……」
彼女の特異性は解明されていない。何で存在しているのか、エリザベートに聞いても全く分からなかった。ダヴィンチちゃんも解析は進んでいない。だが、彼女であれば、あの
───音声認証ビーコンが位置情報を送信する。それは夢空間を飛翔し、記録を刹那の万分の一鈍らせた。かもしれない。見逃されたかもしれない。
送信された信号はカルデアの受信装置に送られた。そう、カルデアではマスターに特殊な事が起きる可能性をメカエリチャンが提唱した事で、対策を施す必要性を半信半疑で認識している。その一環として、この音声認識ビーコンがマスターの通信機に施された。
「──────キャッチ、ハッチ開放、またせたかしらパイロット候補」
「メカエリチャン!」
粒子のキラメキと共にそのピンクの姿が突然この夢空間に顕現した。
音声認識ビーコンの位置情報に目掛けてジャンプするこの転送は、レイシフトの届かない空間にマスターが行ってしまった場合にカルデアのエネルギー+メカエリチャンのエリザ粒子を一点に集中、放出する事で擬似カタパルトを形成する。そこに射出に耐えれる物質を射出する事で理論上あらゆる壁を突破し、ビーコン先に転送する事が出来る。この事はマスターには詳細に伝わっていなかった。何故なら、未完成の技術だったからだ。今回は偶々起動しただけだった。
「お前の声が聞こえた瞬間に、お前に付いているビーコンを仮座標に設定し、エリザ粒子含めたエネルギーによる
「ごめん、僕もわかっていないんだ、ただ、メカエリチャンと始めて出会った感じの空間なんじゃないかって思ってる」
「…とりあえず、コックピットに入りなさい」
いつか座ったシートが浮遊する身体を着地させた。そして、現れる無骨なヘルメット。デザインの変更を申請して久しい。
「…パイロット候補、あの時の夢はお前がエリザベートと出会った事による、エリザ粒子との
「でも、状況は似ているよね?」
「肯定ね、だからこそ理解が遠くなっている。計器が反応していないのも不思議ね。以前は存在証明は出来ていたし、チューンもされているのに反応がない」
各計器がこの空間を観測するも、エラーを吐き出している。これはそもそも観測が失敗しているか、何かに邪魔をされている可能性も有る。いち早く脱出したいが、一度の
「……不味い?」
「……肯定」
頼もしい援軍は、仲良く放浪者にクラスチェンジした。
───
辺りを見渡しても景色は変わらない。メカエリチャンとの合流後、その場で待機する事に限界を感じ、脱出の為に動き始めた。指標として、日の射し込むあの方向に飛行する。幸いな事にメカエリチャンの炉心は、エリザ粒子の回転効率がダヴィンチによって格段に良くなっており、非戦闘時は最大2400時間の連続稼働を可能にしている。しかし、たどり着いていない。物体移動はしている筈だが座標軸では動いていない様な感覚だった。
「…パイロット候補、体調は大丈夫でしょうね」
「うん、メカエリチャンお陰で大丈夫だよ」
「それは当然よ、パイロット候補の体調も管理出来ない様な機体では守護者は務まらないわ」
「……そうかな?…そうかも?…メカエリチャンはすごいね」
長時間の連続飛行にマスターが耐えられているかどうか、確認を行うメカエリチャン。いくらコックピット内を独立稼働によって、並行感覚を乱さない作りとなっているとは言え、身体に不調をきたさないとも限らない。パイロットの身体ケアも欠かさないのが一流の仕事、メカエリチャンはそう思っている。
さらなる時間の経過をへて、ついにメカエリチャンのレーダーが何かを拾った。それは人間大の反応だった。
「…キャッチ、パイロット候補、カメラセンサーを最大にするわ」
「……見えた!…アレは、着物…?」
「…浮いているのかしら、アレは本当に人間?」
拡大された画面に写し出されたのは、白い着物を着た男性もしくは女性であった。しかし、これまでの不思議な状況によって、この空間に漂う人間が、ただの人間と言う可能が著しく低い。それに彼等以外の存在、それはこの夢空間の発生者とも考えられる。諸々と警戒している二人を他所にそれは微笑んでいた。その笑みに何が含まれているかを察する事は出来ない。ただ、わからない圧を感じる。
「……(グッ)」
メカエリチャンの操縦桿を強く握る。戦闘になった際にはこの操縦桿が命綱になる。赤いボタンを見つめる。それはメカエリチャンの音声認識を起動するボタン。メカエリチャンの各種武装はこのボタンで放たれる。青いボタンを見つめる。これはメカエリチャンのリミッター、ファイナルエリチャンを起動するボタン。メカエリチャン最終形態、
「パイロット候補、覚悟は良いわね?」
「うん、行けるよ!」
「目指すは前方の人間(仮)!」
メカエリチャンの炉心がエリザ粒子が渦巻き揺れる。スラスターは快調に推移して行き、バーニアも細やかに吹かせている。ラング良好、テールバインダーセット、ウィングピカピカ、システムオールグリーン。メカエリチャンは最短最速で接近した。
しかし、微笑む顔に変化は無く、翳された手が虚空に何かを描いた。そして、僕等は気が付くと空の孔に堕ちていた。
【宵、旅を、小さなマスターさん──】
メカエリチャンには何を積んでも許される気がする、だってセイレムの救世主だし、リップもだけど。