襲い来る屍人やスケルトンを薙ぎ払い、幽霊からは逃げる。僕等は、駐車場まで戻ってきていた。たどり着いた駐車場は、それ自体にはそこまでおかしな様子は見られなかった。ただ、何故気が付かなかったのかとメカエリチャンが、驚くほどの存在が直ぐ近くにあった。
それは10階位の高さが有りそうなマンションだ。まず、円柱状のその形に目が行く、全く無いと断言出来ないけど多くない。個人的な偏見で内装が変な形になりそうで出来れば住みたくない。設計者はよほどのこだわりがあったのかな。
「…不覚でした、こんな明らかに怪しい物を見落とすとは」
「仕方ないよ、そんな余裕が僕達にはなかったんだし」
「いえ、守護者として、貴方を護るものとして、余裕がない、センサーが効かないは言い訳です。主には恒常の安全を、敵はサーチアンドデストロイ、誰かの言葉です」
メカエリチャンはグッと拳を作る。何処か誇らしげに語る言葉はとても物騒だった。
「そこまで徹底しなくてもいいけどなぁ」
「…先の特異点で英雄ヘラクレスとの相対時、私は何もできませんでした。私の回路にそれは大きな遺恨を残しています」
「それは、…あの場で見てたみんなだよ」
「ええ、それは承知しています。しかし、またヘラクレス相当の敵を前にそのような事も言っていられません。その為にもさらなるパワーの増強に加え、テクニックも磨きましょう。パイロット候補、これから忙しくなります。早くカルデアに戻りましょう!」
「…あ、うん、そうだね」
「しかし、そのためにはここがどういった場所で在るかを確かめる必要があります。…やはり、あの建造物ですね」
「ソーだね、うん。……行ってみようか」
「パイロット候補は私から離れないように気をつけてください」
「うん、わかってるよ」
「──話し合いは終わったか?お前等、こんなとこでよくもまあ、ベラベラと話せるよな、危機感ってのがないのか?」
「パイロット候補!!」
突然現れた女性に、メカエリチャンは僕を守る為に前に出る。女性は警戒するメカエリチャンを見て「…へぇ」と笑みを深めるも、その場から動く様子は見られない。メカエリチャンは警戒を解かずに問う。
「何者ですか、私のセンサーに反応は在りませんでした」
「…不具合でも起こしてたんじゃないか?オレは特に何もしてないからな。ただ、お前達を見て、面白そうだから来ただけだぜ」
少し笑みを浮かべる彼女にメカエリチャンは警戒する。
「……メカエリチャン、彼女と話したいから構えを解いて」
「……了解」
「貴女は僕達をやろうと思えばできた、けど襲うことはしなかった。そう思っているけどどうかな?」
「ああ、できたんじゃないか?そこの機械女みたいなのと相対した事はないが、お前は殺せる」
彼女の視線が僕を射抜く。見開かれた彼女の瞳は言いようのない恐怖を感じさせた。
「……」
冷や汗が頬を伝う。
「…へぇ、逃げないのか?いや、逃げられないか。まあ、どちらでもいいか。ほら、オレはお前達と争う気はないから落ち着けよ」
そう言って、彼女は手に持つナイフを仕舞い手の平を此方に見せる。
「……ハアハア、本当に?」
「大丈夫ですかパイロット候補?」
「ああ、その気があるならこんな喋っちゃいない。オレはそこのに用がある。それで目的が近そうなお前等に近づいただけだ」
彼女は僕等の背後にある建物を指さす。
「…貴女はあの建物について知っているのですか」
「そいつに応える前にお前等も教えろよ。ただ単にここへ迷い込んだって口じゃないだろ」
「ああ、うん、えーと───」
彼女に自己紹介の後にこれまでのあらすじを話した。話の最中、彼女が話に入って来る事はなく、最小の頷き位だった。
「──だいたい解った。状況も同じで好転もしてない事もな」
「えーと、こっちの状況は話したけど……えーと」
「ああ、式だ。──うん、お前等なら良いか」
彼女─式はあの建物について知っている事を教えてくれた。解ったのは式が似た建物を知っていること、それは碌な物ではないこと、おそらく住人がいることだった。
「なるほど、あの不穏な気は気の所為ではないと」
「気をつけろよ、多分内装も気持ち悪いからな」
「わかった、気をつけるよ」
式の忠告に少しドキリとしたけど、僕等は目の前の建物へ踏み入った。
建物内はゾンビに霊体蔓延る外と違い、がらんと静かなものだった。壁は白に近しい名も知らない色で、何となく目に悪い気がする。幸いか地面はコンクリートだと思うタッ、タッ、という靴の音が響く。そんな所を僕等は式が先頭に立って進む、メカエリチャンは翼を畳んで着いてきている。
四号室、三号室、二号室、どんどん先に進む式を横目に、扉に描かれた番号へ目をやる。建物、マンションと考えれば普通だと思うが、異常な雰囲気の此処には似合わない。まあ、おどろおどろしくても嫌だけども。
式は一つの部屋の前で止まった。二階一号室、扉を見つめる彼女は此方を一瞥し、そっとドアノブを捻る。そして、扉の向こうを確認する前に式は中に入り込んだ。それを見た僕とメカエリチャンは互いに見合わせて、式に続いて中に入った。
向こう側には異世界がなんて小説の一幕はなく、6畳1間の一室だった。畳張りで薄汚れたシステムキッチン、アナログテレビに小さい冷蔵庫、大家さんの趣味全開のペンダントライトにと、まるでバラエティーで取り上げられていたボロアパートの内装だった。
「パイロット候補、立ち止まらないで入りなさい」
「あ、ごめん」
「失礼するわ、……姫路城ほどじゃないわね」
「…?なんで姫路城が出てくるの?」
「…何となく、と言うことにしておいて」
「うん?」
「ハァ、お前等、少しは緊張感を持ったらどうだ」
「必要の無いことね、見た所私を脅かす存在は……?」
言葉を止めたメカエリチャンは部屋の奥へ向ける。それに釣られて式と僕は見つめる。そこには──
「もーなんなんです?インターホンは鳴らさない、私に声もかけない、あげくの果ては食事の邪魔はする。いったい全体どこの誰ですか!セイバーなんですか!?」
青いジャージを羽織った彼女がいた。怒り心頭の彼女は、こちらにズカズカと音を鳴らしてやって来る。その姿にどこか既視感を感じる──
「……おや、セイバーはいませんね。気の所為でしたか。まったく、それはそれとして不法侵入罪ですよ。私が言えたことではないですが」
まくし立てるように彼女は話続ける。目の前にいるのになんだか視界に入れられてないような…。
「おい」
「と言うか、ここってどこなんですかね?ドゥ・スタリオンⅡも見当たらないですし」
止まらない。いや、止まってくれ。このまま何文字しゃべるのかこの青ジャージは。隣で式がナイフ構え出したんだけど。メカエリチャンも、スリーブモードを解除して止めてくれないかな?
「いやー、ここに来た時は雨宿りできてラッキーでしたが、大家さんいないんですかね?一回も挨拶してないですが」
不法侵入に不法滞在!僕たちのこと言えないじゃん。
「いやー、アルトリウムも探さないとですし、しばらくこのままですかねー。……そういえば、マスター君。なんだか今回のレイシフトは人が少ないですね?マシュさんやリップさん、いませんし」
「え、僕のこと知ってるの!?」
「はて、不思議なことを言いますね?リリィも交えてあんなに頑張っていたのに…。マスター君、いつからそんな薄情になったんですか!?」
よよと彼女は嘘泣きをかましてくる。
「…ええー、記憶にないんだけど」
「んんー?…あれ、マスター君少し小さくなりました?」
「どういうこと?」
「んー、もしかしてマスター君はエピソード1の前ですかね?リリィにもピンと来てないようですし…。シーズン3も前の私が何やらヘマを?…おや?ならば私は過去に来てしまったと?…なるほど、なるほど珍しい事もありますねー」
そう言って彼女は遠くに行ってしまう。
「ねー、こっちを置いてかないでー」
「おい、いい加減にしてくれ。こっちはお前に付き合ってる場合じゃないんだ」
「──肯定、謎のサーヴァント、名を名乗りなさい」
今までは我関せずだった式も限界であった。メカエリチャンも再起動してくれた。
「…おおっと、そうですね。ふふん、良いでしょう!コードネーム–X、…謎のヒロインXと呼んでください!就活中です!」
「…次いくぞ」
「…肯定」
胸を張る彼女、温度差を感じる僕たち、誰か収拾つけてくれないかな。