「大変ですっ!先輩が、先輩が!!」
「うわっ!!きゅ、急にどうしたんだい、マシュ」
「おやおや、随分と慌てていたようだね。髪が乱れているよ、マシュ」
特異点の捜索をしつつも何処かゆったりとしていた管制室に、また、何やら問題事が持ち込まれるようだ。
慌てた様子のマシュを見つめてロマニは、何処かほんわかとしていた。しかし──
「──先輩がもう、20時間も目を覚ましていないんです!!」
「…え、彼の睡眠時間…、えーと、スカサハ君の訓練が終わって、あれ!?そういえば、起床のセンサーが反応してないじゃないか!故障かな!?」
「おいおい、それってあれだろう?以前、鬼ヶ島の時に彼の部屋に設置した奴だろ。故障なんてするほどたっちゃいないぞ!」
「うわ、ごめんって、うーん、じゃあなぜだ?彼がアラームもかけているログが、残っているからかけ忘れの線はないだろ?」
「彼の平均的な睡眠時間は約7時間だろ?疲れているからって流石に20時間はおかしい」
状況が分からず混乱する場で、ロマニはおのが理性を働かせ、ゆっくりとマシュに問う。
「──マシュ、彼の様子はどうなんだい?」
「…はい、先輩は現在も少しうなされつつ眠っておられ、10分前に測定されたバイタルは安定しています。今はリップさんが付き添っておられます。」
「…そうか、安定しているならひとまず安心かな?」
ロマニはダヴィンチを向きながら問う。
「うーん、どうだろうか、情報が無さすぎるね。予兆のような物もなかったからね」
「…このまま目を覚さないなんて事に…」
「マシュ、私は希望的観測をして安心させる事も、可能性を話して不安にさせる事も、出来ないし望まないね。ただ、誰も諦めてない」
「ダヴィンチちゃん…」
「──その通り、その程度で諦めてはグランドオーダーなど不可能です。それにパイロット候補の眠りについて、判明したことがあるわ」
そこには、簀巻きのエリザベートを肩に抱えた鋼のボディ、メカエリチャンだった。
「えーと、じゃあ、メカエリザベート君、説明を頼めるかな?」
「ええ、結論から言うわ。パイロット候補が今だに眠ったままなのは、別の因子による影響よ」
ロマニの促しに頷き、説明を始めるメカエリチャン。
「それが誰かからの干渉なのか、ある種の現象なのかは、まだ断定できない。…黙ってなさい。…ンンッ、けれど、一つだけ確かなのは、自然には目を覚まさないということ。原因が消えた時、それが覚醒の時になるわ」
大胆に登場したメカエリチャンはその姿のまま、ロマニ達の前に移動した。そして、自身の所見について話すも、途中でエリザベートを黙らせて喋りきった。
「別の因子、解析には何も出ていなかったようだけど?」
「私も微弱な波を感知したに過ぎません。それに、波形が何かに切られたように途絶える事があるわ」
「…切る、ですか。現象、にしてはおかしいですよね?」
「ああ、因子というのがどういった物に、なるかは分からない。が、例えそれが阻害されるにしても切る、切断だろう?それは自然現象にしては綺麗すぎる」
「うん、もっとザザって、雑に切られるならわかるけどメカエリザベート君の話では違うのだろう?」
「肯定、これは何者かの干渉と判断しているわ」
メカエリチャンは力強く言い放った。その時、抱えていたエリザベートがウゲッと嘆いた。
「なるほど、君の所感はわかった、けど……、メカエリザベート君。そろそろその肩に担いだエリザベート君について聞いていいかな?」
「あ、そうですね。私も気になっていました」
「…そうね、余計な手間を省く為につれて来たといったところかしら」
「余計な手間?今から何かするのかい?彼への事で対応しなければとおもうけど」
エリザベートは余計な手間を省く為、その説明で理解するにはピースが足りない。だから、ロマニはそれよりも寝たきりの彼を按じた。
「…これもパイロット候補の為に、私も思考した結果よ」
「ほう、君はこの件をどうやって解決しようというんだい?」
「跳ぶわ」
「跳ぶ?」
メカエリチャンの回答はシンプルだった。
「えっと、メカエリチャンさん、どういうことでしょうか?」
「説明するわ、まず、パイロット候補はログにもあった、夢の中から出られなくなったと私は判断したわ」
鬼ヶ島、解決の最中で消えてしまった特異点の話。そこへの突入も彼の夢がきっかけだった。
「……ああ、そうだね」
「ログをみる限り、此方からの直接な干渉はできなかった。そして、突入も偶然の産物だと言うことも」
「だからこそのセンサーだからね」
「はい、私の部屋にも同系統の物がありますね」
「そこで、私ね。ダヴィンチは薄々想像がついていると思うけれど、量子ジャンプ、それによって一方通行の進入が可能よ。理論上の成功率で言えば、安全性や安定性も確立されていない。けれど、一番確率の高い手段よ」
胸を小突きながらメカエリチャンは言い放つ。反応は様々だった。
「はい!?」
「おいおい、また、何か言い出したぞ」
「───」
一般職員は目を丸くし、ロマニは顔が固まっている。
「??」
マシュは分からない様子だった。
「なるほど、エリザベート君にはそれがあったか!」
ダヴィンチは衝撃で目を大きく開く。
「そして、それを行うフィールド作成をこのエリザベートで行うわ」
その言葉を境に、管制室の空気は一変した。
冗談だと笑う者は誰もいない。そんな反応よりも先に、誰もが「マジか」と息を呑んでいた。
マスターを取り戻すための、強引で無茶苦茶で、それでも現状唯一の作戦が動き始めようとしていた。