2話連続で投稿しています。
ファヴニール、それはかつてジークフリートが打ち倒した邪竜。数多の神話・物語で語られる特大の竜種。それが、今、目の前に姿を現した。
「……」
震える。いや、震えているのか?分からない、分からない。
「…マスター、マシュの後ろへ…。クー・フーリン、君に頼む」
「ああ、任せろ。あれは、お前さんが一番だぜ」
クー・フーリンが僕を支える。その後、マシュの盾の内側に押し込む。そして、僕等の前にリップと並んだ。
「リップの嬢ちゃんもあそこで良いんだぞ?」
「いえ、行きたいですが、ここが私のポジションです」
「そうかい、ジャンヌの嬢ちゃんは良いのか?」
「ええ、これでも経験があるのでしょう。不思議と冷静です」
そう言って、旗を構えるジャンヌに合わせ、杖と手をそれぞれ構える2人。ジークフリートを先頭に、ピラミッドフォーメーションが完成した。牙城の竜がなんだその、カルデアも負けてない。そんな意気込みをダ・ヴィンチは感じていた。
「…あら、あらあら、ちょっと、ジル、笑えるんですけど。なにこれ、演劇だってもっと良いシナリオを持ってくるわよ。あら、ジル、いないわね。まあ、良いでしょう。…ねえ、もう1人の私?」
ファヴニールの頭上。そこには確かにジャンヌ・ダルクがいた。そう、とても黒いジャンヌ・ダルクが。
「貴方が、私、ですか…?」
「あら、話せたのね。黙っているから分からなかった。…ええ、私はジャンヌ・ダルク。この裏切りの国、フランスを滅ぼす竜の魔女」
少女は軽やかに発する。それはまるで、それこそ演劇のように。
「貴方は思わないの?あんな目に遭ったのに。裏切られたのに。それでも戦争は続いたのに?貴方は何の為に、戦場に立ったのかしら?」
「それは!」
「私はこのフランスを救国します。そう、愚かで悪しき人類種を根絶やしにして、ね?」
「…ねえ、君はそれをして何がしたいの?」
「マスター!!」
自然と足が前に出た。
「はい?…あなた、誰かしら?……ああ、カルデアとか言う、随分と小さいのね」
「君は人のいない国で何がしたいの?」
怖い、でも聞きたかった。彼女が、ジャンヌ・ダルクなのだと言うのなら。
「…は、子供が何を言い出すやら。人がいない国?良いじゃない。死者は喋らない。騙さない。裏切らない。それでこそ、理想の国、フランス。それを私は作るの」
やっぱり、違った。彼女はジャンヌ・ダルク、ジャンヌとは違う。あの悲しそうに悩む彼女とは違う。
「はあ、なんだか無駄に問答したわね。──ファヴニール、やってしまいなさい」
「ギャオォォォオッォオ!!」
つまらなそうに彼女は後ろを向く。それに呼応して、ファヴニールが咆哮を唸らせる。
「マスター!盾の後ろへ!」
「うん!!」
「キャっ!」
「気張れよ、リップの嬢ちゃん。俺達の後ろにはマスターがいるんだからよ!」
「ジャンヌ、君も後ろへ」
「………っ、はい、ジークフリートさん、頼みます」
問答は終わった。なら、後は武勇が勝る方が勝ち。そんな単純ではないけど、ジークフリートとファヴニールと言う、両陣営の最強戦力が相対している。
先に動いたのはファヴニールだった。黒いジャンヌ・ダルクをその背に乗せた状態で、双爪で斬り裂く為に腕を振るう。それを見ていたジークフリートは、冷静にバルムンクを横に向け盾とする。派手な金属音が街中に響く。遅れて、ビリビリと衝撃が走る。砂煙も走る。視界が遮られる。ジークフリートはどうなった?砂煙が晴れると、ジークフリートはしっかりとファヴニールの一撃を耐えていた。その威力はジークフリートの足場を陥没させていた。耐えたジークフリートは、お返しにバルムンクに魔力を込める。そして、横薙ぎに一閃。ファヴニールの腹を裂く。
「ちょっと、何なのよ貴方は、ファヴニールの一撃を耐えて、反撃!?ふざけているの!?」
「─いや、俺はいつも真面目だ。マスターやみんなに任された。それだけだ」
「…あ、貴方もしかして、何重にも封印したジークフリート!?なんで解けているのよ!?」
「?俺は最初からこうだったが」
突然、慌て出す黒いジャンヌ・ダルクに、ジークフリートはとても不思議そうにしていた。しかし、ファヴニールから視線は外していなかった。
「相性最悪じゃない!仕方ない──来なさい、私の従僕」
取り乱していた彼女は急に落ち着くと、右腕を高く掲げた。
『不味い!反応、複数だ!これはサーヴァントだ!!』
「──ちぃっ!!嬢ちゃん、マスターを抱えろ!」
「え、はい?」
「え?」
リップに抱えられた僕が見たのは、僕等を取り囲む4人の姿だった。
「─来たわね、バーサーク・ライダー、ランサー、セイバー、アサシン」
「「「「……」」」」
取り囲むは、十字架を持つ赤い女性。槍を携えた黒衣の男性。つば広ハットの女性?そして、特徴的な剣を持つ男性。その目は僕等に向けられている。
「ジークフリート、お前は行けそうか?」
「…厳しいだろうな」
「…では、撤退ですね」
「ハハ、簡単に言うがな?マスターとマシュを連れては厳しいだろうな」
『うーん、私もすぐには浮かばないかも』
自然と僕等は4人の中央に集まる。背中合わせに話し合う。僕がお荷物は悲しい。けど、今はどうもできない。僕も考えろ。
「──フフ、なら、挨拶からね!」
「
戦場に似つかないその綺麗な声は、全ての手を止めさせた。いや、時すらも止めていたかもしれない。そして、ガラスの馬車が静かに降り立った。
「あら、静かね?アマデウス、私、間違えたかしら?」
「いいや、マリアは間違えてない。ほら、現に彼等は救えそうだよ」
「あら、そうね。さあ、乗って?」
「え?」
「…ハハ、すまねぇな。ほら、みんな早く乗れ!敵さんが正気に戻る前にな」
そう言って、クー・フーリンは馬車に乗り込んだ。それにならって僕達も乗り込んだ。中は意外に広かった。そして、素早く撤退した。理解も敵も置き去りにして。
しばらくして、僕等はいつかの森に降り立った。
「うーーん、ここは良い雰囲気ね?」
「ハハ、マリアは何処でもそう言うだろう?」
「そうかしら?…そうかも知れないわね!」
「えーと、そろそろ説明してほしいんだけど?」
「あ、そうよね。ごめんなさい、忘れちゃってたわね。…コホン。私はマリー・アントワネット。そうね、マリーって呼んでね!」
「…あ、僕もかい?えー、しょうがないか。ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。名前は好きに呼んでよ」
にこやかに、華やかにそんな雰囲気の彼女─マリー・アントワネットと変わった服の彼─ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。そんな変わった2人とであった。
出会いは出会いを呼ぶとは、まさにそれだった。マリー、アマデウスと出会った僕等は、さらに清姫とエリザベート・バートリーと出会った。
「フフ、よろしくお願いしますね。安珍様?」
「子イヌ!特別に手伝ってあげる!!」
さらなる出会いを呼んだ。
「…私もできる事を致しましょう。皆さん、よろしくお願いします」
聖なるドラゴンスレイヤー、ゲオルギウスが僕達に協力してくれる事になった。
「いや、本当に増えたね。最初は5人だったのに」
「はい、ジャンヌさん、マリーさん、アマデウスさん、清姫さんにエリザベートさん。そして、ゲオルギウスさん。11人ですね」
「冬木では3人と2人でしたけど、11人ですか…」
僕達は今、束の間の休息を行なっていた。人数が増えたことで、いよいよ、オルレアンに攻め込む事になった。しかし、それは激戦になると言う事である。だから、それに向けてしっかりと休もうと言う事で、ワイバーンの肉のバーベキューをしていた。
「ほれ、焼けたぜ?」
「いただきます!」
「マスター、これも焼けたよ」
「あ、先輩、これも焼けてます!」
「…安珍様、これもどうぞ」
『わー、マスター君も隅には置けないねぇ』
リップは分厚い肉を、マシュは綺麗に焼けたのを、清姫は少し焼き目が濃ゆいものを、三者三様に僕の皿に入れる。…クー・フーリンのから食べようかな。
「うん、美味しいわ!」
「マリアにワイバーンの肉って…まあ、本人が良いならいいか」
「あ、これも焼けたわね!…ちょっと生味がするわね」
「おや、エリザベート殿、こちらはいかがかな?」
「貰うわ、…あ、こっちは良い感じじゃない!」
マリーはにこやかに肉を取っていく。それに思う所はあるが、アマデウスは奥に引っ込めた。楽しいのならそれでいい。一方、エリザベートは生焼けを引き、ゲオルギウスから良いのをもらっていた。
「…こんな事をしていて良いのでしょうか?」
「…ジャンヌ、君はフランスをどうしたかったんだ?」
「フランスをですか?」
「ああ、俺は人々の期待を背に竜を倒した。そこに俺の個人の感情が無かった訳ではない。だが、それでも人々に感謝される事は嬉しかったと思う」
「……」
ジャンヌは目を閉じる。
「君も戦場に立つ時に、考えた事があったのか?」
「……」
ジャンヌは静かに目を閉じている。
「…すまない、君にとって、これはもう必要のない問いだったようだ」
「いえ、ありがとうございます。貴方はとても優しい方なのですね」
「いや、そうでもないだろう。俺もそうでない時は、いくらでもあった。ただ、求められる事は捨てない生き方をしてきただけだ」
「不器用なのですね」
「そうなのかもしれない」
2人が話している間も肉は焼ける。そんな時間の流れがみんなを癒やす。
『さあ、準備は良いかい?いよいよ、オルレアンだ。これまでの情報であそこが、あのジャンヌ・ダルクの居城となっている事が分かっている!』
「うん、大丈夫だよ」
「はい、マシュ・キリエライト、準備完了です!」
目の前には巨大な城がそびえ立つ。外縁をワイバーンが、内側をワイバーンが飛び交っている。竜の魔女、面目躍如である。
「じゃあ、みんな頼むね!」
「「「はい(おう)(ああ)(ええ)」」」
突入は別れて行う。第1部隊、エリザベート、清姫、クー・フーリン、リップ。第2部隊、マリー、アマデウス、ゲオルギウス。第3部隊、僕、マシュ、ジークフリート、ジャンヌ。それぞれが攻略していく。
──第1部隊──
「さっそく現れたわね!年増!!」
「うるさいわね、誰が年増よ。自分の未来によくもそんな事が言えたものね」
「クー・フーリン様、あれは似たもの同士の喧嘩ですね?」
「まあ、一緒らしいし、そうだろ」
「本当に似てる。じゃあ、あの人もアイドルを…」
さっそく現れたのは後にカーミラと判明する女性。黒いジャンヌ・ダルクに狂わされているはずだが、エリザベートとのやり取りはとても正常に見えた。
「えらく雑にされたのだけど。まあ、この状態はあまり気持ち良くないから、いいわ」
「じゃあ、さっさと消えなさいよ年増!!」
「貴女、そんな事言って、覚えてなさいよ!」
そして、4人に勝てるわけもなく、カーミラは消滅した。
──第2部隊──
「ああ、マリー、ここにいたんだね」
「あら、サンソンね。
「ああ、ああ!マリー、ああ、麗しき王女、貴女に贈る──斬首を。その、綺麗な首筋にギロチンの刃を通させてくれ」
通路の奥からゆっくり、ゆっくりと歩いてくる。狂ってしまった処刑人、シャルル=アンリ・サンソン。差し込む陽射しに鈍く反射する刃が、歪んで彼女を映す。
「む、マリー王女、私の後ろに」
「…いいえ、ゲオルギウスさん。ここは私にお任せくださいな」
「いやいや、マリア、あんなのにわざわざ君が体をはる必要はないさ」
「マリー、マリー、マリー。切らせてくれ、斬らせてくれ。ああ、ああ、ああ!!」
サンソンは刃を振り降ろす。微笑む彼女の首筋に。
「──
マリーの眼の前に1振りの剣が突き刺さる。それは無敵とする守護の力。狂わされ、錆びついた刃など通しはしなかった。
「申し訳ありません。ですが、その刃を貴女に届かせるわけには行きませんでした」
持ち主は真っ直ぐ謝罪する。その身は、それが自身がここにいる意味なのだと言う様な佇まいだった。
「そうだ、そんな情けない野郎に君は汚せて良いものか!さあ、厄介なファンにはご退場願おうか。君には勿体無いけど、聴くが良いさ、魔の響きを!
その
「サンソン」
「ああ、マリー、僕は…また、君を」
「それは良いの。サンソン、貴方は疲れていたのね」
「だが、その
「この刃も酷く錆びついていたの。…長い間、お疲れ様、サンソン。また、いつの日か会いましょう。
「ああ、…ヴィヴィ・ラ・マリー」
静かに眠るような微笑みだった。
──第3部隊──
「…く、ここまでだね。ありがとう、次は違う形で出会いたい
ね」
「さらば、クリスティーヌ、クリスティーヌ…」
デオンと名乗る騎士とファントム・オブ・ジ・オペラを撃破した僕達は、長い階段を駆け上がり、大広間にたどり着いた。
大広間、その中央に槍の武人はひっそりと立っていた。
「来たか、いや、来るのはわかっていた。革命の聖女に著名なドラゴンスレイヤー、そして、異郷からの使者。このワラキア公国の領主たるヴラド3世がお相手仕る。魔女の呪いがある身だが、些かの卑怯も存分に受け取ってくれたまえ」
「此度は敵同士、一切の遠慮はない」
『ワラキア公国の領主、ヴラド3世!ドラキュラのモデルとなったって言う!?みんな気をつけてくれ!あと、そこにもう1つ反応がある!姿が見えないが気をつけて!!』
槍を構えたヴラド3世とジークフリートが睨み合う。
「マスターさん、下がってください!」
「先輩、私の後ろへ」
「うん──」
2人に従って僕は下がる。けど、不意に上を向くと、そこには獣がいた。
「あれは──」
「──マスターさん!!」
瞬間、僕はジャンヌに突き飛ばされていた。そして、僕が立っていた場所には、黒い体毛に身を包んだ獣が地面を抉っていた。
「先輩!!大丈夫ですか!?」
「うん、ジャンヌもありがとう!」
「いえ、しかし、彼女は!?」
「…バーサーク・アーチャー、アタランテの成れの果てだ。彼女は魔女の呪いによって、歪まされ自己を失った」
ヴラド3世は哀れむように、アタランテの残滓を見ていた。
「これが貴殿が言っていた卑怯か」
「しかり、失望するのなら、しろ。この身を余は認めていない」
「いや、この場の俺はただ敵を倒すのみだ。余計な事は後でいい。貴殿もそうであろう」
「──その高潔な精神に、この我が身で挑まねばならない不運が、唯一の余の後悔だ」
剣と槍、力と技量に策略と数。己が一番をぶつけ合う。後にジークフリートは、特異点で一番の強敵は彼だったと語っていた。
「ゔウゥゥがァァァ!!」
「マシュ!!」
「はい、お任せください!!」
高速で飛び掛かるアタランテ。マシュはその大盾を正面に構え、衝突に備えた。
「──!いけない、マシュ、避けて!!」
ジャンヌの声が走る。だが、マシュには理解が足りなかった。アタランテは、大盾の向こうで飛び上がっていた。真上からの攻撃。盾で塞がれた、死角からの一撃。マシュの未経験が招いた一撃だった。振り下ろされる腕がマシュを大きく弾き飛ばした。
「マシュ!!」
「─くっ!!ええい!!」
走り込んで来たジャンヌが、着地直後のアタランテへ旗を振るう。それを軽く避けたアタランテは再び、こちらを見据えている。ジャンヌが旗を構え直す。その目はアタランテから外されていない。それを感じているのか、アタランテはその場から動いていない。後から聞いた事だけど、神明裁決によって止めていたのかもしれない。ただ、連続使用は彼女の霊基では難しいかもとも言われた。それを見ながら、僕はマシュに駆け寄った。
「マシュ!!大丈夫!?」
『マシュ!!』
「は、はい、すみません。大丈夫です!」
「行けそう?」
「はい、大丈夫です」
『マシュ、無理はしちゃ駄目だ』
「…いえ、今度は大丈夫です」
そう言って、マシュはジャンヌの隣に立つ。
「マシュさん、一度で良いです。彼女の足を止めてください」
「─はい!!」
マシュの力強い返事に、ジャンヌはうなずき返す。
「では、行きます!」
ジャンヌが先に駆け出した。それにマシュは追走する。アタランテも動き出した。
「アアァァァ、がァァァ!!」
「マシュ!」
「はい、今度こそ!!」
マシュは、アタランテを迎え撃つように自身にブレーキをかける。そして、その反動を利用して盾を振り上げた。それをアタランテも察知し、体を捻り、方向転換を図る。しかし、それが致命的な隙となった。
「…アタランテ、すみません。貴女に向けるべき言葉を私は持っていません。ですが、貴女のその願いは尊いものであったはずです」
「あああ、子ども、たちに、しあ、あ」
アタランテは壁に手を伸ばす。その壁は、僕にはただの壁にしか見えなかった。
ヴラド3世とアタランテを倒した僕達は、立ち止まることは許されなかった。
「…あら、2人を倒したのね。応援に来たけど、遅かったわね」
その姿は、赤い礼服に十字架、あの時に黒いジャンヌ・ダルクに呼ばれた最後の1人。
「…遅かったけど丁度良いわ。
突如として、やってきた聖女マルタ。しかし、その実力は強大だった。正直、ジークフリートや別部隊のみんなが、来てくれなければ危なかった。
「ごふっ!…ここまでね。…ありがとう、そして、ごめんなさい。これであの魔女への義理は果たせたわ。………はぁ、やっと終わるのね。まったく、聖女を何だと思ってんのよ、あの目玉軍師は」
そう吐き捨てて消えていった。
聖女マルタを見送った大広間。ここにカルデアは別れた全員が集合した。
『お疲れ様、これで残るはあのジャンヌ・ダルクとジル・ド・レ、そして、ファヴニールのみだ』
「うん、ようやくここまで来たんだね!頑張ろう、みんな!!」
「はい、もう少しです先輩」
「ハハ、マスターもまだ行けそうだな?気張れよ、ラストまでな」
「はい!マシュさんとマスターをお守りします!」
「ああ、ファヴニールについては俺とゲオルギウスに任せてくれ」
「はい、私も一介のドラゴンスレイヤーと呼ばれた身。しっかりと役目は果たしましょう」
「あたしもカーミラを倒せたし、後はあの目立つ黒ジャンヌね!!」
「安珍様の障害は全て焼払う、フフ、全てです」
「ええ、ここまで来たのだもの。ジャンヌの、友達の役目を果たすわ、そして、笑顔で終わるの!」
「マリアがそれを望むのなら僕も異論はないよ。しいて言うなら、僕は後方支援で頼むよ」
「……」
それぞれが好きに言い合う中、1人静かなジャンヌ。
「ジャンヌ?」
「…いえ、大丈夫です。マスターさん、これまでありがとうございました。最後、よろしくお願いします」
「うん!!」
そして、僕達は最上階、ジル・ド・レを侍らせ、黒いジャンヌ・ダルクはそこに立っていた。
「はぁ、不愉快です。ええ、とても不愉快。あの使えないサーヴァント共にも、そして、雁首揃えてここに来た貴方達にもね」
「…黒い私、貴女に1つ尋ねます」
「…何かしら、偽物の私」
「貴女はドンレミの村での思い出は、まだ持っているのですか?」
静かにジャンヌは尋ねる。
「はぁ?何を聞くのかと思えば、そんなもの──」
「─以前、貴女は言いましたね。貴方は何の為に、戦場に立ったのか、と。それを答えに来ました」
そして、畳み掛けるようにジャンヌは続ける。
「な、なにを、どういう、こと?」
先程とはうって変わって狼狽える黒いジャンヌ・ダルク。
「─おお、ジャンヌ、どうされたのですか!?─ジャンヌ・ダルク、何をしたのです!?」
「ジル、貴方ですね。この惨状を望み、そして、私を創造したのも」
「な、まさか、気づいていたのですか!?」
「いえ、まったく気がついていませんでした。ですが、貴方には村でのことを、あまり話していなかったのを思い出しただけです」
「まさか、そんなことでですか?」
「はい、大切な数少ない思い出ですから」
「──」
悲しそうにでも微笑む彼女。ジル・ド・レの目には眩しく、そして、あの日の戦場で見た光だった。
「じょ、冗談じゃないわよ。私はジャンヌ・ダルクなのよ!そうよね、ジル!!!」
「……」
「ねえ、ジル、答えなさいよ!ねぇ──」
「──はい、貴女はジャンヌ・ダルクです」
彷徨う黒いジャンヌ・ダルクの問に答えたのは、ジャンヌ・ダルクだった。
「な!?」
「貴女はジャンヌ・ダルク、私はそう思っています」
「なんでよ!?あんたから見たら偽物なんじゃないの!?」
ジャンヌ・ダルクは叫ぶ。しかし、ジャンヌ・ダルクは落ち着いた声で言う。
「確かに、本物と偽物で言えば本物は私と答えます。ですが、貴女が聞いたのはジャンヌ・ダルクかどうかです。ならば、私はジャンヌ・ダルクだと答えます」
「だ、だからなんでよ!?意味わかんないわよ!?」
「貴方は何の為に、戦場に立ったのか─この質問に貴女は、私はこのフランスを救国します。そう、答えました」
「え、ええ、そうよ!私はジャンヌ・ダルクなんですから!」
「ええ、私もフランスの為に立ち上がりました。一緒ですね。ですから、貴女はジャンヌ・ダルクです」
「なによ、そのメチャクチャな理論は!?」
ジャンヌ・ダルクは余計に取り乱す。
「ええ、メチャクチャです。ですが、それで良いのです。なぜなら、私はただひたすらにフランスを救いたい。その一心でここまで駆け抜けて来ました。─何の為に、戦場に立ったのか。その答えは、ただひたすらにフランスを救いたかった。それだけの思いで、私は旗を振ったのです」
「──は?」
「そして、貴女の人類種の抹殺による救国。これは私の望む救国とは違います。私が貴女とこうして対面しているのは、その違いのみです」
「──は?」
「さあ、決着を着けましょう!」
ジャンヌ・ダルクは堂々と宣言した。決着を着けると、ならば、僕達もそれに続くしか無かった。そして、向こうで一番最初に復活したのはジル・ド・レだった。海魔を次々と呼び出して、ジャンヌ・ダルクの復帰の時間を稼ぐ。
「──おお、おお、ジャンヌ、ジャンヌよ。可哀想に、ですが、貴女の望む救国をお進みなさい。さあ、さあ、我等の道を阻む、ジャンヌ・ダルクを!」
「あ、そうよね、私の、ジャンヌ・ダルクの救国は、まだ──」
「─そうです!ここが袂です。我等のジャンヌ・ダルクとジャンヌ・ダルク。真の聖女となる袂なのです!」
「…ええ、ええ、そうね。ジャンヌ・ダルクとして、このフランスを救国する。そうよね!」
ジャンヌ・ダルクは立ち上がる。そして、今一度、ジャンヌ・ダルクは相対する。それぞれの救国を胸に。
そこからの戦いは、ただ、ただ、ひたすらに想いの戦いだった。ジャンヌ・ダルクの旗が打ち合う。何合にも及ぶそれはお互いの想いを表していた。理想郷への救国。純粋に平和への救国。それをお互いに示し合っていた。
「さあ、ジャンヌ・ダルクの邪魔となる障害は、全てこのジル・ド・レがお相手いたします!!」
ジル・ド・レは次々と海魔を召喚する。
『凄い数の海魔だ!!みんな、気をつけて!』
「ハ、海魔ごときじゃあ足止めにならねぇぞ!」
「ああ、マシュとマスターはジャンヌ・ダルクの救国を見届けてくれ」
「本当は私も、そっちに行きたいですが!マスターに近づけません!!」
「ボエーーー!!」
「トカゲ、ここで騒音を撒き散らさないでくださいます!?」
「マリー王女、貴女も後方で」
「いいえ、友達が頑張っているのですもの!私だって頑張るわ!!」
「──
数には数、いくら海魔が来ようとも頼もしい味方がジャンヌ・ダルクを支えるのだった。
「ジャンヌ、頑張って」
「はい、応援しましょう!」
僕達は2人の戦いをしっかりと見ていた。いずれ決着が着く。でも、形はどうであれ、救国の想いは同じ。それを取りこぼしたくなかった。
「ハァハァ、まだ、倒れないのよ!?」
「ハァハァ、わかりきった答えですよ。まだ、終わってないからですね!」
「く、こっちだってまだ、終わってないのよ!」
1合、2合、まだまだ続く。ジャンヌ・ダルクは諦めなかった。
「海魔よ、我が友、プレラーティよ!我がジャンヌ・ダルクに救済の手を!──」
「──グオぉぉぉ!!」
「──おお、ファヴニールよ。そなたもジャンヌ・ダルクを!!」
壁を貫き飛来したファヴニールが、こちらを睨む。
「フ、役目を果たす事が出来そうだ」
「ええ、助太刀しますよ」
頼もしい背中が2人。稀代のドラゴンスレイヤーは、邪竜であっても退く理由にはならないのだ。
搦手も騙しもない、いや、そんな余裕もない。服はボロボロ、体中が傷だらけ。物語の綺麗な聖女はいない。だけど、聖女は確かにそこにいる。
「ギャオォォォオッォオ!!」
ファヴニールが尾を横薙ぎに振り払う。それをジークフリートが受け止める。そして、ゲオルギウスが
「そうだな、三度、お前と相対した。そこには互いに理由があった。此度の相対も、理由がある。そして、此度も負けられぬ理由がある」
「…決着を着けましょう」
「ああ」
「ギャオォォォオッォオ!!!」
三者三様、それぞれの理由を力に。
「我が身、剣、仲間の栄誉にかけて!これこそがアスカロンの真実。汝は竜、故に罪ありき!
「ギャオォォォオッォオ、ゴガァァァ!!」
「邪悪なる竜は失墜し、此度も世界は、洛陽に至る!これで最後だ、ファヴニール!――
光の本流が辺りを包む。立ち昇るエネルギーはその威力を物語る。そして、そこに残るのは2人のドラゴンスレイヤーだった。
「……」
「……」
互いに話す言葉は尽きた。気力も体力も尽きた。あるのは、ただ、自分を貫く意志。それをみんなが見守る。ジル・ド・レも万策尽き、ただ、見ていた。ジャンヌ・ダルクの決着を。
「……」
「……」
「…──あ」
ジャンヌ・ダルクが態勢を崩す。それをジャンヌ・ダルクが支えた。決着だ。終わりは静かだった。立っていた者はいない。しかし、ジャンヌ・ダルクが意志を貫き通したと誰もが理解できた。
「…ねえ、村での事を教えなさいよ」
「…フフ、どうしましょうか」
「なんでよ、良いじゃない。私だって貴女じゃない」
「ええ、貴女も私です。でも、長くなってしまいます」
「ああ、…そう、子守唄位に聞くわよ」
「…わかりました。では、───」
ジャンヌ・ダルクは静かに、優しく、そして、微笑みの下で眠るのでした。