僕のカルデア日誌   作:kanaumi

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前話に引き続いてフランス編で、この話で終わりです。
2話連続で投稿しています。


第3頁(追記) フランスでの一幕② そして、いつかの英雄譚

 

 ファヴニール、それはかつてジークフリートが打ち倒した邪竜。数多の神話・物語で語られる特大の竜種。それが、今、目の前に姿を現した。

 

 

「……」

 震える。いや、震えているのか?分からない、分からない。

「…マスター、マシュの後ろへ…。クー・フーリン、君に頼む」

「ああ、任せろ。あれは、お前さんが一番だぜ」

 クー・フーリンが僕を支える。その後、マシュの盾の内側に押し込む。そして、僕等の前にリップと並んだ。

「リップの嬢ちゃんもあそこで良いんだぞ?」

「いえ、行きたいですが、ここが私のポジションです」

「そうかい、ジャンヌの嬢ちゃんは良いのか?」

「ええ、これでも経験があるのでしょう。不思議と冷静です」

 そう言って、旗を構えるジャンヌに合わせ、杖と手をそれぞれ構える2人。ジークフリートを先頭に、ピラミッドフォーメーションが完成した。牙城の竜がなんだその、カルデアも負けてない。そんな意気込みをダ・ヴィンチは感じていた。

 

 

「…あら、あらあら、ちょっと、ジル、笑えるんですけど。なにこれ、演劇だってもっと良いシナリオを持ってくるわよ。あら、ジル、いないわね。まあ、良いでしょう。…ねえ、もう1人の私?」

 ファヴニールの頭上。そこには確かにジャンヌ・ダルクがいた。そう、とても黒いジャンヌ・ダルクが。

 

 

「貴方が、私、ですか…?」

「あら、話せたのね。黙っているから分からなかった。…ええ、私はジャンヌ・ダルク。この裏切りの国、フランスを滅ぼす竜の魔女」

 少女は軽やかに発する。それはまるで、それこそ演劇のように。

「貴方は思わないの?あんな目に遭ったのに。裏切られたのに。それでも戦争は続いたのに?貴方は何の為に、戦場に立ったのかしら?」

「それは!」

「私はこのフランスを救国します。そう、愚かで悪しき人類種を根絶やしにして、ね?」

 

「…ねえ、君はそれをして何がしたいの?」

「マスター!!」

 自然と足が前に出た。

「はい?…あなた、誰かしら?……ああ、カルデアとか言う、随分と小さいのね」

「君は人のいない国で何がしたいの?」

 怖い、でも聞きたかった。彼女が、ジャンヌ・ダルクなのだと言うのなら。

「…は、子供が何を言い出すやら。人がいない国?良いじゃない。死者は喋らない。騙さない。裏切らない。それでこそ、理想の国、フランス。それを私は作るの」

 やっぱり、違った。彼女はジャンヌ・ダルク、ジャンヌとは違う。あの悲しそうに悩む彼女とは違う。

 

 

「はあ、なんだか無駄に問答したわね。──ファヴニール、やってしまいなさい」

「ギャオォォォオッォオ!!」

 つまらなそうに彼女は後ろを向く。それに呼応して、ファヴニールが咆哮を唸らせる。

 

「マスター!盾の後ろへ!」

「うん!!」

「キャっ!」

「気張れよ、リップの嬢ちゃん。俺達の後ろにはマスターがいるんだからよ!」

「ジャンヌ、君も後ろへ」

「………っ、はい、ジークフリートさん、頼みます」

 問答は終わった。なら、後は武勇が勝る方が勝ち。そんな単純ではないけど、ジークフリートとファヴニールと言う、両陣営の最強戦力が相対している。

 

 先に動いたのはファヴニールだった。黒いジャンヌ・ダルクをその背に乗せた状態で、双爪で斬り裂く為に腕を振るう。それを見ていたジークフリートは、冷静にバルムンクを横に向け盾とする。派手な金属音が街中に響く。遅れて、ビリビリと衝撃が走る。砂煙も走る。視界が遮られる。ジークフリートはどうなった?砂煙が晴れると、ジークフリートはしっかりとファヴニールの一撃を耐えていた。その威力はジークフリートの足場を陥没させていた。耐えたジークフリートは、お返しにバルムンクに魔力を込める。そして、横薙ぎに一閃。ファヴニールの腹を裂く。

 

 

 

「ちょっと、何なのよ貴方は、ファヴニールの一撃を耐えて、反撃!?ふざけているの!?」

「─いや、俺はいつも真面目だ。マスターやみんなに任された。それだけだ」

「…あ、貴方もしかして、何重にも封印したジークフリート!?なんで解けているのよ!?」

「?俺は最初からこうだったが」

 突然、慌て出す黒いジャンヌ・ダルクに、ジークフリートはとても不思議そうにしていた。しかし、ファヴニールから視線は外していなかった。

「相性最悪じゃない!仕方ない──来なさい、私の従僕」

 取り乱していた彼女は急に落ち着くと、右腕を高く掲げた。

『不味い!反応、複数だ!これはサーヴァントだ!!』

「──ちぃっ!!嬢ちゃん、マスターを抱えろ!」

「え、はい?」

「え?」

 リップに抱えられた僕が見たのは、僕等を取り囲む4人の姿だった。

「─来たわね、バーサーク・ライダー、ランサー、セイバー、アサシン」

「「「「……」」」」

 取り囲むは、十字架を持つ赤い女性。槍を携えた黒衣の男性。つば広ハットの女性?そして、特徴的な剣を持つ男性。その目は僕等に向けられている。

「ジークフリート、お前は行けそうか?」

「…厳しいだろうな」

「…では、撤退ですね」

「ハハ、簡単に言うがな?マスターとマシュを連れては厳しいだろうな」

『うーん、私もすぐには浮かばないかも』

 自然と僕等は4人の中央に集まる。背中合わせに話し合う。僕がお荷物は悲しい。けど、今はどうもできない。僕も考えろ。

 

「──フフ、なら、挨拶からね!」

 

「フランス万歳(ヴィヴィ・ラ・フランス)!!」

 

 戦場に似つかないその綺麗な声は、全ての手を止めさせた。いや、時すらも止めていたかもしれない。そして、ガラスの馬車が静かに降り立った。

 

 

「あら、静かね?アマデウス、私、間違えたかしら?」

「いいや、マリアは間違えてない。ほら、現に彼等は救えそうだよ」

「あら、そうね。さあ、乗って?」

「え?」

「…ハハ、すまねぇな。ほら、みんな早く乗れ!敵さんが正気に戻る前にな」

 そう言って、クー・フーリンは馬車に乗り込んだ。それにならって僕達も乗り込んだ。中は意外に広かった。そして、素早く撤退した。理解も敵も置き去りにして。

 

 

 

 しばらくして、僕等はいつかの森に降り立った。

「うーーん、ここは良い雰囲気ね?」

「ハハ、マリアは何処でもそう言うだろう?」

「そうかしら?…そうかも知れないわね!」

「えーと、そろそろ説明してほしいんだけど?」

「あ、そうよね。ごめんなさい、忘れちゃってたわね。…コホン。私はマリー・アントワネット。そうね、マリーって呼んでね!」

「…あ、僕もかい?えー、しょうがないか。ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。名前は好きに呼んでよ」

 にこやかに、華やかにそんな雰囲気の彼女─マリー・アントワネットと変わった服の彼─ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。そんな変わった2人とであった。

 

 

 

 

 出会いは出会いを呼ぶとは、まさにそれだった。マリー、アマデウスと出会った僕等は、さらに清姫とエリザベート・バートリーと出会った。

「フフ、よろしくお願いしますね。安珍様?」

「子イヌ!特別に手伝ってあげる!!」

 

 さらなる出会いを呼んだ。

「…私もできる事を致しましょう。皆さん、よろしくお願いします」

 聖なるドラゴンスレイヤー、ゲオルギウスが僕達に協力してくれる事になった。

 

 

 

「いや、本当に増えたね。最初は5人だったのに」

「はい、ジャンヌさん、マリーさん、アマデウスさん、清姫さんにエリザベートさん。そして、ゲオルギウスさん。11人ですね」

「冬木では3人と2人でしたけど、11人ですか…」

 僕達は今、束の間の休息を行なっていた。人数が増えたことで、いよいよ、オルレアンに攻め込む事になった。しかし、それは激戦になると言う事である。だから、それに向けてしっかりと休もうと言う事で、ワイバーンの肉のバーベキューをしていた。

「ほれ、焼けたぜ?」

「いただきます!」

「マスター、これも焼けたよ」

「あ、先輩、これも焼けてます!」

「…安珍様、これもどうぞ」

『わー、マスター君も隅には置けないねぇ』

 リップは分厚い肉を、マシュは綺麗に焼けたのを、清姫は少し焼き目が濃ゆいものを、三者三様に僕の皿に入れる。…クー・フーリンのから食べようかな。

 

「うん、美味しいわ!」

「マリアにワイバーンの肉って…まあ、本人が良いならいいか」

「あ、これも焼けたわね!…ちょっと生味がするわね」

「おや、エリザベート殿、こちらはいかがかな?」

「貰うわ、…あ、こっちは良い感じじゃない!」

 マリーはにこやかに肉を取っていく。それに思う所はあるが、アマデウスは奥に引っ込めた。楽しいのならそれでいい。一方、エリザベートは生焼けを引き、ゲオルギウスから良いのをもらっていた。

 

「…こんな事をしていて良いのでしょうか?」

「…ジャンヌ、君はフランスをどうしたかったんだ?」

「フランスをですか?」

「ああ、俺は人々の期待を背に竜を倒した。そこに俺の個人の感情が無かった訳ではない。だが、それでも人々に感謝される事は嬉しかったと思う」

「……」

 ジャンヌは目を閉じる。

「君も戦場に立つ時に、考えた事があったのか?」

「……」

 ジャンヌは静かに目を閉じている。

「…すまない、君にとって、これはもう必要のない問いだったようだ」

「いえ、ありがとうございます。貴方はとても優しい方なのですね」

「いや、そうでもないだろう。俺もそうでない時は、いくらでもあった。ただ、求められる事は捨てない生き方をしてきただけだ」

「不器用なのですね」

「そうなのかもしれない」

 2人が話している間も肉は焼ける。そんな時間の流れがみんなを癒やす。

 

 

 

 

『さあ、準備は良いかい?いよいよ、オルレアンだ。これまでの情報であそこが、あのジャンヌ・ダルクの居城となっている事が分かっている!』

「うん、大丈夫だよ」

「はい、マシュ・キリエライト、準備完了です!」

 目の前には巨大な城がそびえ立つ。外縁をワイバーンが、内側をワイバーンが飛び交っている。竜の魔女、面目躍如である。

「じゃあ、みんな頼むね!」

「「「はい(おう)(ああ)(ええ)」」」

 突入は別れて行う。第1部隊、エリザベート、清姫、クー・フーリン、リップ。第2部隊、マリー、アマデウス、ゲオルギウス。第3部隊、僕、マシュ、ジークフリート、ジャンヌ。それぞれが攻略していく。

 

──第1部隊──

「さっそく現れたわね!年増!!」

「うるさいわね、誰が年増よ。自分の未来によくもそんな事が言えたものね」

「クー・フーリン様、あれは似たもの同士の喧嘩ですね?」

「まあ、一緒らしいし、そうだろ」

「本当に似てる。じゃあ、あの人もアイドルを…」

 さっそく現れたのは後にカーミラと判明する女性。黒いジャンヌ・ダルクに狂わされているはずだが、エリザベートとのやり取りはとても正常に見えた。

「えらく雑にされたのだけど。まあ、この状態はあまり気持ち良くないから、いいわ」

「じゃあ、さっさと消えなさいよ年増!!」

「貴女、そんな事言って、覚えてなさいよ!」

 そして、4人に勝てるわけもなく、カーミラは消滅した。

 

──第2部隊──

「ああ、マリー、ここにいたんだね」

「あら、サンソンね。フランス万歳(ヴィヴィ・ラ・フランス)!」

「ああ、ああ!マリー、ああ、麗しき王女、貴女に贈る──斬首を。その、綺麗な首筋にギロチンの刃を通させてくれ」

 通路の奥からゆっくり、ゆっくりと歩いてくる。狂ってしまった処刑人、シャルル=アンリ・サンソン。差し込む陽射しに鈍く反射する刃が、歪んで彼女を映す。

「む、マリー王女、私の後ろに」

「…いいえ、ゲオルギウスさん。ここは私にお任せくださいな」

「いやいや、マリア、あんなのにわざわざ君が体をはる必要はないさ」

「マリー、マリー、マリー。切らせてくれ、斬らせてくれ。ああ、ああ、ああ!!」

 サンソンは刃を振り降ろす。微笑む彼女の首筋に。

「──力屠る祝福の剣(アスカロン)!!」

 マリーの眼の前に1振りの剣が突き刺さる。それは無敵とする守護の力。狂わされ、錆びついた刃など通しはしなかった。

「申し訳ありません。ですが、その刃を貴女に届かせるわけには行きませんでした」

 持ち主は真っ直ぐ謝罪する。その身は、それが自身がここにいる意味なのだと言う様な佇まいだった。

「そうだ、そんな情けない野郎に君は汚せて良いものか!さあ、厄介なファンにはご退場願おうか。君には勿体無いけど、聴くが良いさ、魔の響きを!死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)!!」

 その葬送曲(レクイエム)は通路を乱反射し、サンソンを包み込む。演奏が終える頃には、サンソンは通路に投げ出されていた。

「サンソン」

「ああ、マリー、僕は…また、君を」

「それは良いの。サンソン、貴方は疲れていたのね」

「だが、その斬首(くちづけ)に、僕は」

「この刃も酷く錆びついていたの。…長い間、お疲れ様、サンソン。また、いつの日か会いましょう。フランス万歳(ヴィヴィ・ラ・フランス)」

「ああ、…ヴィヴィ・ラ・マリー」

 静かに眠るような微笑みだった。

 

──第3部隊──

「…く、ここまでだね。ありがとう、次は違う形で出会いたい

ね」

「さらば、クリスティーヌ、クリスティーヌ…」

 デオンと名乗る騎士とファントム・オブ・ジ・オペラを撃破した僕達は、長い階段を駆け上がり、大広間にたどり着いた。

  

 大広間、その中央に槍の武人はひっそりと立っていた。

「来たか、いや、来るのはわかっていた。革命の聖女に著名なドラゴンスレイヤー、そして、異郷からの使者。このワラキア公国の領主たるヴラド3世がお相手仕る。魔女の呪いがある身だが、些かの卑怯も存分に受け取ってくれたまえ」

「此度は敵同士、一切の遠慮はない」

『ワラキア公国の領主、ヴラド3世!ドラキュラのモデルとなったって言う!?みんな気をつけてくれ!あと、そこにもう1つ反応がある!姿が見えないが気をつけて!!』

 槍を構えたヴラド3世とジークフリートが睨み合う。

「マスターさん、下がってください!」

「先輩、私の後ろへ」

「うん──」

 2人に従って僕は下がる。けど、不意に上を向くと、そこには獣がいた。

「あれは──」

「──マスターさん!!」

 瞬間、僕はジャンヌに突き飛ばされていた。そして、僕が立っていた場所には、黒い体毛に身を包んだ獣が地面を抉っていた。

「先輩!!大丈夫ですか!?」

「うん、ジャンヌもありがとう!」

「いえ、しかし、彼女は!?」

「…バーサーク・アーチャー、アタランテの成れの果てだ。彼女は魔女の呪いによって、歪まされ自己を失った」

 ヴラド3世は哀れむように、アタランテの残滓を見ていた。

「これが貴殿が言っていた卑怯か」

「しかり、失望するのなら、しろ。この身を余は認めていない」

「いや、この場の俺はただ敵を倒すのみだ。余計な事は後でいい。貴殿もそうであろう」

「──その高潔な精神に、この我が身で挑まねばならない不運が、唯一の余の後悔だ」

 剣と槍、力と技量に策略と数。己が一番をぶつけ合う。後にジークフリートは、特異点で一番の強敵は彼だったと語っていた。

 

「ゔウゥゥがァァァ!!」

「マシュ!!」

「はい、お任せください!!」

 高速で飛び掛かるアタランテ。マシュはその大盾を正面に構え、衝突に備えた。

「──!いけない、マシュ、避けて!!」

 ジャンヌの声が走る。だが、マシュには理解が足りなかった。アタランテは、大盾の向こうで飛び上がっていた。真上からの攻撃。盾で塞がれた、死角からの一撃。マシュの未経験が招いた一撃だった。振り下ろされる腕がマシュを大きく弾き飛ばした。

「マシュ!!」

「─くっ!!ええい!!」

 走り込んで来たジャンヌが、着地直後のアタランテへ旗を振るう。それを軽く避けたアタランテは再び、こちらを見据えている。ジャンヌが旗を構え直す。その目はアタランテから外されていない。それを感じているのか、アタランテはその場から動いていない。後から聞いた事だけど、神明裁決によって止めていたのかもしれない。ただ、連続使用は彼女の霊基では難しいかもとも言われた。それを見ながら、僕はマシュに駆け寄った。

「マシュ!!大丈夫!?」

『マシュ!!』

「は、はい、すみません。大丈夫です!」

「行けそう?」

「はい、大丈夫です」

『マシュ、無理はしちゃ駄目だ』

「…いえ、今度は大丈夫です」

 そう言って、マシュはジャンヌの隣に立つ。

「マシュさん、一度で良いです。彼女の足を止めてください」

「─はい!!」

 マシュの力強い返事に、ジャンヌはうなずき返す。

「では、行きます!」

 ジャンヌが先に駆け出した。それにマシュは追走する。アタランテも動き出した。

「アアァァァ、がァァァ!!」

「マシュ!」

「はい、今度こそ!!」

 マシュは、アタランテを迎え撃つように自身にブレーキをかける。そして、その反動を利用して盾を振り上げた。それをアタランテも察知し、体を捻り、方向転換を図る。しかし、それが致命的な隙となった。

「…アタランテ、すみません。貴女に向けるべき言葉を私は持っていません。ですが、貴女のその願いは尊いものであったはずです」

「あああ、子ども、たちに、しあ、あ」

 アタランテは壁に手を伸ばす。その壁は、僕にはただの壁にしか見えなかった。

 

 

 ヴラド3世とアタランテを倒した僕達は、立ち止まることは許されなかった。

「…あら、2人を倒したのね。応援に来たけど、遅かったわね」

 その姿は、赤い礼服に十字架、あの時に黒いジャンヌ・ダルクに呼ばれた最後の1人。

「…遅かったけど丁度良いわ。愛知らぬ悲しき竜よ(タラスク)!さあ、私達がお相手するわ。この聖女マルタとタラスクを恐れぬならば、かかってきなさい!」

 突如として、やってきた聖女マルタ。しかし、その実力は強大だった。正直、ジークフリートや別部隊のみんなが、来てくれなければ危なかった。

「ごふっ!…ここまでね。…ありがとう、そして、ごめんなさい。これであの魔女への義理は果たせたわ。………はぁ、やっと終わるのね。まったく、聖女を何だと思ってんのよ、あの目玉軍師は」

 そう吐き捨てて消えていった。

 

 

 聖女マルタを見送った大広間。ここにカルデアは別れた全員が集合した。

『お疲れ様、これで残るはあのジャンヌ・ダルクとジル・ド・レ、そして、ファヴニールのみだ』

「うん、ようやくここまで来たんだね!頑張ろう、みんな!!」

「はい、もう少しです先輩」

「ハハ、マスターもまだ行けそうだな?気張れよ、ラストまでな」

「はい!マシュさんとマスターをお守りします!」

「ああ、ファヴニールについては俺とゲオルギウスに任せてくれ」

「はい、私も一介のドラゴンスレイヤーと呼ばれた身。しっかりと役目は果たしましょう」

「あたしもカーミラを倒せたし、後はあの目立つ黒ジャンヌね!!」

「安珍様の障害は全て焼払う、フフ、全てです」

「ええ、ここまで来たのだもの。ジャンヌの、友達の役目を果たすわ、そして、笑顔で終わるの!」

「マリアがそれを望むのなら僕も異論はないよ。しいて言うなら、僕は後方支援で頼むよ」

「……」

 それぞれが好きに言い合う中、1人静かなジャンヌ。

「ジャンヌ?」

「…いえ、大丈夫です。マスターさん、これまでありがとうございました。最後、よろしくお願いします」

「うん!!」

 そして、僕達は最上階、ジル・ド・レを侍らせ、黒いジャンヌ・ダルクはそこに立っていた。

 

 

「はぁ、不愉快です。ええ、とても不愉快。あの使えないサーヴァント共にも、そして、雁首揃えてここに来た貴方達にもね」

「…黒い私、貴女に1つ尋ねます」

「…何かしら、偽物の私」

「貴女はドンレミの村での思い出は、まだ持っているのですか?」

 静かにジャンヌは尋ねる。

「はぁ?何を聞くのかと思えば、そんなもの──」

「─以前、貴女は言いましたね。貴方は何の為に、戦場に立ったのか、と。それを答えに来ました」

 そして、畳み掛けるようにジャンヌは続ける。

「な、なにを、どういう、こと?」

 先程とはうって変わって狼狽える黒いジャンヌ・ダルク。

「─おお、ジャンヌ、どうされたのですか!?─ジャンヌ・ダルク、何をしたのです!?」

「ジル、貴方ですね。この惨状を望み、そして、私を創造したのも」

「な、まさか、気づいていたのですか!?」

「いえ、まったく気がついていませんでした。ですが、貴方には村でのことを、あまり話していなかったのを思い出しただけです」

「まさか、そんなことでですか?」

「はい、大切な数少ない思い出ですから」

「──」

 悲しそうにでも微笑む彼女。ジル・ド・レの目には眩しく、そして、あの日の戦場で見た光だった。

 

「じょ、冗談じゃないわよ。私はジャンヌ・ダルクなのよ!そうよね、ジル!!!」

「……」

「ねえ、ジル、答えなさいよ!ねぇ──」

「──はい、貴女はジャンヌ・ダルクです」

 彷徨う黒いジャンヌ・ダルクの問に答えたのは、ジャンヌ・ダルクだった。

「な!?」

「貴女はジャンヌ・ダルク、私はそう思っています」

「なんでよ!?あんたから見たら偽物なんじゃないの!?」

 ジャンヌ・ダルクは叫ぶ。しかし、ジャンヌ・ダルクは落ち着いた声で言う。

「確かに、本物と偽物で言えば本物は私と答えます。ですが、貴女が聞いたのはジャンヌ・ダルクかどうかです。ならば、私はジャンヌ・ダルクだと答えます」

「だ、だからなんでよ!?意味わかんないわよ!?」

「貴方は何の為に、戦場に立ったのか─この質問に貴女は、私はこのフランスを救国します。そう、答えました」

「え、ええ、そうよ!私はジャンヌ・ダルクなんですから!」

「ええ、私もフランスの為に立ち上がりました。一緒ですね。ですから、貴女はジャンヌ・ダルクです」

「なによ、そのメチャクチャな理論は!?」

 ジャンヌ・ダルクは余計に取り乱す。

「ええ、メチャクチャです。ですが、それで良いのです。なぜなら、私はただひたすらにフランスを救いたい。その一心でここまで駆け抜けて来ました。─何の為に、戦場に立ったのか。その答えは、ただひたすらにフランスを救いたかった。それだけの思いで、私は旗を振ったのです」

「──は?」

「そして、貴女の人類種の抹殺による救国。これは私の望む救国とは違います。私が貴女とこうして対面しているのは、その違いのみです」

「──は?」

「さあ、決着を着けましょう!」

 ジャンヌ・ダルクは堂々と宣言した。決着を着けると、ならば、僕達もそれに続くしか無かった。そして、向こうで一番最初に復活したのはジル・ド・レだった。海魔を次々と呼び出して、ジャンヌ・ダルクの復帰の時間を稼ぐ。

「──おお、おお、ジャンヌ、ジャンヌよ。可哀想に、ですが、貴女の望む救国をお進みなさい。さあ、さあ、我等の道を阻む、ジャンヌ・ダルクを!」

「あ、そうよね、私の、ジャンヌ・ダルクの救国は、まだ──」

「─そうです!ここが袂です。我等のジャンヌ・ダルクとジャンヌ・ダルク。真の聖女となる袂なのです!」

「…ええ、ええ、そうね。ジャンヌ・ダルクとして、このフランスを救国する。そうよね!」

 ジャンヌ・ダルクは立ち上がる。そして、今一度、ジャンヌ・ダルクは相対する。それぞれの救国を胸に。

 

 

 そこからの戦いは、ただ、ただ、ひたすらに想いの戦いだった。ジャンヌ・ダルクの旗が打ち合う。何合にも及ぶそれはお互いの想いを表していた。理想郷への救国。純粋に平和への救国。それをお互いに示し合っていた。

 

「さあ、ジャンヌ・ダルクの邪魔となる障害は、全てこのジル・ド・レがお相手いたします!!」

 ジル・ド・レは次々と海魔を召喚する。

『凄い数の海魔だ!!みんな、気をつけて!』

「ハ、海魔ごときじゃあ足止めにならねぇぞ!」

「ああ、マシュとマスターはジャンヌ・ダルクの救国を見届けてくれ」

「本当は私も、そっちに行きたいですが!マスターに近づけません!!」

「ボエーーー!!」

「トカゲ、ここで騒音を撒き散らさないでくださいます!?」

「マリー王女、貴女も後方で」

「いいえ、友達が頑張っているのですもの!私だって頑張るわ!!」

「──死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)!!煩いコーラスが混ざってるけど、即興演奏も良いかもね」

 数には数、いくら海魔が来ようとも頼もしい味方がジャンヌ・ダルクを支えるのだった。

「ジャンヌ、頑張って」

「はい、応援しましょう!」

 僕達は2人の戦いをしっかりと見ていた。いずれ決着が着く。でも、形はどうであれ、救国の想いは同じ。それを取りこぼしたくなかった。

 

「ハァハァ、まだ、倒れないのよ!?」

「ハァハァ、わかりきった答えですよ。まだ、終わってないからですね!」

「く、こっちだってまだ、終わってないのよ!」

 1合、2合、まだまだ続く。ジャンヌ・ダルクは諦めなかった。

 

 

「海魔よ、我が友、プレラーティよ!我がジャンヌ・ダルクに救済の手を!──」

「──グオぉぉぉ!!」

「──おお、ファヴニールよ。そなたもジャンヌ・ダルクを!!」

 壁を貫き飛来したファヴニールが、こちらを睨む。

「フ、役目を果たす事が出来そうだ」

「ええ、助太刀しますよ」

 頼もしい背中が2人。稀代のドラゴンスレイヤーは、邪竜であっても退く理由にはならないのだ。

 

 

 

 搦手も騙しもない、いや、そんな余裕もない。服はボロボロ、体中が傷だらけ。物語の綺麗な聖女はいない。だけど、聖女は確かにそこにいる。

 

 

「ギャオォォォオッォオ!!」

 ファヴニールが尾を横薙ぎに振り払う。それをジークフリートが受け止める。そして、ゲオルギウスが竜殺し(インテルフェクトゥム・ドラーコーネース)の能力で力屠る祝福の剣(アスカロン)を振るう。竜種に対して特攻のその力を、ファヴニールは真正面から受け止める。だが、邪竜には邪竜の秩序がある。そう、仮とはいえ、竜の魔女への義理を果たせていない。だから、邪竜は倒れない。

「そうだな、三度、お前と相対した。そこには互いに理由があった。此度の相対も、理由がある。そして、此度も負けられぬ理由がある」

「…決着を着けましょう」

「ああ」

「ギャオォォォオッォオ!!!」

 三者三様、それぞれの理由を力に。

「我が身、剣、仲間の栄誉にかけて!これこそがアスカロンの真実。汝は竜、故に罪ありき!力屠る祝福の剣(アスカロン)!!」

「ギャオォォォオッォオ、ゴガァァァ!!」

「邪悪なる竜は失墜し、此度も世界は、洛陽に至る!これで最後だ、ファヴニール!――幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 光の本流が辺りを包む。立ち昇るエネルギーはその威力を物語る。そして、そこに残るのは2人のドラゴンスレイヤーだった。

 

 

 

 

「……」

「……」

 互いに話す言葉は尽きた。気力も体力も尽きた。あるのは、ただ、自分を貫く意志。それをみんなが見守る。ジル・ド・レも万策尽き、ただ、見ていた。ジャンヌ・ダルクの決着を。

 

「……」

「……」

「…──あ」

 ジャンヌ・ダルクが態勢を崩す。それをジャンヌ・ダルクが支えた。決着だ。終わりは静かだった。立っていた者はいない。しかし、ジャンヌ・ダルクが意志を貫き通したと誰もが理解できた。

 

「…ねえ、村での事を教えなさいよ」

「…フフ、どうしましょうか」

「なんでよ、良いじゃない。私だって貴女じゃない」

「ええ、貴女も私です。でも、長くなってしまいます」

「ああ、…そう、子守唄位に聞くわよ」

「…わかりました。では、───」

 ジャンヌ・ダルクは静かに、優しく、そして、微笑みの下で眠るのでした。

 

 

 

 

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