〜前回のあらすじ〜
メカエリチャンと共に、謎の特異点らしき場所に降り立った僕達。そこで出会ったのは、着物に革ジャンという奇抜な出で立ちの両儀式。彼女の案内のもと、これまた怪しさ満点の円柱型マンションを調査することになった。
昭和レトロな内装に目を奪われたのも束の間、そこには既に“先住不法滞在者”が存在していた。
その名も――謎のヒロインX。
就活中の彼女が僕達に求めてくる示談の条件とは何なのか、そんなものはありはしないが彼女は僕達に同行する事になった。
「……うん、こんな感じかな」
「おい、呆けてるだけなら先にいくぞ。予想以上に時間食ったからな」
「パイロット候補、記録なら私の記憶媒体にも保存されるわ」
「それにここの立地は、私も知ってるのでモーマンタイですよ」
あらすじ──脳内日誌に記録していたら、他3人に気遣われてしまっていた。─多分。
「えっと、ひとまず次は隣の部屋かな?」
「ん…Xだったか。お前、隣の住人とは話したのか?」
「はい?……んー……」
「ねえ、X、さん?ここに来てから家から出た?」
「…パイロット候補、流石にそれは──」
「いやぁ、部屋から出なかったですねぇ。こう、就職したら休めないじゃないですか」
「──不法滞在にニート、…あ、頭がいや、CPU?」
「ハァ、どうでもいいが、わからないならさっさといくぞ」
呆れた様に吐き捨て式は部屋を出る。僕達は慌てそれを追った。式を追って外に出た僕等を吹き付けたのは、生ぬるい潮風だった。式はドアの横でその風を鬱陶しそうに浴びていた。
「そういえば、メカエリチャンさんは錆とか大丈夫でしたっけ?」
「…ちょっと待ちなさい、貴女への回答は私の回路に負荷がかかりやすい様だから。…そうね、完璧といつも断言する私です。が、一般的に機械が弱いとされる錆や水害等について、概念的に完璧な回答は持てなくなっています。対策はしますけどね」
「あ、そうだったんだ。ダヴィンチちゃんやスカサハと一緒に対策しているんだと思ってた」
「パイロット候補、概念や人々の認識、語り継がれた伝承とはサーヴァントにとっては重たい物です。そう、エリザベート・バートリーがあの様な姿であるように」
「……無辜の怪物、か。恐ろしいもんだな」
「ええ、人理とは時に残酷である、そう言う者もいるでしょう」
「…わぁーわぁー!!私から始めましたけど、これ以上は暗い話は無し!明るい話をしましょうよ!」
「ハハ、Xさんに全部同意するわけじゃないけどそうだね」
「おい、解決したな?次行くぞ、まだまだ部屋はあるからな」
式は稀に点滅する点灯を横に、一つのドアの前で立ち止まった。それにならう僕等もドアの前に立ち止まる。二階三号室。一号室と見た目は変わらない。あ、でもXさんのと違ってポストに新聞が刺さってない。真面目な人なのかも。
一瞬、此方の様子を伺った式は、ドアノブを回して外開きのドアを開けた。全員で中に入る。そこには──
「あら、突然の訪問者ね?フフ、良くってよ?ここは私の国じゃない物。でも、困ったわね。お茶の準備が出来ていないわ。してくれていた者達は此処にはいないし、道具の場所はわからないわ。…どうしましょうか」
畳に座る白百合の如く、見慣れた一面は何処か違う。だけど、その姿はマリー・アントワネット。
「ま、マリー、ぃ?」
「どなたかしら?………おぼえがないわ。何処かでお会いになって?」
「パイロット候補、少し下がりなさい」
「なんでしょうね、こう、ビュンとかピキンとか反応してますよ」
「知り合いか?…それにしては物騒だぞ」
メカエリチャンが僕の前に躍り出る。Xさんはアホ毛がピンとしている。式は相手の出方を伺っている。
「えと、知ってるはず」
「私はおぼえがないわ」
話は平行線だ。いや、あんまり意識したくなかったんだと思う。この目の前のマリーはカルデアのマリーじゃない。分かっている。サーヴァントは一人じゃない。オリジナルから別れた、樹木から別れた枝の一本だって習っていた。今までにあったサーヴァントは記憶を引き継いでいた。けど、このマリーは違うんだ。理解はしてもなんだか悲しいんだ。いや、とても悲しいんだ。
「おい、マスターなんだろ、しっかりしろ。どうする、ここはお前を立ててやるぞ。知っているんだろ?」
「…ありがとう、彼女と話をさせて」
一歩前に出る。話を聞いていたメカエリチャンが身体を横にずらす。式はナイフをしまう。Xさんは帽子を被り直した。
「フフ、良いの?貴方達の中で一番弱いのは、貴方じゃないかしら?剣とは無縁だけど、騎士は見てきたのよ?それなのに前に出てきて不用心じゃないかしら」
「僕は君とお話がしたいんだ」
「…お話と言うけれど、ここにはアフタヌーンティーもスコーンもないわ」
「うん、でも、君と話すのにそれらは必須じゃないでしょ?」
「そうかしら、お茶会という場所は貴方が思うよりも深いのよ?」
「じゃあ、準備をしようか」
「フフ、そうね。でも、此処にはティーカップもスコーンもないわ。貴方は無から物を作れるのかしら」
彼女に言われ部屋を見渡す。部屋にはXさんの部屋にもあったペンダントライト。少しボロついた柱に壁。Xさんの所にあった棚やキッチンは此処には無かった。
「此処には最初からこうだったの?」
「そうね、私も望んで来たわけではないわ。気がついたら此処にいたもの」
「そっか、Xさ──「マスター君、こちらを向かないでください。タイムを要求です!」──え?…ちょっと、相談しても良いかな」
「フフフ、おかしな事を言う人ね?まるで試練かのよう。良いわ、お好きになさって」
そう言うと彼女は立ち上がり、奥の部屋に歩いて行った。残された僕達は、互いを見れるよう集まった。
「えっと、Xさんどうしたの」
「はい、なんとなく彼女に背を向けるのは不味いと感じました。なんでですかね?」
「…ルールや制約みたいなのが有るのかもな。それを破ったらどうたらって奴だ。馬鹿にしない方が良いだろうな」
「では、それに従うとしましょう。パイロット候補、ひとまず達成目標を決めましょう。貴方は何処を目指したいですか?彼女との対話だけであれば、準備は要らないでしょう。それ以上を求めるのであれば、必要なのでしょう」
「うーん、なんとなく私の部屋には戻れない気がしますし、どうしますかねぇー」
「…オレはその辺は得意じゃないぞ」
「…目標か、そうだね、準備したいな。Xさんじゃないけど、勘だけどそう思う」
「了解、確認します。目標はお茶会の開催。現状はこの場には家財道具は無く、Xの部屋には戻れない」
「そうですね、さっきも言いましたが戻れないと思います。式さん、ドアノブを回してみてください」
「……」
式はドアノブに手をかけた。──バチッ!!
「チッ……!」
嫌な音と共に、式が咄嗟に手を離す。見れば、彼女の掌から微かに黒い焦げ跡のような煙が上がっていた。ただの静電気ではない。強力な結界、あるいは呪いだ。
「……なるほどな、鼠は既に罠の中か」
「わぁー、触らなくて良かったぁ。っと、マスター君、見て貰った通りですがどうします?」
「うーん、メカエリチャンは何か有る?」
「そうですね……………有りました」
「へー、…有るんですか!?」
「メカエリチャン、どんなの」
僕達はメカエリチャンの方を向く。メカエリチャンは表示させた仮想キーボードを叩き、何かを探しているように感じる。数秒が経過した時、メカエリチャンは僕達の方へ視線を向ける。
「見つけたわ、とは言っても私も中身を、把握している訳ではないけれども」
「…話が見えてこないぞ?」
「なんですかね?」
「さぁ?」
そう前置きすると、メカエリチャンはエンターキーを叩き、それを実体化させる。メカエリチャンのストレージからリアルに直接送信する。パチパチと徐々にその姿を表す。
「バ、バスケット?」
「なんだか美味しそうな匂いがしますね」
「……」
「…完了。これはカルデアからの支援物資ですね」
そこに現れたのは蓋付きの3つのバスケットだった。メカエリチャンはその一つを開封する。中にはレトルトパックや水筒が入っていた。メカエリチャンはその中からメモの様な紙を取り出して、僕に向けて差し出してきた。…キャットからだ。
〜ご主人、これを開けていると言うことはお腹を空かせておるか、それか困りごとであろう。それはツンドラの極寒だろうが阿蘇山の噴火か?しかし、安心して欲しい。キャットはそんな事は既に解決済みなのだ。ダヴィンチの万能を間借りする程の有猫のキャットだワン。さあ、心で想像するのだ。ご主人の望む食事をな!あ、限度はあるのでな。例えば金ピカの王様を持て成すとかは無理だ!では、カルデアで帰りを待っているキャットより〜PS.作成にはマシュも参加しているから撫でてやるが良いぞ。追伸.マシュ作の携帯食はID.OMSBだぞ……なるほど?
「メカエリチャン…」
「パイロット候補、言わなくて良い。分かっています」
「…生モノの一種か?」
「何処の宇宙にもいる生物でしょう。きっと」
もう一度、紙を見つめる。心に望めば出て来ると言う判断で良いんだろう。多分。ならば、今、僕が望まないといけないのは…そう、マリーとしたあのお茶会だ。あのリップとマシュとマリーとで机を囲んだあの日のお茶会だ。
バスケットが書き換わる。データであった物が現出していく。白い陶器のラウンドテーブルと椅子が5つ。ガラスのティーポット、ティーカップ&ソーサーにケトルと、続々と現出していた。
「わあ!マスター君、凄いですよ!」
「へえ、やるじゃないか」
「ええ、上出来ですね」
「うん、まさかこんな感じとは思わなかったけどね」
現出した物を眺める。ポットやケトルに、そしてラウンドテーブルと、明らかにバスケット大ではない。けれど出てきたそれらを僕達は、なんだか達成感と共に見つめる。
「ではでは、さっさと設置してしまいましょう!」
「肯定、テーブルは中央ですね」
「…おい、これ出来た物を出したんじゃ無いのか?誰か淹れられるのか?……たくっ」
「カップはどこに置けば良いんだっけ?」
舞台は整った。
「スコーンっていい匂いですね!」
「うん、カルデアでもよく作ってくれてたんだ」
「…なんでオレが………こんなものか?……味見…彼奴等に判るのか?」
「椅子はこの角度ですね」
舞台は整った。さあ、招こうあの孤独の王妃様を。
古びた和室の真ん中に、そこだけ時空が切り取られたかのように優雅な、純白のティーサロンが完成していた。
「マリー・アントワネット、準備ができたよ。……お茶にしようか」
僕の声に応えるように、奥の部屋から彼女がゆっくりと姿を現した。
一歩踏み出した彼女は、そこに広がる「あり得ないはずの光景」を前に、初めてその歩みを止めた。
「……あら、いい匂いね」
その光景に微笑む彼女。けれど、彼女の瞳に宿ったのは困惑だった。
ふわりと漂う、懐かしく温かい紅茶の香り。エミヤが、キャットが、マシュが込めてくれた変わらないあの日が、そして、再現した僕達が冷え切った特異点の空気を溶かしていく。
「フフ……本当に、無からこれほどのものを用意するなんて。貴方は本当に、不思議で、……そして、とてもおかしな人ね。とても嫌いよ」
彼女は白百合のような微笑みを浮かべ、僕が引いた椅子へと静かに腰を下ろした。
たとえ彼女に記憶がなくても、この香り、この笑顔、この温もりがあれば、何度だって「絆」は結び直せる。
外ではバチバチと鳴る点滅灯の下、生ぬるい潮風が吹いている。でも、この六畳一間にだけは、優しい風が吹いていた。
僕と王妃の奇妙で優しいお茶会が幕を開ける。
式が彼女のカップに、香り漂う黄金色の紅茶を注いだ。