僕のカルデア日誌   作:kanaumi

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これでオガワハイムでの一幕は終了です。


オガワハイムでの一幕⑤ 黒影の夢廻地獄

 

 バタンと扉が閉まる。冷たい夜風が僕らの間を通り抜ける。メカエリチャンと目が合う。彼女の固い眉が少し歪んで見えた。メカエリチャンは最後までナイチンゲールさんを見捨てなかった。電気ショックを何度も何度も行った。それでもナイチンゲールさんの心臓は動かなかった。あの後、メカエリチャンは僕にすみませんと言った。僕はその意味がわからなかった。でも、メカエリチャンが同じ気持ちでいたことに少し安心した。諦めたくなかった。だからこそ結果を受け入れた上での悔しさが、僕らの中に渦巻いていた。マリーの時とは違う気持ちを整理したい僕は大きく深呼吸をする。そんな僕にXさんは相変わらず空気を読まない顔をしている。後で怒ろうと思う。少しくらいセンチな気持ちにもならせてくれ。しかし、事態はそれを許してくれないようだ。

「パイロット候補、突然ですが大型の反応をキャッチしました」

「どこだ」

 メカエリチャンは僕の肩に手を置いて告げる。でも、いち早く反応したのは式だった。

「…上、屋上でしょうか」

「屋上?何かありましたっけ、ドゥスタリオンからは特に見えませんでしたけど」

 屋上、ここに入る時には屋の様子は見れなかった。Xさんは何もなかったと言っているが、メカエリチャンのセンサーが間違うとも考えづらい。

「式、どう思う?僕は様子をみた方がいいと思うけど」

「…ああ、オレも賛成だな。誘っている感じだが、貴重な手がかりだろ」

「…そうですね、明らかな罠かと」

 式はなんでもないように言い切り、メカエリチャンも罠と同意した。けど、行くべきだと意見は固まりつつあった。

「あ、ならすみません。なんか終わりそうなんで私はドゥスタリオンを取ってきますね。多分、動くと思うので」

 そう言って、Xさんは僕らと反対の廊下を走っていった。見送ることになった僕らは、互いを見合わせて思わずため息をつく。

 

 

 Xさんと別れ、三人になった僕達は、屋上を目指して進んでいた。途中、謎に扉が半開きとなっている部屋があった。無視してもよかったが、今までを思うと無視はできなかった。開いた先には武蔵坊弁慶を名乗るのに即座に違うと否定する男性だった。弁慶、僕でも知っている歴史の人だ。でも、本人は違うという。しかも、メカエリチャンはサーヴァントと判定を下した。なんだかこんがらがって来ていた。式が前に出る。式は弁慶に問う。死にたいのか、弁慶は静かに頷く。僕は式を止めるため声を出す。しかし、一閃。弁慶は粒子を飛ばすように消滅した。その顔は微笑んでいた。

 

 再び3人に戻った部屋で、僕は立ちすくんでいた。一瞬だった。そのせいでろくに感想が出てこない。悲しいも悔しいも今は二の次だ。

「…おい、行くぞ」

「…パイロット候補(マスター)」

 式の声が聞こえる。振り向くと式はもう扉に手をかけている。メカエリチャンも式の横で僕をみている。そっか、もう行かなきゃなのか。もう一度、弁慶ではない者の跡を見る。何もないその空間に、確かにいたのだろうと僕は思い込んだ。整理はつかない。けど、何故かそれは整理してはいけないと誰かに言われた感じだった。

 

 

 部屋を出た後も僕たちは進んだ。式はわからないけど僕はその時、前を見れていたかはわからない。今も後ろを見ているかもしれない。でも、前には進んでいる。メカエリチャンや式が引っ張ってくれているからだろう。二人だって思うことはあるはずなのに。だから、僕は進んでいる。

 式が階段の先で止まった。メカエリチャンと目が合う、

 

 ──そうか、あれは最後の扉なんだ。

 

 

 ギギーと、耳障りな音を立てて扉が開く。扉の間から待ちに待ったと温い夜風が僕らを迎えた。月明かりに照らされて、不思議と暗さを感じない空間に踏み入れた。辺りを見渡すと、マンション内では見かけなかった幽霊達がマンションを囲むように泳いでいた。

 

「メカエリチャン、何か反応が───」

「前を見ろ、お出迎えだ」

 式が言葉を遮って前に出る。メカエリチャンも遅れて前方を注視する。

 そこには──闇があった。バチバチとプラズマが走る黒い影がそこにあった。なんだ、あれは。これまでにも不思議な体験はあった。だけど、目の前の存在は見たことがない。…でも、敵意は感じなかった。それが余計に理由が分からないのだけども。

 

「……漸く辿り着いたか。カルデアのマスターよ」

「しゃべった」

「当然だ。我が身は獣で非ず、言の葉を交す。…だが、そうだな」

 闇が晴れる。そこには黒い外套に正反対の白髪を持つ男が立っていた。

「さて、カルデアのマスター、最後の問答を始めるぞ」

「ちょっと、待って。色々と置いていかないで!」

「肯定、貴方は何処のサーヴァントですか」

 僕達はあまりにもせっかちなその存在に待ったをかける。

「…それは、必要な質問(こと)か?この怪奇な舞台で、名もこの身すら、もはや重要ではない。ただ、変異した目的を果たす事のみ」

「おい、ならさっさと話を進めろ。お前は何をしたいんだ」

「…カルデアのマスター、問おう。お前は此処で見てきた筈だ。サーヴァントではなく人間として死んでいった者達を」

「………」

 マリー、ナイチンゲールさん、弁慶、彼女達の事が頭に浮かぶ。そして、その最後も。

「ここは本来であれば、お前が来る場所ではない」

 男は語る。

「しかし、干渉する者がいた。その者によって本来の役目も変異した」

「意図が見えません。何故そのような事を」

「さあな。だが、物好きがいた。そして、お前に与えた。それだけだ」

 与えた?何か与えられた?

「…おい、語るなら余所でやれ」

「…まあ、良い。──お前は死を見た筈だ。目の前でな。原因はお前では無い。しかし、死を見届けたのはお前だ。お前は最善を尽くせたか?後悔はなかったか?」

 最善、後悔?……そんなの、そんなの──

「あったさ、目も反らしたかった。でも、僕は反らせなかった。最善よりも必死だった」

 黒い外套の男は真っ直ぐ僕を見ている。顔は見えないのに、目が僕を捉えているのが直感でわかった。だから、僕も真っ直ぐ睨みつけた。

「後悔だって、したさ。全部がそうだ」

「パイロット候補…」

「……」

「…全部、か。では、もし彼等が目の前でもう一度同じ状況になったらどうする」

 答えは決まっている。

「もちろん、また助ける。何度だって助けるさ!」

「ええ、それでこそマスターです」

「……へぇ」

「………ク、ハハハハッ!!そうか、やはりな!」

 突然、笑い出した男に僕はなんだこいつと思いながらも、睨み続けた。

「契約は満了だ。カルデアのマスター、お前は確かに答えを出したのだ!」

 こちらを置いてけぼりに盛り上がるあっちに比べて、こちらはいまいち状況が読めていない。けど、男に敵対の意思はもう感じない。横のメカエリチャンも構えを解いている。そして、男は歩き出した。

「ちょっと、何処に行くの!?」

「──待て、しかして希望せよ」

「何に!?あ、行っちゃった」

「なんだったのでしょうか?」

「は、者好きだっただけだろ」

「クハハハ!」

 扉から降りていった男の背を見ながら、僕は─待て、しかして希望せよという、置き土産の言葉をメモに残した。

「さて、オレも行くか」

「え、式も忘れ物?」

「Xと一緒に……まあ、そんな物だな。ああ、そうだ。だから、お前達もさっさとここから帰れよ」

 そう言って、式も屋上から降りていった。

 

 屋上には僕とメカエリチャンが残った。

「…どうしよっか?」

「……そうですね、パイロット候補1人を……レイシフトされる事は無理ですが、思い出しなさい。此処に入る前の事を」

 前、確か………あ、そうか!

「夢の中!」

「Excellent、であれば方法は一つね」

「目が覚めれば脱出できる」

「そのとおり、…物理と特殊、どちらが好みかしら?」

「えー!?…あれ、メカエリチャンは夢から来たっけ?」

 確か、跳んできたって言っていたような…。

「否定、私は物理的に侵入したわ。だから、この方法で帰還できるのは貴方だけよ」

「どうするの!?まさか、ここまでなの!?」

「…まあ、最終的にはそうなる可能性があるわね」

 メカエリチャンは眉をしかめつつ言葉を発する。

「そんなあ…」

「おや、マスター君、マスター君、お困りですか?」

 後ろから聞こえたのは─

「Xさん!?」

「お待たせしました!私のドゥ・スタリオンが漸く直ったんですよ―!!」

 Xさんの背後には青いボディの宇宙船が鎮座していた。

「そんなに大きかったの!?」

「そりゃあー、サーヴァントユニヴァースからここまで来る為にご飯を沢山積んでますからね!」

「…まさか、X、貴方のそれは─」

「はい!脱出できますよ!」

 今だけ、彼女を女神に昇格させようか。

「じゃあ、脱出しよう!」

「わっかりました!ささ、乗っちゃいましょう!」

 Xさんに言われるままに、僕はドゥ・スタリオンに向かって足を出した。その時だ、突然天地がひっくり返す。

「マスター!!」

 メカエリチャンの声を最後に僕の目の前は真っ暗になった。

 

 

 

 

 なんか温かい、いや、暑い?

「──熱い!!グハッ!?」

「きゃっ!!」

 熱さで起き上がった僕は金色の壁に頭をぶつけるのだった。

「先輩!起きて……大丈夫ですか?」

「あら、あら、ますたぁのおでこが赤くなってますわ」

「マスターさーん!!」

 ああ、リップの手かぁ。マシュと清姫の声も聞こえる。帰って来たぁ。そうして、僕は再び目を閉じた。今度は、安心と幸せと痛さを共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 階段を降りる靴の音が響く。そこはマンションからは辿り着けない一本道。駐車場から降り立つ禁忌の墓所へ続いていた。

「……」

 式はそこを知っていた。

「……」

 階段を降り、歩く。そして、一つの部屋に辿り着いた。

「…ここだな」

 頑丈な扉が式の行く手を遮る。しかし、物であっても目からは逃れられない。切開かれたその先は、おぞましいものだった。

「……」

 1つ2つでは無い数の培養槽。多くはヒビ割れていたが、中には可動中の物もあった。見知った顔も白百合も白衣の天使もそこに並んでいた。

「…悪趣味だな」

 奥にはチカチカとモニターが光っている。それは可動の為の導力を制御する制御盤だった。式はそれを深くは見なかった。代わりに一刀、式はそれ以上振るわなかった。しかし、十分であった。忌まわしい輪廻を殺すのには。

「終わったか」

「なんだ、まだいたのか?とっとと帰ったもんだと思ってたが、案外暇なのか?」

 式の背後の空気が弾ける。黒い外套の男──エドモン・ダンテスは式が殺したカプセルを見る。

「見届けなければならないだけだ」

「そうかよ、なら、オレはもう行くぞ」

「ああ」

 式は踵を返した。その背をエドモン・ダンテスはただ見送るだけだった。

「──あら、つれないのね」

 しかし、式が足を停める。そして、先程までの雰囲気とは違うシキが振り向く。

「──お前か、最後のマスターを呼んだのは」

「フフ、正解」

 問いに対してシキは妖美にせせら笑う。

「折角だ、お前は此処が誕生した理由を知っているのか?」

「あら、貴方は興味が無いと思っていたのだけど。…そうね、此処は都合のいい装置を手に入れた者が、歴史の残り香を使った実験の場。けれど、そいつはとんだ節穴だこと。だって、管理者に裏切られているのに気が付かないのだもの。ねえ?」

 シキは、まるで他人事のように語った。

「…そうか。──だが、何故俺の前に現れた」

「ふふ、理由なんてないのかもしれないわね」

 再び、シキはエドモン・ダンテスを見てせせら笑う。

「その目で俺を見るな。……直視の魔眼、世界は案外狭いようだな」

「そう、出会ったのね」

「サーヴァントという者のサガだ」

 エドモン・ダンテスは視線を遮る様にハットを下げる。

「あなた、優しいのね」

「─違う、俺は復讐者だ」

 エドモン・ダンテスは顔を上げ、力強く言い切る。

「そう、次は何処へ行くのかしら」

「怨讐の彼方、あるいは…」

「ふふ、やっぱり優しいわよ、あなた」

「……」

 エドモン・ダンテスはシキに背を向ける。

「さようなら、彼によろしく伝えておいてちょうだい」

「…そうか、お前達は行かぬのだな」

「ええ、だって、あそこには不要な物だもの」

「……対価に一つ、引き受けろ」

 シキは瞳を閉じる。

「…そう、そこまでするのね」

「必要だからだ」

 

 黒き稲妻は去った。此処には躯体と心が一つ、残された。しかし、軸を失った特異点はじきに崩壊する。躯体は心をそっと歴史に遺した。これは、主人公の知らない幕間。だが、相手が見落とした小さな染みは、確かに残った。

 

 

 

 

 僕がカルデアへ戻った翌日のことだ。

「やあ、体調はどうだい?」

「ロマニ、うん、ちょっと体が重たいけど大丈夫だよ!」

 少し気怠けな感じが残っているけど身体は大丈夫そう。

「重たいか…まあ、2日は寝ていたからね。じきに慣れると思うけど、何かあったら言ってね」

「うん、そうする。…あ、何か用事?」

「ああ、いや、体調聞きに───」

 すると、ロマニの胸ポケットが震えた。

『──ロマニー、緊急事態だから、管制室に来てくれー』

「──おわぁ!レオナルドのやつどうしたんだろう?」

「緊急事態って言ってたね。僕も行こうか?」

「あー、そうだね。一緒に来てくれ」

 そう言って一緒に走り出した。

 

「緊急事態ってなんだい!?」

「何かあったの!?」

 管制室に入った僕達は集まった中にダヴィンチちゃんを見た。

「おっ、早かったね。おや、マスター君も一緒かい?それは重畳ってやつだ。いやね、カルデアに届け出不明のメッセージが送られて来たんだよ。この人理焼却中の今」

「先輩!」

「マスターさん!」

「マシュにリップも呼ばれたの?…ダヴィンチちゃん、内容は?」

「ああ、ちょうど解析も…終わったみたいだね。正面スクリーンにお願い」

「写します」

 写し出されたのは1枚の絵だった。そこには青い背景に何処かで見た宇宙船が──ドゥ・スタリオンが写っていた。

「これは?」

「……うん、宇宙船ってやつかな?」

「え、こんなステレオタイプがですか?」

「はい、低年齢の子供が見る絵本で描かれるような宇宙船ですね」

 そうだ、ドゥ・スタリオンだ。あの特異点で最後にメカエリチャンとXさんが乗って行ったあの船だ。

「ダヴィンチちゃん、他には何か無いの?」

「うーん……お、これって聖晶石じゃないか?」

「そっか、召喚してってことか!ロマニ!」

「はい!?どうしたんだい?」

「召喚システム起動させて!」

「いったいどうされたんですか!?」

「マスターさん、あの宇宙船に知り合いが?」

「うん、メカエリチャンとXさんが乗ってるんだ!」

「おー、メカエリザベート君が帰って来なかったのはあれに乗っていたからか」

「レオナルド、納得早くないかい!?」

「とにかくお願い!」

「まあ、リソースはあるし許可するよ」

 

 それからは早く、すぐに準備は完了した。

「…よし、───」

 詠唱する。おそらくこれがあのメッセージで伝えたかった事だ。詠唱する。メカエリチャン、Xさん。二人に会いたい。詠唱する。システムは虹色に回りだした。

「──天秤の守り手よ!」

 エネルギーが放出される。中央には特徴的な影が見える。

「メカエリチャン!」

 影を抜け、鋼の翼を格納して、彼女は一歩踏み出した。

「─イエス、ただいま帰還したわ。パイロット候補」

「おかえり!」

「ええ、またせたわね!」

 僕らの鋼の英雄が帰って来た。彼女はいつにも増してドヤ顔を披露していた。

 

「あの〜、すみませーん。私もいまーす…」

 

 

 

 

 




 この章だけで1年かかりました。次はどれだけ早く出せるか分かりませんがカルデア内の話を書こうと思っています。


 考えてはいたが誤りもあるかもしれず扱うと長いので本編では語らなかったもの
 オガワハイムについて
 オガワハイムの住人(ヒロインXを除く)は、荒耶宗蓮らが残した「人形」の概念に、特異点へ流れ着いたサーヴァントの欠片が重なって生まれた存在。人間としての機能をほぼ備えている。しかし劣化コピーであるため活動時間は短い。
 各部屋のルールはオガワハイム(特異点)の影響によって成立している。
 両儀式は部屋単位なら破壊できるが、オガワハイムそのものを壊すには非常に時間がかかる。

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