食堂を後にしたメカエリチャンは、まっすぐダ・ヴィンチの元へ向かっていた。
「まったく、パイロット候補はすっかり頬が緩んでいましたね。…いえ、仕方のない事であり、その為に珠肌ボディに傷が付く事も厭わなかったのですが…」
ぶつぶつとらしくない独り言が溢れる程度に、メカエリチャンも緩んでいると指摘する者はいない。いや、彼女とすれ違ったスカサハにはお見通しだった。
大きめの自動ドアを潜り、タブレット片手にダヴィンチが待つ2番格納庫へと足を進める。
「お、来たね、待っていたよ」
「ええ、遅れた事は謝罪するわ。文句はパイロット候補達に」
「へえ、君も楽しんでいたようだけど?」
「…気の所為よ。それよりもチェックを始めるわ」
メカエリチャンは優しく尻尾でダヴィンチの背をはたく。それを受けたダヴィンチは、やれやれと背中を擦りながらコンソールを叩く。
「…各パラメーターに誤差が生じているわね」
「ああ、そうだね。まあ、全体的に減少ではなく上昇なんだけど」
「私には経験によるパラメーター上昇機能は未搭載よ」
「マスター君が喜びそうな機能だけどねぇ」
表示されたホログラムには、メカエリチャンの機体データが並んでいた。特異点出発時と比較すると、スラスター推力が微増、ウィングの硬度が微増、エリザ粒子貯蔵容量が微増と、その他パラメーターも微増していた。
「…原因は?」
「うーん、『エリザ粒子だから』で片付けたくなるけどねぇ」
「特異点での行動はログを精査済みです。特段可笑しい挙動は確認できていません。……訂正、範囲を見誤っていた可能性があります」
メカエリチャンは端末を操作し、定期で行われるセルフチェックのログを確認する。範囲は量子ジャンプの前後を指定。ホログラムに表示された当時のパラメーターには、明らかな違いが見えた。
「ヒットね。…あれが原因なのは頭が痛いのだけど」
「あー、エリザベート君のライブでエリザ粒子が通常以上に充満していたからね。それを導力とする君にも影響があっても不思議では無かったね。…もしかして、もう一回やったらさらなるパワーアップもあるかもね?」
「却下」
「ハハ、まあ、あの後の片付けは大変だったからね…」
謎のショックウェーブを放つ騒音モンスターを相手に、立ち上がった4人の戦士の話はまた別の機会だ。
「ところで、謎のヒロインX君のロケットはどうだったんだい?」
「…操縦性最悪、耐久性も低評価。推進力はピカイチのモンスターマシーンよ。途中、何処か別の宇宙にいたという演算結果を即座にダストシュートしたわ」
「へえ、聞くだけなら面白そうな結果だけど?」
「あれはまだこの歴史には早い物。不用意なオーバーフローは破滅を呼ぶ物よ」
メカエリチャンはホログラムを閉じる。先ほどのエリザベート・パワーブースト計画を入念に、それでいて迅速にデリートしていった。
「…それもそうだねぇ。まあ、万能の天才がいるんだ。正体不明のデータに頼る必要もないね」
「ええ、ダヴィンチの言う通りよ。さて、誤差のアジャストも終了したわ。ダヴィンチ、以前からの計画を進めるわよ」
「お、良いね!どれからやるんだい?」
「…やはり、ブレードは必要ね」
「素直じゃないねぇ」
今日もメカエリチャンは自分を磨く。私は守護神であると矜持を胸に。そして、鋼鉄魔嬢は最強であると証明するために。
「…ダヴィンチ、今日の厩舎はいつもよりも静かね」
「うん?ああ、ロボとヘシアンはマリー・アントワネット君に誘われてお茶会だそうだよ。エウリュアレ君も一緒だとか」
「そう、彼も随分と馴染んだのね。…それにしてもマリー・アントワネット、ね」
「…ああ、特異点に彼女がいたんだったね」
「ええ、私は特に思う所は無いのだけれど、パイロット候補は割り切れていないようね」
思い浮かぶのは、通路でマリー・アントワネットとすれ違ったマスターの姿だった。普段と変わらず微笑む彼女と、それに笑顔を返しながらも、どこか表情の固いマスター。それで何か起こるものではないが、時間でしか解決もしない物であると考えられる。
「ダヴィンチ、私はこの件についてできる事はないわ」
「私だってないさ。カルデア内でそれができるのは当人達だけだよ」
「…そうね」
「さ、私達が出来る事をしようか」
「ええ、設計は任せたわ」
無駄な事はしない。できない事はしない。できる事をする。その他はできる者がすればいい。冷たいだろうか?いいえ、守護者は、ただ守るだけが仕事ではない。信じる事もまた、守護者の役目なのだ。パイロット候補への信頼関係こそが守護者たり得る事なのだ。
「ちなみに、そのドリルは何処につける気かしら」
「もちろん剣に」
「多機能も良いけれど、ドリルは足りているのだけど?」
「いや、君なら行けるかなって」
「貴方、徹夜し過ぎね。仮眠室はあっちよ」