聖地ベナレスへ向かうバスの中。
花京院は、ジョースターさんの斜め後ろから声をかけた。
「ジョースターさん、その腕なんだか腫れてませんか」
「そうなんじゃ。なんかバイキンでも入ったのやもしれん」
「うわー、ばっちい」
「なんじゃと、人が苦しんどるっちゅうに」
やいのやいのと騒ぐジョースターさんとポルナレフを尻目に、花京院だけは深刻な顔をしていた。
「それ、人の顔に見えませんか」
「怖いこと言うなよ花京院!」
「いえ。彼女が言っていたんです。人面瘡のスタンドがいると」
「なに!?」
「どこで襲ってくるかわからないので気をつけろと、事前に警告を受けていました」
「いつのまにスタンド攻撃受けたんだよジョースターさん!」
「わ、わからん!」
「いやごめん、私もわからん」
バスの運転手の体を借りて会話に割って入ると、一斉に皆に見られた。
バスはすでに市内に近づいている。私がスタンドで割り込む余地も十分だった。
つまり私のスタンドは、対象が素早く移動していようが発動圏内にあれば体を奪うことができるということである。
流石に目に見えないほど高速で移動していたら無理かもしれないが、人間がそれほど高速で移動しているところをお目にかかったことは未だない。
「おい」
「ちょっと待って、喋んないで。今ね、ものすごーく頑張って思い出そうとしているから。もうちょっと知ってた気がするんだ、あー、タロット、うん、そう、女で……」
この間少し時間ができたので、本屋の店員の体を借り、タロットカードについての本を読んだのだ。
改めてタロットカードの名前を確認して、スタンドになったとしたら、明らかに女性が担当していそうなカードが数枚あった。
女性スタンド使いのうちスタンド名を覚えているのを排除して、そこに当てはまるのが……。
「
思い出せたうれしさで、思わず柏手を打ってしまった。満足だ。
「おい! ハンドルから手を離すんじゃねえよ!」
「ごめんごめん。あー、すっきりした。よし、いいよ喋って」
「思い出したのは名前だけか?」
「本体が別にいるね。肉をまとって変身できるから誰だかわかんない」
私が覚えているスタンド使いの見た目は、ホル・ホースに惚れた風の少女である。
だが、ここに至るまで該当する人物は見ていない。ホル・ホースはめちゃくちゃ足が速かったので一人で逃げた。
だから本当に誰がスタンド使いなのかわからないのである。
ちょっとした不安を覚える。たぶん、原作とは違う展開になっているような気がするからだ。
「まーた変装の能力者か」
「あ、こないだ言ってたのとは違うんだけどね」
「多いのう」
「多いね。他にもいたかもって気になってきた」
しかし変身というのは便利な故、能力の応用でそれをやってのけるスタンド使いが多い。
「ちゅみみーん」
「……で、わしゃこれをどうすりゃええんじゃ!?」
ジョースターさんの腕に寄生した腫瘍は、ついに鳴き声を上げるようになった。こりゃまずい。
エンプレスについて、どうやって倒したのか、正直思い出せない。
戦った相手がジョースターさんだというのは間違いなかったと思うのだが、スタンド能力が茨で、大した攻撃力のない老人が、どうやってこれなんとかしたんだっけ? 波紋? 年の功?
「……切っていいんだったかな。そもそも切れる?」
「よし、俺に任せな」
ポルナレフがシルバーチャリオッツを呼び出した。
「なにーっ!? 切るのか!? 本当に!?」
「ここにきてビビるなよ!」
「でもわしの腕じゃぞぉ! せめて麻酔をだなぁ!」
「両手義手になったら哀れだぜ、ポルナレフ」
承太郎が肩をすくめて言った。ポルナレフが反論する。
「腕ごとはいかねえよ、よっぽどのことでなけりゃ」
「縁起悪いこと言うでないわ!」
原作を思い出せないので、これ以上ここにいても私は手助けできない。
ポルナレフがジョースターさんの腕を切ってスプラッタになったら、申し訳なさ過ぎて見ていられない。
私は車の運転を続けながらひょいと左手をあげ、「じゃ」と言った。
「本体っぽいのがいないかその辺見てくるよ。そこまで遠距離型じゃなかったと思う。最悪この街にはいるだろう」
「頼む、はやく見つけてくれぇ!」
固定観念を捨て、少女や女性以外も見ておこう。
肉をまとって変身できるのなら、男にだってなれるはずだ。
私のスタンドの関係上、正確にスタンド使いを見極めることはできなくとも、体に入りやすいか入りにくいかで、ある程度絞り込める。
つまり、体に入りにくいやつがスタンド使いである可能性が高い。