「……マジでごめん。エンヤ婆のこと言い忘れてた」
むくりと起き上がったエンヤ婆に、一行は即座に警戒態勢に入った。
私はそれを無視して、落ち込んだ様子を隠さないまま、エンヤ婆の体を借りて謝った。
「なんだお前かよ! 元気に起き上がったもんだからまた襲ってくるかと思ったぜ」
ポルナレフの言葉に言い返す元気もない。私は完全に失念していた。
次のスタンド使いについて助言をするのは、ジョースター一行が次の街にたどり着いてからで構わないだろうと思っていた。
彼らにぴったりついていくことは、例えば人ごと車を借りて、そのまま追いかけてしまえば可能だった。
怪しすぎるからやめたのだ。敵でなく私だとジョースターさんたちに申告しておけばそれもできたかもしれないが、私が嫌だったからやめた。ジョースターさんたちでさえ、私がそこにいるとわかられているのが嫌だったからだ。
彼らが次にたどり着く街は、霧の街だった。
エンヤ婆が待ち構えている、死体だらけの街だ。
私は能力の性質上、生きている体しか操ることができない。
あの街で起きることのすべてを助言し損ねたし、私はそこで起きたことに一切介入できなかった。
タイミングもスタンドの詳細も覚えていたからこそ、エンプレスのように概要だけ伝えておくことすらしなかった。
私は馬鹿だ。自己嫌悪に陥っている。
「死体は操れないんだ。生きてる人間がスタンド使いしかいない街は想定外だった」
「そりゃそこまではわからんだろう」
わかってたはずなんだよ、展開も覚えていた。
だが、その展開になるのなら当然、そこには死体とスタンド使いしかいないだろう、とまで考えられていなかった。私は間抜けである。
「謝罪ついでに白状するが、私の能力は人の少ない場所では不利だ」
なにを今更、という顔をされるが、私は構わず続ける。
「操る人間を変える際、次に操る人間は、今操っている人間の視界に入るくらいの距離にいないといけない。たとえば今から急に、イタリアにいる人間を操るのは無理だ」
私のスタンド能力は、人から人に乗り移るようにして射程範囲を広げている。
もし私が操っている人の周囲に誰もいなければ、私はその人間の体の中に居続けることしかできない。
この点は、ハングドマンに似ているだろう。
反射するものがなくなればハングドマンが居場所を失うように、私は人間がいなければどこにも行けないのだ。
「私はスタンドの射程がとっても広いと言ったが、それは本体からどれほど離れても能力が使用できるという意味に過ぎず、いつでもどこにいる人間でも操れるという意味ではない。それから、私は意識を分裂できない」
つたない説明だったが、承太郎はその意味を正確に受け取ったようだ。
「てめえの本体は今どうなってる」
「まあ、意識不明で横たわってるだけだね。私はずっと君らの近くにいるから」
ポルナレフは心配そうな面持ちになった。
「大丈夫なのか、それ。もう何十日もたってるぜ」
「本体がどうなっているかわからないが、生きてはいる。戻った時相当衰弱してるだろうけど、もともと衰弱してるから誤差の範囲だな」
病弱というのは申告済みだ。
私の体は今頃、点滴を打たれて意識不明のまま横たわっているはずだ。
ホル・ホースの主導権を奪った際のフィードバック以外で、本体からのダメージは感じていないので、平穏無事に横たわり続けているに違いない。
ともかく、エンヤ婆のジャスティス戦で私は大変な失態を犯した。
何もできず、何も助言できないという体たらくだ。落ち込んでいる時間はない。
これからの行動で挽回するしかないのだ。私は情報を伝えるために口を開く。
「次に来そうなスタンド使いだが、目に見えないほど小さい――」
そこで視界がぐるりと回り、私はエンヤ婆の体からはじき出された。
エンヤ婆はスタンド使いだから、意識のない間しか操っていられない。
はじき出された私は一番近くの人間の体――路地にいた少年の体に入って愕然とした。
ああもう、また助言できなかったが!?