「スタンド使いの情報を事前に伝えておかない理由ならはっきりしている。誰が聞いているかわからないからだ。知っていることを知られてもどうにもできないような、敵が目の前にいる状態で伝えるのがベストだと思っていた。もう考えを改めているけど」
私が今まで伝えたタイミングは、そのスタンド使いが襲ってくることの裏付けが取れたときだ。
自らの目でグレーフライを視認したとき、偽テニール船長が爆弾をしかけているのを確認したとき――そして偽テニール船長と彼らが船旅に出るのを黙認したのは、追い詰めるのが海の上でなければ逃走する恐れがあると考えたからだ。
私が恐れていることのひとつは、敵を再起不能にしそびれることだ。
敵を逃がせば、後になって再び襲ってくるかもしれない。各個撃破が基本のこの旅で、万が一にも逃走兵が徒党を組んで襲ってくることは許容できない――すでにホル・ホースを逃しているが。
「誰が聞いているかわからない、か。法皇の緑の結界を張れば、その中なら侵入者がいないかわかりますよ。あるいはアヴドゥルさんなら生体探知を使えるので、周囲に生き物がいるかどうか確認できたのでしょうが」
「私も人間が相手なら、近くにいるかおおよそ確認できる。しかし潜んでいるのがスタンドであれば、私もアヴドゥルも確認できない。花京院の結界の中に敵がいなくとも、盗み聞きだけならもっと遠くからもできるかもしれない」
花京院の発言をしれっと流したが、知らなかった。アヴドゥルってそんなことできるんだ……。
炎の能力者だから、生き物の体温を感じることができるとかそういうことか? 炎に関係あるかそれ? いやそんなこと言いだしたらもっと突っ込みどころの多い複合スタンドは多くいるな、吉良吉影とか。スタンドって奥が深いな本当に。
「隠密・潜伏が得意なスタンド使いが敵にいるということか」
「ああ。私がずっと警戒していたのはエンプレスだ。彼女は人に寄生するから、きっと私と同じくらい盗み聞きが上手だ。ジョースターさんが自分を犠牲にして倒してくれたから、私はずっと喋りやすくなったよ、ありがとう」
「好きで犠牲にしたわけじゃないわい」
エンプレスが生きている間、私はジョースターさんたちでさえ、うかつに情報を話せなかった。
なぜなら、ジョースターさんたち自身が、寄生された
「嘘ですね。それか、エンプレスについて急に思い出した、と言った方が嘘でしたか?」
「どっちも本当だよ花京院。ずっと警戒していたし、タイミングが来たら君たちに伝えなければと思っていたんだが、タイミングがいつかわからなくなってね……本当に忘れかけていた。そも私が警戒していたのはエンプレスの盗み聞きの方だけでね。そういえば彼女、肉とか食ってでかくなれば戦闘ができる、私にとってはうらやましいタイプのスタンドだったなと後から思い出して……」
「そんな大事なこと忘れんな!」
ごめん。マジごめん。
「エンプレスは私の師匠みたいなものでね」
「何!?」
「といっても面識はないし、私が一方的に知っているだけなんだが。私と似たようなスタンドだから、使い方についていろいろ研究させてもらったというか」
私がスターダストクルセイダースへの同行を決意する、ずっと前の話だ。
自分のスタンドに出来ること、できないことを考えるにあたって、記憶にあるスタンドと比較するのがわかりやすかった。
私のスタンドは第三部でいえばエンプレスや、アヌビスによく似ている。人の体を借りて発動するスタンドだ。
つまり戦闘能力の一切ないエンプレスやアヌビスが、私のスタンドなのである。
「そのせいもあって私のスタンドを基準に考えてしまっていてね、エンプレスが私より強いスタンドなのを忘れてた、あはは」
「笑い事じゃねえっての」
ごめん。マジごめん。
「エンプレスはいなくなったが、他にも盗み聞きがうまい敵のスタンドはいる。まずDIOだな」
「なに!?」
驚いたのはジョースターさんだが、彼はすでに知っているはずだ。
「ジョースターさんのような念写に近い能力が使えるのを確認している。その場合、近くに生き物やスタンドがいなくとも、会話の盗み聞きが可能かもしれない」
DIOのスタンド能力は、ザ・ワールドに関しては多くを覚えているが、もう一つのスタンドの方は不明瞭だ。
念写ができることはわかっているが、どこまでできるのかはわからない。
もし
「私がどこまで知っているかを敵に知られれば不利になる。そう思って情報を出し渋っていたんだが、全部教えてしまった方がいいのだろうね。君らの方が頭もいいだろう。追加の情報があれば都度伝えればよいわけだし」
今私が知っている限りの情報をすでに伝えても、私にはやることがある。
彼らの周囲を監視して、襲ってくるスタンド使いを警戒したり、できればやりたくないがスタンド使いの体を操って九死に一生を得たり――などと思案を巡らせていれば、承太郎が言い切った。
「いいや。言わなくていい」
「えっ」
「なんでだよ承太郎!?」
驚く面々をよそに、承太郎は動じない。
「お前の言う通り、やつは時折俺たちを
「う、うむ、たま~にじゃが、見られている感覚がある」
やつ、とは当然DIOのことだ。
私は見られているという感覚を持ったことはない。DIOが見ているのがジョースター一族だけ、という可能性はあるが――あるいはDIOが見ていることに気づけるのが、彼らだけなのかもしれない。
「やつのスタンドをハーミットパープルと仮定しても、ジジイのスタンドは成長している。カメラを使い、写真でしかできなかった念写が、テレビだのラジオだの――やろうと思えばDIOを盗聴できるんじゃあねえのか」
「さすがのわしでもそこまではできんわい」
「老いぼれにはできなくとも、吸血鬼にゃできるかもな」
「おい孫ォ!」
爺孫コントだ。
「お前の警戒は間違っちゃあいない。俺はお前の判断を信じるぜ。だが、
確かに、私は弱気になっていた。
ジャスティス、ラバーズと、持っていた情報を十分に役に立たせられなかったからだ。
だから次からはそんなことがないように、今まで避けてきたリスクをとってでも伝えてしまおうと思ったが、それこそが逃げなのかもしれない。
私は彼らのそばにいて、いつでも情報を与えられるようにしておくのが、私にできるいちばんのことだと、初めは確かにそう思っていたのだ。
「であれば、敵スタンドの情報は、私が然るべきと思ったときに伝えよう」
私は意外と自暴自棄になるところがあるしなあ。
先に情報を全部言ったら、もう十分やったと思って自分の命を粗末にしそうだ。それは結果的に彼らを危険にさらすことにつながるかもしれない。
「手始めに次に襲ってくるスタンド使いのことを話しておこう。砂漠で襲おうと準備してるのを、もう確認してるからね」
「そこまでわかってんのに今まで黙ってたのか? もうちょい早めに言うとかよ……」
「呪いのデーボのときだったら、あれは直前までわかってなかったぞ。ギリギリ間に合ってよかったよ、ポルナレフ」
「何もかもお見通しだって態度でなんにもわかってねえときのほうが怖ぇな……」
「敵を騙すにはまず味方からっていうだろ。なあ?」
具体的に、敵を騙すためにポルナレフを騙している面々に話を振ってみる。主にアヴドゥルの死についてだが。
思い当たることがありすぎるので、ジョースターさんは「そうじゃの!」と元気に返事をしてくれた。