人の体を乗っ取るスタンド使い   作:九条空

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マニッシュ・ボーイその1

 本当はあのタイミングでDIOの能力について話してしまった方が良かったのだろう。

 だが、それは私が嫌だった。

 私の気持ち的に、未だジャスティス戦での汚名を返上できていない。

 ラバーズの処理も後手に回ってしまった。ここで、私はしっかりと役目を果たしたい。

 そうしてからようやく、DIOについて胸を張って情報を渡すことができるというものだ。

 

 空が妙な色をしているような気がする。

 黄色がかっているような、ピンクがかっているような。

 

 はて、私はどうしてこんなところにいるのだったかな――とボケかけた頭を、ぺしりと叩くことで正気に戻す。

 ()()()()いる場合ではない。ここはすでに敵スタンド使いの射程範囲内だ。

 

 ふらふらと夢遊病患者のように観覧車に乗る花京院の背中を追いかけて、私は同じ観覧車に乗った。

 彼の見る夢にしてはメルヘンな気がするが、デスサーティーンの趣味もあるのだろうか。

 座席に座り、困惑した表情で私を見つめてくる花京院の顔を見返す。

 

「花京院。ここは夢の世界だ」

「夢……夢だとすれば、あなたはなんです?」

「おや。私は夢に知らない人がでてきたりするけれどね。花京院はない? まあ今回、顔を知らなくとも、私の中身は知ってるだろ」

「……あなたですか?」

「ああ。私だよ」

 

 頷くと、花京院は安心したのか表情をやわらげた。が、すぐに訝しげになる。

 

「なぜうさぎなんだ?」

 

 その疑問も当然だ。私は今、遊園地にいそうな、デフォルメされたかわいらしいうさぎの着ぐるみを着ている。

 

「花京院、ここは夢の中だ。精神の世界――つまりね、私は今誰の体も借りていないんだよ。私のままなんだ」

「へえ。この着ぐるみの頭を取ったら、本当の顔が見られるというわけですか」

「やったら帰るぞ」

「冗談ですよ」

 

 私の気持ちを尊重してくれる程度には、花京院との間に友情を育めたらしい。

 冗談というのは嘘で、隙を見て襲われるかもしれないが。

 そうなったらマジで全部投げだして帰ろうかな。

 

「なんだ。本当に夢というだけでしたか」

「いや、夢を使って攻撃されてる。ここで受けた傷は現実世界に持ち越されるだろう。ダメージを受けるな」

「なんだって?」

 

 途端警戒して、花京院はハイエロファントグリーンを出現させた。

 デスサーティーンの夢の中には、寝る直前に身に着けていたもの以外では、許可されたものしか持ち込むことができない。

 スタンドでさえも、発現していなければ引きはがすことが可能なのだ。

 だからこのハイエロファントグリーンは偽物――というわけではない。

 

 デスサーティーンが襲ってくるのは夢の中だと知っているのだ。眠る前に助言するに決まっているだろう。

 

 私は花京院とジョースターさんにだけ頼み事をした。眠っている間もスタンドを発現しておいてくれと。

 承太郎とポルナレフに言わなかったのは、彼らのスタンドが人型で、隠しながら発現することが不可能だからだ。

 茨型のジョースターさんや、体を細く伸ばして地面なんかに潜行できる花京院は、スタンドを隠しながら眠ることができる。

 

 だから承太郎とポルナレフだけが狙われたら正直困ったのだが、原作通りに狙われたのは花京院であった。

 

「今回の夢でケリをつけるつもりだが、あるいは保険のために証拠になるような傷を残しておくのはいいかもしれない。夢の世界だから、起きた時にはほとんど忘れている。例外は傷だ、これは起きても残る。私もこの周辺にいる男の体を借りて眠ってみたんだが、運よく……いや悪くか、スタンドの射程内に入れたみたいでね。こうして標的にされた君に、改めて助言ができているというわけさ」

 

 私の想定では、この夢の中でも私はその男の体を借りているつもりだったのだ。

 しかし夢の世界だからか、男の体は持ち込めなかった――というより、男は男で、この夢の世界にいる。さっき遊園地で能天気に遊んでいるのを確認した。

 私のスタンド能力は人の()()を操ることだから、夢の世界に入って精神だけになれば、その範囲外になるということだろう。

 危ないな、全然想定していなかったぞ。慌てて夢のご都合能力を使いうさぎの着ぐるみを着なければ、正体がバレているところだ。

 

 デスサーティーンは、未だ自分自身の危機に気づいていない。

 

「さて、デスサーティーンを探しにこちらから出向くかい?」

 

 私が話し続けているうちに、ぼんやりしていた花京院がだんだんといつも見ている顔になってきた。

 

「思い出してきました。あなたがスタンドを出したまま眠れと言っていた、それがこれですか。まさか夢のスタンドとは。こうなっても現実感が薄い……」

「本来ならかなり厄介な能力だぜ。起きている間にスタンドを発現させて眠らない限り、夢の中にスタンドを持ち込むことはできない。別世界を構築するようなタイプのスタンド使いは、たいてい持ち込むものを向こうが設定できるからね。デス・サーティンの能力はゆるいほうさ。攻撃手段を持ち込む抜け穴がある」

 

 私は得意げな表情をしてみせた。といっても、着ぐるみの中なので見えないが。

 

「私がいてよかったな。典型的な初見殺しパターンを回避できる」

「ええ。恐ろしい能力だ。手も足も出ず殺されるところでした。だが、わざわざ夢の中で対決せずとも、本体を押さえてしまえばよかったのでは? ここまで詳しく能力を知っているのなら、本体についても知っているのではないですか」

 

 その通りだ。頷いて見せる。

 

「君の言う通り本体を直接押さえるほうがずっと楽だが、姿が赤ん坊がゆえにやりにくい」

「赤ん坊だって?」

「赤ん坊のスタンド使いだ。オランウータンや犬だってスタンド使いになれるんだから、生後数か月の赤子がDIOの配下でも驚くことはないだろう」

 

 平気そうな顔で言っているが、改めて考えるとすごいな。

 赤ん坊の才能をDIOが見抜いたのだろうか。あるいは赤ん坊の方からDIOを見つけたのか。

 

「スタンドさえ持ち込めば花京院なら負けないだろうが、危ないことは確かだ。私がこっそり赤ん坊の首をきゅっと絞めてきてもいいよ」

「……それは確かに、やりにくいですね」

 

 人に赤ん坊の殺害を指示する気は、花京院になかった。

 私だってできればやりたくないことだ。

 スタンド能力の特性上、私は殺人の罪だってなんだって、()()()()()()()()ことができる。

 赤子殺しの罪だって誰かに被せられる――というより、私の本体は今ここにないから、殺すとすれば誰かの体を借りるしかない。

 他人に罪をかぶせても、人を殺した感触は私の手に残り続けるだろう。

 

 というか、本当にこっそり赤ん坊を殺すのなら、わざわざデスサーティーンの能力の詳細を誰かに言わないままやるだろう。

 彼らに私が赤ん坊を殺したとバレたくないから、『スタンド使いの赤ん坊』の存在から隠す必要がある。

 まあ、そんなことはせずにすんだというわけだ。なにより、後からこっそり赤ん坊を殺していたことが露見する方が怖い。

 

「一回痛い目みせて大人が怖いことを教えれば、まだ再教育の余地があるかもな。花京院が殺さずに倒せたら、ジョースターさんに頼んでおくかい?」

「そうですね。僕は一人っ子だからうまく躾ができるかわかりませんが、やれるだけやってみましょう」

 

 あ、今この場でしつけるつもりなんだ。

 そのあとの花京院のデスサーティーンへの躾は、いわずもがなだろう。

 拷問・脅迫の間違いかな?

 怖いので聞けないが、花京院がこういうものを教育として家庭内で受けていたらどうしよう。




主人公とスタンドの名前が一切出てこないの、作者のネーミングセンスが終わってるからというのが理由第一位なんですけど、別の小説で主人公に「ノーネーム」って名乗らせるのはやっちゃったし、このままふわっとした名無しで走り切れ……いけるのか……?
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