感動の再会を終え、ジョースターさんを除く旅の一行は、先ほどアヴドゥルがすっこんでいった掘っ立て小屋の中でしばし休憩していた。
ジョースターさんは何らかの手続きがあると――まあ間違いなく潜水艦の手配なのだけど――忙しそうにしている。
だがそれも一段落したのか、ジョースターさんも掘っ立て小屋に帰ってきたので、私はこのあたりが頃合いだろうと口火を切った。
「ポルナレフ。変なもの見つけても拾うなよ」
私が今後の展開についてざっくり忠告すると、ポルナレフは不本意な顔をした。
「俺を何歳だと思ってんだおめーは」
「拾いそうじゃないか」
「おい花京院ッ」
「わはは」
花京院が乗ってきたのでつい笑ってしまった。
「いいかポルナレフ。金になりそうだからと光るものをむやみに拾ったりするな」
「俺はそんながめつくねーっつーの!」
「あははははは!」
さらにアヴドゥルまで乗ってきたので爆笑してしまった。
「お前なァ~!」
私が笑いすぎたので、ポルナレフの怒りの矛先が私にきてしまった。発端も私なので正しい。
どうにもさっきから笑いのツボが緩くなっているようだ。
「すまない、っふふふ。気を付けてほしいのはポルナレフに限った話じゃないんだが。ランプのスタンド使いがいるものだから」
「ランプぅ? あの光るやつか?」
「アラジンを知っているか?」
この確認が必要なのだ。なにしろ今は1988年――おっと、旅の途中で年を越したので、1989年である。
あのもっとも有名な、ディズニーの『アラジン』は未だ制作されていない。
現代出身の私が思うほど、アラジンと魔法のランプの知名度は高くない。
「魔法のランプか?」
「それだ。千夜一夜物語の――といってもほんとは誰かの創作で、原典には載ってない話だけど」
「そうなのか!?」
ポルナレフが驚いたということは、話自体を知っていたということだろう。
原作でまんまと三つ願いを言っていたので、てっきり知らないものだと思っていた。
無論、もともと世界的に有名な童話だ。知っていても何ら違和感はない。
「願い事を叶えると言いながらその願い事で殴ってくる」
「はぁ?」
説明が雑だった。
「人の願いを原動力に、土塊を操作して一見本当に願いがかなったようにしてみせる。人は欲望に弱いからな。もしかしたら叶うかもしれない、そのわずかな希望を絶望で塗り替えられると隙ができる。結構手ごわい相手だ。そもそも叶うと思うな。意外に近距離型だから本体は大体地中に姿を隠してる。カメオ――カメオは本体の方の名前だな? なんだっけ、あー、うーん、タロット、残りなんだっけタロット……」
「我々を除いて、まだ姿を現していないタロットは、世界、審判、女教皇だ」
「
思い出せた喜びのあまり、タロットについて教えてくれたアヴドゥルを指さしてしまった。
なんだかほほえましげに見られているのが気まずくて、咳払いをして話を続ける。大事な話だ。
「先に言っておこう。女教皇、ハイプリエステスは無機物になんでも変身して襲ってくる。世界――ザ・ワールドはDIOのスタンドだ。彼のスタンドは」
刺さる視線があまりにも鋭くて、一度言葉を切った。
なんでもないフリをして、ついでにDIOについて喋っちゃおう作戦は失敗した。私がなんでもないフリを続けられなかったからだ。やはりラスボスの話をするのは緊張する。
深呼吸をして、改めて覚悟を決める。信じてもらうための覚悟だ。
「彼は時を止める」
緊張のあまり乾いた唇を一度舐める。
何度も頭の中で整理した情報を続けて口にする。
「止めた時の中を、彼だけが動くことができる。彼がスタンドを使えば、止めた時の中で、止まったままの人間を自由にナイフで切り裂くことだってできるだろう」
「そんなの勝ち目がないじゃねえか!」
「無論弱点はある。止められるのは短い時間だけだ。おそらく数秒。だが彼の首が体と馴染めば馴染むほど、その秒数は増え続けていく」
ここまで言って平気だろうか、と不安が一瞬過ぎる。だが、DIOについての情報は最も出し惜しみしてはならないところだ。私が覚えている限りを伝えたい。
しかし、言い過ぎたあまりに信頼を失っては元も子もないので、やはり本当に全てを話すわけにはいかない。例えばロードローラーなどは――実際使うかその場になってみないとわからないし、言うべきではない。そもそも能力じゃないな、ロードローラーは。
花京院は静かに戦況を分析した。
「数秒を弱点と言えるだろうか。僕らはDIOの前で数秒間、無防備を晒すということになる」
「私はジョースター家に希望を託す」
ジョースターという一族の支援を行っているスピードワゴン財団だ。そこに所属し、本気で命をかけている人々は、多かれ少なかれジョースターという一族に心酔している。そんな1人の体を借りているからか、思いのほか言葉はすんなり出てきた。
「つまり、スタンド能力が
こんな言い方しかできない。
「でたらめだぜ。そんなにぽんぽん追加の能力がもらえるんだったら、俺だってタイムスリップできらぁ」
ポルナレフの言うことはもっともだ。
私もこの説に説得力があるとは思えない。本当に
承太郎がどうして時を止められたのか、その詳しい理由についてなんか覚えていないのだ。
私が覚えているのは、結果だけだ。空条承太郎のスタンド・スタープラチナは、時を止めることができる。それだけなのだ。
「承太郎って力が強くて器用なだけだろ」
「ええ……?」
あんまりな言いようだったからか、アヴドゥルが彼らしくない困惑した声を出した。
「正しくはスタープラチナが、だ。力が強くて、器用。今までそれに何度も助けられてきたが、それだけだ。マジシャンズレッドの炎やハーミットパープルの念写のように、固有の能力と呼べるものは、
基礎能力の高さだけでここまで来たのではないか、という指摘である。
「私は信じている。スタンドは精神の力だ。体を鍛えても何も変わらないが、危機を乗り越えれば成長する」
私が彼らに情報を与え、安全を取ることに不安を覚えるのは、成長の機会を奪ってやしないかと思うからだ。
だが、私はできる限りの情報を伝えて、戦闘を楽にしようとしている。道中誰も欠けてほしくはない。既にホリーさんの安否というストレスがかかっているのだ。精神的な成長に必ずしも戦闘が必要とは限らないと考えている。
「承太郎はDIOを倒せると、私は
これだけ言って逃げてしまいたかったが、ここに私が逃げ込める他の体はない。
私が与えた情報について、皆が真剣な顔をして考え込んでいる。その空間に、私も無言でたたずむしかないのだった。
気まずい。
今作では1989年説を採用。年代にそんなにこだわりはないです。
Privatter+というものを知ったのでお試し運用に、当作品の小話を上げました。
この作品が完結したら最終話の後にくっつけて投稿しようと思っているので、急いで読まなくていいやつです。
https://privatter.me/page/65a1a6a1bdb03