人の体を乗っ取るスタンド使い   作:九条空

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ジャン=ピエール・ポルナレフ

 私は潜水艦に付属していた説明書のようなものを真剣に読んでいた。

 計測機器の読み方や、ハッチの開け方など、様々なことが書いてある。

 なにがどう必要になるかわからないので、できるかぎり頭に入れておこうという魂胆である。

 主にダイビングについての項目だ。これはやることになりそうだし。

 

「レギュレーターというのを咥えて呼吸するらしい。ここに化けられたらすごく嫌だな」

 

 同じテーブルについて手持無沙汰にしていたポルナレフに話を振る。

 

「すごく嫌なら考えるなよ」

「でも敵は一番嫌なことをしてくるだろ? ここに化けて、口から体内に入って内臓を食い破るとか」

「オエーッ! お前、なんでそう性格の悪ぃこと考えるかね!」

 

 私がハイプリエステスだったらやりそうなことを言っただけで、私の人格が疑われるのは納得できない。

 そもそも私だったら酸素ボンベ事前に全部破裂させるしな、そうなったら詰むのかな、と考えていれば、ポルナレフがふと言った。

 

「疑問なんだがよ」

「ん?」

「スタンド能力というのは誰しもが秘匿したい情報だ。お前はそれをどうやって盗んできてる?」

 

 ふむ、それは私の諜報活動について知りたいということだ。

 別段職業にしているわけでもなし、秘匿することでもあるまい。

 

「悪党スタンドユーザーの特徴を知っているか?」

 

 質問を質問で返すなと怒られそうだが、これは話の前振りである。

 

「人殺し?」

「それもあるけどね。もっと小悪党もいるよ、人も殺せないような輩だ。私はそういうののほうが厄介だと思っているが――話が逸れた。彼らに共通するのはおおよそ、悪いことをしたとしても、『スタンドを使えば何とかなると思っている』、そして『他のスタンド使いとの対戦経験に乏しい』」

 

 スタンド使いのアングラ連中は多いが、スタンド同士の戦闘を経験しているものは少ない。そもそも数が少ないのだ。スタンド使いが滅多にいないのなら、滅多に戦闘になることもない。世界でいちばんスタンドバトルを経験しているのは、おそらく承太郎たちだろう。

 

「スタンドを使えば一般市民には見えないから、結構迂闊に使うんだよ。むしろ自分の手でなにかをすると、普通の人に見られるリスクがある。このリスクを比較した場合、スタンドユーザーに見られるかもしれない、というとてつもなく低いリスクは、彼らの頭の中では最早存在しない可能性になるのさ」

 

 自分以外のスタンド使いに、1度も会ったことがない、というのも珍しくないだろう。

 おそらくエジプト旅行に行くまでの花京院だってそうだ。

 DIOが各地のスタンド使いを見つけて集めようとするまでなら、なおさらそういう輩はもっと多かったろう。

 

「そして、彼らは他のスタンド使いのことをあまり知らない。世界的に見て数が少ないのだしそれは仕方ないね。だから、私のような人の体を借りて盗み見するような輩のことなど、思いつきもしない。私からしてみれば、誰もが隙だらけだ。隠し事に向いていない。あのDIOでさえも」

 

 私は既に、DIOがスタンド能力を使用するのを何度か目撃している。

 

「DIOは吸血鬼だ。人間を食事にする。その人間は大抵、食われる直前までは生きている」

「なっ、それってつまり……!」

 

 生きているということは、私が乗っ取ることができるということだ。

 

「DIOに食われる間近の人間の体の中に入るのは難しいことではない。DIOは食料を倉庫にいくらか貯めているので、館の中の情報はそのあたりから。館の中には他のスタンド使いもいて、食料や物資を商人とやり取りすることもある。まあいろいろ、隙はあるね」

 

 隙を見て暗殺も試してみたが、それはさすがに無理だった。

 

「お……っそろしい能力だな」

「そうかい? 私の能力ではポルナレフ、君をちっとも傷つけることだってできやしないよ」

 

 両手を上げて、無害をアピールしておく。

 ここまでの旅で、本当にお馴染みになってきたポーズである。

 最初の頃、私は「失礼」と声をかけるだけで己をアピールしていたが、それだけではたまに彼らにぶん殴られてしまった。したがって殴られる前に、両手を上げてから「失礼」と声をかけるようにシフトしていったのである。それでもたまに胸ぐらくらいは掴みあげられることもある。その場合、大体承太郎だ。警戒心が強くて何よりである。

 

「まっ、そこは得手不得手だな! 実際のDIO戦となりゃお前はすっこんで、俺たちにどーんと任せなさいって!」

「ははは。頼もしいな」

 

 DIOの手から女たちを助けられないことを、私は当然と思いながらも、申し訳ないと感じている。

 ポルナレフは感情に聡い。きっと私が隠した罪悪感を見抜いたのだろう。私は非難されると覚悟したが、彼は寸前で口を噤んだ。

 こういう気遣いを感じる方が、むしろ私の罪悪感は育つ。

 

 彼に話すべきではなかった。

 私という情報源を利用しているというだけで、正義感の強い彼らは、私の罪を勝手に背負ってしまうかもしれない。他人の体を利用して人を危険に晒し、助けられるかもしれない人々を見殺しにしてきたのは、ひとえに私だけの罪だというのに。

 うっかり心を許した私の隙だ。ポルナレフが話上手なのもいけない。

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