人の体を乗っ取るスタンド使い   作:九条空

24 / 83
ミドラーその2

「今からあるところに電話をかける。皆静かにしていてくれ」

 

 この潜水艦には最新の衛星電話までついている。

 現在海底60mにいるが、それでも通話が可能だ。

 妻・スージーQに、安心するよう言い含めるジョースターさんの声を遠くに聞く。

 ぼんやり壁に視線をやっていれば、アヴドゥルが叫んだ。

 

「んっ? おい、アフリカ大陸の海岸が見えた。到着するぞ!」

 

 サンゴ礁のそばに自然の浸食で出来た海底トンネルがあり、内陸200mのところに出口がある。

 そこからエジプトに上陸することになっている。

 

「いよいよエジプトか」

 

 このまま無事についてほしい、とは全員が思っていることだ。

 襲撃は今のところない。だが、海岸が近づけば近づくほどに危険は増す。

 一体どこまでがハイプリエステスの射程なのか、私も正確には知らないのだ。

 全員が瞳の奥に強い警戒心を宿す中、ポルナレフだけが妙に機嫌が良かった。なぜなのか聞いてみる。

 

「いや。改めて嬉しくてよ。だって久々だろ? こうして6人揃うのも」

「6?」

「なんだお前、数も数えられなくなったのか。6人だろうが」

 

 承太郎、花京院、ポルナレフ、アヴドゥル、ジョースターさんで5人のはず。……あ。

 

「私か」

「アヴドゥルの復活もだが、お前さんいっつもいるんだかいないんだかわからねーからな!」

 

 普通に数に数えられていて、変な感じだ。

 戦う能力もない私を仲間だと思ってくれるのは、なんというか、嬉しくもあり、荷が重くもあり……。

 

「いるってわかっていたら真っ先にやられる立ち位置なんでね、仕方ないだろう」

 

 戦闘能力がないくせに、情報だけ持っているやつなんて、私が敵なら一番に殺したい。

 スタンドでの戦闘能力が低いのに、頭は回るし念写もできる、ついでに金も持ってるジョースターさんを殺したいのとどっこいどっこいだ。

 

「なんだ花京院、おめーも数えられなくなったのか? もうカップは6つ出てるぜ」

「おかしいな、確かに6つ出したつもりだったのだが……」

 

 お茶を淹れようと、花京院が出してくれたカップは7つ。

 瞬間、記憶がよみがえった。私はこんな光景を、かつて見たことがある。

 

「離れろ。すでにいるぞ!」

「なにぃーっ!?」

 

 カップがハイプリエステスだった。

 私が叫んだことで正体を現したスタンドは、鋭い刃物で一直線に私の体を切り裂いた。

 

「ドギャース!」

 

 私がハイプリエステスでも、狙うのなら私かジョースターさんだ。当たる確率が高く、反撃の可能性が低い。

 やはり手練れだ。与えられた傷の深さをもって確信する。

 

「捕まえようとして握りこんだりするなよ、途中で刃物に化けて傷をつけられる」

 

 スタンドを出して構える承太郎に忠告する。こうなっては、最初の予定通りに外に出て逃げるしかない。

 ハイプリエステスは天井に張り付き、こちらの様子をうかがっている。

 見えているうちがチャンスだ。ここで撤退するべきである。

 

「私は置いて行ってくれ。もう保たない。体を貸してくれた彼には申し訳ないことだが」

「そんなことはできん! おぬしも死んでしまうんじゃろうが!」

「ジョースターさん。何も言わずに行ってくれ、頼むから」

 

 気休めに傷口を手で押さえるが、血は止まらない。

 肋骨を避け突き刺された、この傷は肝臓に達している。

 肝臓は人体の急所だ。数分で死ぬ。手際のよい殺し様だった。

 

「なんですって?」

「次に入れる体がなければ死ぬと言っとったんじゃ! そうじゃ、またわしの体に入ればいい!」

「言うなと言ったのに、ジョースターさん」

 

 肝臓を刺されれば一般に1分で意識不明、5分で死亡だ。

 私はこの体を本人より制御下におけるから、ギリギリまで意識を保つことはできる。

 だが止血はできない。死亡までの時間を延ばすことはできない。

 それにこの後海に出て浮上するのだ。これほどの傷で水中に出れば、出血量はとんでもない。5分と言わず死ぬだろう。

 

「駄目だな。君たちは戦わなければならない。私が入ったらそれができない」

 

 許可を得ればスタンド使いの体の中に入れるが、そんなことをするメリットがない。ラバーズのときが例外だっただけだ。

 私は戦闘において素人だ。私が中に入っても弱体化するだけで、戦いにおいて不利になる。

 少しでも助けになるために彼らについてきたのだ。少しでも邪魔になるのなら――そんなことをするくらいなら、私は死を選ぶ。

 

「足手まといになりたくないんだ。レギュレーターには気をつけろよ。後は、任せた」

 

 旅の終わりはあっけないものだ。

 いつだって死ぬ覚悟はできていた。彼らのそばにいないことで、助けられるものを助けられないことがずっと不安だったのだ。

 隙をついて襲われたのが私で、死ぬのが私でよかった。彼らの誰も、途中で欠けてはいけないから。

 ちょっとした肉盾にはなれただろう。

 

 これで私も、少しは胸を張って死ねる。




1月17日はDIOが消滅する日なので、代わりに主人公を消しておきました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。