「今からあるところに電話をかける。皆静かにしていてくれ」
この潜水艦には最新の衛星電話までついている。
現在海底60mにいるが、それでも通話が可能だ。
妻・スージーQに、安心するよう言い含めるジョースターさんの声を遠くに聞く。
ぼんやり壁に視線をやっていれば、アヴドゥルが叫んだ。
「んっ? おい、アフリカ大陸の海岸が見えた。到着するぞ!」
サンゴ礁のそばに自然の浸食で出来た海底トンネルがあり、内陸200mのところに出口がある。
そこからエジプトに上陸することになっている。
「いよいよエジプトか」
このまま無事についてほしい、とは全員が思っていることだ。
襲撃は今のところない。だが、海岸が近づけば近づくほどに危険は増す。
一体どこまでがハイプリエステスの射程なのか、私も正確には知らないのだ。
全員が瞳の奥に強い警戒心を宿す中、ポルナレフだけが妙に機嫌が良かった。なぜなのか聞いてみる。
「いや。改めて嬉しくてよ。だって久々だろ? こうして6人揃うのも」
「6?」
「なんだお前、数も数えられなくなったのか。6人だろうが」
承太郎、花京院、ポルナレフ、アヴドゥル、ジョースターさんで5人のはず。……あ。
「私か」
「アヴドゥルの復活もだが、お前さんいっつもいるんだかいないんだかわからねーからな!」
普通に数に数えられていて、変な感じだ。
戦う能力もない私を仲間だと思ってくれるのは、なんというか、嬉しくもあり、荷が重くもあり……。
「いるってわかっていたら真っ先にやられる立ち位置なんでね、仕方ないだろう」
戦闘能力がないくせに、情報だけ持っているやつなんて、私が敵なら一番に殺したい。
スタンドでの戦闘能力が低いのに、頭は回るし念写もできる、ついでに金も持ってるジョースターさんを殺したいのとどっこいどっこいだ。
「なんだ花京院、おめーも数えられなくなったのか? もうカップは6つ出てるぜ」
「おかしいな、確かに6つ出したつもりだったのだが……」
お茶を淹れようと、花京院が出してくれたカップは7つ。
瞬間、記憶がよみがえった。私はこんな光景を、かつて見たことがある。
「離れろ。すでにいるぞ!」
「なにぃーっ!?」
カップがハイプリエステスだった。
私が叫んだことで正体を現したスタンドは、鋭い刃物で一直線に私の体を切り裂いた。
「ドギャース!」
私がハイプリエステスでも、狙うのなら私かジョースターさんだ。当たる確率が高く、反撃の可能性が低い。
やはり手練れだ。与えられた傷の深さをもって確信する。
「捕まえようとして握りこんだりするなよ、途中で刃物に化けて傷をつけられる」
スタンドを出して構える承太郎に忠告する。こうなっては、最初の予定通りに外に出て逃げるしかない。
ハイプリエステスは天井に張り付き、こちらの様子をうかがっている。
見えているうちがチャンスだ。ここで撤退するべきである。
「私は置いて行ってくれ。もう保たない。体を貸してくれた彼には申し訳ないことだが」
「そんなことはできん! おぬしも死んでしまうんじゃろうが!」
「ジョースターさん。何も言わずに行ってくれ、頼むから」
気休めに傷口を手で押さえるが、血は止まらない。
肋骨を避け突き刺された、この傷は肝臓に達している。
肝臓は人体の急所だ。数分で死ぬ。手際のよい殺し様だった。
「なんですって?」
「次に入れる体がなければ死ぬと言っとったんじゃ! そうじゃ、またわしの体に入ればいい!」
「言うなと言ったのに、ジョースターさん」
肝臓を刺されれば一般に1分で意識不明、5分で死亡だ。
私はこの体を本人より制御下におけるから、ギリギリまで意識を保つことはできる。
だが止血はできない。死亡までの時間を延ばすことはできない。
それにこの後海に出て浮上するのだ。これほどの傷で水中に出れば、出血量はとんでもない。5分と言わず死ぬだろう。
「駄目だな。君たちは戦わなければならない。私が入ったらそれができない」
許可を得ればスタンド使いの体の中に入れるが、そんなことをするメリットがない。ラバーズのときが例外だっただけだ。
私は戦闘において素人だ。私が中に入っても弱体化するだけで、戦いにおいて不利になる。
少しでも助けになるために彼らについてきたのだ。少しでも邪魔になるのなら――そんなことをするくらいなら、私は死を選ぶ。
「足手まといになりたくないんだ。レギュレーターには気をつけろよ。後は、任せた」
旅の終わりはあっけないものだ。
いつだって死ぬ覚悟はできていた。彼らのそばにいないことで、助けられるものを助けられないことがずっと不安だったのだ。
隙をついて襲われたのが私で、死ぬのが私でよかった。彼らの誰も、途中で欠けてはいけないから。
ちょっとした肉盾にはなれただろう。
これで私も、少しは胸を張って死ねる。
1月17日はDIOが消滅する日なので、代わりに主人公を消しておきました。