これからは砂漠を徒歩とバギーで移動することになる。
一行が準備に追われる中、ちょうど承太郎が一人で煙草を吸っていたので声をかける。
「不確定な話をしてもいいか、承太郎」
「なんだ」
ミドラーの意識は未だ戻っていないので、私はそのまま彼女を借りていた。
「エジプトに上陸したら、砂漠での道中、まずンドゥールという男が襲ってくる」
「スタンド使いか」
「そうだ。スタンドは水そのもので、盲目の男だ。かなりの遠距離から、音だけを頼りに攻撃してくる。砂の上を歩く音でも察知されるから、本体との距離を詰めるのに苦労するだろう」
九栄神編になると私の記憶はさらにあやふやになるが、最初の戦いは比較的覚えている。
ンドゥール――覚えていると言いながら彼のスタンド名がわからないが――承太郎に手ごわいと思わせた強敵だ。
ぼんやりとした記憶だが、これから砂漠を行こうとしていることも考えると、おそらく周囲には私が乗っ取れる人などいない。
圧倒的アウェーなのだから、そもそも私は行かないという選択を取ろうとしている。
「そのときにはきっと仲間が増えているだろうから――」
「なんだと?」
「増えていなかったら花京院の結界でなんとかできるかな? 網みたいに張ってその上を歩いたら音が――いや、ひっかけるところがないか? わからん、その辺必要そうなら彼と相談してくれ。増える予定の仲間はグライダーのように滑空できるから、それを使って本体に近づいて倒すのが良いんじゃないかと思う」
覚えている限りの原作の流れを伝えておく。
実現可能だと思えば承太郎ならそうするし、無理だと思えばこれよりもっと良い戦略を考えてくれるだろう。
主人公のバトルセンスを信用している。
「まあ、全部あてにならないかもしれない。これは正直、根拠も自信もない話だ。エジプトにいる敵はガードが固くてね。私も曖昧な話をせざるを得ん」
曖昧な話というのはつまり、原作知識ということである。
「だが、もしその敵が私の予想通りに攻撃してくるのなら、私はそこにいても何の役にも立てない」
今まで役に立てていたかとかは……気にしてはいけない。
ともかくンドゥールが襲ってくるとすれば、彼は私の能力の範囲外から攻撃してくる。
ホル・ホースのように一時的に体を操ることは、射程外で不可能だろう。
それができないのなら、私が彼らにぴったりついていく意味がだいぶ失われる。
ちょっとした肉盾くらいにはなれるかと思い、潜水艦の際にはついて行ったのだが――正直あれ役に立てていたかかなり微妙じゃないか?
あそこで私が本当に死んでいたとして、有意義な死だったか、改めて考えると不安になったのである。
「だから別の場所で、別のことをして役に立とうかと思っていてね」
「怖気づいたか?」
「まあそうだ。その状況になったら砂漠で、周囲に乗り移れる体がないから、死んだら死ぬし」
かろうじてサソリとかがいるだろうか。海よりずっと生存率が低い。勘弁願いたい。
「違うな。それを恐れているのなら、お前は潜水艦に乗っていない」
まったくもってその通りだったので、私はぐうの音も出なくなった。
自分の命が惜しいのなら、私はもっと早くに彼らから離脱している。
「人を死なせるのが怖くなった。私は彼の体を守ると誓ったが、死なせてしまったからね」
私自身の死も気になるところだが、借りている人間の死も気になる。
私は自分の死に方に満足できたとしても、私が借りている人間はそうではないだろう。
「体を貸したんだ。そいつも覚悟していたはずだぜ」
「そのほうが恐ろしい。私は体を借りるとき、その人に愛着を持たないようにしているから――事前に話までした彼を死なせたことを、ちゃんと引きずっているのさ」
罪悪感で気が重い。気どころか胃も重い気がする。
私が本体に入っていたら、胃に穴が開いていたかもしれない。
「まあ、それもいつかは乗り越える。ともかく、ンドゥールのことは承太郎、君に頼む。そうだ、事前に音の出るものを囮として持っていくのがいいな。時間差で鳴ったほうがきっと良い、目覚まし時計とか。最悪なんでもいいからいろいろ砂に投げろ、少しは誤魔化せるだろう。たぶん砂に落ちたものの重さもわかるから、完全には誤魔化せないが」
これで本当に、思い出せる限りの情報だ。
……いまから目覚まし時計を入手するのは難しいか? まあ、彼らの機転に期待しよう。
「私が怖気づいているのは確かだが、きちんとやるべきことをやってくるつもりだ。信じてくれとは言わないが……いや、言ったほうが良いのかな? どう思う?」
「……やれやれだぜ」
承太郎に呆れられてしまった。堂々信じてくれって言っておいた方が良かったのだろうか。