エジプト上空を飛ぶ予定のヘリコプター、そこに一匹のボストンテリアが乗せられようとしているところだった。
私はスピードワゴン財団の職員を借りて、その犬――イギーに話しかけていた。
膝を折り目線を合わせる。
「旅の仲間に、先にあいさつを済ませておこうと思ってね。久しぶり、覚えているかい?」
イギーはアメリカで、野良犬の頂点をやっていた。
そのイギーがスタンド使いだと露呈してからは、スピードワゴン財団とアヴドゥルに捕獲されている。
私はちょうどその時期、
「アメリカでは楽しかったね。私は半分君に逃げてほしかったから、ちょくちょくうっかりを装って同僚の頭に網をかけたりと妨害してたんだけど、やっぱりアヴドゥルが手ごわかったなあ。それからジョースターさんが参戦してからというもの、逃走経路がことごとく念写で読まれて、まあ、あれは逃げ切るの無理だったよ」
「イギギッ」
全然楽しくなかったという鳴き声だった。
必死で逃げるイギーと、必死で追いかけるスピードワゴン財団の職員たちを、冷やかしで見ているようなものだったので、私は面白かったが。
イギーも
「イギー。私は君を助けたい。死なせたくない」
心からそう思っている。それが少しでも伝わるように、私は真剣な顔でイギーの目を――見つめてしまうと犬にとっては威嚇になってしまうので、少し目線を外して言った。
「君を思うならここから逃がすべきなんだろう。でも君を助けたいと思うと同時、君に助けてほしいと思っているんだ。君の力がどうしても必要だ、イギー」
次に襲ってくるだろうンドゥール。それから強敵、ヴァニラ・アイス。
彼らを打倒するのに、イギーのスタンド、ザ・フールはきっと必要だ。
「私に手伝えることはあるかな。君の望みは可能な限り叶えてあげたい。たとえばこの戦いが終わったら、いろんな体を借りて、君を逃がしてやることができるかもしれない。それを望むなら――」
「アゥン」
催促する声だった。遠い未来の逃亡より、目の前の好物を寄越せと言うことか。
彼の視界に映らないように、私は持っていたガムの包み紙をはがして、彼に差し出した。
イギーは喜々として好物のコーヒーガムにかぶりついた。満足そうにくっちゃくっちゃと噛んでいる。
「あんまり食べ過ぎると体に悪いぜ。せめて包み紙からは剥がすべきだ。そのほうがおいしいだろ?」
返事はなく、咀嚼音だけが返ってきた。犬にガムって大丈夫……じゃないよなあ……。
「とにかくそうだな……鳥には注意してくれ。足がなくなるかもしれない」
こんな雑な注意の仕方があるかと私も思うが、何かを言わずにはいられなかったのだ。
ため息をついて、頭を抱えてしまう。私は何もできない。彼の代わりになれるほど、私に戦う力があれば。
「本当に嫌だな、君を巻き込むのは。私は動物が死ぬ映画全部地雷なんだ……はあ……」
だから正直、ジョジョの奇妙な冒険なんて地雷シーンが山ほどある。
そうでなければ私だってもっと何度も読み返して、より記憶に残していただろう。
犬猫が死にまくるばっかりに……ストーリーもキャラも好きなのだが……。
ともかく、イギーを死なせない。私は改めて心に誓った。
作者はシェイプ・オブ・ウォーター(猫死ぬ)もジョン・ウィック(犬死ぬ)も大好きです。処刑人(猫死ぬ)の3が楽しみで今を生きてる。