「
私は名乗っていない。
これからも名乗るつもりはない。少なくともこの旅の中で、身元を明かすつもりはないからだ。
承太郎たちからは「お前」「あなた」「君」など、曖昧な呼ばれ方をしている。
だからそんな風に呼ばれたから凍りついたのではない。そう言ってきたのが
DIOの館、その中にいたDIOの餌になるであろう女性。その体の中に私はいた。
「なんのこと?」
「シラを切らなくていい……承太郎たちの仲間に、
さすがに、ここまで派手に動いてしまえば、知られるのも当然だろう。
今までほど簡単に情報は集まらない。ただでさえ九栄神については私の記憶も曖昧だというのに。
私に命の危険はない。
死んでも私の体ではないからだ。近くには私が入れそうな
だというのに、どうしてここまで恐ろしいのだろう。DIOが、私自身に話しかけてきているというのが、耐え難いほどに恐ろしい。
「ひと足お先にご挨拶をしておこうか。そんなことをできるのも私くらいだ――そう遠くないうちに承太郎が君を倒す。よろしくね」
精一杯の強がりだ。
操る体を完全に制御下に置き、怯えた様子など一欠片も見せていないが、聡い男だ。
きっと私が恐怖を感じていることなど、お見通しだろう。
「君の力はこんなことに使うべきだろうか。もっと偉大なことに使えるのではないかね」
DIOは私の言葉を聞いていなかったかのように話し出す。
「スタンド能力の使い方に関しては、君はこのDIOよりも一日の長がある」
「吸血鬼に年月で勝てることがあるとは光栄だ」
「こそこそと盗み聞きするだけが能か? あらゆる権力者を意のままに動かすことができるというのに、どうしてこんな阿婆擦れの体に入るんだね。どんな重要機関で働く人間でも好きにできるのだ。君は国を、人間社会を好きにできるのと同義だ」
呑まれる。
「君は世界を支配できる」
何人もの悪党を心酔させた男の演説を独り占めできるなど、光栄なことだ。
私は目を閉じて、少しでもDIOの
「だがDIO、君を支配できない」
「協力し合おうじゃあないか。我々は対等に付き合えると思わないかね。人を支配する君と、時を支配する私。2人いればもうなにも恐れるものはない、そうだろう?」
「ジョジョが怖い」
私は物語を知っている。
誰が悪で、誰が正義かを知っている。勧善懲悪を知っている。
「私は正義が怖いよ。自分が正義の敵になればなるほど、いつかは討たれるのだろうと恐ろしくなる。君のそばにいるとどんどん恐ろしくなってくるのは、私が君に近い存在だと思うからだ。私はいい人間じゃない」
悪には悪のカリスマが必要なのだと、ンドゥールは言った。
それはそうなのかもしれない。私も自分が悪だと開き直れるのなら、DIOに縋って生きたかもしれない。そのほうがずっと楽だ。
「死にたくないよ。命乞いをしたら、少しは許してくれるんじゃないか、哀れんで生かしてくれるんじゃないかっていう希望に縋りたい。だからDIO、私は正義の味方につくし、君を倒すんだ。
この旅に同行することを決めたときから、死を覚悟している。
ハイプリエステスとの戦いの際にも、もうこのまま死ぬのだと一度は思った。
死は恐ろしいが、もっと恐ろしいものを知っている。
私が最も恐ろしいのは、愛する人たちから失望されることだ。
私は■■■■として、あの人たちに見捨てられたくない。
胸を張って家に帰るためには、私は死んでも、ジョースターさんたちを助けなければならないのだ。
「私と手を組みたいなら承太郎を殺してくれ。そうしたら君と世界を支配しようじゃないか。それもそれで楽しそうだ。世界の半分くらいは私にくれるのかい?」
「きみが望むのなら、いつだってすべてが君のものだろう?」
私は少しでも余裕ぶりたくて、「ふふ」と吐息だけで笑った。
「質問を質問で返すなよ」
もう限界だ。
私はスタンドを使って、その場から去った。