人の体を乗っ取るスタンド使い   作:九条空

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オインゴ&ボインゴその2

 とある病室に、ノックをして入る。

 中にいるのは、包帯でぐるぐる巻きになった兄弟が2人。

 

「失礼、はじめまして。私のことは知っているかな?」

「知るわけねえだろ、と言いてえが……こっちにはトトがある」

 

 オインゴ・ボインゴ兄弟だ。

 私が見ていないうちに、いつのまにかジョースターさんたちを襲撃して、返り討ちにあったらしい。

 私がここに来ることは、スタンド能力ですでに知っていたようだ。

 

「じゃあ私がこれから何を言うかもわかっている? 話す意味はあまりないかな」

「いいや……アンタは話すぜ。なにしろトトに書いてある」

 

 なるほど。私が話す内容はすでに書かれて知っていたとしても、そのトトに書いてあることはこれから起こることとして絶対だ。

 なんか二度手間みたいでいやだなあ。話すけど。

 

「スカウトに来た。私の仲間にならないか?」

 

 彼らをアヌビス神のように()()()しまわないのは、彼らのスタンドに戦闘能力がないからだ。

 言ってしまえば彼らは、私と似ている。戦う力のない人間には共感できる。

 だから彼らもまた、私に共感できると思ったのだ。

 

「DIOは負ける。世界は正義に寄る。私はスタンド使いたちにも自治が必要だと考えている。悪いことをする奴は懲らしめられ、いいことをする奴が褒められる世界になるべきで――ジョースターが勝てば、たぶんそうなる。だからいまのうちに、君らはいい子になっておくべきだ」

 

 彼らがンドゥールほどにDIOに心酔していれば、意味のない勧誘だ。

 だが彼らが私の話を聞く態度を見る限り、ここに来たのは無駄ではない。

 

「ケッ。もう手遅れなんじゃあねえのか」

「そんなことはない。まあ確かに君たちは上司を見る目がないし、誇りも信条も運もないし、外法に手を染めてもなんとも思わない鬼畜精神を持っているが――」

「言いすぎだろ!?」

「それでも、まだやり直せる。君ら兄弟がおまぬけさんで助かったよ。これで一人でも私の仲間を殺していたら、こんなに優しい言葉をかけてはいない」

 

 優しいか……? と疑問に思っているのが、オインゴの顔に全部出ている。

 変装の能力は折り紙付きだが、演技は別途勉強すべきだな。

 

「世の中の多くの人間はグレーだ。試されていないから善人面をしていられるだけで、追い詰められれば悪に落ちる奴らはごまんといる。君らもそうだっただけだ。ちょっと人より追い詰められていただけだ」

 

 彼ら兄弟の生い立ちなど知らない。

 どんな人生を歩み、どんな苦難にあってきたかはわからない。

 だが私の言葉で、それらを思い出しているのだろう。2人は苦々しい顔をしている。

 

「正義の側もそれなりに楽しいよ。悪いことをしているときより、ほんのちょっぴり不安が減る気がする。君らもどうだい」

 

 私勧誘下手かもな。あんまり良い口説き文句が出てこない。

 DIOはうまかったんだけどな……彼を参考にしたらダメか。

 

「私の能力は君たちと相性がいいと思う。不確定な要素が多いトトの予言を、誰にでもなれる私は補完できる。兄である君が変装を使って補完しているように。単純に演者が1人増えるというわけだ」

 

 哲学だの理想だの、聞こえが良いことを言うのはやめた。

 私は明確なメリットと、具体的な展望を述べることにする。

 

「具体的な体制はまだできていないが、スピードワゴン財団で雇ってもらおう。スタンドに対処するための部署はすでにあるし、そこにスタンド使いがいるほうが向こうだって助かるだろう、というのが私の提案だ。トトは君たちの返事を、何と描いたのかな」

 

 オインゴが弟に視線をやると、ボインゴはトト神を強く抱え込み、こくりと頷いた。

 

「イエスだ」

「よかったよかった。ノーと言っていたら、私は君たちに()()()()をしてしまうところだった」

 

 ところで、私が今借りているのは看護師の体である。

 流し込む点滴の中身は変え放題だし、処方される薬だって種類や量をいくらでも書き換えられる。

 仲間にならないのだったら、殺し――はちょっと弟の方にはためらわれるが、しばらくこん睡させるように調整するくらいならできる。

 あるいは念入りに足の骨あたりを粉々にしておこうかな、と思っていたのだが、やらなくて済みそうだ。

 

「脅しじゃねえか!」

「だが、脅される前に君たちはイエスと言った。やっぱりスタンドは便利だね、ボインゴ?」

「よ、予言は、ぜぜぜぜったい……です」

 

 こんな幼気な少年の足を砕いていたら、お天道様に顔向けができなくなるとこだった。

 

「よーし、そうと決まればジョースターさんに言ってもっといい病院に移してもらおう。ここじゃ侵入者が入り放題だ」

「侵入者が言うと信憑性あるぜ」

 

 何を失礼な。この体の持ち主はれっきとした看護師で、侵入者ではない。

 

「言っとくが、俺たちはDIO……との闘いには手を貸さねえぜ! おっかなすぎるからな! もうこんなのはこりごりだぜ」

「それがおっかないことだとわかっているのなら、承太郎たちにも手を出すべきじゃなかったろうに」

 

 唯一DIOと戦える人間たちを相手に出来るなど、どうしてそう思いあがってしまったのか。

 ともあれ、後の襲撃者はこれで減る。こちらの手中に収めてしまえば、ホル・ホースもコンビを組めまい。

 トト神の予言による攻撃は、偶然以外で避けることが難しいから、そもそも発生させたくない。

 その偶然を、この世界では運命と呼ぶのかもしれないが……あいにく私はそれと仲が良くない。

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