人の体を乗っ取るスタンド使い   作:九条空

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ダニエル・J・ダービーその1

 前回、スタンドを急いで伝えるだけで離脱したのは、いろいろとやることがあって急いでいたのが一番の理由だ。

 二番目は、詳しく教えられるほど詳細を覚えていないからだ。

 

 タロットカード編では曖昧な知識を、タロットカードを並べることで補完できた。

 しかし、エジプト九栄神はいくら調べてもなんの情報もないのだ。

 記憶にある神の名前――トト神とかアヌビス神とか――は神話の本に載っているが、『エジプト九栄神』という括りでは存在していない。

 だから多分、その括りは荒木飛呂彦先生の創作なのだ。助けてくれ……原作を思い出すきっかけがない……。

 

 原作知識に頼らない方向、つまり足で情報を稼ごうとしても、彼らの情報はほとんど出てこない。

 

 DIOの館の中に入るまで、怪我での離脱はあれど、旅の仲間が死亡することはなかった。

 その記憶だけを頼りに、思い出せる限りの対策を取りながら、私がカバーできない出来事が起こらないよう、祈るしかなかった。

 

 その結果がこれだ――とある酒場、その一角では男と承太郎が向き合っている。

 ジョースターさん、ポルナレフ、花京院は既に倒れ、アヴドゥルだけが承太郎の後ろに立っていた。

 テーブルでは、魂を賭けたポーカーが行われていた。

 

「さあ、どうする承太郎ッ!」

 

 名前はわからずとも、九栄神の9、能力は9つ分思い出したと思ったんだけどなあ〜! ギャンブラーのこと抜けてるなァ!!

 九栄神と言いながらもっといたパターンか? 何を間違えたんだ私は。

 

「手札を見る必要はねえ。このまま勝負する」

 

 承太郎は優雅にお洒落なカクテルを片手にしている。未成年飲酒……未成年喫煙している時点で今更か。

 ダービーは動揺を隠すことができない程だ。冷や汗を流し、目を血走らせている。

 私はバーテンダーの体を借りて、淡々とグラスを磨いていたが、ふとダービーが私を見た。

 

「わ、わかったぞ! お前のスタンドを使ってなにかしたんだな! 知っているぞ、人の体に入れるスタンド使いがいることは!」

 

 ダービーは明確に私を指さしている。

 おや、バレてしまった。最近よく見つかってしまう。若干自信をなくしそうだ。

 

「フッフッフ、バレてしまっては仕方がない」

 

 私は意味深な微笑みを浮かべながら、冷や汗をかいているダービーの方へと歩み寄った。

 承太郎の後ろに控えているアヴドゥルの隣に立って挨拶をする。

 

「やあ、失礼。今回の襲撃は私も予想外でね」

 

 本心では土下座したいほど申し訳なく思っているが、現在スタンドバトル中だ。そんなことはできない。

 

「私が前回急いでいたのは、DIOが拠点を変えたから、その地点の特定だ。なかなか難しくてね、何しろ私もDIOに認識されてしまった」

「わかったのか!?」

 

 アヴドゥルが興奮気味に聞いてきたので、ちょっと驚いたが素知らぬ顔で頷く。

 はじめにオインゴ・ボインゴ兄弟に話しかけに行ったのは、勧誘もそうだが、彼らがDIOの館の現在地を知っているのではないかと思ったからだ。結果的には彼らの知っている位置は、引っ越し前の地点だったので参考にはならなかった。

 

「わかったからここに戻ってきた。色々と、ちょっと遅かったみたいだが」

「いいや。最後の勝負には間に合ったぜ」

 

 そもそもダービーとの戦いは、勝負に乗らなければ戦う理由が発生しない。

 誰かひとりが負けてしまえば魂を握られ、取り返すために戦いを続けなければならなくなる。

 私がしっかり思い出して忠告できていれば、彼らもはじめからギャンブルになんか乗らなかったと思うのだが――もう言っても仕方の無いことだ。

 

「さて、誓っていいが私は何もしてないよ。いいかい、私はたしかに他人の体に入れるが、入ったとしても他人の能力がそのまま私のものになるわけではない。ここにいるのはみんな凄腕のイカサマ師だけど、彼らの手を借りても、私が君の目を盗んでイカサマを仕掛けるのは難しいぜ、ダービー」

 

 驚いたのはアヴドゥルだ。

 

「ぜ、全員イカサマ師だと!?」

「カフェにいる人間、全員仕込みさ。当然私の存在も知っていて警戒してるから、私が中に入ってないか確認する合図なんかも決めてあるだろう。だから彼がいちばんに私に気がついた」

 

 ダービーと目が合った時、自然に目をそらすに留めたが、あのときにバレた。

 私でないことを証明するには、何かをしなければならなかったのだろう。

 

「ギャンブラーのことを伝え忘れていた負い目ってのもあるが……」

 

 承太郎の目の前に無造作に置かれた、伏せられたカードを眺める。

 私の知っている通りなら、この手札はきちんとブタだ。だが、私は自信を持ってこのカードに――承太郎に命を()()られる。

 

「承太郎を信じるよ。今回のベットは魂だから、当然私にも有効だ。皆と同じように命を懸けられるのは、普段卑怯にも命を危険に晒していない私にとって、光栄で嬉しいことだ。まるで君たちと肩並べて戦ってるみたいだしね」

 

 そこまで言って、私は隣のアヴドゥルに微笑んだ。

 私はわざわざ、イカサマを手伝ったのだというダービーの疑いを否定した。それが真実だからだ。

 だが、ダービーはそれを信じることができない。

 私はダービーの仕込みに気づいており、私を見分けるために事前の合図を決めていたことも言い当ててみせた。

 つまり私は、それらダービーの思惑を全て織り込み済みで、彼の知らぬなにかをやってのけたのだと、()()()()()()

 

 別にぜんぜんそんなことはない。

 

 ダービーにバレてからあっやべ、合図あったのかと気づいているし、全員イカサマ師と言ったのもぶっちゃけただのカマかけだ。

 無論、この酒場にいる全員が私のスタンドを使()()()()()()、という立派な根拠はある。

 私のスタンドで他人の体を奪うには、その人間がぼーっとしていればいるほど、奪いやすい。

 本来ならば、酒を飲んで注意力を失っている人間ばかりがいる酒場など、乗っ取り放題だ。

 だが現在この酒場にいる誰しもが、緊張状態にあった。こりゃ仕込みだろうなという推察である。

 もちろん、体を奪いにくい、というだけで、スタンド使いでもない人間の体だから奪えないことはない。

 こうして仕込まれたイカサマ師バーテンダーの体を借りても、少し疲れるくらいだ。

 

「私の魂を賭けよう」

 

 Goodという言葉は帰ってこなかった。

 ダービーは過呼吸とも言えるほど呼吸を荒くしている。

 

 それからは承太郎の独壇場だ。

 私は微笑みながら、眺めているだけでいい。

 

 だからやることと言えば脳内反省会だ。

 

 私が前回彼らに伝えたスタンドは、磁力、氷結、若返り、心を読む、空間を削る、幻覚で6つ。

 ちょうど未来予知と変身、それから私が刀剣を倒したところだったからそれを抜いたのだ。その3つを追加して合計で9つのつもりだった。

 ……館を大きく見せていた幻覚のスタンド使いって、九栄神に数えちゃダメだったのか。それもそうか、ワンパンでやられてるもんな。

 それと入れ替わりでダービーが入って……いや待て、よく考えたら水のスタンド、ンドゥールも数えてないのに9を超えてるじゃないか。あれぇ!?

 

 なんだ、なにがおかしいんだ。

 やっぱり三銃士と言いながら4人いるみたいに、九栄神と言いながら10人いるのか。

 

 ……もしかして、ヴァニラ・アイスは九栄神じゃないのか?

 そうだ、そういえば名前が「ヴァニラ・アイス」でスタンド名が「クリーム」という、強さに似合わぬふざけたネーミングだった。

 クリームなんてエジプト神いるわけないな……トラップすぎるだろ。

 あ~あ、最近うまくやってたと思ったんだけど、またやっちまったよ。

 

 承太郎は勝った。




大変今更ですが、彼らの口調は作者の好みで多少変更されています。
紙面通りなら「おれ」だし「じじい」だけど「俺」「ジジイ」表記の方が好きだし書きやすい。
全体的に書きやすい漢字・ひらがな・カタカナに変換して書いています。
「~じゃ(あ)ねえか」とか「だよなァ(なぁ)」みたいな語尾の細かい部分はその時の雰囲気と気分次第です。
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