「えっ、JOJOだ!」
なんだ、コスプレか!?
いや、落ち着け私、コスプレという概念すら未発達のこの時代だ。
さらにこのジョジョの奇妙な冒険の世界で、目の前に空条承太郎の姿かたちをしている男がいるとすれば、それは空条承太郎そのひとに他ならないのである。
いや、時代合わなくないか。私が生きている年代ではまだ生まれてないんじゃなかったっけ。
「急になんだ」
空条承太郎と思しき人物は、私のことを不審な目で見つめた。
「お前は一度も、俺をそう呼んだことはない」
イメージと異なり、彼は私に敵意を向けてこなかった。
その瞳からうかがえるのは、警戒と心配だ。こりゃ間違いなく、私の知らないことが起きている。
目の前のジョジョに気を取られていたが、そもここはどこだ。覚えがない。頭を回せ、考えろ。
「……スタンド攻撃か。私は君と知り合いなんだな?」
「何?」
「まあいい。別に知り合いじゃなくとも、君に死んでほしくないからな。地面や壁をよく見ろ。敵のスタンドは影だ、触れると
言っても信じてもらえるとは思っていない。そもそも何を言っているのだという顔をされて当たり前。
という私の気持ちはいい意味で裏切られた。
暫定空条承太郎は、私の警告を正しく理解し、素直に警戒したのだ。
マジで何が起きているんだこれは。
解釈違いかもしれない。承太郎はこんなことしない。承太郎のこと知らないけど。
だが忠告を聞いてくれるというのならば、続けて話しておく。
「スタンドに大した攻撃力はないが、斧などを持って攻撃してくるはずだ。弱い者いじめが好きなタイプだから、弱ったふりをして迎撃するのが楽かな。私は元から弱いので何もできない。後は頼んだ」
名前――何とか神であることしかわからんな。アレッシーという本体の名前だけは自信がある。
よく「偉いね〜」と言っていたのも。眼鏡かけてたっけ?
しかし突然第三部の世界線に飛ばされるとは――逆か? 私だけが逆行しているのだから、急に若返るとは……か?
「しかしエジプトか。初めての海外旅行にしてはセンスのある国だ」
空条承太郎の服装は黒い。
これは私の記憶にある限り、第三部――スターダストクルセイダースの服装だ。四部以降白くなるからな。
舞台は日本からエジプトに向かう、DIOを倒すための旅。
今がそうだというのなら、相対している敵はアレッシー、ここはエジプトで間違いない。
「私はもう攻撃を受けているから、敵は近くにいる。ヒットアンドアウェイですでに味方が各個撃破されている可能性があるな」
「ポルナレフの姿が見えない。花京院もだ」
ポルナレフが襲われているのだとすれば原作通りだな。
しかし花京院? 花京院は本来ならば、両目を切り裂かれ、DIOの館に突入する寸前まで入院しているはずだ。
「そ――そうです、ぼくです、ぼくがその花京院典明です!」
「なんだと?」
前方から走りこんできたのは、サイズの合わない服を着たこどもだった。
どことなく見覚えがある気がするのは、自称する通り彼が花京院典明だからだろう。
レアなもん見た。と、そんな悠長にしていてはいけないな。
「これ以上幼くなると胎児に戻って生命の危機に陥る。スタンドの影と交わるなよ、数秒で命取りだ」
サイズの合わない上着に苦戦している花京院の上着を脱がしてやり、丸めて持つ。
逆行したという割に私の借りている体が普通の大人に見えるのは、この体がもともと老人だったとかだろうか。
あるいは、私が攻撃を食らったと認識した瞬間に、別の体に移ったのか。
「そのポルナレフもガキになっていそうだな。気をつけろよ。幼少からスタンドを発現していればまだ戦えるが、君は違うだろう」
「ぼくならハイエロファントがいますよ!」
うわあ、ちっちゃいハイエロファントグリーンだ。かわ……いいかな? うん、たぶんかわいい。
しかし、なんか記憶がないなあ。
幼くなった花京院が我々を認識している感じから言うと、今までの記憶をまるっと失うような攻撃タイプじゃなさそうなのに。
「下がれッ」
承太郎の言葉と、視界を走る黒い影を認識し、私は花京院の体を遠くに投げた。
残念ながら私が借りていた体は間に合わず、影と交わってしまい、「あだあだ」というだけの赤ん坊にまでなってしまった。
「うわあ! だいじょうぶですか!?」
「大丈夫だ。家の中からすまないね。私の反射神経では避けられなさそうだったから、
赤ん坊を心配する花京院に、近くの建物の、3階の窓から身を乗り出して応える。
私の体に触れたスタンドの影の他に、上から降ってきたものがある。
「窓拭きしてたら足を滑らしてしまったあーッ!」
そんなことあるか? いやあるかもしれんけど。
「この家のご主人様に叱られる! どうしようどうしよう、叱られるーッ!」
間違いなく、彼がアレッシーだ。眼鏡はかけていた。サングラスだが。
失敗した使用人の演技をする場合であっても、自分の体の傷を無視してまで叫ぶのは異常だ。
どういう感覚でそんな演技を……DIOの配下ばかり見てきているから、誰しも主人に絶対を誓っていると思っているのだろうか。
それとも私が知らないだけでこれが一般エジプト市民なのか?
「ようやく会えた
「ぼくもいますよ!」
幼い花京院が嬉しそうに挙手した。
私はがっかりしていた気持ちを取り直して、彼に微笑んだ。
「そうだな。君が仲間だと思ったら嬉しい」
「はい! ぼくもです!」
私を見上げて手を振ってくるちいちゃい花京院かわい~。
「待ちやがれぇ!」
階下のアレッシーに向けて叫ぶ、ちいちゃいポルナレフも見れて満足だ。
ちいちゃい承太郎も見たかったが、まあちいちゃくなっているのは被害でもあるので、できるだけ攻撃をくらっていないほうが良いはずだ。
ちょうどこう、ひねくれていなかった頃の承太郎とか、見たかったなあ~。
「あっ、じょ……承太郎! そいつだ、そいつがスタンド使いだ!」
承太郎は上から聞こえたポルナレフの声につられ、アレッシーから視線を外していた。
「油断したな、承太郎ッ!」
承太郎の影に、アレッシーのスタンドの影が交わる。
「セト神に触れたな! これで全員ガキにしてやった! なぶり殺してやるぜぇ!」
先ほど承太郎は、突然降ってきたアレッシーの影を難なく避けたのだ。
わざわざ承太郎が、スタンド攻撃を受けるとは思えなかったのだが……サービス?
ああ、私が油断させた振りをして倒すのがいいんじゃないかと適当なことを言ったからかな。
ともかく、小さくなっていく承太郎の表情は冷静そのものだったので、まるで危機ではないのだろう。
ちいちゃい承太郎とかいうレアなもん見れた。うれしい。
「子供だからってナメてんじゃあねえぜ」
うわあ、当たり前だが声も高い。
「オラオラオラオラオラッ!」
そして子供の承太郎でも、オラオララッシュには十分な殺傷能力があった。
「ぼくもやりますよ! エメラルドスプラーッシュッ!」
そして花京院も参戦したことで、完全なオーバーキルになった。
子供2人が大の大人をリンチしている衝撃映像だ。
やはり、強い人間は幼い頃から強いものなのだな、としみじみ思った。
どうして私がこの旅に同行しているのかは不明だが、承太郎に認識されているということは彼らの仲間になっているということだ。戦闘能力もないのによくついてきたなと思うし、よくぞここまで生き延びたとも思う。自分を褒めておこう。
アレッシーの断末魔をBGMに、私は別れの挨拶をした。
「楽しかったよ。これが私のいる未来なら、ずいぶん希望の持てる場所だ」
アレッシーが撃破されたことで、スタンド攻撃の効力が切れた。
若返っていたのが元に戻る。といっても私の場合、肉体はここになく、精神だけが若返ったのだが。
ひとまず現在までの記憶を取り戻し――
「やっばい、承太郎! ジョースターさんとアヴドゥルが敵に襲われてるとこだったんだ!」
「……やれやれだぜ」
細かすぎて伝わらない性癖
「人知れず記憶喪失などの危機に陥っているにもかかわらず、持ち前の知性と冷静さをもって対処してしまうため、困っていることが周囲に一切伝わらないまま事態が進展していく」
ドンッ(穴に落ちていく)