人の体を乗っ取るスタンド使い   作:九条空

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ペット・ショップ

 DIOの館のすぐ近く。

 私はその辺にいたホームレスの体を借りて、ホル・ホースに言った。

 

「よーし、早速だがペットショップを倒そう」

「早速過ぎるだろ! 俺としちゃまだDIOを裏切るっつー覚悟すら半端なんだぜ」

「それは今しなさい」

 

 ホル・ホースはすでに、私にDIOの館の位置を教えた後だ。もう取り返しはつかない。

 そんな覚悟もできていないままでは、彼自身が危険だろう。

 

「ペットショップは強いからな、ホル・ホース1人じゃ不安だ」

「オイッ、だからなんで俺をスカウトしたんだ」

「高い生存能力、人を見る目の良さ、敵に回したくないから味方にしちゃえというよこしまな気持ち?」

「褒めてんだな? じゃあ普段からもっと敬いなさいっつーの」

 

 これでも十分敬っているつもりだ。

 普段から女性を尊敬し敬っている彼からすると、この「敬い」は不十分だったのだろうか。

 

「じゃあ聞くが、君はペットショップに勝てるのか?」

「俺の弾丸は凍らされて届かねえだろうな」

「それを責めるつもりはない、私には戦闘力さえないのだし。対策としては、銃弾を凍らせることもできないほど余裕を奪うってことだな」

「ジョースターたちと組むのか? アンタは俺に対して何も思ってねえようだが、あいつらは違うんじゃあねえのか。俺は一度、あいつらを襲ってんだぜ」

 

 一度で済んでるからまだマシだろう。このまま放っておけば、二度目もあった。

 

「大丈夫だ、花京院とポルナレフも一度襲ってきてる」

「そういうもんかね……」

 

 一回までならセーフだろう。

 なんなら承太郎とアヴドゥルだって初対面の時は戦っているし、そういうものだと思う。少年漫画というものは。

 

「彼らに許してもらえるか心配なら、ペットショップを撃破して、それを土産にすればいい。それでだめなら、わざわざ仲良くする必要なんかないさ。友達が私だけでは不満かい?」

「よく言うぜ。俺が欲しいのは友達じゃなくて相棒、仲間じゃなくて金出してくれるパトロンだ」

 

 だとすればジョースターさんに嫌われたら致命的だな。

 ホル・ホースを味方にしておきたいのなら、なんとかそこの仲を取り持たなければならないか。

 

「今回は彼らと連携を取らない。ジョースターさんたちはまだ少し遠い場所にいる。一人だけ先に散歩してきていてね――正確には()()だ」

「アォン」

 

 めんどくさそうなことに巻き込まれそうな気配を察知したのか、イギーは嫌そうに鳴いた。

 私が連れてきたわけではなく、彼が自主的にここまで来た。

 当然、DIOの館の位置など知らぬだろう。そもそもDIOという存在を認識しているかも怪しい。

 だというのに、イギーがここまで来たのは――大いなる流れというやつなのだろうか。

 

「ハーッハッハッハッハ! 犬だとォ!? おいおい、まさかこんな犬っころがなんかの役に立つとか言わねえよな?」

 

 ああ、そんなことを言ってしまうと。

 

「イギーッ!」

「うおおお!? なんだこいつ、やめろ、顔にしがみつくんじゃねえ!」

 

 私はイギーを紳士的な犬だと思っているが、今のように人の毛髪をむしり取りながら放屁しているさまを見ると、それを疑い始めてしまう。

 

「おい、見てねえでやめさせろォーッ!」

 

 悪口を言った方が悪いと思い、しばし静観していたが、これ以上はホル・ホースもかわいそうだ。

 人と人なら話し合いができる。だが動物相手では難しい。

 だからある程度、肉体でコミュニケーションをとる必要がある――今のように。

 イギーはこうして野良犬のトップに君臨していたのだよなあ、としみじみ思い出す。

 

「ホル・ホースも犬の強さとかわいらしさを学んだことだと思うし、そろそろやめてやったらどうだい?」

「かわいらしさは学んでねえよ!」

「なんだって? まだ教えてやる必要があるみたいだぜ、イギー」

「犬ってかァわいいなァーッ! もし所帯を持つとしたらぜぇったいに犬を飼いてえぜッ、なぁ!?」

「はははは」

 

 冗談はこのへんにしておかないと、ホル・ホースも本気になってエンペラーを出してしまうかもしれないな。

 イギーのザ・フールはエンペラーにも負けないと思うが、仲間内でスタンドバトルをしている余裕などない。

 私はコーヒーガムを取り出して、イギーに渡してやる。イギーも男の悲鳴よりコーヒーガムの方が好物だ。

 荒い息をしているホル・ホースに言う。

 

「私はこどもと動物は守るべきだと思っている。それは君が女性を尊敬しているのと同じような個人的信条だ。その思想を強制しようとは思わないが、私の前ではイギーに敬意を払ってくれると嬉しいね」

「わかったぜ、この犬……イギーの恐ろしさはな」

「わかってほしいのは愛らしさだけどな。こんなにかわいいのに」

「目がくらんでるぜお前、よく見ろ」

 

 ホル・ホースが指さしたのは、コーヒーガムをご機嫌にくっちゃくちゃ噛んでいるイギーだ。何の疑いもなくかわいい。

 

「まあかわいすぎてくらんでるかもな。イギー、君って本当に素敵だ」

「アンタの犬好きはよォーくわかった! 女ってなァ小動物が好きなもんだが、アンタのそれは異常だぜ」

「でかい動物も好きだが?」

 

 ホル・ホースにしっしと手を振られた。

 

「そのうえで聞くが、ペット・ショップは倒せるのか? 一応あいつも動物だろうが」

「一応でなくとも動物だろう。正直気は進まないが、話し合いが無理なことはずいぶん前に証明済みだ」

 

 私が借りた人間の命をもって、証明している。

 まだDIOが館を移転する前――そして私がDIO本人の暗殺を試みる前、ペット・ショップと交流をとれないか試している。結果は()()に終わった。

 そういう意味では、仇になる。

 私が勝手に借りた人間の命、その借りを返してもらうと思えば、心を鬼にすることもできる。

 

「ジョースターさんたちを待たないのは、それほど人数が集まってしまえば館の中の敵に気取られるかもしれないからだ。そうなればそのまま全面戦争になるやもしれない。私はまず、館の門番をしているペットショップだけを撃破して、数を減らしておきたい。敵は各個撃破に限る」

 

 ここまで偉そうに言ったが、私は戦う術を持っていない。人任せだ。

 

「だが作戦はそんなになくてね。私は戦いに関しては素人だから、君たちに任せるよ。倒せない、無理だ、危ないと思ったらすぐに撤退してくれ。諦めてジョースターさんたちを待って、みんなでなんとかしよう」

 

 そのみんなの中に私は入らないけれど。

 

「動きくらい止めてくれんだろ?」

「言ってなかったが、あれをやると私は使い物にならないくらいのダメージフィードバックを受ける。君のときの右腕、まだ痛いぜ」

「……マジで犬と組めってのか」

「アゥウ」

「一番よりNO.2なんだろ?」

「俺にも一番を選ぶ権利はあるだろーが」

 

 イギーが一番で何の問題があるというのだ。




くらんでいる(犬の可愛さに、目が)
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