「失礼。船旅お疲れさまでした」
「おー……って、なんで俺が船旅してきたって知ってんだ?」
「そりゃあ一緒に乗ったからだろう。ストレングスは無事倒せたみたいでよかったよ」
「……あ! オメーか!」
「そうです、私です」
ホテルの客の体を借りて、割り当てられた一室へ入ろうとしていたポルナレフに声をかけた。
船旅は終わりを告げ、私もほっと一安心だ。なにしろ、船の上では操れる人間が少ないので大変不便なのだ。
この後潜水艦に乗っていたような気がするが、その時は私、詰むかもしれない。
ポルナレフにはそれほど敵意を向けられたわけではなかったが、ポーズとして両手を上げておく。ぷるぷる。ぼくはわるいスタンド使いじゃないよ。
「部屋の中にスタンド使いがいるから、開ける前にみんなを呼んできた方が良い」
「なっ……!」
「しーっ、静かに。聞こえちゃうよ」
部屋に入ろうとするポルナレフを寸前で呼び止めたのは、そういえばここでスタンドバトルが発生したことを思い出したからだ。危ないところだった。ギリギリセーフだ。
危険な旅にも関わらず、色んな人間の体を借りてジョースター一行の近くに居続けるのは、私の原作知識があやふやだからでもある。
こうしてそばに居続けていれば、ふとした既視感から展開を思い出せることもあるだろう、と思ってのことだ。こうして本当に思い出せるとは、正直思っていなかったが。
「呪いのデーボと言えば有名だから、アヴドゥルも知ってるんじゃないかな? きみなら一人でも勝てるだろうけど、わざわざ危険を冒すこともない。さ、ほらほら、みんなの部屋番号は覚えているだろう。行くなら援軍を呼んでからだ」
「あ、ああ……」
見張っていても良いが、私がここにいてもデーボが追ってきた場合なんの役にも立たない。
この体の持ち主が無駄に死ぬだけなので、ポルナレフについていき、ジョースターさんたちと合流した。
それからは素直にデーボと戦った。私が思い出せた展開と異なる部分もあったが、そもそもこちら側の人数が増えているのだし当たり前だろう。
私が借りた体も傷つくことはなく、一安心である。
「都合が良すぎるぜ」
「言いがかりだ」
呪いのデーボを倒せておめでとう、とだけ言いに来たのに、承太郎になじられている。
「こうもお前が知ってるスタンド使いばかりが襲ってきているのは変じゃあねえのか。仕組まれているようだ」
「たまたまと言えばそうだし、DIOがどういう刺客を送り込むのかって情報を盗んでるって言ったらそうだし」
「どっちなんじゃ!?」
「うーん、両方?」
「なんじゃそりゃ」
私は困ってしまうが、がんばって言葉を探した。
「襲ってきそうな刺客がわかる場合とそうでない場合がある。彼らの全員がそうだとは言わないが、エジプトから遠路はるばる襲いに来ている場合は、長旅の間で情報も漏れやすいしね」
半分嘘で半分本当だ。
エジプトから送られてきている刺客の方が情報が割れているのは確かである。
逆に言えば、エジプトに留まり続けているであろう九栄神たちに関しては、今のところほとんどなんの情報も得られていない。
まあそんなのは関係なく、半分は原作知識だ。チートだ。戦闘能力が皆無なのにチートというのも恥ずかしいが、先の展開が多少わかるという一点でチートを言い張らせてもらおう。
「これはどのタイミングかはわからないけれど、人に化けられるスタンド使いがいるから気をつけてほしいなって言おうとしていたんだよ」
「それは厄介だ」
「しかも2人いるからね。1回倒したからって安心しないでね」
「同じ能力のスタンドが同時に?」
「結果的に同じようなことができるというだけで全く同じ能力ではないからね。ラバーソールはスライムのようなスタンドを身にまとって変身するし、もう一人は……えーと名前忘れちゃった。そっちのほうは変身能力しか持っていない代わりに精度が高かった気がするな」
「気がするって」
「隣に並べて比較したわけでないから個人の感想になってしまう。でもまあ、後者なら肉親をだますくらいはできるんじゃないのかな」
名前、なんだったか。オインゴボインゴブラザースの、ゲブ神とアテム神*1だったかな。
ちょっと自信がない。九栄神になると、とたんに名前と能力が一致しなくなるのだ。
タロットはそれぞれに意味があったから、比較的キャラクタとスタンドを一致させやすかったのだが、エジプト神話にはそれほど詳しくなくてですね……。
それからラバーソールもスタンド名だったか本体名だったかあやふやだ。ラバーソール操るラバーズ*2、だったっけ。ラバーズは脳みそに入るほうだったっけ*3。
ラバーソールが脳みそに入るほうだったら、嘘を言ってしまったことになるな。記憶に自信がない。
「とにかくまあ、今は疑ってくれていた方がこちらとしても安心かな。用心深くいてもらわなくては、DIOにたどり着く前から人数が減ってしまいそうだし。最後に私がDIOのスタンドについて教えるとき、それを信じてくれさえすればいいんだ」
「なぜ今言わない」
「今言っても信じてもらえないだろう。もっといろんなスタンドを知って、多様性を理解したうえでも、なかなか受け入れがたい概念の能力だから」
今のタイミングでDIOは時を止めるんだ! と言っても良いことはなさそうだ。
強いて言うのなら、そういった概念があるから、承太郎も時を止められると気づいてくれたら最高だ。だがそれも難しい。
私が敵の能力を知っているというのはギリギリ納得させられても、味方の能力を知っているのはおかしいからだ。未だ発現していないスタープラチナの能力の話はできない。
「彼と戦うときには必ず言うさ。そのとき私が信じてもらえていなくとも、ダメもとで言う。それが君たちの力になることを祈ることしかできない。私の目的は君たちと友達になることではなく、DIOを倒すことだからね。とにかく頼むよ、人に頼るしかないというのはやきもきするものなんだ。こういうとき戦闘のできる能力がうらやましくなる」
安全圏からやいのやいの言うだけの力が鬱陶しくなるのは常だ。
今私はずっと長いこと己の体に戻っていない。能力の制限上、今体に戻ってしまえばスターダストクルセイダースに追いつくのが難しくなるからだ。
もっと単純に、ものすごく戦闘が強い、みたいなスタンド能力であればものを考えずに済んだのに、と思う日もある。
そろそろお暇するか、とスタンドを使用しかけたところで、アヴドゥルから声をかけられる。
「聞いていなかったが……君がDIOを倒そうとする理由はなんだ?」
「世界平和のため、と言ったら嘘くさいかな。身内のためだ。このままDIOが生きていたら、私の大事な人が死ぬ。私はそれを阻止したい」
なんだか青臭い理由すぎて恥ずかしくなってしまったので、私はスタンドを使ってその場から逃走した。