ヴァニラ・アイスは、吸血鬼になりかけていた。
だが完全ではなく、日光に当たっても即座に灰になるわけではなかった。
館に幻覚を投影していたスタンド使いは撃破したため、館はそのままの姿をしている。
で、あれば、館の外に即座に出ることも容易だった。
ヴァニラ・アイスの亜空間が移動している軌跡が見えた瞬間、全員が館の外に撤退した。
屋根がないからだ。そうすれば、日光が直接当たる。
だが、ことはそう簡単には進まなかった。
ヴァニラ・アイスはなかなか姿を見せなかったからだ。
一度、館を出る直前に顔を見せた。
その際、花京院がエメラルドスプラッシュを放ったが、即座にスタンドを着て亜空間に逃げられてしまった。
そうして地形をおおよそ把握したヴァニラ・アイスは、無敵状態のまま再び我々を執拗に追いかけてきたのである。
最悪の敵だマジで。チート過ぎる。
「な、なんつー敵だ……!」
「いやあ、死ぬかと思ったが、意外といけたね」
「生きてたのが意外とか言ってる場合じゃねえだろ」
もっともだ。
ヴァニラ・アイス戦において、私は文字通りの
イギーが巻き上げた粉塵により、亜空間を移動するヴァニラ・アイスの軌道は読めたが、私は彼らほど機敏に動けなかった。
だから攻撃が当たりそうになるたび、危ないと突き飛ばされたり、首根っこひっつかまれて引きずられたりして、なんとか生き延びたのである。
自分の体ごと亜空間に消えているヴァニラ・アイスは、私の能力の範囲外だった。
乗っ取る体がこの世界に存在していないのだから、それはそうであった。
だからやっぱり、以前に助言した通り、ヴァニラ・アイスが隙を見せる瞬間を狙うしかない。
すなわち、こちら側を確認できない亜空間から、こちらの世界に顔をのぞかせる、その一瞬である。
すでに花京院が狙い、失敗に終わっていたため、次に顔を見せる瞬間はより慎重に動いた。
結果的には、私がヴァニラ・アイスの動きを一瞬だけ止め、ポルナレフがシルバーチャリオッツで首を切り落とし、転がってきた首をジョースターさんが波紋で消し去る、というコンボが決まった。
「ついイケメンのポーズになってしまうな……」
「何意味の分からんことを言ってんだ」
ポルナレフに突っ込まれて当然である。
スタンドを使い、無理矢理ヴァニラ・アイスの動きを止めたことで、私は首を痛めた。
ヴァニラ・アイスがこちらの世界の様子を見る際、首しか出さなかったので、私は首の操作権を乗っ取ったのである。
こんなところを痛めるのなんて寝違えた時くらいしかないし、寝違えた時の10倍くらいは痛い。
ついつい手で首を押さえてしまうが、その結果ノベルゲームの立ち絵ポーズみたいになってしまう。
主にイケメンがこういう立ち方をしている印象だ。雑誌のモデルとかでもよく見る。
イケメンという言葉は、まだこの時代流通していない。
そしてイケメンがよく首を痛めたようなポーズをしているというのがミームになるまでは、さらにまだまだ遠い。
意味の分からん発言で間違いないので、私はそれ以上何も言わず、痛みに顔をしかめるだけにした。
だが、全員無事だ。無事ではないのは私の首くらいである。
DIOという最大の敵が残っているため油断はできないが、この戦いを無事に切り抜けたことを喜ぼう。
「お前さんの痛みも、波紋でやわらげられれば良かったんだがのう」
「波紋万能説か。どうだろうね、本体に対してだったら有効かもしれない」
「おっ、この戦いが終わったら治しに行ってやろうか?」
「要らん」
マジに要らん。私は本体の居場所を特定されたくないのだ。
身バレするくらいだったらこの首の痛みくらい、余裕で耐えてみせよう。
「館にもっかい入る前によ。お前ら、この旅が無事に終わったらなにがしてえ?」
「なんじゃ突然」
「いいだろうが、これが最後の休憩だぜ」
私がジョースターさんの本体治療をすげなく断った後、ポルナレフが言った。
「俺はカワイ~女の子と夜景がきれいな場所でディナーがしたいね」
「そうですね……僕は和食が食べたい。もうずいぶん長い間食べていない気がします」
「いいな。私も寿司が食べたい。日本におすすめの店があるんだ」
アヴドゥルって寿司好きなんだ、知らなかった。
「あなたはどうですか」
花京院に聞かれ、考えてみる。
もし今自由に動けるのなら、何を一番にやりたいか。
「私は、そうだな。イタリアかアメリカに行きたい」
「旅行か。いいじゃあないの」
「いや。DIOが旅をした痕跡があるので、たぶんなんかやばいもんがそのあたりにある」
「おい! 楽しい話をしようっつーとこだろ! 何新しく心配を増やしてんだ!」
すまない。マジごめん。ポルナレフがキレるのも当たり前だ。
そしてなんかやばいもんと言ってごまかしたが、その内容について私はかなり具体的に知っている。
つまりDIOの息子という最大級の厄ネタがそこにある。
今まさにDIOを倒そうとしている場面でする話ではなかった。
少し弱気になってしまったのだろう。私がここで死ねば、これらの情報を後から伝えることもできない。
今はDIOを倒すことに集中するべきだ。私はここを生き延びて、先の心配事を、己の手で解決するべきだろう。
しかしそうなると考えるのが難しい。やりたいことか。
「酒かな」
「意外だぜ。お前、いける口だったのか」
私は承太郎の言葉を否定した。
「いや、飲んだことがない。だから一度くらい、飲んでみたいと思ってね」
「いいな。その時は付き合おう」
そう言ったアヴドゥルこそ、酒の似合わない男だ。
私が酒を飲んだことのない理由は単純明快、飲めるほど健康ではないからだ。
医者から止められたことはないが、それはそんな状態で飲むわけないですよねという前提があるからである。
飲まずにはいられないッ! となるほど人生を追い詰められてこなかったことを幸運に思うべきか。
「であれば、僕らが成人するまで待ってほしいですね」
花京院は僕らと言ったが、承太郎はすでに未成年飲酒で酒を嗜んでいるはずだ。
大手を振って飲めるようになる年齢まで待ったほうが良いというのは、その通りである。
その時までに酒が飲めるほど健康になっていなければならないということか。
あるいは、私の身元が明かせる状況かどうかも不明である。
難しいな……もしダメだったら他人の体で飲み会に参加しよう。
「承太郎は?」
「ゆっくり寝てえ」
切実だ。一応彼も成長期の高校生である。
さて、お話はこのあたりで終わろう。
これ以上話すと死亡フラグにしかならない――もうすでに手遅れな感じもあるな。
無事に帰れたら何をするか、という話題、死亡フラグの定番すぎる。話す前に気づけばよかった。