止まった時の世界を、DIOは好きに動いていた。
ジョナサンの体は未だ完全に馴染んでおらず、停止させられる時間は体感にして4秒程度だ。
だが数秒あれば、一人殺すに十分だ。
花京院の腹部に手をかけようとしたDIOの手が、
「ほう。
DIOはそれだけを愉快そうに呟くと、花京院から手を放し、スタンドを解除した。
花京院はその目で見たはずだ。己の目の前に、時を越えて現れたDIOを。
「次はもう無理かもな」
私は他人の体だというのに、冷や汗を大いにかいていた。
「まさか!」
私の右腕が力なくだらんと垂れ下がっているのを見て、皆察したようだ。
「粉砕骨折だこれは。元通りくっつくかもわからん」
死ぬほど痛い。DIOの意志の力は桁違いだ。
一度妨害しただけで、私のその部位が使い物にならなくなる。なんてコスパが悪いんだ。
そして私の妨害を、DIOはなんの脅威にも思っていないようだ。愉快そうに笑ってすらいる。
「フフフ。こうして一体何度攻撃が防げる? 君の骨が全部折れてしまうまで続けるつもりか?」
「まあ、そうなるだろうね。私は自分の骨よりみんなの命の方が大事だ――ここで死力を尽くすさ」
出し惜しむ意味などない。これが最終決戦なのだから。
ジリ貧であることに変わりはない。時を止めるDIOに対抗できる力がなければ、事態は何も変わらない。
「このDIOと同じ世界を見られるものがいるとはな」
私はDIOの体の中で、確かに止まる時の世界を見た。
そのことを言っているのだろう。DIOは、私に言う。
「やはり惜しい。その力、私の隣で使う気はないか?」
私の能力を惜しむのは、DIOが私の能力を見下しているからだ。
無論、私だって自分の能力が彼に並び立つようなものだとは思っていない。
DIOは、止まった時の中を動けるのは、自分一人であるべきだと考えている。
私はDIOの体にとりつくことで、同じ世界を見ることができるが、彼のように時を止められるわけではない。
だから彼は私を脅威に思わず、余裕をぶっこいてスカウトなんざしてみせるのだ。
私が戦闘能力のあるスタンド使いを御しきれるなどと思わないのと、まったく逆の話である。
DIOは私をすっかり御しきれると考えているから、私を支配下に置いてしまいたいのだ。
「答えは前に言った通りだ」
つまり、私と共にありたいのならば、承太郎を殺せ。
だが私だって、そうさせるつもりはない。
もしDIOが勝利して、私だけ生き延びてしまったのならば、DIOの配下になるのもやむなし――そういう意味で言った。
だが私はDIOを勝利させるつもりはないし――私だけ生き延びるつもりもない。だから死力を尽くすと言った。
時を止めたDIOが踏み出す足を。
獲物を見定めるために回る首を。
命を刈り取ろうと伸ばす指を。
噛みつこうとする牙を。えぐり取ろうとする爪を。
全部止めて、そのたびに私は骨を折った。
「もういい! やめるんだ!」
私を止めたのは、誰の声だったか。判別ができないほどに、意識が朦朧としている。
本体がどれほどボロボロになろうが、借り物の体は無事なはずだ。
だからどれだけ無茶をしても、周りからはバレないと思っていたんだけど。
よほどフラフラなのかもしれない。確かにさっきから、視界がぐにゃぐにゃしている。
「これ以上は死んでしまうぞ!」
まったく、どの口で言っているのか。私は激痛の中でも、笑いそうになった。
死んでしまいそうなのは、一体誰だというのだ――私以外のみんなだ。それを阻止したくてやっているのだ。
私は黄金の精神なんざ持っちゃいない。
主人公や、その仲間たちなら、きっとここで格好いいことを言えるのだろう。私には無理だ。
ここまでついてきたというのに、私は未だ、自分が正しいことの白の中にいるとは思っていない。
自分が善だと、正義だと、そういう気持ちは全然、湧いてこないのだった。
死んでしまいそうだと思ったのなら、誰だって、やっぱり情けないことしか言えない。
朦朧とする意識の中、私の口からは本音が零れ落ちた。
「私を置いて行かないでくれ」
私が最も恐ろしいのは、私の大事な人たちが死んで、私だけが取り残されることだ。
一人にしないでくれ。愛する者が誰もいない世界で生きるのは辛い。
それを私は、
私が縋ったのは、誰だったか。
薄れゆく意識の中――止まった世界の中を、たった2人、動くのを見た。
転生繰り返してる主人公、前回はBADENDだったらしい。