人の体を乗っ取るスタンド使い   作:九条空

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スターダストクルセイダース

 DIOは倒れた。

 

 私は、相変わらず役に立てたのかあんまりわからないなあ、くらいの活躍しかできなかった。

 骨折り損かもしれない。花京院の腹に穴が開くのは防いだので、きっと得はしているはずだ。

 それから瀕死のDIOが、瀕死のジョースターさんの血液を吸うのも防いだ。

 

 そう、私は全身を骨折していたが、少しの間はギリギリ意識を保っていた。

 戦いの中で気絶したジョースターさんの体の中に入って、ずるずると、日光の当たる場所へと逃げたのだった。

 時間が昼間であったため、DIOの行動制限が多かったのはやはり有利であった。

 

 私は気を失っていたのでこの目で確認できなかったが、DIOは灰になった。

 承太郎は時を止めたし、みんなそこそこボロボロにはなったが生きている。

 

 日記についても燃やされたことを確認している。その中身があらためられたのかどうかについては、わからない。

 まあこれは後からでもなんとかなるか。もういいや今は。未来の私が何とかするだろう。

 

 でも、全身粉砕骨折は代償としてデカい。医療費が、うーんうーん。そして激痛。

 死んでないことが奇跡かもしれない。ホントに死んでないのか?

 こんなに骨折れてても人間って生きてるんだな、不思議だ。

 それでも、スターダストクルセイダースは全員守ったのだ。おつりがくる。

 

 皆、傷をそれなりに癒し、各々の場所に帰ろうとしていた。

 空港の片隅で、別れの挨拶を交わしている。

 

 そこに私はいない。いや、この通りいるのだが、いることを彼らに教えていなかった。

 このままとんずらこいちゃおうかな、と思っているのである。

 やることやったし、死んだと思われてもいいかなって……。

 

「皆のおかげでここまでこれた。一人、いなくなっちまったやつもいるが……」

「彼女が生きていても死んでいても、かならず見つけてみせます」

 

 花京院、なんでそんなに執念があるの。

 その後に続いた彼の発言は、見過ごせるものではなかった。

 

「死んでいたのなら、せめて手向けの花くらい渡させてもらわなければ」

「おい、マジでやめろって」

 

 バッ、と全員が振り向いた。

 私が借りていたのは、空港のベンチで横たわる、睡眠中の男の体であった。

 私は変わらず、全身粉砕骨折中の瀕死であるので、借りた体でもぐったりしている。

 というか立てないのだ。足も折れてるから。

 

「ま、まさか――!」

「おい、嘘だろ!」

「あなたですか!」

「君か!?」

「アゥ!」

「やはりな。生きていると思ったぜ」

 

 クッソー、このまま死に逃げしてやろうと思っていたのに、そんなに喜ばれたら、やっぱりやらなくてよかったと思ってしまったじゃないか。

 承太郎だけは私が生きていると、なぜか確信していたようである。

 体をまともに動かすことができないので、流し目でそちらを見るだけで失礼する。

 

「私だ。こんななりですまないね、ちょっと歩けもしなくて――」

「うおお、生きてたのかよテメー! 馬鹿野郎、もっと早く顔見せろってんだ!」

「顔は見せてなやめろポルナレフ、マジで痛いんだ! 骨折れてんだぞ、この体は無事でも私の本体が!」

「おっと、すまん、でもうれしくってなあ!」

 

 喜び勇んだポルナレフに猫よろしく体を持ち上げられたのが痛すぎて、ちょっと涙目になってしまった。

 ついつい声をかけて生存を知らせてしまった以上、私には説明義務があるだろう。

 DIO戦で離脱したあとのことを話す。

 

「スタンド発動中に失神するのは初めての経験だった。なんなら死ぬなり、本体に戻るなりするのかと思ったが、気づいたら最後に滑り込んだホームレスの男の体で目覚めてね。彼の潜在意識の中で眠るような形になったようだ。確認すればDIOは撃破されていたし、私の目的は果たしたから、とっとと家に帰ろうと思ったんだが、最後に君たちの顔拝んでいこうとして今だよ。来るんじゃなかった」

「なに薄情なこと言ってんだ!」

「君らにまた会いたくなるから嫌だっつーの。私は本体の素性がバレると困るのに、交流続けたらずっとそのリスクがあるじゃないか」

 

 十分すぎるほどに、彼らへの愛着ができた。

 こうして生きていることをバラしてしまえば、今後何度も会いに行きたくなってしまうだろう。

 そうすれば、私自身が困るというのに。

 アヴドゥルは私の言葉を聞いて、一瞬呆れたような顔をしたが、すぐに仕方がないとでもいうように微笑んだ。

 

「やはり薄情なことを言う。君が困るのなら、私は君の秘密を探ろうとはしない。会いたい気持ちはあるが、いずれ君から会いに来てくれる日を待とう」

「んじゃアヴドゥルのとこにだけ遊びに行こう」

「なんだテメー、俺らのこと信用してねえのか!? 探してほしくねーっつーならやんねーよ!」

「ありがとう。ポルナレフに本気で探されたところで見つからない自信はあるが」

「にゃにおう!?」

 

 こんなふざけた会話も、もう滅多にできなくなると思えば寂しいものだ。

 

「なんにせよ、しばらくはお別れだ。私は自分の治療に専念しなければならない。さすがに本体に帰るよ――スタンド体でいても、激痛でなんにもできやしないしね」

 

 この通り、他人の体の中に入っても横になっていることくらいしかできないのだ。

 痛みがあっても、他人の体を制御下において、顔を苦痛に歪めることこそしないが、しんどくはある。

 こうして彼らと会話するために口を動かすのも億劫だ。

 というかあごの骨も砕けている気がするが、滑舌よく喋れているのは私の気合か?

 借りた体の骨が折れているわけではないから、私が痛みを乗り越えて操っているということか。

 であれば気合次第で、この激痛の中でも歩くことはできるのだろうが――しんどい。やりたくない。

 

 帰るのは少し恐ろしい。

 自分の体の惨状を見るのもだが、私がこの旅についてきた意味があったのかどうか、考えてしまいそうだから。

 ポルナレフが茶化す。

 

「戻ったら死んでたりしてな」

「笑えんことを言うな、ポルナレフ」

 

 花京院がたしなめる。確かに笑えん。

 

「痛いってことは生きてるってことだと思ってたが、もし死んでたらポルナレフのとこに化けて出るよ」

「墓はフランスに建てていいのか?」

 

 墓建てて成仏させようとするな。

 私は痛みに耐えながらも笑って、最後の挨拶をした。

 

「じゃ、ホリィさんによろしくね。イギー、ガムは包装を取ってから食べるんだよ。ポルナレフは教えたナンパのコツを活かしてくれ。承太郎と花京院はしっかり勉強しな。アヴドゥル、いずれ会いに行く日を待っていてくれ。ジョースターさんは、体に気を付けて」

 

 皆、私の言葉に頷いた。

 

「この旅は楽しかった。いつになるかわからないが、必ずまた会おう」

 

 私はスタンドを使い、その場から離れた。

 これから日本に戻るのに、それなりに時間がかかるだろう。

 

 だが、終わったのだ。この旅はもう終わった。

 だから私は祈ることしかできない。私の大事な人が、無事であることを。




第三部完!(車から腕だけを出す)
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