人の体を乗っ取るスタンド使い   作:九条空

45 / 83
正体予想が当たっていると嬉しいです。


東方■■

 病室に、一人の青年がやってくる。

 家族以外が訪ねてくることのない私の病室に、初めての客人だった。

 花京院典明。彼は私の顔を知らずとも、私は彼を良く知っている。

 

()()()ですか?」

「……うーん、なんの根拠があって言ってる?」

 

 ここまで来てしまったのだ。よほどの確信があってのことだろう。

 確信がなかったとしても、彼自身の足で確かめに回れるほどには、()の候補は絞られているということだ。

 そんなのはもう、特定秒読みだ。悪あがきは見苦しいだけだろう。

 せめて特定した理由を聞いておこうと尋ねれば、こう返ってきた。

 

「女性だ」

「嘘だろ?」

 

 世界の半分が女性だというのに、まさかそれだけで特定しただと!?

 流石に冗談だったようで、花京院は笑いながら追加した。

 

「易々と起き上がれないほどの病弱。我々がエジプトに行っていた期間の()()()()。それから、旅の終わりの時期に()()()()()()

「役満過ぎる……」

 

 特に最後のがデカすぎるな。

 いくらか無事な骨はあったが、無事な骨を数えるほうが早かった。

 それから粉砕まではいってないヒビもあったが――それでもまあ、大惨事ではある。

 

「このままDIOが生きていたら、私の大事な人が死ぬ。そうも言いましたね」

「君、記憶力凄いね。私そんなこと言ったかな」

「DIOが世界を支配すれば、いずれは皆が死ぬ。そういう広義の話かと思っていましたが、僕たちは()()()()()()()()()()。あなたの大事な人というのが、ホリィさんなのではと思いました。だから最初は貞夫さんを疑ったんですよ」

 

 貞夫というのは、空条貞夫、ホリィさんの夫だ。

 私は嘘偽りなく自分が女性だと言ったつもりだが、逆張りクソオタクだと思われたということだろうか。

 

「DIOと因縁があるジョースター一族が他にもいる。その筋で、あっていましたか?」

「ずるいぜ花京院。もうわかってるんだろ」

 

 私が正体を明かすことを拒んだ一番の理由は、()()()()()()()()であるからだ。

 仗助の母にして、ジョセフ・ジョースターの不倫相手である東方朋子は、私の実の姉だ。

 大枠で言えば、私はジョースターさんと承太郎の親戚になる。

 血縁関係はないし、書類上もそうはなっていないが……つまりジョセフ・ジョースターは私の()()()()()()だし、ジョセフ・ジョースターにとって私は()()だ。とんでもねえぜ。

 

 私の正体がバレれば、ジョースターさんの不倫も芋づる式にバレる。

 そうなっては不都合が多いので、私は正体を秘匿したのだ。

 スージーQは大激怒するだろうし、承太郎は母親の命の危機で手一杯にもかかわらず、祖父の浮気にも頭を悩ませることになる。

 そしてなにより、私の姉は未だにジョースターさんを愛している。これが一番、厄介なのだ。

 

「いいえ、わかりませんよ。義理の兄と旅する気分は」

「わからんでいい。ジョースターさんへの思いは複雑なんだ。私の姉の人生をめちゃくちゃにした……と言ってやりたいが、姉が望んだことだ。けど応援はできないからね、そっちの家族をめちゃくちゃにしたくはない」

 

 ジョースターさんに好意を抱いてなるものか、と本当に最初の頃は思ったが、無理そうだったので早々にあきらめた。

 あの茶目っ気溢れる老人を嫌いになれと言う方が難しい。

 

「ほとんどを自宅療養で済ませ、長期入院もしていない。それにあなたがかかった病院はスピードワゴン財団の管轄ではなかったので、時間がかかりました。なにしろ捜索範囲が全世界だったもので」

 

 スタンドを使用している間の私は、ただ眠っているだけだ。病気ではない。

 だから点滴でもうって、栄養さえ与えられていれば死ぬことはない。床擦れなどの問題はあるが。

 だったら入院費用の方がもったいないので、なんとか自宅療養ができるように準備しておいたのだ。

 もともと、私はよく眠る子供だったし、大人になってからもよく()()していたので、家族もそこまで動揺しなかった――と信じたい。

 同時期に仗助が高熱を出しているので、私も寝込んだとなってはさらに心配をかけてしまっただろうが、その高熱をなんとかしにいったのだから仕方がない。その事情は、家族の誰にも説明できないが。

 

「いえ、エジプトは除外してましたがね。あなたはアレッシーと戦ったとき、『エジプトが初めての海外旅行だ』と言った」

 

 そんなこと言ったんだぁ……覚えてなぁい……。

 アレッシー戦で私は本当に致命的なことをいくつもやらかしていたらしい。

 とっさに日本語で喋ってしまったのもそうだし――ただし花京院が全世界を探したのなら、承太郎はその件を胸に秘めてくれたということだろう。やっぱり旅の仲間は口が堅い(ポルナレフ以外)。

 

「私はまだ全部の骨がつながってないから、見つけたのは相当早いんじゃあないのかい」

「でも僕は高校を卒業してしまいましたよ」

「おめでとう。前にも言ったけど」

「ええ。ですが直接ではない」

 

 かわいいことを言ってくれる。

 

「はは。まさか直接おめでとうを聞きたかったから探したわけじゃあるまい」

「聞きたいのではなく、言いたいことがあったんです」

 

 花京院は私をまっすぐ見つめて言った。

 

「ありがとう。あなたがいなければ、僕は間違いなく死んでいた」

「どういたしまして。前にも聞いたけど」

「ええ。ですが、直接ではないでしょう」

「直接にこだわるね。別にいいじゃないか。他人の口を借りてはいても、今までお話ししてきた全部、中身は私なんだぜ」

「正体を秘密にされると知りたくなるものだ」

 

 好奇心旺盛だなあ。いいと思うけど。

 

「正体が知れると困るのはあなただけではないのでしょう。だから僕が最初に知ろうと思った」

「ええー?」

 

 それは私を困らせようと思ってのことですか?

 

「ポルナレフに秘密が守れないのは言わずもがなですが、他の3人も怪しいと思いましてね」

「え、ええ……? 口が堅そうだと思うけれどね、ポルナレフ以外は」

「僕はあなたのためなら命を懸ける覚悟があると言っているんです」

 

 重い。

 

「それじゃ、私のことはみんなに黙っていてくれるのかい」

「あなたの言い分次第ですね」

「あれぇ!? ここにきて命乞いパートが始まるの!?」

 

 今いい感じだったじゃん!? 無条件でいいよって言ってくれるところではなかったのか!?

 

「困っているのなら助けたい。だが、助け方を選ぶ権利は僕にある」

 

 感じるのは彼の誠実さだ。

 だが、それが必ずしも私のためになるとは限らないらしい。なるほどね。

 

「あなたは誰のために身分を秘匿するんですか」

「んー、甥っ子かな。それから承太郎と、ジョースターさん、私の父と姉」

「僕らの旅に同行したのは、その甥のためでしたか?」

「そうさ。ホリィさんの件そっくりそのまんまなんだから、想像しやすいだろう?」

 

 私を探り当てたのだから、仗助のことだって調べてあるだろう。

 ホリィさんが寝込んだのと同じだけの期間、仗助は高熱で寝込んでいる。

 このままDIOが生きていれば、あるいは仗助もホリィさんのように衰弱し続け、命を落としていたかもしれない。

 仗助にスタンドを発現する才能があることは原作から見て明らかだが、しかし発現には十分な生育が必要である可能性はある。

 かわいい甥っ子を死なせるわけにはいかない。それが私の、旅に同行した一番の理由だ。

 

「納得がいかない」

「命乞い失敗ってこと……?」

「あなたはこれほどの献身をしても、十分に報われていない」

「け、献身?」

 

 なんだか身に覚えのない単語が飛び出してきたな。

 

「誰もあなたの正体を知らなければ、あなたの功績は誰にも知られないままだ」

「名誉に興味がない。私って存在を君たちが覚えていてくれれば十分さ」

「あなたの甥――仗助くんに、この話はしていないんでしょう」

「するわけないだろう、教育に悪い」

「仗助くんは死の淵からあなたに救われたことを知らず育つ。それは恩知らずとも言えるのでは?」

「私を恩着せがましくするなよ。別にいいんだ、仗助に頼まれてやったことでもない。承太郎だってホリィさんに頼まれたわけではないんだろう」

「だがホリィさんは、スタンドやDIOを知らずとも、感謝する相手が誰だかは知っている」

 

 それは察しが良すぎるホリィさんがすごいのであって、仗助や私が悪いわけではないだろう。

 

「花京院が知ってくれたからもういいんじゃない?」

 

 彼の言う私の()()は、花京院が知ってくれていればそれで十分だ。

 だからこれ以上、誰かに言わないでいて欲しいのだが、どうでしょうね。

 

「花京院、スタンドは本体に似ると思わないかい?」

「どういう意味です?」

「シルバーチャリオッツは騎士で、ポルナレフは正義感が強い。アヴドゥルは炎を使い、ああ見えて熱くなりやすいタイプだ。だから私も、このスタンドに似ているんだよね」

 

 私はかろうじて動く左腕で、何とか掛け布団を、顔の上半分まで引っ張り上げた。

 

「面と向かっておしゃべりするのが苦手な、恥ずかしがり屋ってわけさ」

 

 あー、恥ずかしい。自分の体で、家族以外とこんなに話すのは、本当に久しいことだし――なんなら生まれて初めてかもしれない。

 露出した目元だけで、花京院を見やる。布団でくぐもった、もごもごという声で続けた。

 

「でもまた来てくれ、花京院。仲間となら素直におしゃべりできる」

「まったく、あなたときたら、調子が良い」

「承太郎は連れてくるなよ、この体で煙草の煙を吸うとむせるんだ」

「彼もさすがに病人の前で吸わないでしょう」

「どうかな」

「それか、彼が来るまでにもっと体を強くしておけばいいでしょう」

 

 それはつまり。

 

「秘密にします。あなたの事情を知って、いずれはバレることだと思いましたしね。時の流れに任せるのもいいでしょう」

「ありがと花京院!」

「むしろ僕が隠蔽します」

「花京院?」

 

 流れ変わったな。

 

「僕が半年でたどり着いてしまったのだから、うっかりでバレかねない。ジョースターさんが遺産管理に乗り出すまでに何年……いや、何十年かかるかわかりませんよ、元気ですからね。それまで、絶対バレないようにしてみせます」

「無理しなくていいよ花京院。何が理由でも、バレたなら観念するからさ」

「いえ。あなたのことを、少しでも長い間独り占めしたいので」

 

 そりゃまた熱烈な告白だぁ。




本当の本当に終わり

作者がロリコンであることを根拠にした主人公ロリ説には唸らされましたが、この俺は大人のお姉さんも好きなんだよ~ん! オロロォ~ン!
あとはおまけとして書きたいところだけ書いたのをちまちま上げます。
本編を完結させられてよかった。息抜きに書いた小説をエタらせたらより苦しみが生まれるだけなので。

長い間ランキングに載せていただき、多くの感想や評価、誤字脱字の報告、ありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。