「実際、どこからついてきていたんです?」
「ん?」
「この旅に、ですよ。あなたが最初に話しかけてきたのは飛行機の中でしたが、もっと前から我々の近くにいたんじゃあないですか」
花京院と話していると尋ねられたので、私は旅の初めの頃を思い出していた。
「それだったら、あれはちょうど折り返しでね。DIOの暗殺に失敗したから、仕方がなく、倒せそうな君たちに協力するしかなくなった。だからエジプトから日本に来て、君らの飛行機に紛れ込んだんだ」
エジプトから日本への飛行機に紛れ込み、日本に到着してすぐ承太郎たちを探した。
花京院の襲撃はすでに終わっており、彼らは旅立つ直前で、私は運よく飛行機での出発に間に合ったのだ。
「よかった」
「なにがだい?」
「いえ、醜態をさらしていなくて。ポルナレフの肉の芽は?」
「ああ、見たよ。飛行機でのコミュニケーションを失敗したから、どのタイミングで再び話しかけようかずっと窺ってたものでね。あの頃は今より熱烈に見ていた」
私は言葉でしか介入ができないというのに、その言葉でのコミュニケーションに失敗したのだから、少々落ち込んでいた時期でもある。
ポルナレフ戦を静観したのはそれが理由だ。
花京院は己の額をなぞり、苦笑した。
「僕にも肉の芽を埋められていた時期がありましてね。とても見せられないような卑劣さでしたから」
花京院が気にしていたのはそれか。
思い当たって納得する。非常に言い難いが、訂正しなければならないだろう。
「すまない、花京院。肉の芽を埋められていた頃の君だったら見た」
「いつですか……」
「エジプトにいる時だ。そうか、君にとっては黒歴史か」
「黒歴史?」
……しまった、黒歴史という言葉はこの時代にまだない。
日本語で会話をしていると、こういう時代にそぐわない単語を使ってしまうリスクがあるな。
花京院と話しているとうっかりオタク用語を使ってしまうんだが、これを花京院のせいにするのはひどいよな。
つい気を抜いて現代用語でトークしたくなるほど彼の話術が素晴らしい……というところに落ち着けておこう。
「黒く塗りつぶしてしまいたいほど嫌な過去という意味、かな。造語だから気にするな」
「面白い言葉の使い方をしますね」
これで歴史が変わったらどうしよう。
ガンダムが生まれなかったら私もショックだ*1。
肉の芽が埋められていた頃の花京院を思い出す。主にDIOの館で見かけた。
「ふむ。確かにあの場に馴染んでいたから、それでいうと卑劣漢か」
「黒歴史と言ったばかりなんですから、思い出さないでください」
「すまない。大丈夫だよ花京院。今の君が本当の君だし、私も今の花京院の方が好きさ」
花京院は「調子のいいことを」とため息をついた。
「本当のところを言うと、肉の芽が埋められている間の記憶は非常に曖昧で、特にエジプトにいた頃のことはほとんど思い出せません」
「DIOの影響が強かったのかもしれないな。肉の芽は遠隔コントローラーのようなものだが、近くにいればいるほど力を増すのかもしれない。私も埋められたことがあるが――」
「待ってください。今なんて?」
「DIOの影響が強――」
「そこではなく」
今一瞬コントみたいじゃなかったか?
「埋められたことがあるんですか、肉の芽を」
「ある。私の本体ではないので、その体から出た時点で効力を失ったが、私もDIOにコントロールされる気分ならわずかに味わったことがある」
「その際、DIOに何か情報を?」
「話す前に逃げた。幸い、元から肉の芽についての知識があったのでね。埋められたと感じた瞬間に別の体に移ったから間に合った。あれは間違いなく、君たちにとって一番の危機だっただろうね。私は君たちのスタンド能力についてよく知っているし、DIOより上手に君たちを殺す方法を考えられる」
花京院はそこでようやく肩の力を抜いた。
「……ひやひやしました。あなたが敵になったら、それほど恐ろしいことはありません」
「ふふ、過大評価だよ。戦闘能力のない卑怯者くらい、君らならなんとかできるさ」
「それこそ過大評価だ。あなたを相手取れば我々も無傷ではいられない」
まあ、確かに少しは謙遜だったかもしれない。
私がDIOにつくのなら、最低でもエジプト上陸前にスターダストクルセイダースを3人以上は削りたいな。
「そうだな、花京院……君の傾向を見るに、肉の芽が埋められると悪党になるから、交渉が下手になりそうだ。会話でしか世界を変えられない私はそれだけで不利だね。敵スタンド使いたちと上手に連携が取れないと思う。悪党は悪党と仲が悪いものだ」
「あなたが見た僕ってどんなだったんです――いや、やっぱり聞きたくありません、言わないで、そして忘れてください」
「ふふ。ああ、そうだね。忘れるためにも、今の君のことをもっと教えてくれ」
カメオその2で「花京院とは結構仲いいと思ってるし」と言っていたのの根拠の一つ