人の体を乗っ取るスタンド使い   作:九条空

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【3部】モハメド・アヴドゥルへ譲渡

「君が倒したアヌビス神というのは、一体どんなスタンド使いだったんだね」

 

 アヴドゥルに尋ねられたので、私は首を横に振った。

 

「彼はスタンド使いじゃない」

「どういうことだ?」

「彼はスタンドそのものさ。君はまだ目にしたことがないかもしれないが、スタンドは死後、人の手を離れて一人歩きすることがあってね。アヌビスはそんなスタンドの一つだ」

「……初耳だ。本体が死亡しても尚、スタンドとして存在し続けられるとは」

 

 なるほど、私を除けばこの世界で一番スタンドに詳しいと言ってもいいアヴドゥルが知らないというのなら、やはり相当珍しいケースなのだろう。

 ……どうかな? アメリカの神父の方が詳しかったりする? いやだなぁ……。

 

「大抵、強い力を持っていることが多いね。なにしろ、人間がいなくとも存在を保てるほど強固な自我がある。アヌビスに関してはもともと刀鍛冶がスタンド使いで、彼はその刀鍛冶が打った最高傑作だったのだろう」

「刀の姿をしているのか?」

「そうだ。持った人間を操ることができる。羨ましいことに戦闘も得意でね。一度受けた攻撃を記憶することができるし、斬るものを自分で取捨選択できる。近距離型のスタンドでは苦戦しただろう」

 

 私は懐に手を入れ、慎重にハンカチを取り出した。

 

「そしてなにより、砕かれても意識が残っている」

 

 私は折りたたんだハンカチから、砕けた()()()()()を取り出した。

 

「まさか!」

「ここまで運んでくるのは苦労したよ。私は人の体を自由に乗り移ることができるが、物質を持ち運ぶとなるともっと面倒な作業が必要になる。それも運ぶのが、触れれば意識を乗っ取られる危険な破片とあっては、目も離せない。私がこうも苦労したのに、見合うだけの成果があればよいのだけれどね?」

『きっと期待に沿ってみせます、ですからお命だけはァーッ!』

 

 スタンドでの念話が可能なので、こうしてアヌビスと会話することはできる。

 

「ここに来るまで何度も私を騙そうとしたので、何度も脅しをかける羽目になった。途中で面倒になって、川に投げ込んでしまおうと思ったのだが……」

『もうぜぇっ……たいに裏切ったりいたしません、ご主人様! このアヌビス、立場をしっかり理解いたしました! 己が下であなたが上ですとも!』

 

 アヌビスの必死なごますりを聞いて、アヴドゥルは苦笑した。

 

「随分な目にあったらしいな」

「だが技と違って、一度では覚えなかったよ」

 

 アヌビスが私から逃れようとした回数は一度では済まない。

 まあ、わざと逃げられそうな機会を作ってみせたのは私なのだが、まんまと引っかかる方も悪いよな?

 私から逃げるのに失敗するたび、アヌビスの破片をさらに半分に折ってきたので、彼は十分思い知っているはずだ――今の半分になっては、ペーパーナイフとしても役目を果たせまい。

 プラモデルのバリを取る刃生(じんせい)とかでも平和でいいと思うけどな私は。

 

「君にあずかっていてほしい、アヴドゥル」

「私にか?」

「私はあなたを正しい人だと思っている。私より悪人の矯正は上手だろう、とも」

『信用してくださいよォ~!』

 

 できない。

 

「私はDIO以外にも倒さなければならない敵がいてね。彼らはDIOくらい強いから、その時に戦力はあればあるほど良いんだ」

「DIOほど強いだと!?」

「DIOは百年に一度の強敵だがね。彼が生まれてからもう百年は経っているんだよ、アヴドゥル」

 

 頭が痛くなるような強敵は多くいるが、その全員を私がなんとかしなければならないかというと疑問だな。

 手フェチの殺人鬼は地元に住んでいるからなんとかしなければならないのは確定だ。

 神父は放っておくと世界を大変なことにしかねないので対処しなければならない。

 

 だが、イタリアマフィアのボスは私に関係あるか?

 放っておいてもこう、黄金の精神を持った青年が何とか――めちゃくちゃ未成年だな。

 あ~子供が大変な目に遭うの地雷なんだよな、未成年ばっかだなイタリアのスタンド使いは、ああ゛~。

 

「アヌビスを壊さなかったのは、私の利益のためだ。いつか戦いに役立てたいというそれだけ。間違っていると思うのなら、壊してくれて構わない。危険だというのはもちろんそうだからね。あるいは責任をもって私が破壊しよう」

『ご主人、そこをなんとかァーッ!』

 

 なんとかできない。

 さて、私はアヌビスのように強いスタンドを御しきれるなどとは思わないが――私よりずっと強いスタンド使いになら御しきれるだろうと考えたのだ。

 アヴドゥルはアヌビスのくるまれたハンカチを受け取った。

 

「わかった。私が預かろう」

「よかったね、アヌビス。少し命が延びたようで」

『ありがとうございますゥーッ!』

「死ぬときもアヴドゥルなら一瞬で融かしてくれるだろうし」

『なにとぞ命だけはァーッ!』

 

 最後に一つアヌビスを脅迫しておくと、アヴドゥルは真剣に頷いた。

 

「そこまで脅さなければならないほどに危険ということだな、こいつは」

 

 ここで私に加虐嗜好があるとか思わないところが好きなのだ。

 私はにこりと笑って「君を信じている、アヴドゥル」と伝えた。




DIO戦でアヌビス使おうかなと思ったけど役に立つ場面思いつかなかったのでボツになった。そのまま本当に死んだことにしても良かったが、命乞いって何度でも見たいからなと思って……。
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